Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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狂ったモノに生まれる葉

引き裂かれた運命の末に、やっと呼吸が出来た2人

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 手に取った錠剤を見つめる。
 「あぁ、僕はこれで終わりになるんだ。」と頭の中で大きく呟くと、その声が響いてくる程に何も考えられなかった。


『ちょっとだけ、私の事が見えてる?』
「…っ?!」
 声のならない声が出て、錠剤を見つめていた頭を上げる。
 そこには、綺麗な白の彼女がいた。「ちょっとだけ」その言葉で相手は誰なのか嫌でも分かった。

『あ!今「なんで?」って顔したでしょ!
 ちょっとだけ楼砥るとくんが心配になったからぁ、出てきちゃった』
 『えへへぇ』と照れ笑いをする彼女に色んな感情が一度にやってくる。

「な、なんだよお前!」
 僕は色んな感情に揉まれて対処しきれなくなったせいで、声を荒らげながら八つ当たりをするように彼女へ言葉の暴力を投げつけた。

『な、なんだよぉって言われても…
 …あっ!というか、ちゃんと名前で呼んでよ!
 初めての《お前》呼びは嬉しくないなぁ』
 『楼砥くんからの初めてで1番欲しくないやつかもぉ』と、1人の世界に入る様に僕に言う姿は生きていた時と全く変わっていなくて、少し安堵する自分がいた。

「で、本物…なんだろ?
 幻覚…とかではないんだろ?」
 たとえ幻覚だったとしてもどうせ最期なら幸せに逝く事が出来るのかもしれない。

『そうだよ~!
 幽霊というよりかは、ちょっとした概念?かなぁ?』
「概念…」
 このゆったりとした言い方に、落ち着く反面疑ってしまう自分がいた。
 やっぱり幻覚で、走馬灯の様なものなのじゃないのかと…

『あ!信じてないでしょ!
 まぁ、そうりゃあ?
 私だって楼砥くんの立場だとそう思っちゃうのは仕方ないけどさぁ?
 信じてもらえるとちょっと嬉しいというか、凄く嬉しいというか…』
 ごにょごにょと彼女の目線は僕の顔から下へ下へと下がって、自信がなくなっていく。
 どちらにしても僕にはもう関係の無い事だ。それならこの彼女が気が済むまで付き合う事だって出来る。

「…分かったよ。
 じゃあ、緋姫花ひめかは今の僕に何しにやって来たの?」
 少し嫌味のような言い方になりつつ伝えると一気に晴天の空になるくらいの笑顔で僕を見る。

『あのね!あのね!
 ほんっとに心配だったの!
 何度も何度も楼砥くんの所に行きたくて、話がしたくて挑戦したんだけど…どうしてもダメで、もっと早くにこうやってお話がしたかったんだぁ』
 相変わらず経緯から始まる会話の仕方に苦笑をする。「生きていたらこんな風にいつも話せてたのかな」と、感傷的になった。

『ねぇ?聞いてる?』
 寂しそうな声で僕を呼ぶ声にハッとして返事をする。

『絶対聞いてなかったでしょ!』
「そ、そんな事ないよ」
『……じゃあ、何言ってたか覚えてる?』
「え、えっと…」
 言葉が詰まる僕に腹を立てて怒る彼女が、「あぁ、こんな感じだったなぁ」と、少し涙が出そうになった。

『あー!ほらぁ!
 もぉ…、だ~か~ら~!
 楼砥くん。君を止めに来たの!』
「えっ…」
 誇らしげに強く言うその言葉に、驚きが隠せなかった。

「な、なんで?
 迎えに来たんじゃ…?」
 そう。死人に連れてかれるというのはよく聞くものだ。てっきり僕を連れていくためにいい夢を見させてくれてるのだと思っていた。

『え…。私がそんな事をする性格だと?』
「だけど…」
 そう言われたら、生前の彼女を思い出してもそんな気もした。
 本当は連れていかないといけないのに、『あ!間違えてぇ』とか何とか言って僕を生かしておくようにするだろう。
 でも、今の僕は彼女になんと言われたって生きられるような強い男じゃない。

