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第五章 決戦の時
決戦の幕開け
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「ここは?」
まるで荒野のような大地には、大きな柱のような岩がいくつか聳え立っている。そんな不思議な場所に私達七人は立っている。
「やや魔界よりの人間界と魔界の境だ。森だと焼けるし、荒野だと隠れる場所がないからな。ここは最適だ」
周りの環境まで配慮して戦場を選ぶとは、さすが平和主義の魔王だ。本来ならこの戦いも望んでいなかった。
「魔王様、早く終わらせようね。今日はカレーだよ」
「おう、やる気が湧いてくるな」
緊張した面持ちで立っていると、古竜のショコラが本来の姿で上空を旋回している。そして、ショコラが私の真上の方にピタリと止まると、何かが落ちてきた。
「え、何、何?」
慌てながらその何かをキャッチした。
「猫?」
その首についている鈴には見覚えがあった。間違いない、この猫はコリンが離島で守っているクリフだ。
ショコラが私の横に降り立って翼を閉じた。頭を下げてきたので、私はショコラの頭を撫でながら聞いた。
「どうして、クリフが?」
「コリンに頼まれてたんだ。『僕に何かあったらクリフを美羽に預けて』って」
「え……それって」
私は顔が青ざめた。そして後悔が一気に押し寄せてきた。コリンをシャーロットの元へ行かせるべきではなかった、と。
「美羽、安心して。最悪の事態は避けられてるよ。コリンは惚れ薬をかけられただけ」
「本当に? 怪我とか命に関わることはないの?」
「うん。惚れ薬を奪おうとしたけど、失敗したみたい。ついでに他の人達の惚れ薬の効果も切れかかってるのに気付かれて、ブラッド含めて全員がかけられたよ」
「え、ブラッドも?」
「ちょっと前からシャーロットに不信感があったらしいけど、田中を攫った時に確信に変わったらしい」
小夜が話に加わってきた。
「いい気味ね。これで惚れ薬が無かったら誰もシャーロットに付き従わないね」
「うん。惚れ薬も全部使い切っちゃったみたいだし、来月辺りにはみんな正気に戻るんじゃないかな」
それを聞いて私は安堵した。いつまでもシャーロットの操り人形はあまりにも可哀想すぎる。
「ですが、どんな形であれ今は逆ハールート攻略であちらは最強ですわ。気を引き締めていきますわよ」
「そうだね」
そんなことを話していると、砂ぼこりの向こうからゆっくりと歩いてくる人々が見えた。その姿は徐々に大きくなり、私たちと十メートルくらいの距離を開けて立ち止まった。
「ミウ? それにあなた達がなんでここに? 魔王はどうしたの?」
シャーロットの問いに小夜が応えた。
「一週間後にって言ったでしょ。魔王様とレイラちゃんもここにちゃんといるじゃない」
「この顔の良い男はどこかで見たような……どこだったかしら。でもまさか魔王がこんなに顔が良いなんて。攻略対象以上ね」
シャーロットは何やらぶつぶつ呟いているが少し距離があるので聞こえない。シャーロットの隣でレイラの姿を確認したサイラスが怪訝そうに聞いてきた。
「レイラ、何故魔王の横に堂々と立っている? 魔王に捕まったのではないのか? シャーロットどういうことだ」
「私にも訳が分からないわ」
「わたくしは捕まってなどおりませんわ! わたくしはシャーロットに陥れられ、こちらにいる魔王様に助けて頂いたまでですわ」
「まだそんなことを言っているのか。シャーロットはお前に酷い目に遭わされたのだ。それは紛れもない事実だろ」
サイラスが高圧的になってきたので、私は兄妹設定を利用することにしようと思い、声を上げた。
「おにいちゃん!」
「「なに?」」
私が呼ぶと、本物の兄まで返事をしてきた。ややこしい。
「ごめん。お兄ちゃんじゃなくて、こっちのおにいちゃん」
兄にはサイラスとの兄妹設定については説明済みだが、目の当たりすると不愉快なようだ。顔全体にそれが見てとれる。
「おにいちゃん、レイラは嘘吐いてないよ。嘘吐きはシャーロットの方」
「では僕は罪のない人を……? いや、そんなはずは……」
サイラスは混乱しているようで、戸惑いを隠せないでいる。そんなサイラスに畳み掛けるように言った。
「だからね、レイラの罪を取り消して、シャーロットを断罪するなら、この不毛な戦いをしなくて良いんだよ」
「では、しっかり再調査をしてから……」
「サイラス、何を言ってるの? あたしが正しいに決まってるでしょ。あんたもなんて変な攻略の仕方してくれちゃってんの? これじゃ薬の効果が半減じゃない」
いや、そんなこと言われても……。兄妹ごっこを始めたのはサイラスだ。あくまでも私からではない。
「まぁ良いわ。あたしがお願いすれば聞いてくれるんだから。さぁ、五人とも魔王とその取り巻きを倒しなさい」
シャーロットが命令すればサイラス、アレックス、セドリック、ブラッド、コリンの五人は一斉に臨戦態勢を取り、それぞれが斬りかかってきたり、詠唱をし始めた。
魔王はサイラスの剣を受け止めながら真剣な面持ちで私を呼んだ。
「美羽」
「どうしたの?」
「名乗りはいつすれば良いんだ?」
戦いの真っ最中、どんな深刻な話をされるのかと思いきや悩み事がしょうもない。しょうもなさすぎて思わずズッコケそうになったではないか。
「名乗りはもう忘れて、戦いに集中集中!」
私はそれだけ伝えて、後方の皆の戦いが見渡せる高台へ移動した。
