俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵

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第二章 冒険の始まり

細やかな意趣返し

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 次の村までは荷馬車に乗せてもらうことになった。流石に全て徒歩では冒険出来る場所は限られてしまうので、ノエルも了承済みだ。

「聖人様を送れるなんて光栄です」

「はは……」

 送ってもらえるのは有り難いが、いつまで神様扱いされるのだろうか。

 荷馬車に揺られること数時間。外を眺めていると遺跡が見えた。

「あれは何ですか?」
 
 御者に質問すると、複雑そうな顔で応えてくれた。

「あそこには私共が産まれるよりも、ずっとずっと前に人々が住んでいたという噂です。ですが、今あそこには亡霊がいるらしく、夜になると時折女性のすすり泣く声が聞こえるのだとか……」

「怖ッ」

「お前、変なこと質問すんなよ」

 ジェラルドはその見た目や性格からは想像が付かない程、怖い話が苦手だ。今も話を聞いて、そこにあった毛布を頭から被り始めた。

 そんな中、ノエルは嬉しそうに言った。

「それは面白そうですわね。行ってみましょう」

「オリヴァー、兄貴だろ。こいつを黙らせろ」

「あ、うん。ノエル、行くにしても他の遺跡にしよう。流石にジェラルドが可哀想だよ」

「ですが、リアム殿下とエドワード様も行ってみたいですわよね?」

「遺跡には興味あるけど、僕もその手の話はちょっと……」

 リアムが困惑しながら言えばエドワードも眉を下げて言った。

「同じく。僕も怖いのはそんなに得意じゃないかな」

 男性陣は三人共怖いのが苦手なようだ。俺は……そうでもない。怖いとは思うが肝試しとかは意外と好きだ。

 ジェラルドは安堵の表情を見せ、ノエルは不満そうな顔を見せた。しかし、ノエルもそれ以上は何も言わずに静かにしていた。

 遺跡から少し馬車に揺られると次の村が見えてきた。


 ◇


 ここはポポロ村。

「ありがとうございました」

「いえ、聖人様の為でしたら何処へでもお送り致します」

 御者は名残惜しそうに何度もこちらを振り返りながら御者台に乗り込んだ。それを見送ってから、ノエル以外の三人が吹き出した。

「良かったな。聖人様」

「本当だよ。聖人様」

「格好良いよね。聖人様」

 ククル村の人達がいる前では笑いを我慢していたようだ。

「そんなに笑わないでよ。そもそも聖水作るって言ったのリアムじゃん」

「そうだけどさ。あんなに崇拝されるなんて思ってなかったよ」

 ジェラルドが笑うのは想定内だが、リアムやエドワードまで笑うとは思っていなかった。

「わたくし、お兄様の絵を提供致しましたので大丈夫ですわよ」

「絵? 何が大丈夫なの?」

「お兄様が銅像を拒まれましたので、聖堂にお兄様の肖像画を飾って頂くことに決まりましたの。これで毎日お兄様がいなくても皆様拝めますわ」

「ノエル……」

 なんてことをしてくれたんだ。良い恥晒しじゃないか。怒りを通り越して、悲しくなってきた。他の三人は大爆笑だ。

「もう良いよ。早くギルド寄ってから宿探そ」

 不貞腐れながら歩いているとジェラルドとリアムが笑いを堪えながら謝ってきた。

「悪かったって。今日の同室は俺だろ。優しくしてやるから機嫌直せよ」

「いや、元はと言えば僕の責任だから、僕が代わるよ」

 エドワードまで参戦してきた。

「僕の方がお兄さんだからね、僕にたっぷり甘えなよ」

「今日は一人にしてよ。三人共容赦ないんだもん」

 ちなみに、冒険初日にリアムに『夜は一人になっちゃダメだよ』と俺が言ったこともあって、今は男同士二人一組で部屋を借りて一緒に寝ている。寝る相手はローテーションで毎日変わる。本日はジェラルドと。

 そして三人共、学園が始まるまでに必要な必須科目を全て網羅している。俺だけまだまだ残っているので日替わりで勉強を教えてもらっているのだ。ちなみに皆スパルタだ。

 その講師役を取り合っているだけなのだが、ノエルが勘違いしてしまったようだ。頬をピンクに染めて呟いている。

「お兄様ったら毎日順番に……? しかも容赦ないって、どれだけ激しいのかしら」

「ノエル、勘違いしてるようだから言っとくけど……」

「そうですわ! いっそ四人でしたら良いのでは?」

「は? ノエル何を……」

「確かに。それも良いかもな。それぞれ得意分野も違うしな」

「馬鹿、ジェラルド、そんなこと言ったらノエルの妄想が……」

「得意分野とは、皆様どういうのがお好みなのかしら。想像しただけで沢山絵が描けそうですわ」

 ノエルの頭の中はバラの世界が繰り広げられ、俺が呼びかけても返事すらしなくなった。十一歳の子がこんなので大丈夫なのだろうか。いや、先日誕生日を迎えたので十二歳か。何にせよ、将来が心配になってくる。

 ——ギルドに到着するなり、俺は一番に目に入った依頼書を手に取った。

「これやります」

「は? オリヴァーお前、これはダメだ。絶対ダメだ」

「そうだよ。こっちの依頼の方が良いよ」

「ほら、考え直そう。他にも沢山あるんだから」

 俺は不敵に笑った。

「さっき俺のこと笑ったよね?」

 俺からの初めての細やかな意趣返し。

 その依頼は『古代遺跡のすすり泣く声を調査して欲しい』という内容だった。
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