64 / 133
第二章「chain of love」
第26話「パーフェクト3/☆☆☆)
「ただいまー」
契約更新の前に引っ越した前のアパートには二年もいなかった。
高校を出て上京して一年を過ぎた頃、
自分を変えてしまう出会いをし、今ここにいる。
「俺も独り暮しを始めた頃は言ったことあるな。
五年前、前のマンションに引っ越した頃だ」
「青が? 意外だわ」
「……お茶でも飲むか。夜だからノンカフェインだ」
「うん!」
リビングのソファに座っていると、青がルイボスティーを持ってきてくれた。
テーブルの上にお茶を置くと青は、目の前でジャケットを脱いだ。
ネクタイもジャケットも綺麗に折りたたんでいる。
育ちがいいからか、乱暴にはしない人だ。
私は彼の仕草を目で追った後カップを手に取る。
彼も自分の分を手にして横に座る。
広いソファなのに膝がぴったりくっついているのは何故だろう。
青はスーツを脱ぎ、ラフな服装に着替えている。
私も部屋着姿だった。
「青、今日はありがとう。蒼宙さんにもお礼を伝えといてね。
陽香も安心したと思う」
ルイボスティーは、美容によく適量を頂いている。
「沙矢」
急に名前を呼ばれて、彼の方を向く。
とても真摯な声音だった。
「部長という人物には警戒をゆるめるなよ。
おぞましい女にもな」
おぞましいと表現された春日部長の妹は、
青を知っているようで先輩と呼んでいた。
彼はその目を見ようともせずはね除けたが、
きっと彼女は、青に執心している。
気づいたのは長い間、彼に片思いだったからだ。
正確には、お互いが好きという両片思いだったけれども。
「高校か大学が一緒だったから先輩なのかな?」
「あんな女知らないが、おそらく大学だろうとは思う。
医学部ではなく別の学部で学科だったら知るはずもない。
医学部の人間さえそこまで親しい付き合いはなかったくらいだ」
「……青、無意識で人を引き寄せるから」
きっぱり言うからそれが真実なのだろう。
この美しく妖艶な人が望まないところで
モテてしまっているのは仕方がない。
「……そういえば幼児の頃、姉に悪魔の魅力と言われた」
「ぶはっ……」
言い得て妙の表現だ。
(幼児の頃にそれを言われる人だったのか)
つい笑った私はほっぺたをむぎゅうっとつままれた。
頬の形が少しゆがむくらい。
「沙矢はかわいいの度が過ぎる。
冴島とやらは予想通り沙矢狙いだったから、
はっきり牽制しておいた。
もったいないから、名刺は渡してないが」
「……下心があったの。ちょっとがっかり」
確か大卒で入社した冴島先輩は、入社して四年が経っていて
青とも同学年だ。
「同じ会社の人間ではあるし、ある程度ごまかすのは当然だろう。
その代わり、プライベートだと一気に本性を出す。
誰か気になる人でもいました?
同じ会社でいつも見ている顔ばかりでしょう?
俺の問いに、最近、沙矢さんが気になってるんですと
あっさり吐露した」
「会社では水無月さんって呼んでくれるけど、
本当は名前で呼んでたのね」
「あんな雑魚(ザコ)、どうでもいい。
権力を笠に言うことを聞かせようとするクズ上司の方がよほど問題だ」
青が拳を握りしめた。
少し血管が浮き出ている。
「気をつける。あなたを傷つけたくない」
ふわ、と抱きしめられる。
「お前が傷つけられる方を危惧しているのはこっちだよ。
俺のそばにいてくれる存在は、強さを
秘めた人間ばかりだ。
弱くなってもいいくらい腕の中で守りたい」
重なった唇は震えていた。
頭を引き寄せられこつん、と額がぶつかる。
「必ず守るから」
背中に抱きつく。
「青は、最強のスパダリね」
頬にキスをしてみたら、彼の頬が赤くなった。
(照明の下でも分かる。この人、かわいいんだもの)
「お前のためにそう在ろう」
青が身体を離したので、横に寄り添った。
「蒼宙さんの奥様は、青も知っている人?」
「愛璃は、父方の妹の娘で従姉妹にあたる。親戚だな。
幼い頃は実家が主催するパーティーで会ったり
たまに姉の家で遊んだこともある。
最後に会ったのは四年以上前だな」
「じゃあ蒼宙さんも義理の従兄弟ってことよね?
