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第二章
第23話 三角関係
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立花先輩に告白された。
同時に、心配していた悩みは無くなった。
「琥太郎さんと立花先輩の縁談が無くなって、安心しました」
ホッと胸を撫で下ろしながら、琥太郎と並んで歯を磨く。
洗面所が前のアパートよりも広いので、朝の準備も一緒に出来る。
鏡に映る僕らは、いつ見ても釣り合わないが、それでも琥太郎の隣にいる権利を与えられたのは僕なのだと思うと、ついついニヤけてしまう。
そんな僕を見て、琥太郎は口をゆすいでから、苛々した様子で言った。
「智、安心してる場合じゃないよね?」
「へ? 僕、今日は二限目からなので、全然余裕ですよ」
「はぁ…………」
深い深い溜め息を吐かれた。
琥太郎は、洗面台にもたれかかるようにして、腕を組みながら言った。
「何で言わなかったの?」
「何をですか?」
「立花薫、アイツが隣に住んでるの」
苛々した琥太郎の横の方から、控えめに歯ブラシを洗い、所定の位置に戻す。琥太郎に飛び散らないように気を付けながら口を濯ぎ、そのまま顔も洗う。
タオル……タオル……目を瞑りながら手探りしていると、琥太郎がタオルを僕の手中に収めてくれた。
何だか、その朝のやりとりにほっこりしてしまう。ほっこりした気持ちのまま、さっきの琥太郎の問いに対し、素直な気持ちを伝える。
「だって、お見合いする二人がお隣さんになったんですよ。それこそ運命だとか言って、琥太郎さんを取られるかと思ったから」
「智……」
苛々した雰囲気が一変、琥太郎は頬をピンクに染めて、何とも言えない表情をした。
ただ、それも一瞬。琥太郎は、苛々を前面に出しながら言った。
「それで? 智はアイツに好かれて、プロポーズまでされちゃって、どうすんの? 僕が好かれてたなら無視の一択で済むけどさ、こんな隙だらけの智だよ。いつの間にか、智の住む部屋が隣に移動してるよ?」
「隙だらけって……それに僕、ちゃんと『ごめんなさい』ってお断りしたので。問題ないです」
そう、僕はお断りしたのだ——。
『ボクと結婚を前提に、お付き合いして下さい』
立花先輩に言われ、すぐに言った。
『ごめんなさい』
ただ、そこで終わりかと思えば、立花先輩は、メガネを押し上げて言った。
『桐原君。君は偶然と言ったけど、こんな所でも会うなんて……運命の何者でもないよ』
『立花先輩』
見た目に似合わずロマンティックな人だ。
『でも僕。本当に立花先輩とは、お付き合い出来なくて……』
琥太郎の怒りの目が気になってしょうがない。琥太郎の方をチラチラ見ていたら、立花先輩は、何やら勘違いし始めた。
『ああ、そうか。こんな公衆の面前で照れているのだな』
『いえ、そりゃ恥ずかしいですけど。そうじゃなくって……』
『まぁ、時間はたっぷりある。ゆっくりと愛を育もう』
立花先輩は、僕の胸ポケットに一輪の花をさして去っていった——。
絶賛、モテ期到来だ。男に。
喜びたいところだが、素直に喜べないのが現状だ。
そうは言っても、僕はお断りしたのだ。これ以上どうこうはならない。
洗面所から出ようとすれば、通路側にいた琥太郎の長い足が、出入り口を塞ぐ。
「智。アイツが諦めてないのは分かってるよね?」
「ですけど、僕が断り続ければ良いだけですよね?」
「それは当たり前。でも、強行突破されたら? 家に連れ込まれて、押し倒されたら?」
「そんなヘマしませんよ」
「はぁ…………」
またまた深い溜め息を吐かれた。
そんなやり取りをした矢先の出来事だった——。
立花先輩に、玄関前の通路で抱きしめられたのは。
◇◇◇◇
「大丈夫か?」
「えっと……立花先輩、ありがとうございます」
実際には、抱きしめられた訳ではなく、僕が蹴躓いただけなのだが——。
玄関から出るなり、子供が走って来た。子供に引っかかって転びそうになったところ、たまたまそこにいた立花先輩に支えてもらったのだ。
ただ、最初は肩を持ってもらっただけな気がするのに、いつの間にか、立花先輩の手は僕の腰に回っているのだ。不思議だ。
そして、その光景を見た琥太郎は、額に青筋を浮かべている。
「智」
「こ、琥太郎さん。これは、その、違いますよ」
「智は、ヘマしないんじゃなかったの?」
「ごめんなさい……」
素直に謝るが、暫く機嫌は直らないだろう。
立花先輩が、そっと離れた。そして、汚れてもいないのに服をパッパッと払ってくれた。
「た、立花先輩。ありがとうございます」
「どういたしまして」
優しく微笑む姿は、正に神のよう。
って、見惚れている場合じゃなかった。
「琥太郎さん、行きましょう」
琥太郎を呼べば、琥太郎は不機嫌ながらも玄関の扉を閉めて鍵も閉めた。そして、立花先輩に言った。
「こう見えて俺ら、付き合ってますので。同棲してますので」
勝ち誇った顔で言えば、立花先輩は気にした素振りも見せずに言った。
「お前の素性は、見合い前に調べている。仮に今付き合っていたとしても、すぐ別れるのだろう」
「なッ、昔はそうだったかもしれないけど、今回は違うから。智は、俺のこと心から愛してくれてるから。ね、智」
「あ、は、はい……」
尻すぼみ気味に声が小さくなるのは許して欲しい。近くに子供がいるのだから。その親も。
「せ、先輩方。早く行きましょう」