こうして話し合いでの解決はできず、シャーロット率いる攻略対象達と、魔王とその愉快な仲間達による戦いの火蓋が落とされた。
まるで荒野のような大地には、大きな柱のような岩がいくつか聳え立っている。そんな不思議な場所に私達七人は立っている。
「やや魔界よりの人間界と魔界の境だ。森だと焼けるし、荒野だと隠れる場所がないからな。ここは最適だ」
周りの環境まで配慮して戦場を選ぶとは、さすが平和主義の魔王だ。本来ならこの戦いも望んでいなかった。
「魔王様、早く終わらせようね。今日はカレーだよ」
「おう、やる気が湧いてくるな」
緊張した面持ちで立っていると、古竜のショコラが本来の姿で上空を旋回している。そして、ショコラが私の真上の方にピタリと止まると、何かが落ちてきた。
「え、何、何?」
慌てながらその何かをキャッチした。
「猫?」
その首についている鈴には見覚えがあった。間違いない、この猫はコリンが離島で守っているクリフだ。
ショコラが私の横に降り立って翼を閉じた。頭を下げてきたので、私はショコラの頭を撫でながら聞いた。
「どうして、クリフが?」
「コリンに頼まれてたんだ。『僕に何かあったらクリフを美羽に預けて』って」
「え……それって」
私は顔が青ざめた。そして後悔が一気に押し寄せてきた。コリンをシャーロットの元へ行かせるべきではなかった、と。
「美羽、安心して。最悪の事態は避けられてるよ。コリンは惚れ薬をかけられただけ」
「本当に? 怪我とか命に関わることはないの?」
「うん。惚れ薬を奪おうとしたけど、失敗したみたい。ついでに他の人達の惚れ薬の効果も切れかかってるのに気付かれて、ブラッド含めて全員がかけられたよ」
「え、ブラッドも?」
「ちょっと前からシャーロットに不信感があったらしいけど、田中を攫った時に確信に変わったらしい」
小夜が話に加わってきた。
「いい気味ね。これで惚れ薬が無かったら誰もシャーロットに付き従わないね」
「うん。惚れ薬も全部使い切っちゃったみたいだし、来月辺りにはみんな正気に戻るんじゃないかな」
それを聞いて私は安堵した。いつまでもシャーロットの操り人形はあまりにも可哀想すぎる。
「ですが、どんな形であれ今は逆ハールート攻略であちらは最強ですわ。気を引き締めていきますわよ」
「そうだね」
そんなことを話していると、砂ぼこりの向こうからゆっくりと歩いてくる人々が見えた。その姿は徐々に大きくなり、私たちと十メートルくらいの距離を開けて立ち止まった。
「ミウ? それにあなた達がなんでここに? 魔王はどうしたの?」
シャーロットの問いに小夜が応えた。
「一週間後にって言ったでしょ。魔王様とレイラちゃんもここにちゃんといるじゃない」
「この顔の良い男はどこかで見たような……どこだったかしら。でもまさか魔王がこんなに顔が良いなんて。攻略対象以上ね」
シャーロットは何やらぶつぶつ呟いているが少し距離があるので聞こえない。シャーロットの隣でレイラの姿を確認したサイラスが怪訝そうに聞いてきた。
「レイラ、何故魔王の横に堂々と立っている? 魔王に捕まったのではないのか? シャーロットどういうことだ」
「私にも訳が分からないわ」
「わたくしは捕まってなどおりませんわ! わたくしはシャーロットに陥れられ、こちらにいる魔王様に助けて頂いたまでですわ」
「まだそんなことを言っているのか。シャーロットはお前に酷い目に遭わされたのだ。それは紛れもない事実だろ」
サイラスが高圧的になってきたので、私は兄妹設定を利用することにしようと思い、声を上げた。
「おにいちゃん!」
「「なに?」」
私が呼ぶと、本物の兄まで返事をしてきた。ややこしい。
「ごめん。お兄ちゃんじゃなくて、こっちのおにいちゃん」
兄にはサイラスとの兄妹設定については説明済みだが、目の当たりすると不愉快なようだ。顔全体にそれが見てとれる。
「おにいちゃん、レイラは嘘吐いてないよ。嘘吐きはシャーロットの方」
「では僕は罪のない人を……? いや、そんなはずは……」
サイラスは混乱しているようで、戸惑いを隠せないでいる。そんなサイラスに畳み掛けるように言った。
「だからね、レイラの罪を取り消して、シャーロットを断罪するなら、この不毛な戦いをしなくて良いんだよ」
「では、しっかり再調査をしてから……」
「サイラス、何を言ってるの? あたしが正しいに決まってるでしょ。あんたもなんて変な攻略の仕方してくれちゃってんの? これじゃ薬の効果が半減じゃない」
いや、そんなこと言われても……。兄妹ごっこを始めたのはサイラスだ。あくまでも私からではない。
「まぁ良いわ。あたしがお願いすれば聞いてくれるんだから。さぁ、五人とも魔王とその取り巻きを倒しなさい」
シャーロットが命令すればサイラス、アレックス、セドリック、ブラッド、コリンの五人は一斉に臨戦態勢を取り、それぞれが斬りかかってきたり、詠唱をし始めた。
魔王はサイラスの剣を受け止めながら真剣な面持ちで私を呼んだ。
「美羽」
「どうしたの?」
「名乗りはいつすれば良いんだ?」
戦いの真っ最中、どんな深刻な話をされるのかと思いきや悩み事がしょうもない。しょうもなさすぎて思わずズッコケそうになったではないか。
「名乗りはもう忘れて、戦いに集中集中!」
私はそれだけ伝えて、後方の皆の戦いが見渡せる高台へ移動した。
こうして話し合いでの解決はできず、シャーロット率いる攻略対象達と、魔王とその愉快な仲間達による戦いの火蓋が落とされた。
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