「ごめん。
 僕は、もう良いんだ。
 早くここから逃げたい。」
 そう伝えると自然と下を向いてしまう。弱く弱くなった僕を見てきっと目を丸くしてるに違いない。

『………んなの』
「……」
 何を言ったのか分からない。でも、きっと彼女なら気を落としたりなんかせず、僕に強く言うはず。

『そんなの!
 分かってるよ!』
「…」
『分かってるから早く来たかったし、怒ってる。
 私がいなくなって、君が…楼砥くんが苦しくなるなんて分かってたよ!
 大好きなのに、愛してるのに、楼砥くんがどう思ってるなんて手に取るように分かるよ!』
 『だから…』と、涙声になる彼女へ反射的に下を向いていた顔を持ち上げるように顔を彼女に向ける。
 綺麗な顔に、朧気な姿は本当に透き通った美しい涙が溢れていた。

「な、なんで…」
 無意識に彼女の手を取ろうとした手は彼女をすり抜けて空虚だけが手を包む。

『ち、違っ…違うっ
 違うの…っ』
 『こんなはずじゃ…』ととめどなく溢れていく涙に怒りながら、小さくなる肩を僕は抱きしめられないのだと感じて、目が熱くなってくる。

『ご、ごめ、ごめんっ
 こ、これは違くて…
 こんなはずじゃなかったの』
 両手で目をぐしぐしと拭い続ける彼女に、何も言えなかった。言えるものが何も無かった。
 こんな空っぽな僕の頭は、日々の薬のせいで思考回路もゆっくりになってしまう。

「…泣き止んで。」
 この言葉がやっと出て、僕の顔を見上げてくれるまで待つ。

『う、うぅ…ごべんん…
 ごめんねぇ
 わたじぃ…何もっ出来なぐってぇ』
「大丈夫。
 ゆっくり、ゆっくりでいいから。
 泣き止むまで待ってるから。泣き止んだら教えて?」
 苦笑する僕に、また涙をつくってさっきよりも声を上げて泣き始める。
 生きてる時もこういう風にやってた記憶を思い出すと、僕もなんだか涙が出てきて気づかれないように涙を拭く。


 やっと泣き止んだ彼女は落ち着きを取り戻して、キリッと真剣な顔をする。

『ごめん。
 本当は泣く予定じゃなかったんだけど…
 というか、まだ泣く予定じゃなかったんだけどね』
 『あはは』と頭をかいて僕に言う彼女に、僕は出来なかった生活を味わってる様に感じてしまう。

「うん。急に泣くからびっくりした。」
『ご、ごめんってば!』
「で?何しに来たの?」
『あ!そうだった!
 えっと、楼砥くんが死んじゃうと思って、私…止めに来たの。』
 そう言う彼女の目は一瞬の揺らぎのない強い瞳をしていて、僕は息を飲む。

『で、頑張って来たんだけど…
 どうしたらいいのか分からない状態…です』
 さっきの勢いはどこに行ったのかどこか抜けてる彼女を見て少し笑いが出てくると、彼女も釣られて笑ってしまうと笑いが大きくなり暫く笑い合う。

『っはぁ
 もぉ、ダメだなぁ』
「ほんとだよ
 気持ちだけで来るなんて緋姫花らしいよ」
 明るく笑う僕たちは、普通なら無かった日常。



『本当に、こっちに来るの?』
「だめ…かな?」
『だめって言っても止まったことなんてほとんどないよね。』
「それはいいよって事?」
『ぜっったいに、だめ!』
 クスッと笑う僕に、口を膨らませる彼女は愛おしいなと思った。

「愛してるって言っても?」
『うっ…そ、それでもだめ!』
「手強いな…」
『ほら!そこがダメなの!』
 『嫌いというわけじゃないけど…』と、ハッキリ言う事の出来ない彼女に、「あぁ、そこに惚れてしまったんだろうな」と思ってしまう。

「じゃあ、ずっとそばに居てくれるの?」
『そうしたいけど、流石に私がダメかも…』
「なんで?」
『だって…』
「ん?」
『だ、だって、生きていく中で私は死んでるし君は生きてる。それなら、人との出会いだってあるしお付き合いする人もいると思うし、上手くいって家族になったり、縁談だってあるかもだよ?』
 『そんなの見たら私…』と、泣きそうな顔をする彼女の言葉を遮る。

