陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵

文字の大きさ
13 / 36
第1章

第13話 可愛いって言わないで

しおりを挟む
 そして、修学旅行二日目の五稜郭タワーでは……。

「晴翔、危ない」

 蓮に肩をそっと抱き寄せられた。

「蓮……もう良いよ。キリがないって……」

 蓮と晴れて本物の恋人になり、貴重な自由行動を一緒に過ごせるのは嬉しい。非常に嬉しいのだが、蓮の過保護っぷりがエスカレートしている。

 子供達が走り回ったり、外を眺めるのに気を取られている観光客にぶつかりそうになる度に、肩を抱き寄せられる。ちなみに、今ので七度目だ。

 三崎が、函館の街並みを見下ろしながら他人事のように言った。

「良いじゃん。仲直り出来たんなら。なぁ、山田」
「ギスギスな修学旅行より全然良いぞ。何なら手でも繋いで歩いたら良いんじゃないか? 恋人同士なんだし」
「いや、さすがにそれは……」

 ちなみに、三崎らには、まだ蓮と本物の恋人になったことは伝えていない。言ったら、絶対面白がって俺と蓮を二人きりにしたり、何やら遊ばれそうな予感がする。だから、とりあえず今は内緒にしている。

「わぁ! 見て見て!」

 女性の感嘆の声が何処からともなく聞こえてくる。しかも、一人や二人じゃない。

 観光地だから、景色に対してだと思う者は多いだろう。しかし、俺は知っている。この声は——。

 俺は、蓮の手を握った。

「晴翔?」

 この沢山の女性の声は、皆、蓮を見ているのだ。蓮が格好良いから。

 蓮は俺の彼氏だ。そう、俺の彼氏。

 だから、見せつけて歩こうと思って手を繋いだ。そのまま堂々と五稜郭タワーを堪能——。

「蓮、トイレ付いてきて」

 つい、ひよってしまった。

「もちろん」

 蓮は満面の笑みで、手を握り返して来た。三崎と山田も初めこそ驚いていたが、納得したようだ。うんうんと頷きながら見送られた。

「また迷子になったら困るもんな」
「蓮、手離すなよー」

 これではまるで、恋人同士ではなく、蓮が俺の保護者だ。

 まぁ、それでも他人から見れば、俺の彼氏だと見えてくれることだろう。後ろを振り返って徒歩六歩くらいのトイレまでだが。

 その六歩を歩くと、蓮がトイレの入り口で立ち止まった。

「僕、ここで待ってるね」
「あー」

 普通は、そうだよな。

 でも、ここで待たれる方が、蓮を色んな人に下心ありありな目で見られてしまう。誰にも見せたくない。

 それに、ナンパでもされて蓮がそれに靡いたら……不安でしょうがない。

 俺は恥ずかしながら、俯き加減に蓮に言った。

「中まで一緒に付いて来て」
「晴翔」

 蓮が呆れている。顔は見えないが、多分呆れている。トイレも一人で行けない俺に呆れ返って、嫌われたらどうしよう。

 今までも嫌われたくないという思いはあった。しかし、蓮は俺以外の誰かを好きなのだと思っていたので、ここまでじゃなかった。

 知らない人達に嫉妬して、格好悪いところを蓮に見られて……俺は、どんどん格好悪くなってしまう。

「ごめん、やっぱ良い……」
「晴翔、ちょっと待ってて」
「え?」

 蓮は、三崎と山田の元に向かった。そして、何やら少し話した後に、戻って来た。

「晴翔、行こう」

 蓮に手を引かれ、歩き出す。

「蓮、トイレ……」
「晴翔は、別にトイレに行きたい訳じゃないんでしょ?」

 ニコッと笑う蓮は、全てを見透かしているのかもしれない。

「二人には、体調不良って言っておいたから」
「あ、ありがとう」

 思わず礼を言ったが、何故体調不良?

「戻んないの? ってか、何処行くの?」

 蓮に付いていけば、エレベーターで一番下の階に。

「流石にトイレはまずいかなって」
「何が?」
「二人きりでしたかったんでしょ?」
「何を?」
「晴翔、惚けるの上手いよね。僕に全部言わせる気?」

 ニヤリと笑う蓮は、立ち止まって耳打ちして来た。

「エッチなこと……したかったんでしょ?」
「は!?」

 思わず大きな声が出てしまった。が、観光客だらけで、辺りもざわついている。気にする者はいなかった。

 って、そんなのはどうでも良くて、今は蓮だ。

「流石に観光地のトイレ一つ占領するのもね……何処か良いとこないかなぁ」

 五稜郭タワーから出れば、その周辺を散策している生徒らの姿が見えた。

「バスに戻った方が良いかな? 運転手さんしかいないだろうし、最後までは出来ないけど、途中までなら」

 蓮は何を言っているんだ。

 最後? 途中?

 それは、バスの中で俺と蓮がイチャイチャ……?

 こんなの赤面しない方がおかしい。そして、焦る。

「れ、蓮! 違うから!」
「晴翔って、案外大胆なんだね」
「だから違うから! 俺はそういう意味で誘ったんじゃなくて……」
「じゃあ、どういう意味?」

 改めて聞かれると、これはこれで恥ずかしい。しかし、言わなければ。言わなければ、俺はこのまま蓮と……それはそれで嬉しかったり?

 ダメだ。優柔不断がここで出て来た。

「晴翔?」
「……蓮が格好良いから」

 照れたように小さな声で言った。

「蓮が格好良いから……蓮をイヤらしい目で見る知らない人達に嫉妬して、誰にも見せたくなくて……だから……」
 
 格好悪い。格好悪すぎる。

「晴翔」
「こんな俺、嫌……だよね?」

 完全に嫌われた。まだ二人でエッチなことをした方が嫌われなかったかもしれない。選択肢を間違えた。

 後悔していると、蓮が口元を片手で覆ってプルプルと震えていた。

「怒って……る? 見たかったよね。展望台からの景色」

 恐る恐る謝れば、蓮は首を横に振った。

「抱きしめて良い?」
「え?」
「ギュッてしたい。それからチュッてしたい」
「え、ここで!?」

 周りは人が沢山。

「ダメ、ダメダメダメ!」

 一歩引いて全否定すれば、蓮は軽く深呼吸をして心を落ち着かせた。いつもの蓮に戻った。流石だ。

「って、蓮。突然どうしたの?」
「いや、晴翔があまりにも可愛すぎて」

 可愛いと言われて、ややムッとする。

 昔から蓮は俺のことを『可愛い』と言ってくる。だから、陰キャながらに喋り方も変えてみた。少しでも男らしく見えるように。一人称も僕から俺に。

 けれど、効果はあまりないようだ。容姿をどうにかしないとダメなのだろう。

 ただ、今はそんなことより——。

「俺のこと嫌いになってない?」
「なる訳ないじゃん。むしろ好きが増えたよ」
「何で?」

 キョトンとして聞き返せば、頭をクシャッと撫でられた。

「そういうとこだよ」
「どういうとこだよ」
「ほら、まだ時間あるから、この返散策しよ」

 ————俺達の修学旅行は、まだまだ続く。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

人並みに嫉妬くらいします

米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け 高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...