僕は羞恥のあまり、二人の背中を押しながら学校へと向かった——。
同時に、心配していた悩みは無くなった。
「琥太郎さんと立花先輩の縁談が無くなって、安心しました」
ホッと胸を撫で下ろしながら、琥太郎と並んで歯を磨く。
洗面所が前のアパートよりも広いので、朝の準備も一緒に出来る。
鏡に映る僕らは、いつ見ても釣り合わないが、それでも琥太郎の隣にいる権利を与えられたのは僕なのだと思うと、ついついニヤけてしまう。
そんな僕を見て、琥太郎は口をゆすいでから、苛々した様子で言った。
「智、安心してる場合じゃないよね?」
「へ? 僕、今日は二限目からなので、全然余裕ですよ」
「はぁ…………」
深い深い溜め息を吐かれた。
琥太郎は、洗面台にもたれかかるようにして、腕を組みながら言った。
「何で言わなかったの?」
「何をですか?」
「立花薫、アイツが隣に住んでるの」
苛々した琥太郎の横の方から、控えめに歯ブラシを洗い、所定の位置に戻す。琥太郎に飛び散らないように気を付けながら口を濯ぎ、そのまま顔も洗う。
タオル……タオル……目を瞑りながら手探りしていると、琥太郎がタオルを僕の手中に収めてくれた。
何だか、その朝のやりとりにほっこりしてしまう。ほっこりした気持ちのまま、さっきの琥太郎の問いに対し、素直な気持ちを伝える。
「だって、お見合いする二人がお隣さんになったんですよ。それこそ運命だとか言って、琥太郎さんを取られるかと思ったから」
「智……」
苛々した雰囲気が一変、琥太郎は頬をピンクに染めて、何とも言えない表情をした。
ただ、それも一瞬。琥太郎は、苛々を前面に出しながら言った。
「それで? 智はアイツに好かれて、プロポーズまでされちゃって、どうすんの? 僕が好かれてたなら無視の一択で済むけどさ、こんな隙だらけの智だよ。いつの間にか、智の住む部屋が隣に移動してるよ?」
「隙だらけって……それに僕、ちゃんと『ごめんなさい』ってお断りしたので。問題ないです」
そう、僕はお断りしたのだ——。
『ボクと結婚を前提に、お付き合いして下さい』
立花先輩に言われ、すぐに言った。
『ごめんなさい』
ただ、そこで終わりかと思えば、立花先輩は、メガネを押し上げて言った。
『桐原君。君は偶然と言ったけど、こんな所でも会うなんて……運命の何者でもないよ』
『立花先輩』
見た目に似合わずロマンティックな人だ。
『でも僕。本当に立花先輩とは、お付き合い出来なくて……』
琥太郎の怒りの目が気になってしょうがない。琥太郎の方をチラチラ見ていたら、立花先輩は、何やら勘違いし始めた。
『ああ、そうか。こんな公衆の面前で照れているのだな』
『いえ、そりゃ恥ずかしいですけど。そうじゃなくって……』
『まぁ、時間はたっぷりある。ゆっくりと愛を育もう』
立花先輩は、僕の胸ポケットに一輪の花をさして去っていった——。
絶賛、モテ期到来だ。男に。
喜びたいところだが、素直に喜べないのが現状だ。
そうは言っても、僕はお断りしたのだ。これ以上どうこうはならない。
洗面所から出ようとすれば、通路側にいた琥太郎の長い足が、出入り口を塞ぐ。
「智。アイツが諦めてないのは分かってるよね?」
「ですけど、僕が断り続ければ良いだけですよね?」
「それは当たり前。でも、強行突破されたら? 家に連れ込まれて、押し倒されたら?」
「そんなヘマしませんよ」
「はぁ…………」
またまた深い溜め息を吐かれた。
そんなやり取りをした矢先の出来事だった——。
立花先輩に、玄関前の通路で抱きしめられたのは。
◇◇◇◇
「大丈夫か?」
「えっと……立花先輩、ありがとうございます」
実際には、抱きしめられた訳ではなく、僕が蹴躓いただけなのだが——。
玄関から出るなり、子供が走って来た。子供に引っかかって転びそうになったところ、たまたまそこにいた立花先輩に支えてもらったのだ。
ただ、最初は肩を持ってもらっただけな気がするのに、いつの間にか、立花先輩の手は僕の腰に回っているのだ。不思議だ。
そして、その光景を見た琥太郎は、額に青筋を浮かべている。
「智」
「こ、琥太郎さん。これは、その、違いますよ」
「智は、ヘマしないんじゃなかったの?」
「ごめんなさい……」
素直に謝るが、暫く機嫌は直らないだろう。
立花先輩が、そっと離れた。そして、汚れてもいないのに服をパッパッと払ってくれた。
「た、立花先輩。ありがとうございます」
「どういたしまして」
優しく微笑む姿は、正に神のよう。
って、見惚れている場合じゃなかった。
「琥太郎さん、行きましょう」
琥太郎を呼べば、琥太郎は不機嫌ながらも玄関の扉を閉めて鍵も閉めた。そして、立花先輩に言った。
「こう見えて俺ら、付き合ってますので。同棲してますので」
勝ち誇った顔で言えば、立花先輩は気にした素振りも見せずに言った。
「お前の素性は、見合い前に調べている。仮に今付き合っていたとしても、すぐ別れるのだろう」
「なッ、昔はそうだったかもしれないけど、今回は違うから。智は、俺のこと心から愛してくれてるから。ね、智」
「あ、は、はい……」
尻すぼみ気味に声が小さくなるのは許して欲しい。近くに子供がいるのだから。その親も。
「せ、先輩方。早く行きましょう」
僕は羞恥のあまり、二人の背中を押しながら学校へと向かった——。
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