「そんな事あるはずがない!」
『あるよ…』
「ない!
 ないんだ!」
『ある。』
「僕が緋姫花以外と心を通わせようとか思えない!」
『私が、困るよ…』
「なんでだよ!」
 言ってる事が矛盾している彼女に怒りをぶつけるように聞く。

『楼砥くんがずっと私に縛られてばかりになっちゃうでしょ?』
「別に僕は…」
『良くないの!』
「…っ」
『そんなの、良くないんだよ!』
 泣きそうな顔をしながら強く言う彼女に流石に口を噤む。

『そんな事されても私は嬉しくないよ…』
『楼砥くんの為に言ってるけど、私の為だってあるんだよ。』
『私も楼砥くんの事が、大好きだよ。
 大好きで、焦がれるほどに愛してるもん!』
 そこまで言って子供がぐずる様に言う彼女に愛おしさといじらしさを感じてしまう。また彼女に触れようと手を持ち上げると触れられない事に気がついて引っ込める。なんと言えばいいのか分からなくなっていると、また彼女は口を開く。

『それでもね、だめだよ。』
『ダメなんだ。』
『愛だけで生と死を越えられるものじゃない。
 生きてれば、どうにかなってたのに。
 ごめん。わた…』
「緋姫花のせいじゃない!」
『っ!!』
「緋姫花のせいって誰も思ってない!
 思う奴なんか、僕は許さない!
 たとえ緋姫花自身が思っても僕は許さない!」
 そう伝えると固まる彼女に涙が一筋流れる。そんなに力強く言った覚えは無いけれど、僕は焦って「ごめん。そこまで怒るつもりじゃなくて…」と謝る。

『大丈夫。
 なんだか、嬉しくて…
 こ、こんなに涙脆くなったなんて思わなかったな』
「そうだね
 生きてた時は涙なんて全然見せてくれなかった。」
『生きてる時は、家とか色々重圧されてたから…
 泣いちゃダメってずっと思ってたからさ』
 そういう彼女は照れくさそうに言っているのになんだか哀しそうで、自分が救ってあげられなかった事に苛立ちを覚える。

『な、なんで楼砥くんがそんな顔してるの?!』
「え、あ。いや、緋姫花を救う事が出来なかったのを今思い知らされたというか…」
『別にいいよ?
 生きてる時は辛かったし苦しかったし、何よりもしんどかったけど、楼砥くんに会えた事は本当に嬉しくてこうやって死んでも思い続けてくれてるのが何よりも嬉しいのと、こんな素敵な彼氏をもてた事を誇らしいよ♪』
 そう言って自信満々に笑う緋姫花に「僕の方こそだよ」と言うと、最高に照れてくれてこっちまで照れてしまった。

『だからね、自分を悔やまないで。
 私を断ち切って、外へ出てよ。』
 嫌な事を言われて耳を塞ぎたくなったのに、緋姫花の声をもっと聞いていたくて塞げなかった。

『その薬、本当は飲むものじゃないよね?』
「これ…は、」
『そう。それ。
 こっちに来るのは早すぎるよ。』
「違う、早くなんかない!
 僕は、緋姫花の所に行きたいんだ。」
『ちがくないよ。
 目を開けて。楼砥くんがすべき事は何?』
「僕…は、ずっと緋姫花といる事が…」
『……っ
 だ、だめ!そんな事言わないでよ!』






 「ずっと、一緒に居たい。」と言ったのに言えなかった僕は緋姫花に、言いたい事を止める事も手放してと伝える言葉も、もう何もかも全て空虚で冷たい風が通る。
 家から何十分もかかるコンビニに2人で行く事も出来なくて、限られた一緒の時間に引き裂かれてしまった僕たちに、神様はどうしてこうも辛い道にばかり行かせるのか分からない。
 結局緋姫花に止められて薬は飲まなかった。僕が大丈夫になるまで一緒に居てくれると言ってくれた事が嬉しくて、長引かせてしまう自分が芽生えるんじゃないかと思いつつ、そんな事をしたら緋姫花を悲しませて困らせてしまうのを分かってるからこそ、難しくて泣きそうになる。



 もし、今この横断歩道で車が来ても僕は───



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