大聖女様 世を謀る!

丁太郎。

文字の大きさ
61 / 84

60話(閑話)大賢者である私の文化創生

しおりを挟む
 ミリーの活躍から300年後のお話。
 聖王国にて。
 今、一人の聖女が誕生しようとしていた。

「ウル様、お時間は過ぎてございます」

 豪華に部屋に一人の少女がいる。
 少女は彼女に為に用意されている、これまた豪華な椅子には座らず椅子の周りをウロウロしていた。

「うー、どうしてもやらないとダメ?」

 声をかけてきた老いた侍女らしき女性に抗議の声をあげるウルと呼ばれた少女。
 涙目だ。

「この〝聖音の儀〟をもって聖女となられるしきたりなのです」

「判っているわ!誰よ、こんな儀式考えたのは!」

「たしか大聖女ミリー様が降臨された300年程前からとされています。この聖王国の聖女であらした王女様が決められた仕来りにございます」

「なんて迷惑なご先祖様なの!」

「お怒りをお沈め下さい。ですが代々の聖女様方はこの〝聖音の儀〟を受けた後、皆この儀の重要性をご理解され廃止されず今に伝わるのでございます。先代様も同様でございました」

 先代の聖女は少女ウルの母親であり、現聖王国女王でもある。
 いつからか聖王国は女王制となっていた。
 そして代々聖女が女王を務めている。
 つまりこの儀式を受け聖女に認定されることは次の女王となることを示す。
 極めて重要な儀式なのだ。
 ただし、この儀式を受ける為には、かなりの勇気が必要だった。
 女性にとっては特に。

「お母様にも言われたわ。失う物がある代わりに得る物は大きいともね」

「アラバスタル王国にも似たようなお祭りがあります。ウル様も気楽にお考えくださいませ」

「あちらはせいぜい周囲に居る人に聞かれるだけじゃないの。私は全国民に聞かれるのよ!」

 顔を真っ赤にして訴える。
 聖王国王女ウルフェアリース。

『聖音の儀』

 それは全国民が集まる広場の前で、聖女になる者がおならの音が鳴るクッションに座るいう極めてシンプルな儀式である。
 聖女になるものは、この聖なる音をもって国民に祝福を与える。
 聖女の最初の仕事でもあった。
 聖音は音声拡散魔法によって、大きい音では無いはずなのに広場にいる全国民に余すこと無く届けられるのだ。

 この日は1年前に公示され、当日は祝日となる、聖王国国民はこの日、祝福を受ける為にこの王城前広場に集まるのだ。

「ウル様、覚悟をお決め下さいませ。お嫌でしたらさっさとお済ましになられれば良いではないですか」

「同盟諸国からのご来賓もいらしているのよ。晩餐会でどんな顔で会えばいいのよ」

「それこそ儀式無しではこの国の面子が立ちません。聖音を聞くために遥々いらしているのですよ?それに儀式を受けられましたらそんな些事は気にならなくなると、先代様も仰っていました」

「うーーーー!わかったわよ!受ければいいんでしょ!」

 その言葉を待ってましたとばかりに老侍女は手を打ち鳴らす。
 控室の扉が開かれ、そこには一人の執事が立っていた。

「儀式の開始の合図を」

 老侍女の言葉に執事は一礼をすると、急ぐようにその場を後にした。
 ウル王女は相当、粘っていたようだ。
 老侍女に背中を押されるように王女が部屋を出ると、通路には騎士の礼装の甲冑を身に着けた男たちが10名、廊下の片側に並んで立っている。
 この10人は聖騎士にして将軍だ。
 いわばこの国の最高戦力達である。
 式典用である白い甲冑は光り輝き、聖騎士らしい威厳を放っている。
 しかし、聖女となるウル王女の白いドレスは所々に、魔法によってより光輝いている宝石が散りばめられ、彼ら以上に神聖さを引き立たせている。
 王女ウルの美貌もドレスの神聖さと調和がとれていて、さながら女神の様ですらある。

 歩きだしたウル王女に聖騎士たちが2列となって付き従う。
 王女の目の前で広場に面するバルコニーへの扉が開らき、同時にファンファーレが鳴りだした。
 いよいよ覚悟を決めるしか無い。

