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第五章 うっかり魔界へ
魔王からの挑戦状
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澄んだ青空の下、草原を爽やかな風が駆け抜ける。そんな場所にポツンと小さな扉が浮かんでいる。
「これどうなってるんだろ。扉しかないけど」
「さぁな。造りまでは知らん」
「メレディス、怒ってる?」
何故か先程からメレディスが不機嫌なのだ。俺がメレディスの事を好きだと勘違いされるまでは元々こんな感じだったので、普通と言われれば普通だが。
「陛下から命が下った」
「まさか俺を連れ戻すように?」
メレディスは首を横に振った。
「人間界の侵略を進めるから有給休暇はそれが終わってからだそうだ」
「侵略って、やっぱ俺のせい?」
「汝のせいではないが……きっかけはそうだろうな」
「はぁ……どうしよ」
俯いていると、メレディスが頭をクシャッと撫でてきた。
「元々人間界への侵略の話は上がっていたんだ。それが少々早まっただのこと。気にするな」
「だけど……」
「ッたく、そんなんじゃ陛下を倒す前に他の奴にやられてしまうぞ」
「そうだけど、メレディスも敵になっちゃうんでしょ?」
一日……いや、眠っていた時間を含めれば三日間行動を共にしたので、敵ながら味方意識が芽生えつつある。
俺の心配をよそにメレディスは当たり前のように言った。
「そんな訳ないだろう。王より嫁が大事に決まっている」
そんな様なことは道中何度も言われたが、メレディス自身がいつも口にしているではないか。『王命には逆らえない』と。
「悪魔を始め魔族はな、強い者に付き従うのだ。私が王より嫁の方が強いと思えば、王との契約は無効になる」
「じゃあ……」
「だが、本当に汝が強ければの話だ。本能で強いと思わせなければならない」
「出来るかな」
「出来なければ私と共に二人で逃げれば良い」
メレディスと交友関係を築くことが出来たら良いとは思うが、正直駆け落ちはしたくない。
「俺、逃げずに頑張るよ。人間界守りたいし」
「責任感の強い嫁だな。さぁ、早く行くぞ。また追手が来ては面倒だ」
「そうだね」
ドアノブに手をかけようとしたその時——。
「別れの挨拶は済んだか?」
「この声は……」
「陛下、何故ここに?」
いつの間にか魔王がいた。
急いで扉を開けて人間界に行くことも可能だが、行った所で……だ。容易く捕まるのがオチだ。
今は聖剣も手に入れて、魔力も充分に温存されている。俺は意を決して聖剣に手を伸ばした。
「そこからは一人で帰れるだろう?」
「え……?」
メレディスも呆気に取られている。
「陛下、ペットにするのは諦めたのですか?」
「このまま捕らえることは容易いが、また逃げだすだろう? それならいっそ、此奴自らが我の元に来たいと思わせる方が良いかと思ってな」
「俺が自ら?」
「これから人間界の侵略を開始していく予定なのは聞いただろう? それを阻止してみろ。勇者なのだろう」
魔王は挑発する様に笑い、続けた。
「自分のせいで死んでいく人間を目の前に、果たして汝は正気でいられるか? 我の元に泣いて縋り付けば、即刻侵略は中止してやる」
悪趣味過ぎる。人の命を何だと思っているのだ。怒りを露わにしていると、魔王は俺の前に来て一通の手紙を手渡してきた。
「これは?」
「恋文だ」
俺は手紙をハラリと落とした。
「冗談だ。侵略する場所と日付けを細かく記してやった」
俺は急いで手紙を拾い直した。
「優しいだろう? これで知らない所で人間が死ぬなんてことはない。人間が死ねば確実に全て汝の責任だ」
封を開けて中を確認すると、魔王の言った通り丁寧に地名や日時が詳細に書き記されていた。
「と、いう訳だ。今すぐに降参して我の元に来ても良いのだぞ」
うっとりとした顔で魔王に見られ一歩後ずされば、メレディスが俺を庇う様に俺と魔王の間に入った。
「陛下、オリヴァーはまだ私の嫁です。そんな目で見るのはおやめ下さい」
「良いではないか。いずれ我の嫁になるのだ」
「お言葉ですが、魔王女殿下の教育担当を一度見直しては如何でしょう。光魔法に対抗する術さえ身につければ、何も陛下が私の嫁に刻印を付けなくても宜しいのですから」
確かに。夫婦の刻印をメレディスのものから魔王のものに変えるというのも、そもそもグレースが光魔法に耐え得る力を持っていないからだ。
「人間の寿命は短い。それまでにグレースが習得出来ると思うか?」
「それは……」
メレディスは言葉を詰まらせた。つまり、無理なのだろう。
「オリヴァー、何が何でも人間界を守り抜くのだぞ。私達の愛を引き裂く悪魔の元になど行くなよ」
「う、うん……」
「メレディス、貴様は王に歯向かう気か? 王と嫁どちらが大事なのだ」
「嫁に決まっているでしょう」
——暫く魔王とメレディスの言い合いは続き、初めの緊張感はなくなっていた。
「よし、メレディス。そろそろ城に戻るぞ」
「いえ、私は嫁を仲間の元まで送り届けます」
「そんなこと言って、人間界に居座るつもりか? 翼を失ったまま人間界に行けば自力で帰って来られんだろう」
「チッ」
メレディスが舌打ちした。本気で人間界に居座るつもりだったようだ。
「夫婦が離れ離れとは辛いな」
「う、うん……そうだね」