……私、今度どんな顔で会えばいいのかな。
お兄ちゃんって呼ぶのもあり?」
「いいんじゃないか。愛璃もお前を妹分として
かわいがってくれるはずだ」
「そうだといいなあ」
「また来月、四人で食事をする機会をもうけるから、
楽しみにしておけ」
その時には、関係が更に一歩先に進んでいるのかもしれない。
「…藤城家がパーティーを開くような上流階級の家柄の出だったなんて
想像してなかった。でも青本人に聞けてよかった」
「……どんな出だろうと俺が俺であることに変わりはない」
ハイスペックスーパーダーリンは、とっても不器用で素敵な人だ。
ぎゅっ、と手を握り瞳を見つめる。
飲み干されたカップはテーブルの上に残されていた。
「……先週の土曜日から六日は経ったよな」
指折り数えていたらしい。
「青、今日はお疲れ様でした。
先にお風呂へどうぞ」
獲物を狙う瞳をしている青に、びくっとした。
心臓が破裂しそうだ。
この眼差しに落ちたのだ……。
赤い信号は点滅していなくて青がともり続けている。
(あの時のような不安定な光はない。
危険なほどの妖しさがあるのは同じ)
「声が震えてるよ?」
青が顔を近づけて来た。
「ふ、震えてない。私はここで待ってるから」
「そういう時は、一緒に入りたいと言うんだ」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ腰の力が抜けた。
(青にしかこんなことはならない)
腰の下に右腕を差し込まれ抱えられる。
いわゆるお姫様抱っこはこれまで何度もされている……が、
毎回どきどきしてしまう。
顔を赤らめて少し上にある青の顔を見上げる。
ぎゅっ、と首に腕を絡めたら腕の力は強くなった。
「ちょろいのは俺だけにしろ」
「あなただけよ……っ」
バスルームに繋がる扉までの間、キスは一回降りてきた。
甘酸っぱくてくすぐったいキスに笑った。
こんな風にいちゃいちゃするのも大好き。
脱衣スペースで、下ろされると相手の動向を見守る。
ガラス戸が開く音に胸をなで下ろし、着ていたものを脱いだ。
(カラコンも外していた)
一応、バスタオルを巻いて青の後を追う。
青はシャワーブースにいる。
私は、スミレの香りがするシャンプーで髪を洗いヘアパックをして
ボディーソープを肌に纏わせた。
お風呂から湯気が立っていて、向こうからは見えていないはずだ。
「……青、女性が苦手?」
「お前以外、どうでもいい」
迷惑だったとしてもおぞましいという表現は驚いた。
浴槽(バスタブ)の中でこちらに背中を向けている青に感謝し、泡を洗い落とす。
「興味もなかったし……お前に墜ちるまで目に入らなかった。
それでも惹かれたんだから運命以外の何物でもないだろ」
ここは広いけれど、声は反響した。
低くて掠れた彼の声もクリアに届く。
「沙矢以外は、性別を超えた人間として見ている」
「驚き発言きたー」
「人ってのは不思議だな。男と女がいて
新しい命を作り出すわけだが……
愛の形はそれぞれだ」
タオルハンガーにかけてあったタオルを触れた身体に巻きつけた。
青がのぼせてないか気にしつつ、そろりと浴槽に足を踏み入れた。
かなりの広さはあるのに距離を詰めてくる相手には慣れた……。
気がつけば、背後には広い背中があるし
大きな身体にしっかりと包み込まれている。
お腹の下には長い腕が回っている。
「……そ、その……言いづらいんだけど
青は性欲がとてつもない人なの?」
「はははっ」
急に笑い飛ばされた。
新たな一面だろうか。
後ろ手に頬から首筋を撫でられる。
