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第二章
第22話 恋敵からの告白
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翌朝。
髪の毛をワックスでまとめ、琥太郎は紺のスーツを身に纏っている。いつもの三割増し格好良い。
そんな格好良い琥太郎に、優しく頭をポンポンと撫でられた。
「智、そんな顔しなくても大丈夫だよ」
「でも……」
お見合いに行く恋人を笑顔でお見送りは出来ない。
そう、これから琥太郎は、隣に住む立花先輩とお見合いをするのだ。あれほど無視をすると言っていた琥太郎だが、無視できない状況になってしまったのだ。
昨晩、琥太郎の母から、大きな荷物と一通の手紙が届いた——。
【連帯保証人の書類出来たから、明日十時、お見合いの後に渡すわね。提出期限、明日までって聞いてるから、それで間に合うわよね】
という手紙と共に、スーツやら靴やらが一式送られて来たのだ。
流石、敏腕社長だ。やり方が汚……相手の痛いところをついて上手く交渉している。
「とりあえず、あのクソババアから書類だけ貰ってくる」
「でも、結局お見合いだけして連帯保証人やめる……なんてことはないですよね?」
そうなったら、僕らは路頭に迷う。
最悪、僕の親に頼めば書いてくれるとは思う。しかし、こっちは一からの説得になる。出来ることなら、このまま琥太郎の母親にお願いしたい。
僕の不安を軽減させようと、琥太郎が言った。
「大丈夫だよ。意地の悪い母親だけど、約束だけは守るから」
「そうなんですね」
「それに、お見合いだって、結局互いの気持ちが通じないと成立しないから」
互いの気持ちが通じちゃったらどうしよう……喉の所まで出かかったが、飲み込んだ。これ以上不安な気持ちを言葉にしたら、琥太郎が行けなくなる。
ここは、琥太郎を信じて待つしかない。
「琥太郎さん。今晩は、お祝いしましょ。同棲始めた記念」
「良いね。楽しみにしてる」
「じゃあ、待ってますね」
僕は、笑顔で見送った——。
◇◇◇◇
『待ってますね』
と言いながら、やはり気になる。気になりすぎて来てしまった。
これからお見合いが始まる、某有名一流ホテル。
「スーツなんて持ってないし、一番まともそうなの着てきたけど……場違いかも」
ホテルに入って行く人々と自分の服装を見て、アウェイ感が否めない。
そして、中に入る度胸がない。入り口付近をウロウロしていたら、ホテルマンに声をかけられた。
「お客様、どうかなさいましたか?」
「あ、えっと、その……知り合いが中で……」
もごもご言っていると、ホテルから見知った男性が出てきた。彼もまた、すぐに僕に気が付いた。
「あれ? 琥太郎の。こんな所で何してんの?」
琥太郎の元カレだ。
やはり、見た目はチャラチャラしており、僕とはまた違ったアウェイ感が漂っている。しかし、元カレさんは堂々としているせいか、それを払拭している。
ホテルマンも僕らが話を始めたので、静かに後ろに下がった。
「元カレさんは、ここで何を?」
「昨日ひっかけた女がさ、出張でここ泊まってたんだよ」
後は察しろと言った風に、元カレさんは話を切った。
「ん? 元カレさんって、ゲイなんじゃ……?」
「は? あれは若気の至りだ。オレは普通に女が好きだ」
「そうだったんですね」
妙にホッとする。
「で? お前は?」
「実は……中で琥太郎さんがお見合いしてまして————」
ことの経緯を説明すれば、元カレさんが来た道を戻りながら言った。
「じゃ、行ってみるか」
「え? 行くって?」
「琥太郎の様子見に来たんだろ? こんな所にいちゃ分かんねーだろ」
僕は、元カレさんに付いて自動ドアの中へと入った——。
◇◇◇◇
ホテルのカフェは、高級感漂うものの、客層は様々。こんな僕でも違和感なく座ることが出来た。
ただ、メニューは貧乏大学生には痛い部分があるので、ひとまず一番安いコーヒーを注文する。
「アイツの母ちゃん綺麗だよな」
「ですね」
意外と元カレさんとも普通に会話していたりする。
そして、肝心の琥太郎だが……。
窓を挟んだ向こうのテラスで、立花先輩と御対面中。琥太郎はスーツなのに対し、立花先輩は着物だ。そして、その二人は、非常に画になる。
「でも、やっぱアイツ。にこりともしてないぜ。大丈夫じゃね?」
