世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜

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【幕間】神との邂逅

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最初は好奇心からだった。



魔法が存在する国に来て、聖女の役割を学んで、魔素浄化の魔法を行使した時に思った。



魔法を使うとき、周囲の魔素が消費するような感覚がした。



この違和感からだった。一度気になると調べずにはいられない性質なので、皇国に集まるありとあらゆる魔法や魔素に関する本を閲覧した。



けれど、納得する答えがなかった。



魔力とは魔法を行使する不思議な力。体に宿っており、実現不能な結果を生み出す能力。

対して魔素は身体に影響を与える毒であり、息とし生ける生命に存在する。空気中に魔素は含んでおり、量が増え、それにともない摂取量が増えると嘔吐や、頭痛など、体に異常をきたす。



回避する方法は聖女による魔素の浄化を行使する魔法、浄化の儀式しかないと、皇国の歴史書にも刻まれている。



けれど、じゃあ......魔法を行使する度に、大気中の魔素が消費されるのはなに?浄化されるのではなく、明らかに魔法を使う度に魔素が少なくなるのだ。



私は調べた。ありとあらゆる魔法を学び、その過程で魔法を解明した。新しい魔法も生み出した。



魔素とは何なのか。魔法を使っていくうちに感覚的に学び、それを言語化していく。そうしてたどり着いた。聖女に転生して4年目のことだった。



魔素とは毒ではない。魔力に必要な大源。魔力は身体に宿るのではなく、魔素を体の魔力回路が取り込み、魔力回路が魔素を持ち主が使いやすいように変換したものが魔力なのだ。



つまり、魔素がないと魔法は使えない。魔素がないと変換できる力がない。



そして、魔力の大源である魔素はどうして人体に影響を及ぼすのだろうか。これはすぐに答えがわかった。



それは魔力に耐性のない体が魔素に耐えられないからだ。魔素は段階を踏んで体に害がないように変換していく。それには魔力回路の存在が必要不可欠だった。



魔力回路とは人によってはないものもいる。魔素に対する中毒症状はほとんどは魔力回路のないもの、または不安定なものばかり。つまり、魔法が使えない人中心に発症してしまった。



さらに、子供は魔素の中毒症状は起きていない。ここから導き出されることは、生まれるときは誰でも魔力回路をもっており、成長の過程でなんらかが原因で魔力回路が失われるということ。


私たち異世界人はこちらの世界で召喚される時点で、魔力回路が存在するものらしいので、イレギュラーは事象は一旦後回しにして……。


そして、帝国の大人たちは魔力回路がないものが多い。だから魔素を定期的に浄化する必要がある。ただ、人体が影響がない程度の浄化には現状の技術や知識では難しい......。



これを知った時、一つの謎が解明できたという達成感を感じてしまった。人類史に衝撃が走る大発見ではなかろうか。けれどそれを公表することはなかった。



自己満足ですすめていた研究だし、これを知ったところで無駄に周囲をざわつかせるだけだと思ったから。そして何より私は自分が言葉足らずだと自覚しているので、この事実は胸にしまっておこうと思った。



けれど。知的好奇心は留まることを知らなかった。魔素や魔力の解明ができたなら、次は何をしようかと。



いつも浄化している魔素は魔力の元だ。人体に影響があるなら、逆に良い方向にもっていくことができないか?例えば中毒症状を逆手に取る方法や治療に応用......そして死者蘇生。



最初は自分で小さな傷から作り、魔法を使って治療を始める。わずかな傷がふさがった。では、次は大きな怪我は?死にそうなくらいの怪我ならば?