 王女がバルコニーに出た時、眼下に広がる広場は人で埋め尽くされており、大歓声を上げていた。
 また、広場の両脇の城壁上には来賓席が設けられており、同盟国の国王や宰相なそれぞれの国を担う者達の姿が合った。

 思わず意識が遠くなる王女だったが、ここで倒れる訳にはいかなかった。
 この中で、自身の音では無いものの、おならの音を皆に聞かせなければならない。

 バルコニーの先端に立つ王女。
 聖騎士達が出入り口の壁際に一列になって並ぶ。
 暫く王女が黙っていると、やがて広場は静かになった。
 皆、新たな聖女の言葉を持つ。

 ウル王女はここに来てようやく覚悟が定まった様だ。
 涙目ではあったが。
 王女の後ろに椅子が用意されたのが気配で判る。

「聖王国国民の皆様!ご来賓の皆様。本日この日の為にお集まり頂き有難うございます。 私、サムーン聖王国 王女ウルフェアリースは、本日より聖女として皆様の為に尽くして行く所存です。今から鳴らす聖音を持って皆に祝福を!」

 ここまでのセリフを一気に言い切った王女。
 後は椅子に座るだけである。
 場は静まりかえっている。
 皆、聖音を心待ちにしているのだ。

 目をきつく瞑り、ままよ、と椅子に腰を落とす王女。

「ぷぅーーーーーーーー………」

 大きめな音が広場に鳴り響く。
 音が静まり、数秒の静寂。
 その静寂のあと一気に歓声が上がった。

「聖王国バンザーイ!」
「新聖女ウルフェアリース様バンザーイ!」

 万歳コールは暫く鳴り止まなかった。

 広場で聖音を聞いた国民の中に泣いている老人がいた。
 彼は3代に渡り、聖音を聞いた。

「ワシは3代に渡り聖音を聞いたが今回の聖音が一番良かった!心に染みたワイ」

 老人は涙ながらに周囲に語るのだった。

 無事聖音の儀は終わった。
 控室にウル王女、いや、聖女ウルが戻って来た。
 儀式の前とで彼女の顔つきが変わった事に、待っていた侍女は気付く。

「お疲れ様でございました。今の聖女様のご表情、見違えるようで御座います」

「ありがとう。私も代々の聖女様達のお気持ちが理解できました。この儀式を受けたなら、こう怖いものはこの世に在りません。この儀式は後世に受け継いでいくべきです」

「ご立派なお考えです。ウル様」

 聖女ウルの言葉に感激し涙ぐむ老侍女。
 ウル王女が赤子の頃から側にいたのだ。
 その成長に感慨深いものを感じていた。

<この羞恥、私の代で終わらせてなるものですか!この思い、必ず次の聖女にも受け継いで貰います!>

 ミリーより始まったこの暗い情念は、聖女サファに受け継がれ、その後代々の聖王国聖女にも受け継がれていった。
 彼女たちの暗い情念は聖女ウルの思いも乗せて次の聖女へと受け継がれていくのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 某月某日、アラバスタル王国にて。
 今日は年に1日のお祭りの日。

 この日、大人たちは椅子やソファーなどに座るのを避ける。
 今日は子供たちが大人達におならの音が鳴るクッションを仕掛けていい日なのだ。
 昨今では、大人が大人にイタズラを仕掛けたり、イタズラの種類も増えており、国民全員で楽しむ乱痴気騒ぎの様相を呈していた。

 この日を楽しむ為、外国からの観光客も多い。
 その為か数年前から前夜祭が行われるようにもなった。
 祭りは年々より盛大に行われる様になってきており、祭りによる経済効果も馬鹿に出来ない様になっていた。

 この祭りの起源を遡れば、やはり大聖女ミリーの時代にまで遡る。
 時の宰相は近衛魔道士長にして、この国初の女性宰相だったという。
 その宰相が国民のガス抜きを目的としてこの祭りを制定したとされる。(表向きは)

 ミリーは図らずも、2つの国に大きな影響を与える文化を作ることになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...