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第一章 幼少期
訳あり王子
本日はリアムが我が家へ遊びに来ている。
両親はリアムに挨拶を済ませると席を立ち、退室する際に母が耳打ちしてきた。
「オリヴァー、くれぐれも宜しく頼みましたよ。ノエルと殿下を二人きりにしてはなりませんよ」
「はい」
俺もそれだけは気を付けようと思っていた。今のノエルは何をしでかすか予測不可能だ。そんな所も可愛いのだが、相手は王子だ。不敬で罰せられでもしたら大変だ。
「ノエル? 何してるの?」
母が退室したと同時に、リアムと対面で座っていたはずのノエルがリアムの背後に立った。
「最大級のおもてなしをしようと思いまして」
「最大級?」
リアムも振り返って怪訝な顔でノエルを一瞥した。
「わたくしにお任せ下さい」
リアムはノエルの言葉を無視して前を向き、お茶を一口飲んでカップをソーサーに置いた。その瞬間、ノエルが素早く新しいカップへと交換した。
「えっと……ノエル?」
「王子様に二度もカップに口は付けさせませんわ。高貴なお方は服だって一度袖を通せば二度と着ないのですから」
「リアム殿下、申し訳ございません。うちの妹が……」
「どうしてお兄様が謝るのですか? わたくし悪いことはしておりません」
ノエルが俺の隣にやってきたので、やや怒りながら言った。
「そんなの落ち着かないに決まってるだろう。それに、そんなに何度もカップを変えたらせっかく毒味をして下さった方にも失礼だろう」
「毒など入っておりませんわ」
「そんなの知ってるけど……もう良いよ。ノエルは部屋戻ってて」
「え、ちょ、お兄様……」
俺は無理矢理ノエルを部屋から追い出した——。
これ以上醜態は見せられない。謝罪をしようとリアムを見れば、リアムは俯いて肩を震わせていた。
完全に怒らせてしまった。母にも怒られること間違いなしだ。とにかく謝罪しなければ。もしかしたら許してくれるかもしれない。
「申し訳ございませんでした。お見苦しいところを……」
「ふふっ、ははは、あー面白い。何なのさっきの? 余興か何か?」
リアムが笑っている。先程肩を震わせていたのは怒っていたのではなく、笑いを我慢していただけ? それなら安心ではあるが念の為言い訳をしておかなければ。
「いえ……リアム殿下にお会いできて嬉しかったのだと思います。いつもはもっとしっかりと……は、していませんがとにかく可愛いんです。許してやって下さい」
「僕も女の子だったら良かったのかなぁ」
「え?」
リアムの笑いは治っており、今度は憂いを帯びた表情で言った。
「兄上達も僕が女の子だったら可愛がってくれたり、守ってくれたりしたのかなって」
「リアム殿下……」
これがジェラルドの言っていたリアムの裏事情のようだ。随分と心に闇を抱えていそうだ。
俺は場の空気を変える為、用意していたチェス盤を出してきた。
「せっかくですから、チェスでもしませんか?」
◇
「チェックメイトだ」
「うう……殿下強すぎでは?」
「君が忖度し過ぎだよ」
「いえ、全力です」
リアムに十八連敗している。もちろん忖度などしていない。初めは忖度も考えたが、やり始めてすぐに分かった。リアムは強い。
それから全力で勝負に挑んでいるが、一向に勝てない。
「リアム殿下、もう一回勝負です」
「良いよ。じゃあ、ただするのもつまんないから賭けでもする?」
「賭けですか?」
「勝った方の言うことを一つ何でも聞くってのはどうかな?」
「何でもですか?」
そんなことを言われてもリアムにして欲しいことなど無いのだが……。
「リアム殿下は、勝ったら俺に何して欲しいんですか?」
「内緒。さぁ、始めよう」
俺はリアムの考えの先を読もうと駒を動かした——。
「オリヴァーは賭けになると強いのかな?」
「そうかもしれません」
よし、これならいける!
