虐待されていた私ですが、夫たちと幸せに暮らすために頑張ります

赤羽夕夜

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「ごめんね、腰痛の薬を宿屋のおばちゃんに届ける約束もしてたし……」
「いいわ。行く方向は同じだから用事を済ませて家族水入らずの時間を過ごしましょう」

がたんごとん、と馬車は揺れ動く。

馬車の席順として御者を背にベルナルドとミハイル。向かい側に私とアリスタウという順番だ。

アリスタウはちらりとベルナルドの隣に座るぶすっとした表情を浮かべるミハイルを見る。

視線が合うとキっと睨むので驚いて手に持った薬の大籠で顔を隠す。

まるで威嚇した子犬にビビる子供のようで可愛らしい。

「こわ……」
「睨まないの」
「睨んでなどいない。必要以上に怖がるから気にくわないだけだ」
「人を寄せ付けない態度取っているからでしょう」
「そういうわけでは――」
「ほら、到着したから馬車から降りるわよ」

御者に扉を開けてもらうとまずは扉側に座っているベルナルドから降りて、彼の手を取って降りる。すると馬車の音を聞きつけた街の人たちが集まってくる。

私たちが来るとどこから聞きつけてきたのだろうか。

「領主様!ようこそいらっしゃいました」
「領主様だって!?ちょっと待ってください、朝とれたての野菜があるのでぜひ持って行ってください!」
「おい、大工屋の倅!領主様が下町にいらっしゃったから仕事切り上げて挨拶しろ!」
「今日はプライベートなので仕事の手を止める必要はありません。ここは公道なので道を塞いでは迷惑です。気持ちは大変嬉しいので、各自持ち場に戻ってください」

急に現れた新しい領主で、結構強引に領内の仕事の割り振りや改革を進めてしまって、領民たちからは嫌われているかなと思いきや。実はそこまで嫌われているわけでもなく、領民曰く……。

「領主様は食べ物と仕事を与えてくれただけでなく、人並みの生活ができるように領内の基盤を整えて下さった御方。領民全員感謝こそすれど、忌み嫌うなどもっての他です」

と案外べた褒めしてくれた。自分で言っていて恥ずかしいけど事実なので仕方がない。

家紋がかかれた馬車で登場すると皆仕事を切り上げて歓迎してくれるのが申し訳なくて、普通の馬車で来たのにどうしてバレたんだろう。

道路脇に片膝をついているおじさんに聞いてみた。

「そりゃあ、このあたりでは上等な馬車ですし、御者もいつものおじさんだから領主
様の馬車だってわかりますよ」

以外に鋭いし、御者の顔も覚えているのか。これならお忍び用の馬車を買うか屋敷からは歩きでここに来た方がいいかもしれない。反省しながら考えていると、アリスタウは大籠を持って私たちから斜め右にある宿屋の前にいるふくよかな体型のおばさんに薬を渡す。

「おお、アリス先生じゃないか。いつも悪いねぇ」
「…………」

輪を外れ、大籠を渡すとアリスタウはおばさんのお礼に顔を赤くして頷いた。人見知りが激しいので家族以外には基本無口でフードを深く被っているが、人柄を知っているおばさんは「今日も変わらないねぇ」と屈託のない笑みを浮かべた。

「ベルナルド様だ~!」
「ベルナルド様!今日もお話を聞かせにきてくれたの?」
「ごめんなさい、今日は妻とデートなんです。また今度にしてくれますか?」

終いには孤児院から職員として雇っている未亡人や戦争孤児なども出てくる始末。彼らは慈善活動の一環でよく派遣しているベルナルドの顔を知っているので親しみの笑みを向けて走り寄ってくる。

アリスタウもベルナルドも人に囲まれている状態で、さすがにミハイルも唖然としている様子だった。
「……オマエ、いや、この地の貴族は皆ああなのか?」

ああなのか、というのは領民と貴族の距離感が近いという意味だろうか。

確かに、王都では平民と貴族の生活は区切られていてこんなに近い距離で話せる関係でもない。

もちろん、貴族が買い物で下町や平民の区画に現れることもあるが、身分も高い貴族は商人を家間で呼ぶことも多いのでこの光景は珍しいかもしれない。

うちの場合、農業改革やこれからのインフラ整備に向けて色々と領民と話し合うことも多かったので他の領地と比べると関係はフラットかもしれない。

……それに。

「うちでは領地改革をするに当たって平民の声を聞くことが多いから、それでこんなに距離が近いのかもしれないわね」
「領地改革に……平民の声を?貴族が主導で統治した方が都合がいいのではないのか」
「たしかに、自分のやりやすいように統治するに当たって人の意見を聞き入れた方がややこしいという考え方はわかる。けれど、それでは視野が狭くなってしまうし、貴族目線での統治になってしまうと多種多様な意見が出にくくなる。私は人に言われるほど優秀ではないから、こういった意見は検討するようにしちゃうわね。1人の案だと駄目な案か、いい案なのかわかんないし」

もちろん、都合のいい声は聞かない振りをするが民衆から声を聞くことで不満の声を減らすことが出き、内政にもよりいい案を取り入れ国を発展させることができる。もちろん、最終的な決定権は私たちにあるけどね。

「…………そうか」
「っと、さすがにここにいすぎると仕事の邪魔になっちゃうか。皆さん、先程言った通り今日はプライベートを満喫するために来ました。なので、そろそろ持ち場に戻ってくださいね。ベルナルド、アリスタウ、ミハイル、行きますよ」

気分転換に3人の服や欲しいものを見ようと来たのだがほとぼりが冷めるまでは手頃な喫茶店に入ろうと近くに合った喫茶店の扉に手をかける。その頃にはちらほらと野次馬は解散を始め、喫茶店の窓から外を見る頃にはいつも通りの街の風景が広がっていた。
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