隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵

文字の大きさ
21 / 31
第二章

第21話 僕の恋敵

しおりを挟む
 どうしよう。

 琥太郎のお見合い相手が隣に住んでいる。

 立花先輩は、真っ黒の前髪をきっちり七三に分けて、すらっとした細身の肢体に黒縁メガネが印象的のインテリ系男子。琥太郎の一つ上。つまり、僕の三つも年上だ。

 僕の知っている琥太郎の元カレとは似ても似つかない相手ではあるが、どっからどう見ても僕よりイケメンだ。出来る男感も半端ない。

 ガチャッ。

「ただいま」

 軽トラを返しに行っていた琥太郎が帰ってきた。

「あ、お、お帰りなさい」

 僕は無理矢理笑顔を作って出迎える。

「あれ? もうこんなに片付いたの?」
「え?」

 辺りを見渡せば、十個はあったダンボール箱が残り二つになっていた。自分でも驚きだ。

「智、もしかして……」

 琥太郎がジト目で見てくる中、僕の目は泳ぐ。

「な、何でしょう」

 やましいことはしていないが、琥太郎にだけは、薫のことを知らせたくないと思ってしまう。

「そんなに朝の続きやりたかったんだ」
「朝の……」

 思わず、巻いてあるタオルの上から首元を触る。

 琥太郎のキス、そして琥太郎の温もりを思い出し、顔が火照る。

「や、やりたいのは琥太郎さんでしょ」
「うん。すっごくやりたい」

 感心する程に清々しい返事。僕も、こんなに素直になれたら楽だろうなと思う。

 琥太郎が絡みついてくる中、インターフォンがなった。

 ピンポーン。

「僕、見てきます」
「また邪魔が入ったね」

 残念そうにする琥太郎から抜け出し、僕はインターフォンのカメラの映像を見た。

 今回のアパートは、カメラ付きインターフォンなので、来客者の顔が事前に見られて有難い。が、来客者が有難くない。

「…………」

 僕は出るのを躊躇った。
 そこには、さっき挨拶に行ったばかりの立花先輩の姿があるのだ。

「智、誰だった?」

 琥太郎がインターフォンのカメラの映像を覗き込もうとするので、背で隠す。

「えっと、子供みたいです。このアパート、ファミリー層多いみたいですよ」
「へぇ。ちょっと揶揄って来よっかな」

 琥太郎が悪戯に笑って言うので、僕は焦って言った。

「入居早々、怖がらせちゃダメですよ。僕が見てくるので、琥太郎さんは、先にお風呂入っちゃって下さい」
「先にお風呂……何だか新婚さんみたいだね」

 琥太郎は、その響きが良かったようで、上機嫌に風呂場に向かった。

「はぁ……」

 僕は、溜め息混じりに玄関に向かった——。

「はい。何でしょう?」

 玄関からヒョコっと顔だけ出せば、やはり立花先輩の姿。一度目を瞑って開いて見ても、立花先輩に間違いない。他人のそら似だと言ってくれ。そう、切に願う。

「これなんだが」

 立花先輩が、何やら袋を差し出してきた。

「これは?」
「実家から沢山送られてきて、余ってるんだ。良かったら使わないか?」

 中身を見れば、沢山の入浴剤が入っていた。

「貰っても良いんですか?」
「実家が温泉旅館を営んでいるんだ。そこの温泉成分が入ってる」
「へぇ。頂きます」

 琥太郎とお見合いするくらいだ。大きな旅館なのだろう。

 礼を言って扉を閉めようとすれば、部屋の奥から琥太郎の声が聞こえてきた。

「智。シャンプーどこ?」
「お風呂の前の引き出しに入ってます!」

 後ろを振り返って、やや大きな声で返事をすれば、すぐに見つかったようだ。

「あ、あった。ありがとー」

 琥太郎が返事をした後、シャワーの音が聞こえてきた。ひとまず安堵する。

 前に向き直れば、今度は立花先輩が中を気にした様子で言った。

「他にも誰か一緒に?」
「え、あ、はい。大学の先輩と」

 彼氏……と言ってみたかったが、ちょっと恥ずかしい。

「じゃあ、ボクと同じ大学か」
「え?」

 何故同じ大学だと知っているのだろうか。

「えっと、立花さんって僕のこと知ってるんですか……?」
「いや、初対面だ」
「じゃあ、何で?」

 疑問に思っていると、立花先輩が僕の首元を指差した。

「あー、これ」

 大学の入学式で配られた、デザイン部のオリジナルタオル。それを首に巻いていたのを忘れていた。

 タオルを外そうと思ったが、ここには無数のキスマークがついている。タオルを取るわけにはいかない。

「えっと、大学でも宜しくお願いしますね。僕、ボランティアサークル入ってないので、接点はないかもですが……」
「ボランティアサークル? 君こそボクを知っているのか?」
「えっと」