お湯の中だから濡れた感触だ。
「今更気づいた?」
「……私より青の方が神経は強いと思うの」
強めの口調の時もあれば柔らかい時もある。
捉えどころはない。
「藤城家の人間は、性欲が強いんだって。
意味不明だろ。実の父親に言われたんだよ」
「……伝統? 遺伝ってこと?」
「愛を前提としているから、悪くないだろ?」
そう嘯きながら不埒な手は肌をまさぐる。
バラの香りが漂うお湯の中うっとりしていた私は、
変な作用がなくても関係がないのだと思い知る。
「……っ……ふ」
長く骨張った指先、一本一本が違う動きをする。
ふくらみを撫で、脚の間に伸ばされる。
胸の頂きには軽く触れるだけ。
隠された秘芽を探り当てられた時口元に手を押し当てていた。
ばしゃん、とお湯が波打つ。
「お前と触れ合わなきゃ癒やされない」
耳朶をなぞる舌。
「……っ、で、でも」
「でも? こんなに濡れてるけど」
分からせるように蕾に擦りつけられる。
お湯ではなく自分から溢れたものだ。
「んん……」
「我慢せず声を出せ」
唇を押さえていた手を外される。
どちらにしても喘ぎは指からこぼれ落ちて、
隠せていなかった。
「……、あ、っ」
青の指の動きが止まる。
心臓の上に手を置かれ、切なく濃厚なキスをされた。
誘い出す舌に応じ絡める。舌を吸う。
ぞくぞくとした感覚が這い上がり、つま先も震えた。
(嘘……こんなこと今までなかったのに)
背中が反り青にもたれかかる。
「キスだけで快楽のスイッチが入るんだな。最高にかわいい」
達した身体を抱き上げられる。
もう一度二人でシャワーを浴びて寝室に向かった。
二人ともバスローブを纏っていた。
少し乱暴にベッドの上に下ろされる。
押し倒されたら、次の瞬間には覆いかぶさってくる。
背中に回った腕の力はそこまで強くなく
抜け出せる隙は残されている。
それだけ余裕ということだ。
自らしがみつくと、今度は青が震えていた。
彼の身体が熱い。
「……身体を押しつけるなんて、誘惑が上手くなった」
胸板でふくらみを擦られ、甘くしびれた。
青はバスローブをはだけた状態だった。
「素直に自分を出しても嫌われないとわかったから」
「……あの頃だって嫌うはずがなかったよ。分かりづらかったな」
(距離感を必死で計ってたから、ぐいぐいいくなんて無理だった)
しゅるり。バスルームの紐が解かれる。
部屋の明かりはとっくに朱色に落とされていて
すべてを確認はできない。
彼の身動きを感じ取るだけ。
肩甲骨に指を滑らせる。
ごつごつとした感触は異性を感じさせるものだ。
「お前は明らかに異性だけど、もっと内面にあるものを見てたよ」
探るように心臓の上を辿る手。
もどかしくなって手を重ねたら彼はそのまま捏ねた。
指先が胸の芯に触れては離れる。
「沙矢は、最後で最高の運命だ。離さない」
唇が頂きを掬い愛でる。
ちいさな火が揺らぐみたいに、少しずつ高まっていく。
お風呂上がりの火照りではなくて青によって火照っていた。
「……来て。ほしい」
「もっとゆっくり愛させてくれないのか」
頬を指が撫で髪をすく。
声が濡れているけれど、決して先を急ごうとしない。
「合コンであなたが、他の人を釘づけにしているのを
思い出したら胸が焼け焦げそうだったの」
「沙矢」
耳元に落ちた声。
枕の下にあるのを知っていた私は、もどかしく手を伸ばし掴んだ。
震える手で青に差し出す。
「……沙矢みたいな最高の女にこんなことしてもらえて感激してる」
少し声が弾んでいる。
青は身を起こし、暗闇の中で自身にそれを纏わせる。
