引きこもり大豚令嬢は今日もマイペースに生きたい

嫉妬した女は…

 エリーゼ・ラッセンは、古くから伝わる子爵家の令嬢だったが、新しい時代の波に乗れず、経済的な面においての生活を維持できず、没落してしまった。

 代々続いてきた家系を自分の代で終わらせてしまったことに責任を感じ父と母は朝起きたら、首を括って自殺をしていた。

 一人娘のエリーゼは露頭に迷うことになった。これは6年ほど前の話だ。使用人がいなくなり、閑散とした屋敷を抜け出したエリーゼは食べる物も着る物も満足になく、スラム街をさまよっていた。

 何度強姦されそうになったことか。身ぐるみ一枚しかないドレスを追いはぎに剥がされそうになったか。ずっと温室育ちだったエリーゼには、平民……しかも貧困層が集う、王都路地裏のスラム街でクラスには過酷すぎた。

 そんなある日……。

 「なんや、お嬢さん。こんなとこで突っ伏して。食う物ないん？見た所、元貴族っぽいし。今従業員として働きたいと思う、教養ある子を探しててん。もし働き口がなかったら働かへん？」

 丁度、スラム街に拠点を構える傭兵集団との商談を終えたディナサンが、行き倒れたエリーゼを気の毒に思い、手を差し伸べた。

 ただでは助けないのは彼らしい。まるで救世主のような提案に、エリーゼは即座に手をとった。

 元々お洒落が好きで、流行に敏感なエリーゼはすぐにドラム商会に馴染んだ。

 次第に、ディナサンにい対して恋心を抱き、ついに念願に体の関係を持てた。

 やっと振り向いてもらえる第一歩を歩み始めたのに。……その矢先。リーゼロッテという邪魔な存在が現われた。

 6年かけて距離を縮めたのに、一瞬にして奪われたような感覚。否、リーゼロッテ自身はエリーゼより前に出会っていたのだが、それを知るのはディナサンと、本当に信用できる側近だけ。

 つまり、エリーゼは知らないのだ。
 さらに、巷で噂の大豚令嬢ともなれば、今まで努力を積み重ね、商会を大きくしたディナサンの障害になる。二重の意味でも邪魔な存在に。

 手っ取り早く、ディナサンから離れる口実をつけるべく、わかりやすい嫌がらせを繰り返した。

 ブルーベルに図星をつかれて、逆上したのが運の尽きと言わんばかりに。

 そうして、露頭に迷ったエリーゼは、これからどうすればいいのか。寒空の下、星々を見上げた。