最初は自分を傷つけるだけで留まったが、死にそうな人を探しては、私は死者蘇生の研究を続けた。誰かを助けたいわけではない。ただの......自己満足でだ。



そうして......ついに、私は死者蘇生にたどり着いた。5年目に差し掛かる前の出来事だ。



............。



「ここは、どこ」

雲海が足元に広がる。肌に突き刺すような寒さを感じた後、肌じんわり広がる謎の暖かさが身を包む。なんとも不思議な感覚だった。



たしか、死者蘇生の術が完成した後......シルクの最高級ベッドで眠りについたはずだ。



なのに、どうして外に…...空の上になんかいるのか。



目の前に広がる黄金の地平線。足元の雲海。そして。黄金の地平線から神秘的な白い布に身を包む老若男女10人が集まった。



「聖女エミリア、貴様の知的好奇心が災いを呼び、世界の理を崩す魔法の深淵に至った。これは人類に対する冒涜だ。貴様の軽率な行動で文明がわずか5年で500年以上進んでしまうではないか」



真ん中にいた怖そうなおじいさんが指を突きつける。その表情には憤りが感じられ、心臓が跳ね上がるくらい怖かった。おじいさんを制するように、目じりが垂れたおっとり系のお姉さんが言葉を続けた。物腰は柔らかいが、言葉は淡々としていた。



「人類はゆるやかに発展するのが世界の理。本来であればあなたは封印されるが定め。しかし、あなたは自分の知識を他者へ公開をしていない。その慎重さを考慮した罰を......我ら世界の神々の裁判によって下します」

「神裁判において下す処罰は不老不死の呪い。老いることも、死ぬことも許さず、絶望を世界が終わるその時まで延々と味わい、罪を悔いる。それがおまえへの罰となります」



女性が手に携えた神杖を鳴らす。空間全体に突いた音が響く。それに呼応するように私の周囲に老若男女の後光が包んだ。瞬間、体になにかがのしかかる重圧。体が重くて地面に突っ伏しそうになる。



「待って……あなたたちは、誰、なの?……神って、なんで、……不老不死なんて」

「我らはこの世界の神と呼ばれる存在。各々がこの世界に関して各分野に万能の力を持つ、超越者。世界の行く末を傍観し、理を逸脱するのであればそれを正す管理者でもあります。私たちはおまえの異質さを認知し、こうして足を運びました。ここは、あなたの夢の中……」

「ニフィス。律儀に説明しなくてもいい。罪人にはすでに裁定と罰が下された。これ以上の会話は不要だ。俺たちは神界に帰るぞ」

若い男がニフィスと呼ばれる女神を遮る。ニフィスはあらまぁ、と困ったように頬に手を添える。若い男は荘厳な顔立ちを不機嫌に歪ませた。9人の神たちは用は済んだといわんばかりに背を向けて去って行った。残されたニフィスは神たちが去ったのを見ると神杖をじゃらりと揺らした。



「ごめんなさいね。私たちは普段、人間と会話すらしないからどう対応すればいいのかわからないの。実際私たちが出張るくらいの不穏分子が現れたのはこれで初めてだし」

「不穏分子……あの、不老不死って?」

「世界はね。緩やかに発展しなければいけないの。魔素や魔法に対しての解明くらいであればよかったんだけどね。死者蘇生はダメよ。生きて死ぬという生命のサイクルを崩してはいけない。それが知識欲の果てであっても。……でも、そこまでの知識欲を持つあなたを殺してしまうのはこの世界の人類の損失でもある。だから、あなたを永久に保管し、管理するう道を私たちは選んだのです」



異世界に召喚をされ、聖女としてやっていく人生だったが......虎の尾を踏んだが如く神の禁忌を犯してしまったということか。うまく状況を飲み込めなかったし、現実味がなさすぎる。



そもそも、不老不死なんて......。実際になったことないし、どんなに重大なことなのか理解できない。



「……これから永久に近い間、あなたはこの世界をさまようことになる。多くの出会い、別れ……苦悩が続くことでしょう。死ぬことができません。老いることも、生きることを共有する同じ価値観を持つ人間に出会うこともないでしょう。けれど、異邦の人間。あなたが生きることには罪はない。……だから希望を持たないで、だけど、絶望を見ないで。これからの長い時、あなたが知識を深め、多くのことを経験することを叡智と魔法の神、ニフィスが願いましょう」



ニフィスは言いたいことだけ言い終えると、私の返答を待たないまま光の粒となって消えた。それと同時に夢の中の世界が崩壊していく。



私はこれからどうなるんだろう。記憶の端でそう思いながら、いつの間にか目が覚めた。



この日、私は不老不死になってしまったのだ。そして、不老不死だと実感するのはこれから1年後の話だった。
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