青い瞳の時は闇の中でも彼の眼差しを感じる気がした。
枕の横に肘をつき、その後私の指に指を絡める。
ぐっ、と侵し入ってくる熱量が私を満たす。
最奥を貫かれたとき、肩に腕を回していた。
「……沙矢の顔が見たい」
乞われて、腕を離す。
見下ろす青の瞳は私だけを映している。
夜の間だけ、見せてくれるようになった青(ブルー)の瞳は、
あの時感じた海そのもの。
「繋がった時の顔、最高にいい。綺麗だ」
「っ……ああ!」
奥いっぱいに剛直を感じると身震いする。
幾度も肌を重ねて、彼のカタチになったそこは絡め取る。
先端が奥から浅い場所を擦り上げれば、
甘い悲鳴しかあげられない。
髪を撫でて微笑む。
クリスマス以降は甘い仕草がめいっぱい増えた。
これが愛されることなのかと実感している。
「っ……青、私だけをずっと見ていてね!」
「お前しか見えてないよ……最初から」
ゆっくり愛させてほしいだなんて、強がりを言う
彼に愛しさがこみ上げた。
「わたしもあなただけ……」
びくん、と最奥で彼の分身が震える。
「ナカで、抱いてくれたんだ」
肩に右足を担ぎ上げられ横から繋がった。
「あ、いや……っ」
強く突き上げられて頤が反る。
彼の目の前にさらけだされた胸の頂きが舌でなぶられて奥が潤う。
奥深い場所を何度か擦られる。
薄膜越しに熱を放たれると一気に意識が飛んだ。
抜け出る瞬間、一抹のさみしさを感じることは二度とない。
目を覚ました時、肌はすべて拭われていた。
青も見慣れた薄茶色の瞳に戻っている。
頬にかかる後れ毛を大きな手が避ける。
肌に散る赤い印が、光に照らされていた。
「いつつけたの……」
「お前の意識が向こうへ行ってる時。
ぴくりとも動かなくて不安だったが、息づかいは聞こえて安心した」
どうやら私を確かめていたようだ。
身につけたシャツは、ボタンをひとつもとめておらず
羽織っている状態だ。
ほどよくついた筋肉がよく見えた。
あまり見ているとよくない気がして目をそらす。
「見てもいいよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
すべすべのなめらかな肌に手を伸ばす。
腰に腕を回したら、青の様子が変わった。
「沙矢は恐ろしいほどかわいいが、少し学習はしろよ」
耳元に降ってきた声に恐る恐る見上げると不敵な笑みを浮かぶ青がいた。
ぐ、と手首が捕まれる。
愛を込めて乱暴に押し倒され組み敷かれた。
「も、もう朝……なんだけど」
掴み上げられた手は痛くはなかった。
「本気にした?」
「し、してない……!」
髪をさらりとかきあげると魔性の男性は身を起こした。
「からかい甲斐がありすぎ」
明るい関係になってから、青に余裕が生まれた気がする。
(前は……そんなことできなかった。
お互い、繋がることで想いを知ろうとしたから)
「着替え、置いてあるよ」
ベッドの端にワンピースと下着類が置いてあるのを見つけて彼を見上げる。
「ありがとう」
「着替えたら、朝食にしよう」
彼が背中を向けている隙に服を着た。
ダイニングには、コーヒーと甘いジャム、サラダが用意されていて
スパダリは朝から大活躍だった。
契約更新の前に引っ越した前のアパートには二年もいなかった。
高校を出て上京して一年を過ぎた頃、
自分を変えてしまう出会いをし、今ここにいる。
「俺も独り暮しを始めた頃は言ったことあるな。
五年前、前のマンションに引っ越した頃だ」
「青が? 意外だわ」
「……お茶でも飲むか。夜だからノンカフェインだ」
「うん!」
リビングのソファに座っていると、青がルイボスティーを持ってきてくれた。