元カレさんが、フルーツパフェを食べながら言った。
ここからは声が聞こえないので、表情を読み取るしかない。普段から柔らかい笑顔を見せる琥太郎が、無表情なのは何だか怖いが、今はそれが至極安心する。
対して、薫には時折笑みが見られる。しかし、それは正に作ったような笑顔。感情は無さそうに見える。
「こりゃ、あれだな。互いに親が勝手に持ってきた縁談だな」
そうだとありがたい。
「元カレさん……?」
「ほら、コーヒーばっかだと苦いだろ? 食え」
アイスと生クリームをスプーンで掬って、目の前に差し出された。
「いや、こんな所で……てか、間接キスになっちゃうし」
「お前は小学生か」
「なッ」
「それに、オレは琥太郎とチューしたし、お前だってしてんだろ? 自動的にオレらはもう間接キスしてる訳だ。問題ねーだろ」
その理屈は分からないが、少しだけ『確かに』と納得してしまった自分もいたりする。そして何より、小学生呼ばわりされたことにイラッとした。
僕は目の前のパフェをパクッと食べた。
「うまッ!」
「だろ? ほら、チョコアイスと苺なんて最高」
「ん! 本当だ」
その後にコーヒーでまったりと……。
「あれ? 琥太郎さんがいない」
さっきまで琥太郎が座っていた席に、琥太郎の姿はない。ついでに立花先輩や、双方の母親の姿もない。
キョロキョロと見渡していると——。
「智」
背後から琥太郎の怒りを孕んだ声が、静かに聞こえた。
「わ! こ、琥太郎さん!?」
「やばッ」
僕と元カレさんは、多分同じことを思ったはずだ。
「智くん。ご愁傷様」
「いや、元カレさん。訂正して下さいよ!」
そして、何故か立花先輩が話しかけてきた。
「二人は、付き合っているのか?」
「え? 僕と元カレさんですか? まさか。そんな訳ないじゃないですか! ね、元カレさん」
「おう。コイツとは言わば同士だな」
「そうか、良かった」
「良かった……?」
「本当は戻ってから言おうと思ったんだが、こんな所でも出会うなんて、やはりボクらは運命のようだ」
立花先輩が、僕の前で跪いた。
「え、ちょ……」
戸惑う僕に、そこに生けられた花を差し出された。
「ボクと結婚を前提にお付き合いして下さい」
「「「は?」」」
髪の毛をワックスでまとめ、琥太郎は紺のスーツを身に纏っている。いつもの三割増し格好良い。
そんな格好良い琥太郎に、優しく頭をポンポンと撫でられた。
「智、そんな顔しなくても大丈夫だよ」
「でも……」
お見合いに行く恋人を笑顔でお見送りは出来ない。
そう、これから琥太郎は、隣に住む立花先輩とお見合いをするのだ。あれほど無視をすると言っていた琥太郎だが、無視できない状況になってしまったのだ。
昨晩、琥太郎の母から、大きな荷物と一通の手紙が届いた——。
【連帯保証人の書類出来たから、明日十時、お見合いの後に渡すわね。提出期限、明日までって聞いてるから、それで間に合うわよね】
という手紙と共に、スーツやら靴やらが一式送られて来たのだ。
流石、敏腕社長だ。やり方が汚……相手の痛いところをついて上手く交渉している。
「とりあえず、あのクソババアから書類だけ貰ってくる」
「でも、結局お見合いだけして連帯保証人やめる……なんてことはないですよね?」
そうなったら、僕らは路頭に迷う。
最悪、僕の親に頼めば書いてくれるとは思う。しかし、こっちは一からの説得になる。出来ることなら、このまま琥太郎の母親にお願いしたい。
僕の不安を軽減させようと、琥太郎が言った。
「大丈夫だよ。意地の悪い母親だけど、約束だけは守るから」
「そうなんですね」
「それに、お見合いだって、結局互いの気持ちが通じないと成立しないから」
互いの気持ちが通じちゃったらどうしよう……喉の所まで出かかったが、飲み込んだ。これ以上不安な気持ちを言葉にしたら、琥太郎が行けなくなる。
ここは、琥太郎を信じて待つしかない。
「琥太郎さん。今晩は、お祝いしましょ。同棲始めた記念」
「良いね。楽しみにしてる」
「じゃあ、待ってますね」
僕は、笑顔で見送った——。
◇◇◇◇
『待ってますね』
と言いながら、やはり気になる。気になりすぎて来てしまった。
これからお見合いが始まる、某有名一流ホテル。
「スーツなんて持ってないし、一番まともそうなの着てきたけど……場違いかも」
