世界最強の魔女は争い事に巻き込まれたくないので!邪竜と無自覚に英雄を育てながらひっそりと暮らしたい

赤羽夕夜

文字の大きさ
36 / 48

邪竜伝説

しおりを挟む
むかし、むかしのこと。



ある1匹のドラゴンがいた。彼の者の名は邪竜ファフニール。



彼の者の羽ばたきは草木はおろか、人が数十人でも動かせない大岩を吹き飛ばし、吐息から零れる劫火はあらゆるものを焼き付くす。瞳で見られたものは石となり、彼の咆哮は雷鳴を呼び寄せた。



歩めば大地は揺らめぎ、地上にあるあらゆるものを破壊しつくし、彼の者の鱗は魔剣ですら通さないアダマンタイトの如きの強固さだ。



天候を操り、災害を引き起こし、ファフニールの一挙手一投足の全てが災害と化した。



人々は彼を畏怖し、邪竜ファフニールと呼称し、恐れた。



ファフニールは何故、人々が自分を恐れるのかがわからなかった。



ただ、自分は起き上がっただけなのに。空を自由に飛び回っただけなのに。ただあくびをしただけなのに。その全てが矮小な人間にとっての厄災となる。



次第にファフニールを恐れる人間たちは、同盟を組み、彼を殺そうとあらゆる手を尽くす。



ただ、ファフニール自体は人間に関しては敵意を持っていなかった。自分はただ平和な日常を過ごしたいだけであって、人間に危害を加えようなどと思ったこともなかった。



しかし、殺そうとするなら、抗わないといけないわけで。ちょっとけん制するつもりが一息で1国滅ぼすほどの劫火を吐いてしまった。



そこから人間との戦争が激化し、最終的には、ファフニールはこの死海の森を見つけ、引きこもることで人間との戦争は集結した。



人々は勇者の封印魔法によって封印されたと思っているが、実際そんな者はいなければ、封印された事実はなかった。ただ、戦いに疲れたから、森に引きこもったのが真相である。



…………。



そこから約1000年の深い眠りについた。思考はまっさら、しかし視界はまっくら。たまに瞼を開けて森の風景の変わりなさ、気配の変わりようを日々感じて過ごした。



あの日、一人の人間が目の前に現れるまでは。



…………。



「私をここに住まわせて欲しいのです」

最初は不思議な気配に興味があってここに呼び寄せた。神の気配。人間には似て、異なる不思議な存在に。



実際は矮小な人間の雌の見た目をしていたのに、言うこと為すこと、突飛すぎて新鮮さを覚えた。邪竜を前にして恐れることなく、瞬き一つで過剰に反応することなく、長年の引きこもりの生活で力が弱っていたとはいえ、吐息ひとつで死なない女に。



この女なら森においても自分に怯えずに、自分を楽しませてくれるのではないかという期待を抱いた。



結果は正解だった。彼女との生活は平和で新鮮で……作るものも、全てが新しくて。1000年の退屈など忘れてしまうかのような楽しい時間だった。



彼女の魔素操作のおかげで無駄な暴走をせずに済み、人間と共同生活を送れるほどに力の制御ができた時は喜びしかなかった。これで矮小な生き物たちと同じ目線で、平和でなんでもない生活を送れると。



この生活をくれた彼女に嫌われたくない。新しいことを教えてくれた彼女の好きに生きて欲しい。だから、全てのことに口を出さなかった。最低限の助言のみ。彼女の選択で、好きに人生を歩んで欲しかった。



多分、異世界から皇国に召喚された時点で、彼女には好きに生きる人生はなかったのだから。せめてだれにも縛られないこの森では、友として、自分とは違う、自由な生活をして欲しかった。



……この結果がこれだ。



どうすれば正解だったのか。どう行動したらこの悲劇は起こらなかったのか。

まるで、この森に初めて入ってきた彼女のようだ。



住処を追われて、人も寄り付かぬ森に追いやられて。折角生活も安定してきて、心穏やかに過ごした矢先。また彼女を苦しめる羽目になってしまった。



「…………僕はどうしたらよかったんだ。どうしたら、初めてできた友を………………た、おまえを守れたのか」



わからない。そう真上に上る月を物寂しく見上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...