テーブルの上にお茶を置くと青は、目の前でジャケットを脱いだ。
ネクタイもジャケットも綺麗に折りたたんでいる。
育ちがいいからか、乱暴にはしない人だ。
私は彼の仕草を目で追った後カップを手に取る。
彼も自分の分を手にして横に座る。
広いソファなのに膝がぴったりくっついているのは何故だろう。
青はスーツを脱ぎ、ラフな服装に着替えている。
私も部屋着姿だった。
「青、今日はありがとう。蒼宙さんにもお礼を伝えといてね。
陽香も安心したと思う」
ルイボスティーは、美容によく適量を頂いている。
「沙矢」
急に名前を呼ばれて、彼の方を向く。
とても真摯な声音だった。
「部長という人物には警戒をゆるめるなよ。
おぞましい女にもな」
おぞましいと表現された春日部長の妹は、
青を知っているようで先輩と呼んでいた。
彼はその目を見ようともせずはね除けたが、
きっと彼女は、青に執心している。
気づいたのは長い間、彼に片思いだったからだ。
正確には、お互いが好きという両片思いだったけれども。
「高校か大学が一緒だったから先輩なのかな?」
「あんな女知らないが、おそらく大学だろうとは思う。
医学部ではなく別の学部で学科だったら知るはずもない。
医学部の人間さえそこまで親しい付き合いはなかったくらいだ」
「……青、無意識で人を引き寄せるから」
きっぱり言うからそれが真実なのだろう。
この美しく妖艶な人が望まないところで
モテてしまっているのは仕方がない。
「……そういえば幼児の頃、姉に悪魔の魅力と言われた」
「ぶはっ……」
言い得て妙の表現だ。
(幼児の頃にそれを言われる人だったのか)
つい笑った私はほっぺたをむぎゅうっとつままれた。
頬の形が少しゆがむくらい。
「沙矢はかわいいの度が過ぎる。
冴島とやらは予想通り沙矢狙いだったから、
はっきり牽制しておいた。
もったいないから、名刺は渡してないが」
「……下心があったの。ちょっとがっかり」
確か大卒で入社した冴島先輩は、入社して四年が経っていて
青とも同学年だ。
「同じ会社の人間ではあるし、ある程度ごまかすのは当然だろう。
その代わり、プライベートだと一気に本性を出す。
誰か気になる人でもいました?
同じ会社でいつも見ている顔ばかりでしょう?
俺の問いに、最近、沙矢さんが気になってるんですと
あっさり吐露した」
「会社では水無月さんって呼んでくれるけど、
本当は名前で呼んでたのね」
「あんな雑魚(ザコ)、どうでもいい。
権力を笠に言うことを聞かせようとするクズ上司の方がよほど問題だ」
青が拳を握りしめた。
少し血管が浮き出ている。
「気をつける。あなたを傷つけたくない」
ふわ、と抱きしめられる。
「お前が傷つけられる方を危惧しているのはこっちだよ。
俺のそばにいてくれる存在は、強さを
秘めた人間ばかりだ。
弱くなってもいいくらい腕の中で守りたい」
重なった唇は震えていた。
頭を引き寄せられこつん、と額がぶつかる。
「必ず守るから」
背中に抱きつく。
「青は、最強のスパダリね」
頬にキスをしてみたら、彼の頬が赤くなった。
(照明の下でも分かる。この人、かわいいんだもの)
「お前のためにそう在ろう」
青が身体を離したので、横に寄り添った。
「蒼宙さんの奥様は、青も知っている人?」
「愛璃は、父方の妹の娘で従姉妹にあたる。親戚だな。
幼い頃は実家が主催するパーティーで会ったり
たまに姉の家で遊んだこともある。
最後に会ったのは四年以上前だな」
「じゃあ蒼宙さんも義理の従兄弟ってことよね?
