37 / 48
一方その頃
しおりを挟む
「森の魔女を発見したが逃げられただとッ!愚か者が!なにをしておったのだ」
「しっ……しかし!向こう側は災害級の魔獣、グレーターバイコーンを従えてました!あそこで戦闘になれば市街全域はタダではすまなかったかと……」
「そんなもの!皇国の精鋭部隊であればどうにでもなっただろう!今重要視するべきは人質を殺してしまったことで、森の魔女との交渉材料が無くなったということだ!あの捕虜の弟とやらは見つからんし!……ああ、まったく、おまえたちの行動の遅さにはイライラするぞ」
「……申し訳ございません」
皇国の兵士は威嚇射撃のつもりが誤ってアールの背中を貫いてしまう。そして、森の魔女が逃げた経緯をハルトに報告すると、ハルトは怒りのままに手元にあったワイングラスを
兵士たちに投げつけた。
甲冑に当たったことで、グラスの破片が散らばり、赤い汁が兵士の顔面を濡らす。
兵士は恐怖で身を震わせ、声を震わせながらハルトに頭を下げた。
ハルトはこの後の対策をどうするかに思考を巡らす。
「……おい、捕虜の死体はどうした?」
「一応、持ち帰って保管はしておりますが……」
ハルトは何かにひらめいたように、顎に添えてあった手を外して言った。
「……そうだな。今回の一件で森の魔女は我らに脅威を感じているはずだ。己が大切に思っているものを人質に取られて、助けに来るくらいだからな。……脅威と感じているのであれば、恐怖で魔女を従わせるのみ。隠れている弟をあぶり出すためにも、城壁の前にその死体を吊るしておけ」
「……皇帝陛下、無礼を承知で申し上げます。その策は逆に森の魔女を激昂させるだけではありませんでしょうか?それに、森の魔女の報復も……」
兵士はハルトの短直な考えに、つい意見を申し述べた。しかし、今のハルトにとってはその進言は自分の苛立ちを募らせる材料でしかなく。
腕置きにこれ以上にないくらいの力を込めて、拳を叩きつけて言った。
「元はと言えば!おまえたちの怠慢で森の魔女を逃がしたのであろうがっ!あの人質には森の魔女をおびき出す材料として生かしてやっていたというのにッ……!そこまでいうのであれば、いますぐ森の魔女を連れてこいッ!」
玉座から兵士が跪いている地まで距離があるのに、唾が飛んできそうな勢いだった。兵士たちは体をびくり、とさせて、さらに深く頭を下げた。
一度感情的になった皇帝陛下は皇妃以外の言葉は耳に通さないとわかっていたからだ。その皇妃も今この場にいない以上、兵士たちは唯唯諾諾と返事するしかなかった。
「……かしこまりました。ご命令に従います」
★
そうしてしばらくして、アールの亡骸は体に縄を括りつけられた状態で城壁に晒されていた。その真横の垂れ幕には「この者は国家反逆罪並びに皇室侮辱罪を犯した大罪人」だと。
城壁の前には久々に現れた大罪人を見ようと、街中の人が集結した。中には「こんな若い子が……」と憐れむ人もいれば、「皇室を侮辱したんだから仕方ない」と処刑に関して肯定的な意見とさまざまだった。
そんな人だかりの中に一人、氷のような冷たく、冷徹な表情を浮かべ、状況を嘆くものがいた。フード下にある白髪。そして青の瞳を歪に輝かせて呟いた。
「……ハルト、あなたがこんなにおろかだとは思わなかったわ。この報復はすぐ、必ず返してあげる」
女は踵を翻すと路地へと消えていった。城壁がある通りと比べ、路地は静かで鬱蒼としいていた。まるで、嵐の前の静けさだった。
「しっ……しかし!向こう側は災害級の魔獣、グレーターバイコーンを従えてました!あそこで戦闘になれば市街全域はタダではすまなかったかと……」
「そんなもの!皇国の精鋭部隊であればどうにでもなっただろう!今重要視するべきは人質を殺してしまったことで、森の魔女との交渉材料が無くなったということだ!あの捕虜の弟とやらは見つからんし!……ああ、まったく、おまえたちの行動の遅さにはイライラするぞ」
「……申し訳ございません」
皇国の兵士は威嚇射撃のつもりが誤ってアールの背中を貫いてしまう。そして、森の魔女が逃げた経緯をハルトに報告すると、ハルトは怒りのままに手元にあったワイングラスを
兵士たちに投げつけた。
甲冑に当たったことで、グラスの破片が散らばり、赤い汁が兵士の顔面を濡らす。
兵士は恐怖で身を震わせ、声を震わせながらハルトに頭を下げた。
ハルトはこの後の対策をどうするかに思考を巡らす。
「……おい、捕虜の死体はどうした?」
「一応、持ち帰って保管はしておりますが……」
ハルトは何かにひらめいたように、顎に添えてあった手を外して言った。
「……そうだな。今回の一件で森の魔女は我らに脅威を感じているはずだ。己が大切に思っているものを人質に取られて、助けに来るくらいだからな。……脅威と感じているのであれば、恐怖で魔女を従わせるのみ。隠れている弟をあぶり出すためにも、城壁の前にその死体を吊るしておけ」
「……皇帝陛下、無礼を承知で申し上げます。その策は逆に森の魔女を激昂させるだけではありませんでしょうか?それに、森の魔女の報復も……」
兵士はハルトの短直な考えに、つい意見を申し述べた。しかし、今のハルトにとってはその進言は自分の苛立ちを募らせる材料でしかなく。
腕置きにこれ以上にないくらいの力を込めて、拳を叩きつけて言った。
「元はと言えば!おまえたちの怠慢で森の魔女を逃がしたのであろうがっ!あの人質には森の魔女をおびき出す材料として生かしてやっていたというのにッ……!そこまでいうのであれば、いますぐ森の魔女を連れてこいッ!」
玉座から兵士が跪いている地まで距離があるのに、唾が飛んできそうな勢いだった。兵士たちは体をびくり、とさせて、さらに深く頭を下げた。
一度感情的になった皇帝陛下は皇妃以外の言葉は耳に通さないとわかっていたからだ。その皇妃も今この場にいない以上、兵士たちは唯唯諾諾と返事するしかなかった。
「……かしこまりました。ご命令に従います」
★
そうしてしばらくして、アールの亡骸は体に縄を括りつけられた状態で城壁に晒されていた。その真横の垂れ幕には「この者は国家反逆罪並びに皇室侮辱罪を犯した大罪人」だと。
城壁の前には久々に現れた大罪人を見ようと、街中の人が集結した。中には「こんな若い子が……」と憐れむ人もいれば、「皇室を侮辱したんだから仕方ない」と処刑に関して肯定的な意見とさまざまだった。
そんな人だかりの中に一人、氷のような冷たく、冷徹な表情を浮かべ、状況を嘆くものがいた。フード下にある白髪。そして青の瞳を歪に輝かせて呟いた。
「……ハルト、あなたがこんなにおろかだとは思わなかったわ。この報復はすぐ、必ず返してあげる」
女は踵を翻すと路地へと消えていった。城壁がある通りと比べ、路地は静かで鬱蒼としいていた。まるで、嵐の前の静けさだった。
54
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。
再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。
妻を一途に想い続ける夫と、
その想いを一ミリも知らない妻。
――攻防戦の幕が、いま上がる。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる