世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜

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昔ばなし②

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「ティルク……どうしたの?そんなに血相を変えて」

「おまえ......ハルト皇子になにをやったんだ?夕方ごろから急に機嫌が悪くなって、至急処理して欲しい仕事も手をつけないんだ」



ハルトはエミリアのこの世界での身元引受人となっている、エドラド公爵家の嫡男だ。将来、ハルトと共に政治を担う有望株としても期待されている。



彼は現在彼の右腕として、書類仕事や、簡単な実務処理を担当しているのだが......。どうやら、ハルトの不機嫌のせいで思うように仕事が進んでいない。



ハルトは非常に我儘で、一度不機嫌になると、自分の思うように振舞う癖がある。癇癪を起こすとこうやって仕事を放棄することは珍しくない。



エミリアは心辺りがあったので、文献から目を話して、原因であろう昼にあった出来事を話した。



「......はぁ、多分それだ。お願いだから、ハルト皇子の機嫌を損ねさせないでくれ。一度不機嫌になると元に戻すのが面倒なんだ」

「気を利かせるために相手の元にやってきたのに、その相手が気を利かせて様子を伺うって......本末転倒なのでは」



エミリアは非常にドライな様子で首を傾げた。そもそも頼んでないし、勝手に部屋に来て勝手に不機嫌になるのは面倒な話なのでは。



ティルクにそこまでいうなら、積極的に関わらせるのはやめてくれと打診してみるが、首を振られて拒否される。



「ハルト皇子は異世界人であり、この国でも貴重な聖女の君に興味を持っているんだ。君がどう思おうが、皇子はこの国では尊い身分につくお方。礼儀を尽くしてくれ」

「......はぁ、勝手にこの世界に連れてこられて、他人に気を使わねばならなくて、聖女の役目を果たさなければならない。まったく、世知辛い世の中ですね」



皮肉気に喉から声を漏らしたエミリアは手に持っている文献を手で弄って気分を紛らわせる。彼女の心中を察したのか、しかし状況的にお願いしているティルクはただ、すまないと謝るしかなかった。



「......いいですよ。善処はしてみます。でも、それで彼が癇癪起こしても私の責任にしないでくださいね」

「......ああ。それは約束する」



エミリアは心底憂鬱そうにため息を吐いた。ティルクが去ると、気分を紛らわせるために、また研究に没頭した。







そんな生活を4年続けたある日。



エミリアは聖女としてある村に吹き溜まった魔素を浄化した帰り、皇城の異変を察した。



(......膨大な魔素の消費と、魔法の行使......、皇室の人たち、なにをやっているの?)



皇室愛用の、最上級の馬車の中で、皇城方面からの異様な反応を検知した。エミリアは御者に急ぐようにせかすと、業者は慌てて馬の手綱を持ち直した。







魔素の急激な消費は、皇室が新たな聖女召喚の儀式をおこなったからだった。最近、死海の森から皇室方面に風に乗り、皇国の魔素が急激に増した。



エミリアだけでは浄化が追いつかない現状だった。見かねた皇室が新たな人手として、聖女召喚に乗り出したそうだった。



エミリアは急いで広間に向かうと、ハルトの横に一人の少女が侍っていた。亜麻色のショートウェーブ。濡れ羽色の瞳。日本人のごく普通の女の子といった感じで、愛嬌がにじみ出ていた。



この世界にきて髪色の色素が抜けてしまったエミリアと比べると、非常に人目につく容姿をしていた。



彼女は美憂というらしく、ハルトたちはミーユとよび大層彼女を可愛がった。







その日から、ハルトはエミリアのところにはこなくなり、ティルクも顔を合わせる回数は減った。だが、エミリアは研究のために暇な時間は全て費やしていたので、特別不思議に思うことはなかった。



異世界人という孤独と寂しさは既に麻痺したようで。彼女はトラブルが起こるその時まで、異変に気づかずにいた。



............。



「ハルト様!大変です......ッ!ミーユが毒を飲んで倒れましたッ!」

「なにッ!今どこにいるのだ!」

「今は治癒師の元で治療中です。......服用した毒が少なかったのがよかったのか、今は容体も安静していますが......そのッ」

「なんだ!なにかいいたいことでもあるのか!?」



ミーユが服毒して倒れ、ティルクが執務をしているハルトの元へ駆けこんだ。情報を聞いたハルトは取り乱し、ティルクはその先の情報を言いづらそうに視線を逸らした。



言おうか迷ったが、ハルトの圧に負けて、口を開く。

「それが...…その毒を持ったのが聖女エミリアの方ではないかという情報が入ってきまして……」

「――ッ!いますぐエミリアの身柄を拘束しろ!」



ハルトはすぐに情報を確認しないまま、感情的にエミリアと捕えたその先は、情報をよく精査することなく――あの悲劇は起こったのだ。
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