……私、今度どんな顔で会えばいいのかな。
お兄ちゃんって呼ぶのもあり?」
「いいんじゃないか。愛璃もお前を妹分として
かわいがってくれるはずだ」
「そうだといいなあ」
「また来月、四人で食事をする機会をもうけるから、
楽しみにしておけ」
その時には、関係が更に一歩先に進んでいるのかもしれない。
「…藤城家がパーティーを開くような上流階級の家柄の出だったなんて
想像してなかった。でも青本人に聞けてよかった」
「……どんな出だろうと俺が俺であることに変わりはない」
ハイスペックスーパーダーリンは、とっても不器用で素敵な人だ。
ぎゅっ、と手を握り瞳を見つめる。
飲み干されたカップはテーブルの上に残されていた。
「……先週の土曜日から六日は経ったよな」
指折り数えていたらしい。
「青、今日はお疲れ様でした。
先にお風呂へどうぞ」
獲物を狙う瞳をしている青に、びくっとした。
心臓が破裂しそうだ。
この眼差しに落ちたのだ……。
赤い信号は点滅していなくて青がともり続けている。
(あの時のような不安定な光はない。
危険なほどの妖しさがあるのは同じ)
「声が震えてるよ?」
青が顔を近づけて来た。
「ふ、震えてない。私はここで待ってるから」
「そういう時は、一緒に入りたいと言うんだ」
ふっ、と耳に息を吹きかけられ腰の力が抜けた。
(青にしかこんなことはならない)
腰の下に右腕を差し込まれ抱えられる。
いわゆるお姫様抱っこはこれまで何度もされている……が、
毎回どきどきしてしまう。
顔を赤らめて少し上にある青の顔を見上げる。
ぎゅっ、と首に腕を絡めたら腕の力は強くなった。
「ちょろいのは俺だけにしろ」
「あなただけよ……っ」
バスルームに繋がる扉までの間、キスは一回降りてきた。
甘酸っぱくてくすぐったいキスに笑った。
こんな風にいちゃいちゃするのも大好き。
脱衣スペースで、下ろされると相手の動向を見守る。
ガラス戸が開く音に胸をなで下ろし、着ていたものを脱いだ。
(カラコンも外していた)
一応、バスタオルを巻いて青の後を追う。
青はシャワーブースにいる。
私は、スミレの香りがするシャンプーで髪を洗いヘアパックをして
ボディーソープを肌に纏わせた。
お風呂から湯気が立っていて、向こうからは見えていないはずだ。
「……青、女性が苦手?」
「お前以外、どうでもいい」
迷惑だったとしてもおぞましいという表現は驚いた。
浴槽(バスタブ)の中でこちらに背中を向けている青に感謝し、泡を洗い落とす。
「興味もなかったし……お前に墜ちるまで目に入らなかった。
それでも惹かれたんだから運命以外の何物でもないだろ」
ここは広いけれど、声は反響した。
低くて掠れた彼の声もクリアに届く。
「沙矢以外は、性別を超えた人間として見ている」
「驚き発言きたー」
「人ってのは不思議だな。男と女がいて
新しい命を作り出すわけだが……
愛の形はそれぞれだ」
タオルハンガーにかけてあったタオルを触れた身体に巻きつけた。
青がのぼせてないか気にしつつ、そろりと浴槽に足を踏み入れた。
かなりの広さはあるのに距離を詰めてくる相手には慣れた……。
気がつけば、背後には広い背中があるし
大きな身体にしっかりと包み込まれている。
お腹の下には長い腕が回っている。
「……そ、その……言いづらいんだけど
青は性欲がとてつもない人なの?」
「はははっ」
急に笑い飛ばされた。
新たな一面だろうか。
後ろ手に頬から首筋を撫でられる。
お湯の中だから濡れた感触だ。
「今更気づいた?」
「……私より青の方が神経は強いと思うの」
強めの口調の時もあれば柔らかい時もある。
捉えどころはない。
「藤城家の人間は、性欲が強いんだって。
意味不明だろ。実の父親に言われたんだよ」
「……伝統? 遺伝ってこと?」
「愛を前提としているから、悪くないだろ?」
そう嘯きながら不埒な手は肌をまさぐる。
バラの香りが漂うお湯の中うっとりしていた私は、
変な作用がなくても関係がないのだと思い知る。
「……っ……ふ」
長く骨張った指先、一本一本が違う動きをする。