 誤魔化してもしょうがないか。琥太郎と会わせなければ良いだけだし。

「実は、テレビで観て。立花先輩の志や、人を慈しむ心に惹かれまして……つまり、何が申し上げたいかと言いますと、格好良いなって」
「桐原君。もしかして、君がボクの隣に引っ越してきたのも……?」
「いや、まあ、憧れは憧れですけど。それじゃ、ただのストーカーじゃないですか」

 それに、今となっては憧れよりも嫉妬の対象だ。出来れば会いたくない。けれど、そんなことを言えるはずもない。

「偶然ですよ」

 本当の事を言えば、立花先輩は後ろを向き、小さな声でブツブツと呟き始めた。

「偶然憧れの先輩が隣の部屋に……これは運命なのでは? もしかして、ここから恋が発展したりなんかしちゃったり? それに、まだ純粋そうだから、ボク好みに調教できそうだし……」

 声が小さすぎて何を言っているのか分からない。そして、早く部屋に戻りたい。

「立花先輩」

 小さな声で呼べば、立花先輩はハッと我に返ったようだ。こちらに向き直り、メガネをクイッと押し上げて言った。

「失礼。男同士は、どう思う?」
「は?」
「男同士の恋愛についてだ」

 初対面の相手に何を言っているのか。

「まぁ、僕は良いと思いますよ」

 自分が今正に男性とお付き合いしているので、あれこれ言える立場ではない。

「結婚まで視野に入れて考えられるか?」
「結婚……ですか?」
「無論、法律上は無理だが、事実婚のような二人ないし家族間で取り交わす約束にはなるがな」
「うーん……好きなら一生そばにいたいですかね」

 琥太郎のことを想えば、つい頬が緩んだ。
 つられたのか、立花先輩の口角も上がった。

「やはり、これは運命だな」
「運命……?」
「ボクは、明日、見合いをするんだ」

 うん、知ってる。

 けれど、初めて聞いたリアクションを取らないと。少し驚いたように。

「へ、へぇ。そうなんですね」
「こんな中途半端な状態では、君も不安になるだろ」
「……?」
「きっちり清算してから、また来る」

 もう来ないで……と、内心思いながら、心にもないことを言う。

「楽しみにしていますね」
「ボクも楽しみだ」

 立花先輩に微笑みかけられた。しかも長い。
 ニコニコ光線を浴びながら、沈黙が続く。

 ニコニコからニヤニヤに変わり、何やら立花先輩の中で妄想が繰り広げられているような気がして怖くなってくる。

「えっと、入浴剤。ありがたく頂きます」

 僕は、ぺこぺこ頭を下げてから、逃げるように部屋に戻って扉を閉めた——。

「はぁ……心臓に悪い」

 もう来ませんように……と、願いながら入浴剤を洗面台の下に片付けに行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】きみが揺らす恋凪

藤吉とわ
BL
高校一年生の初山 瀬凪(はつやま せな)は毎年夏季限定で叔父夫婦が経営する売店で手伝いをしている。 去年は受験勉強でバイトが出来なかったため、今年は初日から気合いを入れて出勤するとバイト先に同じ高校の一軍男子・帆谷 大翔(ほたに ひろと)の姿があって瀬凪は驚く。 ほとんど話したことがない上に一軍男子を苦手としているのに一緒に働くことになり、それでも仕事と割り切って過ごしている内に瀬凪が隠してきた秘密を大翔に知られてしまう。 更には大翔から「俺の秘密も教えるから、秘密の交換をしよう」と持ち掛けられ——。 背中を押してくれたのは、夏だった——。 顔面つよつよ一軍男子×恋に臆病な男子の青春BLです! 【攻め】帆谷 大翔(ほたに ひろと)高校一年生 16歳 身長182cm。一軍男子の中でも大人っぽくて落ち着いている。妹がいる。乗っているバイクはおじいちゃんのお下がり。 【受け】初山 瀬凪(はつやま せな)高校一年生 16歳 身長173cm。夏の一時期だけ叔父夫婦の元で泊まり込みのバイトをしている。バ先は海にほど近く迷子がしょっちゅうなので瀬凪も子供の対応はお手のもの。弟がいる。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

処理中です...