ホテルに入って行く人々と自分の服装を見て、アウェイ感が否めない。
そして、中に入る度胸がない。入り口付近をウロウロしていたら、ホテルマンに声をかけられた。
「お客様、どうかなさいましたか?」
「あ、えっと、その……知り合いが中で……」
もごもご言っていると、ホテルから見知った男性が出てきた。彼もまた、すぐに僕に気が付いた。
「あれ? 琥太郎の。こんな所で何してんの?」
琥太郎の元カレだ。
やはり、見た目はチャラチャラしており、僕とはまた違ったアウェイ感が漂っている。しかし、元カレさんは堂々としているせいか、それを払拭している。
ホテルマンも僕らが話を始めたので、静かに後ろに下がった。
「元カレさんは、ここで何を?」
「昨日ひっかけた女がさ、出張でここ泊まってたんだよ」
後は察しろと言った風に、元カレさんは話を切った。
「ん? 元カレさんって、ゲイなんじゃ……?」
「は? あれは若気の至りだ。オレは普通に女が好きだ」
「そうだったんですね」
妙にホッとする。
「で? お前は?」
「実は……中で琥太郎さんがお見合いしてまして————」
ことの経緯を説明すれば、元カレさんが来た道を戻りながら言った。
「じゃ、行ってみるか」
「え? 行くって?」
「琥太郎の様子見に来たんだろ? こんな所にいちゃ分かんねーだろ」
僕は、元カレさんに付いて自動ドアの中へと入った——。
◇◇◇◇
ホテルのカフェは、高級感漂うものの、客層は様々。こんな僕でも違和感なく座ることが出来た。
ただ、メニューは貧乏大学生には痛い部分があるので、ひとまず一番安いコーヒーを注文する。
「アイツの母ちゃん綺麗だよな」
「ですね」
意外と元カレさんとも普通に会話していたりする。
そして、肝心の琥太郎だが……。
窓を挟んだ向こうのテラスで、立花先輩と御対面中。琥太郎はスーツなのに対し、立花先輩は着物だ。そして、その二人は、非常に画になる。
「でも、やっぱアイツ。にこりともしてないぜ。大丈夫じゃね?」
元カレさんが、フルーツパフェを食べながら言った。
ここからは声が聞こえないので、表情を読み取るしかない。普段から柔らかい笑顔を見せる琥太郎が、無表情なのは何だか怖いが、今はそれが至極安心する。
対して、薫には時折笑みが見られる。しかし、それは正に作ったような笑顔。感情は無さそうに見える。
「こりゃ、あれだな。互いに親が勝手に持ってきた縁談だな」
そうだとありがたい。
「元カレさん……?」
「ほら、コーヒーばっかだと苦いだろ? 食え」
アイスと生クリームをスプーンで掬って、目の前に差し出された。
「いや、こんな所で……てか、間接キスになっちゃうし」
「お前は小学生か」
「なッ」
「それに、オレは琥太郎とチューしたし、お前だってしてんだろ? 自動的にオレらはもう間接キスしてる訳だ。問題ねーだろ」
その理屈は分からないが、少しだけ『確かに』と納得してしまった自分もいたりする。そして何より、小学生呼ばわりされたことにイラッとした。
僕は目の前のパフェをパクッと食べた。
「うまッ!」
「だろ? ほら、チョコアイスと苺なんて最高」
「ん! 本当だ」
その後にコーヒーでまったりと……。
「あれ? 琥太郎さんがいない」
さっきまで琥太郎が座っていた席に、琥太郎の姿はない。ついでに立花先輩や、双方の母親の姿もない。
キョロキョロと見渡していると——。
「智」
背後から琥太郎の怒りを孕んだ声が、静かに聞こえた。
「わ! こ、琥太郎さん!?」
「やばッ」
僕と元カレさんは、多分同じことを思ったはずだ。
「智くん。ご愁傷様」
「いや、元カレさん。訂正して下さいよ!」
そして、何故か立花先輩が話しかけてきた。
「二人は、付き合っているのか?」
「え? 僕と元カレさんですか? まさか。そんな訳ないじゃないですか! ね、元カレさん」
「おう。コイツとは言わば同士だな」
「そうか、良かった」
「良かった……?」
「本当は戻ってから言おうと思ったんだが、こんな所でも出会うなんて、やはりボクらは運命のようだ」
立花先輩が、僕の前で跪いた。
「え、ちょ……」
戸惑う僕に、そこに生けられた花を差し出された。
「ボクと結婚を前提にお付き合いして下さい」
「「「は?」」」
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