ふくらみを撫で、脚の間に伸ばされる。
胸の頂きには軽く触れるだけ。
隠された秘芽を探り当てられた時口元に手を押し当てていた。
ばしゃん、とお湯が波打つ。
「お前と触れ合わなきゃ癒やされない」
耳朶をなぞる舌。
「……っ、で、でも」
「でも? こんなに濡れてるけど」
分からせるように蕾に擦りつけられる。
お湯ではなく自分から溢れたものだ。
「んん……」
「我慢せず声を出せ」
唇を押さえていた手を外される。
どちらにしても喘ぎは指からこぼれ落ちて、
隠せていなかった。
「……、あ、っ」
青の指の動きが止まる。
心臓の上に手を置かれ、切なく濃厚なキスをされた。
誘い出す舌に応じ絡める。舌を吸う。
ぞくぞくとした感覚が這い上がり、つま先も震えた。
(嘘……こんなこと今までなかったのに)
背中が反り青にもたれかかる。
「キスだけで快楽のスイッチが入るんだな。最高にかわいい」
達した身体を抱き上げられる。
もう一度二人でシャワーを浴びて寝室に向かった。
二人ともバスローブを纏っていた。
少し乱暴にベッドの上に下ろされる。
押し倒されたら、次の瞬間には覆いかぶさってくる。
背中に回った腕の力はそこまで強くなく
抜け出せる隙は残されている。
それだけ余裕ということだ。
自らしがみつくと、今度は青が震えていた。
彼の身体が熱い。
「……身体を押しつけるなんて、誘惑が上手くなった」
胸板でふくらみを擦られ、甘くしびれた。
青はバスローブをはだけた状態だった。
「素直に自分を出しても嫌われないとわかったから」
「……あの頃だって嫌うはずがなかったよ。分かりづらかったな」
(距離感を必死で計ってたから、ぐいぐいいくなんて無理だった)
しゅるり。バスルームの紐が解かれる。
部屋の明かりはとっくに朱色に落とされていて
すべてを確認はできない。
彼の身動きを感じ取るだけ。
肩甲骨に指を滑らせる。
ごつごつとした感触は異性を感じさせるものだ。
「お前は明らかに異性だけど、もっと内面にあるものを見てたよ」
探るように心臓の上を辿る手。
もどかしくなって手を重ねたら彼はそのまま捏ねた。
指先が胸の芯に触れては離れる。
「沙矢は、最後で最高の運命だ。離さない」
唇が頂きを掬い愛でる。
ちいさな火が揺らぐみたいに、少しずつ高まっていく。
お風呂上がりの火照りではなくて青によって火照っていた。
「……来て。ほしい」
「もっとゆっくり愛させてくれないのか」
頬を指が撫で髪をすく。
声が濡れているけれど、決して先を急ごうとしない。
「合コンであなたが、他の人を釘づけにしているのを
思い出したら胸が焼け焦げそうだったの」
「沙矢」
耳元に落ちた声。
枕の下にあるのを知っていた私は、もどかしく手を伸ばし掴んだ。
震える手で青に差し出す。
「……沙矢みたいな最高の女にこんなことしてもらえて感激してる」
少し声が弾んでいる。
青は身を起こし、暗闇の中で自身にそれを纏わせる。
青い瞳の時は闇の中でも彼の眼差しを感じる気がした。
枕の横に肘をつき、その後私の指に指を絡める。
ぐっ、と侵し入ってくる熱量が私を満たす。
最奥を貫かれたとき、肩に腕を回していた。
「……沙矢の顔が見たい」
乞われて、腕を離す。
見下ろす青の瞳は私だけを映している。
夜の間だけ、見せてくれるようになった青(ブルー)の瞳は、
あの時感じた海そのもの。
「繋がった時の顔、最高にいい。綺麗だ」
「っ……ああ!」
奥いっぱいに剛直を感じると身震いする。
幾度も肌を重ねて、彼のカタチになったそこは絡め取る。
先端が奥から浅い場所を擦り上げれば、
甘い悲鳴しかあげられない。
髪を撫でて微笑む。
クリスマス以降は甘い仕草がめいっぱい増えた。
これが愛されることなのかと実感している。
「っ……青、私だけをずっと見ていてね!」
「お前しか見えてないよ……最初から」
ゆっくり愛させてほしいだなんて、強がりを言う
彼に愛しさがこみ上げた。
「わたしもあなただけ……」
びくん、と最奥で彼の分身が震える。
「ナカで、抱いてくれたんだ」
肩に右足を担ぎ上げられ横から繋がった。