「この扉をくぐれば人間界だ。ただ、迷宮になっているから転移で仲間の元に帰るんだぞ」
「ありがとう」
メレディスに礼を言って、人間界へと続く扉を開けた——。
「これどうなってるんだろ。扉しかないけど」
「さぁな。造りまでは知らん」
「メレディス、怒ってる?」
何故か先程からメレディスが不機嫌なのだ。俺がメレディスの事を好きだと勘違いされるまでは元々こんな感じだったので、普通と言われれば普通だが。
「陛下から命が下った」
「まさか俺を連れ戻すように?」
メレディスは首を横に振った。
「人間界の侵略を進めるから有給休暇はそれが終わってからだそうだ」
「侵略って、やっぱ俺のせい?」
「汝のせいではないが……きっかけはそうだろうな」
「はぁ……どうしよ」
俯いていると、メレディスが頭をクシャッと撫でてきた。
「元々人間界への侵略の話は上がっていたんだ。それが少々早まっただのこと。気にするな」
「だけど……」
「ッたく、そんなんじゃ陛下を倒す前に他の奴にやられてしまうぞ」
「そうだけど、メレディスも敵になっちゃうんでしょ?」
一日……いや、眠っていた時間を含めれば三日間行動を共にしたので、敵ながら味方意識が芽生えつつある。
俺の心配をよそにメレディスは当たり前のように言った。
「そんな訳ないだろう。王より嫁が大事に決まっている」
そんな様なことは道中何度も言われたが、メレディス自身がいつも口にしているではないか。『王命には逆らえない』と。
「悪魔を始め魔族はな、強い者に付き従うのだ。私が王より嫁の方が強いと思えば、王との契約は無効になる」
「じゃあ……」
「だが、本当に汝が強ければの話だ。本能で強いと思わせなければならない」
「出来るかな」
「出来なければ私と共に二人で逃げれば良い」
メレディスと交友関係を築くことが出来たら良いとは思うが、正直駆け落ちはしたくない。
「俺、逃げずに頑張るよ。人間界守りたいし」
「責任感の強い嫁だな。さぁ、早く行くぞ。また追手が来ては面倒だ」
「そうだね」
ドアノブに手をかけようとしたその時——。
「別れの挨拶は済んだか?」
「この声は……」
「陛下、何故ここに?」
いつの間にか魔王がいた。
急いで扉を開けて人間界に行くことも可能だが、行った所で……だ。容易く捕まるのがオチだ。
今は聖剣も手に入れて、魔力も充分に温存されている。俺は意を決して聖剣に手を伸ばした。
「そこからは一人で帰れるだろう?」
「え……?」
メレディスも呆気に取られている。
「陛下、ペットにするのは諦めたのですか?」
「このまま捕らえることは容易いが、また逃げだすだろう? それならいっそ、此奴自らが我の元に来たいと思わせる方が良いかと思ってな」
「俺が自ら?」
「これから人間界の侵略を開始していく予定なのは聞いただろう? それを阻止してみろ。勇者なのだろう」
魔王は挑発する様に笑い、続けた。
「自分のせいで死んでいく人間を目の前に、果たして汝は正気でいられるか? 我の元に泣いて縋り付けば、即刻侵略は中止してやる」
悪趣味過ぎる。人の命を何だと思っているのだ。怒りを露わにしていると、魔王は俺の前に来て一通の手紙を手渡してきた。
「これは?」
「恋文だ」
俺は手紙をハラリと落とした。
「冗談だ。侵略する場所と日付けを細かく記してやった」
俺は急いで手紙を拾い直した。
「優しいだろう? これで知らない所で人間が死ぬなんてことはない。人間が死ねば確実に全て汝の責任だ」
封を開けて中を確認すると、魔王の言った通り丁寧に地名や日時が詳細に書き記されていた。
「と、いう訳だ。今すぐに降参して我の元に来ても良いのだぞ」
うっとりとした顔で魔王に見られ一歩後ずされば、メレディスが俺を庇う様に俺と魔王の間に入った。
「陛下、オリヴァーはまだ私の嫁です。そんな目で見るのはおやめ下さい」
「良いではないか。いずれ我の嫁になるのだ」
「お言葉ですが、魔王女殿下の教育担当を一度見直しては如何でしょう。光魔法に対抗する術さえ身につければ、何も陛下が私の嫁に刻印を付けなくても宜しいのですから」
確かに。夫婦の刻印をメレディスのものから魔王のものに変えるというのも、そもそもグレースが光魔法に耐え得る力を持っていないからだ。
「人間の寿命は短い。それまでにグレースが習得出来ると思うか?」
「それは……」
メレディスは言葉を詰まらせた。つまり、無理なのだろう。
「オリヴァー、何が何でも人間界を守り抜くのだぞ。私達の愛を引き裂く悪魔の元になど行くなよ」
「う、うん……」
「メレディス、貴様は王に歯向かう気か? 王と嫁どちらが大事なのだ」
「嫁に決まっているでしょう」
——暫く魔王とメレディスの言い合いは続き、初めの緊張感はなくなっていた。
「よし、メレディス。そろそろ城に戻るぞ」
「いえ、私は嫁を仲間の元まで送り届けます」
「そんなこと言って、人間界に居座るつもりか? 翼を失ったまま人間界に行けば自力で帰って来られんだろう」
「チッ」
メレディスが舌打ちした。本気で人間界に居座るつもりだったようだ。
「夫婦が離れ離れとは辛いな」
「う、うん……そうだね」
「この扉をくぐれば人間界だ。ただ、迷宮になっているから転移で仲間の元に帰るんだぞ」
「ありがとう」
メレディスに礼を言って、人間界へと続く扉を開けた——。
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