そう思ったのも束の間、リアムはニヤッと笑った。
「なんてね、まだまだだね」
「え、うそ……」
「ほら、これでチェックメイトだ」
さっきまで俺が勝っていたと思ったのに。急に盤面がひっくり返った。
「勝たせたつもりで逆転するって良いよね。あー、面白かった」
「ずるいですね……」
「そう? ゲームなんだから文句なしだよ。じゃあ何でも言うこと聞いてね」
「俺は何をしたら良いですか?」
チェスをして分かった。リアムは意地が悪い。そんなリアムの事だ、とんでもないことを言い出すに違いない。覚悟を決めてリアムの次の言葉を待った。
「僕のこと名前で呼んでよ」
「え?」
どういう意味だろうか。今でも名前で呼んでいると思うのだが。ポカンとしているとリアムが不機嫌な様子で言った。
「何でも言うこと聞くって言ったよね?」
「はい。リアム殿下」
「違う! 殿下とか様とかいらないから、名前で呼んで!」
「リアム……?」
するとリアムの顔がみるみる笑顔になった。
「もう一回呼んで」
「リアム」
「もう一回」
「しつこいよ。あ、すみません」
ついつい普通に突っ込んでしまった。しかし、リアムはご機嫌だ。
「僕、名前で呼ばれたことないんだよ」
「それは……」
「昔は呼ばれてたのかもしれないけど、物心ついた頃には『お前』『役立たず』『穀潰し』だったから」
ニコニコ笑顔で言う内容ではない気がするのだが……。そして、俺はこの重い話をどう処理すれば良いのだろうか。
「リアム、もう一回勝負しましょう。次は勝ちますから」
ゲームをして話を流すことにした。
両親はリアムに挨拶を済ませると席を立ち、退室する際に母が耳打ちしてきた。
「オリヴァー、くれぐれも宜しく頼みましたよ。ノエルと殿下を二人きりにしてはなりませんよ」
「はい」
俺もそれだけは気を付けようと思っていた。今のノエルは何をしでかすか予測不可能だ。そんな所も可愛いのだが、相手は王子だ。不敬で罰せられでもしたら大変だ。
「ノエル? 何してるの?」
母が退室したと同時に、リアムと対面で座っていたはずのノエルがリアムの背後に立った。
「最大級のおもてなしをしようと思いまして」
「最大級?」
リアムも振り返って怪訝な顔でノエルを一瞥した。
「わたくしにお任せ下さい」
リアムはノエルの言葉を無視して前を向き、お茶を一口飲んでカップをソーサーに置いた。その瞬間、ノエルが素早く新しいカップへと交換した。
「えっと……ノエル?」
「王子様に二度もカップに口は付けさせませんわ。高貴なお方は服だって一度袖を通せば二度と着ないのですから」
「リアム殿下、申し訳ございません。うちの妹が……」
「どうしてお兄様が謝るのですか? わたくし悪いことはしておりません」
ノエルが俺の隣にやってきたので、やや怒りながら言った。
「そんなの落ち着かないに決まってるだろう。それに、そんなに何度もカップを変えたらせっかく毒味をして下さった方にも失礼だろう」
「毒など入っておりませんわ」
「そんなの知ってるけど……もう良いよ。ノエルは部屋戻ってて」
「え、ちょ、お兄様……」
俺は無理矢理ノエルを部屋から追い出した——。
これ以上醜態は見せられない。謝罪をしようとリアムを見れば、リアムは俯いて肩を震わせていた。
完全に怒らせてしまった。母にも怒られること間違いなしだ。とにかく謝罪しなければ。もしかしたら許してくれるかもしれない。
「申し訳ございませんでした。お見苦しいところを……」
「ふふっ、ははは、あー面白い。何なのさっきの? 余興か何か?」
リアムが笑っている。先程肩を震わせていたのは怒っていたのではなく、笑いを我慢していただけ? それなら安心ではあるが念の為言い訳をしておかなければ。
「いえ……リアム殿下にお会いできて嬉しかったのだと思います。いつもはもっとしっかりと……は、していませんがとにかく可愛いんです。許してやって下さい」
「僕も女の子だったら良かったのかなぁ」
「え?」
リアムの笑いは治っており、今度は憂いを帯びた表情で言った。
「兄上達も僕が女の子だったら可愛がってくれたり、守ってくれたりしたのかなって」
「リアム殿下……」
これがジェラルドの言っていたリアムの裏事情のようだ。随分と心に闇を抱えていそうだ。
俺は場の空気を変える為、用意していたチェス盤を出してきた。
「せっかくですから、チェスでもしませんか?」
◇
「チェックメイトだ」
「うう……殿下強すぎでは?」
「君が忖度し過ぎだよ」
「いえ、全力です」
リアムに十八連敗している。もちろん忖度などしていない。初めは忖度も考えたが、やり始めてすぐに分かった。リアムは強い。
それから全力で勝負に挑んでいるが、一向に勝てない。
「リアム殿下、もう一回勝負です」
「良いよ。じゃあ、ただするのもつまんないから賭けでもする?」
「賭けですか?」
「勝った方の言うことを一つ何でも聞くってのはどうかな?」
「何でもですか?」
そんなことを言われてもリアムにして欲しいことなど無いのだが……。
「リアム殿下は、勝ったら俺に何して欲しいんですか?」
「内緒。さぁ、始めよう」
俺はリアムの考えの先を読もうと駒を動かした——。
「オリヴァーは賭けになると強いのかな?」
「そうかもしれません」
よし、これならいける!
そう思ったのも束の間、リアムはニヤッと笑った。
「なんてね、まだまだだね」
「え、うそ……」
「ほら、これでチェックメイトだ」
さっきまで俺が勝っていたと思ったのに。急に盤面がひっくり返った。
「勝たせたつもりで逆転するって良いよね。あー、面白かった」
「ずるいですね……」
「そう? ゲームなんだから文句なしだよ。じゃあ何でも言うこと聞いてね」
「俺は何をしたら良いですか?」
チェスをして分かった。リアムは意地が悪い。そんなリアムの事だ、とんでもないことを言い出すに違いない。覚悟を決めてリアムの次の言葉を待った。
「僕のこと名前で呼んでよ」
「え?」
どういう意味だろうか。今でも名前で呼んでいると思うのだが。ポカンとしているとリアムが不機嫌な様子で言った。
「何でも言うこと聞くって言ったよね?」
「はい。リアム殿下」
「違う! 殿下とか様とかいらないから、名前で呼んで!」
「リアム……?」
するとリアムの顔がみるみる笑顔になった。
「もう一回呼んで」
「リアム」
「もう一回」
「しつこいよ。あ、すみません」
ついつい普通に突っ込んでしまった。しかし、リアムはご機嫌だ。
「僕、名前で呼ばれたことないんだよ」
「それは……」
「昔は呼ばれてたのかもしれないけど、物心ついた頃には『お前』『役立たず』『穀潰し』だったから」
ニコニコ笑顔で言う内容ではない気がするのだが……。そして、俺はこの重い話をどう処理すれば良いのだろうか。
「リアム、もう一回勝負しましょう。次は勝ちますから」
ゲームをして話を流すことにした。
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