大聖女様 世を謀る!

丁太郎。

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75話 大賢者である私の青い炎

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 リッキー達、都市の警ら任務班の者で都市外壁の抜け道を埋め、その上から色々な重しを置いて完全に塞いだ。
 応急処理ではあるが、モンスターも此処から侵入しようとは思わなくなるに違いない。
 そう考え、集まった皆が持ち場に戻ろうとした時、異変が起きた。
 
 最初に気づいたのは絶対勘の持ち主、ミウリだった。
 急に、なにか嫌な予感がし、振り返った時に発見したのだ。

「何か!湧いて出てきているよ!!」

 悲鳴にも似た声を挙げるミウリ。
 その様子に皆驚き、振り返る。
 なにか水の様な物が塞いだ重しの隙間から染み出してきていた。 

 ミウリにはそれが何なのかは判らないが、とても危険なものと直感が告げていた。

 直感が叫ぶ、逃げろ!兎も角逃げろ!と。

 しかし、直感よりの警告も恐怖で脚が竦んで役に立たなかった。

「スライムか!」

 ムッツがポーチから薬品を取り出す。
 それは解毒のポーションだった。
 理由はよくわからないがスライムには解毒のポーションが良く効くのである。
 スライムの粘体の維持に必要な物質が毒物で解毒薬で無効させると粘体が維持できなくなるのでは無いか、単に解毒薬自体がスライムにとっての毒なのだ、とか色々な事が言われているが、真偽は定かではない。
 それを検証する暇人がいないからだった。

「ダメ!投げないで!!逃げて!みんな逃げて!!」

 ミウリの叫びに、ムッツが動きを止めた。

「ミウリ!どうしたんだ!?」

 ワトルーが取り乱しているミウリを宥めようとするが、ミウリは只々逃げる様に叫ぶだけだった。

 やがてスライムが3匹完全に姿を現した。
 この場に居る者の人数からすれば、スライムがいくら物理攻撃が効きにくいモンスターとは言え問題はない。
 油を撒きレトリーの魔法で燃やすことも出来るし、解毒薬でもいい。スライム3匹を危険視してる者はこの場にミウリ只一人だった。

『絶対勘の持ち主ですか』

 声がした。
 悍しい声だった。
 その一声で、この場にいる全員がまるで蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまったのである。

「ス、スライムが……喋った……」

 リッキルトの呟きもかすかに口が動くにとどまり、音にはならなかった。

 スライムは蠢き形を変えていった。
 形は徐々に人形に、透明だった色も徐々に暗い灰色に染まっていく。
 3匹のスライムだったモノは人になった。
 厳密には人に見えるモノである。
 中央に立つは黒いスーツを着用し姿勢の正しい貴族のように見えた。
 ただし、肌は暗い灰色で人間の肌の色では在り得なかった。
 口も歪に裂け、その目に黒目は無かった。
 黒髪は髪なのか闇なのか、触れれば吸い込まれてしまいそうだ。
 男の両隣では、2匹の異形が男に跪いている。
 肌は中央の男と同じ暗い灰色であるが、赤い目とくちばし、額に2本角を持ち、背中に蝙蝠のような羽が生えている。
 
 この場に居る誰もが恐怖のあまり何も考えられなくなった。
 動く事も、しゃべる事も出来ない。
 目の前に居るモノは死だ。
 それだけはこの場にいる誰もが判った。

「ふむ、侵入し、内から恐怖を与えるつもりだったのだが…早速見つかるとは我々も運がない」

 男は同情を請うかのように肩をすくめて見せるが、男が動くこと自体が恐怖を振りまく効果しか無い。

「この場にいるゴミを処分して無かった事にしては如何でしょうか?」

 左右のどちらかの異形の提案かは判らないが、その提案に中央の男は楽しそうに笑った。

「ただ殺すのも芸がない。そうだな、グールに変えて街を襲わせても面白いと思わないか?」

「た、助けて! 助けてお姉ちゃん!!」

 男の下衆極まりないプランにミウリは祈りの叫びを上げる。
 この脅威に対し、ミウリの指輪は機能しなかった。
 これは単に魔法の発動条件が直接的な被害を受けそうになった場合だった為、精神的にいたぶる様な行為には反応しないからだ。

