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転生した世界は、わりと暮らしやすい。
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「この世界にもパソコンがあって助かったな」
とても日曜朝の光景とは思えない壮絶な闘いから六日。
ラボの二階にある大型カフェラウンジの窓際の席で、白衣を着た紫央はノートパソコンを広げながら小さく安堵していた。
幸いなことに紫央の転生先「アイドル戦隊スターレンジャー」の世界では、教師として生きていた時代と大きく変わりがないことを今しがた知ったのだ。
思えば、リアルタイムで放映していたものを目にしていたのだから、世俗が反映されているのも納得である。
当然、モバイルフォンやパソコンなどの通信機器も存在するので、情報を獲得する手段にはあまり不便さを感じない。
「大変お待たせいたしました」
上から落ちてきた声に、ふと紫央はパソコンをいじる手を止め、顔を上げる。
「Dr.リュウ様がオーダーされました、トマトとチキンのサンドイッチとブレンドコーヒーでございます」
執事服を着た若い男性店員が運んできたものをスマートに一礼した後、それぞれ音を立てずにそっとテーブルへ置いていく。
「恐れ入ります」
紫央もぺこりと会釈すると掌を合わせ、まずはホットコーヒーから口づけた。
コクとまろやかさとなめらかさの比率が、今日も絶妙の割合でブレンドされている。舌に残る苦味が味わい深い。
ここ数日で、紫央は心からコーヒーをおいしいと思うようになっていた。
もちろんそれはコーヒーだけではない。ともに頼んだサンドイッチだってそうだ。
紫央の知っているサンドイッチよりどこか上品で、ただ腹を満たすだけの食事ではなく、心から「おいしい」と感じられるほど手の込んだ作りになっているのだ。
ラボに住んでいるというだけで、三食無償で提供されている紫央だったが、いまのところ、どの食事もとりあえずというものがない。
いや、それは食事だけの話ではない。
掃除、洗濯、炊事、買い物に至るまで、生きるためにしなければならないことすべてを、先ほどの執事のような人物がどれも図ったように済ませてくれるのだ。
紫央がすることといえば、ただラボに籠ってスターレンジャーを倒すための新しい武器の開発や特殊能力などの研究に勤しむだけ。
大学卒業後、有機化学を専攻しそのまま研究室に残りたかった紫央としては、まさに夢のような環境だった。が、魔法に関しては門外漢なので、研究といってもいまのところさっぱりなのである。
転生二日目にクィーンが話していた、かんしゃく玉のストックやプロトタイプ、そして関係書類を「Dr.リュウ」の使用していた研究室から発見したが、さすがマッドサイエンティストの異名を持つだけあってその書類の解読は超絶難解のものだった。
魔法について造作がないので仕方ないのかもしれないが、訳もわからず分解して、ラボを爆破させてしまうほうが不安だ。
だからとりあえずまずは、パソコンの検索機能などを利用し「Dr.リュウ」という人物を知ることからはじめてみた。
さすがに瞬間移動や特殊能力などを操る方法は情報に上がっていなかったが、スターレンジャーたちの活躍の記事や動画から、「Dr.リュウ」の人となりがなんとなく見えてくる。
雑な言い方になるが、はっきり言って相当強い。
同時に、めちゃくちゃ悪者だ。
凶悪だ。
それはそうだ。
レッドにとって、スターレンジャーにとって、最後に倒すべき最大の敵。ラスボスとして「Dr.リュウ」は君臨しているのだから。
元の世界で生徒からも同僚の教師からも必要とされていなかった昼行燈の紫央とは、なにもかもが違うのだ。
とても日曜朝の光景とは思えない壮絶な闘いから六日。
ラボの二階にある大型カフェラウンジの窓際の席で、白衣を着た紫央はノートパソコンを広げながら小さく安堵していた。
幸いなことに紫央の転生先「アイドル戦隊スターレンジャー」の世界では、教師として生きていた時代と大きく変わりがないことを今しがた知ったのだ。
思えば、リアルタイムで放映していたものを目にしていたのだから、世俗が反映されているのも納得である。
当然、モバイルフォンやパソコンなどの通信機器も存在するので、情報を獲得する手段にはあまり不便さを感じない。
「大変お待たせいたしました」
上から落ちてきた声に、ふと紫央はパソコンをいじる手を止め、顔を上げる。
「Dr.リュウ様がオーダーされました、トマトとチキンのサンドイッチとブレンドコーヒーでございます」
執事服を着た若い男性店員が運んできたものをスマートに一礼した後、それぞれ音を立てずにそっとテーブルへ置いていく。
「恐れ入ります」
紫央もぺこりと会釈すると掌を合わせ、まずはホットコーヒーから口づけた。
コクとまろやかさとなめらかさの比率が、今日も絶妙の割合でブレンドされている。舌に残る苦味が味わい深い。
ここ数日で、紫央は心からコーヒーをおいしいと思うようになっていた。
もちろんそれはコーヒーだけではない。ともに頼んだサンドイッチだってそうだ。
紫央の知っているサンドイッチよりどこか上品で、ただ腹を満たすだけの食事ではなく、心から「おいしい」と感じられるほど手の込んだ作りになっているのだ。
ラボに住んでいるというだけで、三食無償で提供されている紫央だったが、いまのところ、どの食事もとりあえずというものがない。
いや、それは食事だけの話ではない。
掃除、洗濯、炊事、買い物に至るまで、生きるためにしなければならないことすべてを、先ほどの執事のような人物がどれも図ったように済ませてくれるのだ。
紫央がすることといえば、ただラボに籠ってスターレンジャーを倒すための新しい武器の開発や特殊能力などの研究に勤しむだけ。
大学卒業後、有機化学を専攻しそのまま研究室に残りたかった紫央としては、まさに夢のような環境だった。が、魔法に関しては門外漢なので、研究といってもいまのところさっぱりなのである。
転生二日目にクィーンが話していた、かんしゃく玉のストックやプロトタイプ、そして関係書類を「Dr.リュウ」の使用していた研究室から発見したが、さすがマッドサイエンティストの異名を持つだけあってその書類の解読は超絶難解のものだった。
魔法について造作がないので仕方ないのかもしれないが、訳もわからず分解して、ラボを爆破させてしまうほうが不安だ。
だからとりあえずまずは、パソコンの検索機能などを利用し「Dr.リュウ」という人物を知ることからはじめてみた。
さすがに瞬間移動や特殊能力などを操る方法は情報に上がっていなかったが、スターレンジャーたちの活躍の記事や動画から、「Dr.リュウ」の人となりがなんとなく見えてくる。
雑な言い方になるが、はっきり言って相当強い。
同時に、めちゃくちゃ悪者だ。
凶悪だ。
それはそうだ。
レッドにとって、スターレンジャーにとって、最後に倒すべき最大の敵。ラスボスとして「Dr.リュウ」は君臨しているのだから。
元の世界で生徒からも同僚の教師からも必要とされていなかった昼行燈の紫央とは、なにもかもが違うのだ。
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