「あ、いや……っ」
強く突き上げられて頤が反る。
彼の目の前にさらけだされた胸の頂きが舌でなぶられて奥が潤う。
奥深い場所を何度か擦られる。
薄膜越しに熱を放たれると一気に意識が飛んだ。
抜け出る瞬間、一抹のさみしさを感じることは二度とない。
目を覚ました時、肌はすべて拭われていた。
青も見慣れた薄茶色の瞳に戻っている。
頬にかかる後れ毛を大きな手が避ける。
肌に散る赤い印が、光に照らされていた。
「いつつけたの……」
「お前の意識が向こうへ行ってる時。
ぴくりとも動かなくて不安だったが、息づかいは聞こえて安心した」
どうやら私を確かめていたようだ。
身につけたシャツは、ボタンをひとつもとめておらず
羽織っている状態だ。
ほどよくついた筋肉がよく見えた。
あまり見ているとよくない気がして目をそらす。
「見てもいいよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
すべすべのなめらかな肌に手を伸ばす。
腰に腕を回したら、青の様子が変わった。
「沙矢は恐ろしいほどかわいいが、少し学習はしろよ」
耳元に降ってきた声に恐る恐る見上げると不敵な笑みを浮かぶ青がいた。
ぐ、と手首が捕まれる。
愛を込めて乱暴に押し倒され組み敷かれた。
「も、もう朝……なんだけど」
掴み上げられた手は痛くはなかった。
「本気にした?」
「し、してない……!」
髪をさらりとかきあげると魔性の男性は身を起こした。
「からかい甲斐がありすぎ」
明るい関係になってから、青に余裕が生まれた気がする。
(前は……そんなことできなかった。
お互い、繋がることで想いを知ろうとしたから)
「着替え、置いてあるよ」
ベッドの端にワンピースと下着類が置いてあるのを見つけて彼を見上げる。
「ありがとう」
「着替えたら、朝食にしよう」
彼が背中を向けている隙に服を着た。
ダイニングには、コーヒーと甘いジャム、サラダが用意されていて
スパダリは朝から大活躍だった。
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました
あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。
それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。
動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。
失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。
「君、採用」
え、なんで!?
そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。
気づけば私は、推しの秘書に。
時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。
正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
寺原しんまる
恋愛
成人してから母親の影響でBLに目覚めた西浦瑠璃子。そんな時、勤務先の東京本社に浮田卓課長が大阪支社から移動してくる。浮田課長は流行のイケオジで、自分のBL推しキャラクター(生もの)にそっくりだった。瑠璃子はBL世界のモブに徹しようと、課長に纏わり付く女子社員を蹴散らしていくのだが、どうやら浮田課長はその男前な性格の瑠璃子にある秘めた感情を寄せていく。
浮田課長はSMのM属性。理想の女王様を探していた。そんな時に部下である瑠璃子の物事をハッキリ言う性格に惹かれ、尚且つヒーロー的に自分を助けてくれる瑠璃子に理想の女王様像を重ねていく。
そんなチグハグな思いを内に秘めた二人が繰り広げる、どこかすれ違っているお話。
この作品はムーンライトノベルズ、魔法のIらんどにも掲載しています。
~ベリーズカフェさんに載せているものを大幅改稿して投稿しています~