「実に心地よい叫びだ。うん。いいことを思いついたぞ。その姉とやらに我々を攻撃する機会を与えてやろう。」

「その姉をぶち殺し、もっといい悲鳴を上げさせようということですね。実に素晴らしいお考えです」

「そうだろう、そうだろう」

 中央の男が満足げに笑う。

「小娘!お前が助けを求めた姉とやらを呼ぶことを許そう。特別に攻撃をすることを許そうじゃないか」

「!……」
 
 ミウリは自分がミリーを巻き込んでしまった事に気づいた。
 そして心の逃げ場が無くなってしまった。

<お姉ちゃん!ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!>

 ミウリの心が壊れそうになった時、のんきな声が聞こえてきた。

「へえ、攻撃させてくれるなんて心が広いねえ。じゃお言葉に甘えて遠慮なく」

 その言葉にその場に居た全員が呪縛から解かれたかの様にへたり込んだ。
 実際、その言葉は魔力を帯びていて、皆を心の呪縛から開放したのだった。

 男は声の主に目を向けようとしたが出来なかった。
 それは驚いた為だ。
 突如、左右に控えた異形の悪魔が一瞬のうちに燃え尽きた。
 燃え尽きる瞬間、男には青い炎が見えた。
 
「今のは!?何処だ!」
 
 今までの余裕が無くなった男は見渡してみるが、それらしき敵は発見出来ない。

「知らなくてもいいよ。じゃ!バイバイ!」

 周囲に恐怖を振りまいた男は最上位悪魔だった。
 従えた異形も中級悪魔だ。
 その最上位悪魔がなにも出来ず、自らが未知の恐怖に囚われ、一瞬の内にその邪悪な魂まで燃やされた。
 悪魔は死ぬ際に一瞬だけ自らの体が青い炎を纏ったのが見えた。
 見えたが、あまりに一瞬のことだった。
 悪魔達はミリーを視認出来ず燃え尽きたのだった。

「え?」

 一瞬の出来事にミウリは事態が理解できなかったが、とにかく危機が去ったことだけは判った。

「ミウリ、よく頑張ったね。気をひいてくれたお陰で間に合ったよ」

 頭上からの声にミウリが見上げると、ミリーが空から降りてくるのが見えた。
 ミリーの背中には光る羽が生えていて、まるで天使の様に……

<あれ?おかしいな?何故かそう思えない>

 そう首を傾げたのはミウリだけでは無かっただろうに違いない。

 ミリーはリッキー達には目もくれなかった。
 リッキー達もまた命が助かった安堵による放心と、実力の違いを見せつけられて、恥ずかしさにより声をかけることが出来なかった。
 
 ミリーは地上に降り立つと、ミウリを抱きしめた。
 ミウリに恐怖を残さない為だった。
 抱きしめられたミウリは安心感につつまれた為、急に体が震え出し、体から恐怖を放出する。
そして心からも恐怖を追い出すかの様にワンワン泣き出した。

 泣いて恐怖を出してしまったほうが良い。
 ミリーはその事を前生の教訓として知っていたのだ。
 (主に姉のミラに対する恐怖で)

 「ミリーって凄かったんだな」

 「ほほー、今頃気づいたのかね。ワトルーくんや」

 などと呑気な会話をしている内にミウリも泣き止んだので、ミリーはミウリを開放した。
 ミウリは恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしていた。

 その時、皆の戦っているダンジョン方向から、大きな崩れる様な音と土煙が上がった。

 その異変に都市で避難している人々も避難所から出てきて様子を伺う。

「見に行こう!」

 ワトルーが危険を顧みずに走り出した。

「まって、ワトルー!」

 ミウリもワトルーの後を追って走り出した。

「やれやれ、わんぱく共め」

 どうやらミウリの心のケアは出来たようだと安心したミリーも
のんびりと歩きだした。

 時刻は夕暮れ時に差し掛かろうとしていた。
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