13 / 55
8-2
しおりを挟む「ごめんね、腰痛の薬を宿屋のおばちゃんに届ける約束もしてたし……」
「いいわ。行く方向は同じだから用事を済ませて家族水入らずの時間を過ごしましょう」
がたんごとん、と馬車は揺れ動く。
馬車の席順として御者を背にベルナルドとミハイル。向かい側に私とアリスタウという順番だ。
アリスタウはちらりとベルナルドの隣に座るぶすっとした表情を浮かべるミハイルを見る。
視線が合うとキっと睨むので驚いて手に持った薬の大籠で顔を隠す。
まるで威嚇した子犬にビビる子供のようで可愛らしい。
「こわ……」
「睨まないの」
「睨んでなどいない。必要以上に怖がるから気にくわないだけだ」
「人を寄せ付けない態度取っているからでしょう」
「そういうわけでは――」
「ほら、到着したから馬車から降りるわよ」
御者に扉を開けてもらうとまずは扉側に座っているベルナルドから降りて、彼の手を取って降りる。すると馬車の音を聞きつけた街の人たちが集まってくる。
私たちが来るとどこから聞きつけてきたのだろうか。
「領主様!ようこそいらっしゃいました」
「領主様だって!?ちょっと待ってください、朝とれたての野菜があるのでぜひ持って行ってください!」
「おい、大工屋の倅!領主様が下町にいらっしゃったから仕事切り上げて挨拶しろ!」
「今日はプライベートなので仕事の手を止める必要はありません。ここは公道なので道を塞いでは迷惑です。気持ちは大変嬉しいので、各自持ち場に戻ってください」
急に現れた新しい領主で、結構強引に領内の仕事の割り振りや改革を進めてしまって、領民たちからは嫌われているかなと思いきや。実はそこまで嫌われているわけでもなく、領民曰く……。
「領主様は食べ物と仕事を与えてくれただけでなく、人並みの生活ができるように領内の基盤を整えて下さった御方。領民全員感謝こそすれど、忌み嫌うなどもっての他です」
と案外べた褒めしてくれた。自分で言っていて恥ずかしいけど事実なので仕方がない。
家紋がかかれた馬車で登場すると皆仕事を切り上げて歓迎してくれるのが申し訳なくて、普通の馬車で来たのにどうしてバレたんだろう。
道路脇に片膝をついているおじさんに聞いてみた。
「そりゃあ、このあたりでは上等な馬車ですし、御者もいつものおじさんだから領主
様の馬車だってわかりますよ」
以外に鋭いし、御者の顔も覚えているのか。これならお忍び用の馬車を買うか屋敷からは歩きでここに来た方がいいかもしれない。反省しながら考えていると、アリスタウは大籠を持って私たちから斜め右にある宿屋の前にいるふくよかな体型のおばさんに薬を渡す。
「おお、アリス先生じゃないか。いつも悪いねぇ」
「…………」
輪を外れ、大籠を渡すとアリスタウはおばさんのお礼に顔を赤くして頷いた。人見知りが激しいので家族以外には基本無口でフードを深く被っているが、人柄を知っているおばさんは「今日も変わらないねぇ」と屈託のない笑みを浮かべた。
「ベルナルド様だ~!」
「ベルナルド様!今日もお話を聞かせにきてくれたの?」
「ごめんなさい、今日は妻とデートなんです。また今度にしてくれますか?」
終いには孤児院から職員として雇っている未亡人や戦争孤児なども出てくる始末。彼らは慈善活動の一環でよく派遣しているベルナルドの顔を知っているので親しみの笑みを向けて走り寄ってくる。
アリスタウもベルナルドも人に囲まれている状態で、さすがにミハイルも唖然としている様子だった。
「……オマエ、いや、この地の貴族は皆ああなのか?」
ああなのか、というのは領民と貴族の距離感が近いという意味だろうか。
確かに、王都では平民と貴族の生活は区切られていてこんなに近い距離で話せる関係でもない。
もちろん、貴族が買い物で下町や平民の区画に現れることもあるが、身分も高い貴族は商人を家間で呼ぶことも多いのでこの光景は珍しいかもしれない。
うちの場合、農業改革やこれからのインフラ整備に向けて色々と領民と話し合うことも多かったので他の領地と比べると関係はフラットかもしれない。
……それに。
「うちでは領地改革をするに当たって平民の声を聞くことが多いから、それでこんなに距離が近いのかもしれないわね」
「領地改革に……平民の声を?貴族が主導で統治した方が都合がいいのではないのか」
「たしかに、自分のやりやすいように統治するに当たって人の意見を聞き入れた方がややこしいという考え方はわかる。けれど、それでは視野が狭くなってしまうし、貴族目線での統治になってしまうと多種多様な意見が出にくくなる。私は人に言われるほど優秀ではないから、こういった意見は検討するようにしちゃうわね。1人の案だと駄目な案か、いい案なのかわかんないし」
もちろん、都合のいい声は聞かない振りをするが民衆から声を聞くことで不満の声を減らすことが出き、内政にもよりいい案を取り入れ国を発展させることができる。もちろん、最終的な決定権は私たちにあるけどね。
「…………そうか」
「っと、さすがにここにいすぎると仕事の邪魔になっちゃうか。皆さん、先程言った通り今日はプライベートを満喫するために来ました。なので、そろそろ持ち場に戻ってくださいね。ベルナルド、アリスタウ、ミハイル、行きますよ」
気分転換に3人の服や欲しいものを見ようと来たのだがほとぼりが冷めるまでは手頃な喫茶店に入ろうと近くに合った喫茶店の扉に手をかける。その頃にはちらほらと野次馬は解散を始め、喫茶店の窓から外を見る頃にはいつも通りの街の風景が広がっていた。
275
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる