大聖女様 世を謀る!

丁太郎。

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49話 大賢者である私の躊躇

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 小部屋から出た私達は、光の精霊に擬態しているオトプレちゃんとレトリーの照明魔法『ライト』のかかったムッツの矢に照らされた一本道を進んでいる。
 幅4m 高さ3mといったところかな。
 通路としてはかなり広いと思う。
 しばらく進むと行く手に光が見えてきた。
 なんとなく予想できる。
 きっとボスがいて戦闘になる。
 皆も同じ事を考えているようだね。

「みんな、気をつけて!」

 リッキーがロングソードの柄を握り、何時でも抜けるようにしながら皆に注意を促す。
 ワトルーとミウリも緊張しているようだ。

「大丈夫だよ。みんなで一緒に帰ろう」

 私は二人を安心させる。
 通路を抜けると、広い部屋に出た。
 1辺が50mはあるだろう四角い部屋だ。
 闘技場というべきだろうか。


 ガシャーーーーン!

 全員が闘技場に入ると、私達が通って来た通路の入り口に鉄格子が落ちてきて退路を塞がれてしまった。
 まぁ どうせ行き止まりだけどね。
 前方には扉が見えている。
 ボスを倒せば開く仕組みと思われる。

 壁にはごついグレートアックスが掛けてある。
 これはやはり、牛男だ!
 頭と下半身が闘牛の半人半牛のモンスター。
 両手持ちのグレートアックスを片手で軽々振り回す膂力!
 瞬発力と破壊力の高い突進!
 凶暴かつタフ!
 それが牛男!!
 Aクラス冒険者でも舐めてかかれば命を落とす。
 危険度の高いモンスター。
 ま、私とセバっちゃんがいれば余裕だけどね。

 しかし、肝心の牛男はいない。

「なにも出て、来ないね」

「うーん、どうすりゃいいんだ?」

「既に倒されているのかもしれませんね」

「ふむ、そうなるとリポップ待ちになりますかな」

 などと、緊張を解こうとする男たちに私は叱咤する。

「気を抜いちゃダメ!扉が閉まっている以上ボスはきっといるよ!」

 叱咤の直後、急に部屋が真っ暗になった。

「な、何だ!」

 そこへ一筋の光が差し込む。
 出口の扉だけが光に照らされ、嫌でも視線が扉に集まる。
 これはスポットライトだ。
 ダンジョンではボスの登場時によく使われる演出で、ダンジョンあるあるで必ず上がるネタでもある。

「ボス、だね」

「ですな」

 私の言葉に答えてくれたのはセバっちゃんだ。
 リッキー、ムッツ、レトリーのゴクリとつばを飲む音が聞こえ緊張が伝わってくる。

 スポットライトに照らされた扉が、ギギギギという音と共にユックリと開くいていく。

 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン……

 打楽器が鳴り響き、いよいよボスの入場のようだ。

 扉の先の闇から浮き出てきたのは牛の頭。

「やべ!牛男だ!」

 悲鳴に近い叫びを上げたのはムッツ。
 博学故にその危険性を知識では知っているようだね。

 ドーーーン!

 一際大きな効果音と共に牛男が全貌を現した。
 すると部屋は明るくなった。
 入場演出が終わったようだ。

「侵入者共よ!儂と戦って貰おうか!」

 部屋に響く強者発言。

「………」

 皆無言だ。
 私も言葉を失った。
 なんと言えばいいのか。

「………」

 どうしよう。
 流石にこの展開は考えてなかった。

「……」

「……」

 見つめ合う牛男と私達。
 お互いに無言だ。

 牛男は……


 ヨボヨボだった。
 強者発言が虚しく聞こえる虚弱な体。
 筋肉など確認出来ない、正に骨と皮だ。
 震えている足。
 腰も曲がっている。

 牛男は壁にかかっている斧を取ろうとし、取れなかった。
 非力すぎて。

「今日は調子が悪いらしい。お主らも運が良い。身一つで相手をしてやろう!」

「………」

 えーっと!
 倒していいのだと思うけど、さすがに弱者をいたぶるのは躊躇われる。
 その思いは皆同じだろう。
 正直ワトルーとミウリでも勝てそうだ。

「……」

「……」

 再び見つめ合う私達と牛男。
 互いに無言。
 痛い沈黙がしばらく続いた。

「なんか反応せんかーーー!!」

 牛男、いや牛ジジイがキレた!
 でも怖くない。

「ハイ!提案!」

 私は仕方がなく手を上げる。

「そこ!何じゃ?」

 偉そうな虚弱牛ジジイに指をさされた。
 なんかムカつく。

「戦闘以外の勝負なんかどうでしょう?」

 あまり刺激しないように下手に出る私。
 しかし。

「ばっっかもーーーーーん!!!!!!!!!!」

 ジジイ激昂!キレすぎだジジィ。

「ダンジョンのボス戦を汚すつもりか!!最近の若いもんはダンジョンの作法も知らんのか!!!!全員そこに正座!ダンジョンの作法を叩き込んでくれるわ!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 3時間が経過した。
 私達は正座し、牛ジジイの説教を食らっている。
 なんか流石にプルプルしている爺さんに攻撃するほど鬼になれず、思わず素直に正座してしまったのだ。

「ダンジョンは命がけで挑む!これが作法じゃ……」

 その時ムッツが欠伸をした。
 ゲゲ! ムッツなんて事を!

「こりゃーーー!!!!! 真面目に聞かんかーーーー!!お主らはダンジョンを舐め腐っておる。もう一度一からじゃ、耳をかっぽじって聞くのじゃ!」

 ムッツリーーー!!
 もう少しで終わりそうだったのに!!

 そして、もう3時間後。

「……という訳じゃ!しっかり聞いておったか!」

「「「「「「ハイ!」」」」」」

 開放されたい一心で声が揃う。
 あれ? セバっちゃん居なくね?
 気配断ちしてるな!
 私のその一瞬の動揺を見逃さなかった牛ジジイ。

「じゃあ、そこの嬢ちゃん。言うてミイ!」

 ゲゲ、聞いてる訳無いじゃん!
 ヤバい!ヤバ過ぎる!
 ピンチ、ピンチ、助けてー!また3時間はヤメテーー!

『しょうがないマスターね』

 お、神様オトプレちゃんが降臨したーーー!

 私はオトプレちゃんの念話で聞いたとおりに一言一句違えずにトレースした。

「ちゃんと聞いておったようじゃのう。今日はこの辺で勘弁してやろう。扉は開けておく、次舐め腐った真似をしたら説教10時間じゃ!」

「「「「「「アザッス! 気をつけます!」」」」」」

 牛男はそう言うと頭に手をやり、自分の頭を……

 もいだ!

 スプラッター!!!!?

 牛の頭がもげ、そこから出てきたのは人間のジジイの顔だった。

「牛の頭ってマスクーーー!?」

「ん?そうじゃよ。知らんかったのか?」

 私も初めて知った衝撃の事実!

「わしゃー肩が凝るからイヤなんじゃがこれもダンジョンの習いじゃ」

「へぇ、そうなんですね」

「そうじゃ!戦闘で勝った訳じゃないから宝箱は出現せんが折角ここまで来てそれも哀れじゃ。記念にこのマスクをくれてやろう。ありがたく頂戴せい!」

「有難うございます。感激のあまり涙が出そうです!」

「うむ、縁があればまた会おう!」

 牛ジジイの体が光り、光と共に消えていった。
 そして私の手には牛ジジイのマスクが残った。

 放心状態の私達。

「良かったですな」

 突如現れたセバっちゃんは、そう言って私の肩をポンポンと叩いたのだった。
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