妹が可愛すぎるので絶対聖女にならせて見せます。

丁太郎。

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46話 私の噂

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 その噂をアイリが聞いたのは、年が明けて暫く経った頃だった。
 その噂をアイリはシャルから聞かされた。
 最近、周囲のアイリへの態度がいつもと違うのは、その噂が原因だと知った。
 なんというか、やたらと心配される様になったのだった。

〝辺境伯令嬢リリエナスタが婚約破棄されたのは無敗の貴公子こと、実兄のダンベルハワーとの爛れた関係を知られたから〟

 姉ばかりか兄をも貶める内容の噂にアイリは心を痛め、姉リリーを心配した。
 姉はどれほど傷ついただろうか、学園で臨時講師も始めたのに学園に居られなくなってしまうかもしれないと。
 
 アイリに関していえば、幸いにもこの噂で気遣われる事はあっても悪意に晒される事はなかった。
 無敗の貴公子が妹とデキていたという噂の真実をアイリに聞きにくる者は少なくなかったがそこに悪意は無かった。
 皆、キャーキャー言いながら聞き来ていた。
 中にはアイリに詰め寄る者もいたが、SFALDのファンクラブの中でも親衛隊と言うべき者たちに守られていた。

 そもそも今回の件でアイリに悪意を向けるものは学園内には多くなかった。
 こんな噂でSFALDの活動が休止でもしたら堪らない、というのが大半の思いだったようで、アイリを心配する生徒の方が多かったのである。
 リリーの心配は杞憂に終わった。


 リリーはその噂を学園長から聞かされた。
 学園長に呼び出され、噂について教えられたのだ。
 
 「折角講義をする機会を頂きましたのに私個人の事でご迷惑をお掛けして申し訳ございません。私の処遇のご判断は学長様にお任せ致します」

 そう言い、頭を下げるリリー。
 学長はリリーの頭を上げさせた上で手を振った。

「そういう意図でお話したわけではありません。リリー先生がそもそもご婚約されていないのは以前にもお話した通り、知っていますから」

 学園長はリリーの事を『リリー先生』と呼ぶ様になっていた。

「有難うございます」

「前提が成立していないに可笑しな噂ですね。それに婚約破棄の理由については悪意を感じます」

「そう……ですね」

「そうそう、予め断っておきます。リリー先生の噂の真偽はアイリさんが聖女に相応しいかの判断には全く影響しません。聖女の選考はもっと厳粛な判断で致しておりますから誤解無きように」

「大変嬉しいお言葉。感謝申し上げます」

「リリー先生を妻に迎えたい殿方は多いでしょうから、噂でライバルを牽制したいのかもしれませんね」

「だとして、周囲を騒がしてしまうのは心苦しい限りです。私が受けもつ生徒達が肩身の狭い思いをしないか心配です」

「むしろ生徒達はリリー先生に噂の真相を聞きたくてウズウズしているでしょうね。悪意を向けられる事もあるかもしれませんが、学園としてはリリー先生への信頼は変わっておりませんよ。今日はその事をお伝えしたかったのです」

「お心遣い感謝申し上げます」

「いえ、噂ごときでリリー先生を失ってしまう訳にはいきませんから。そんな事になってしまったら学園の大損失です。理事達に私がお叱りを受けてしまいます」

 リリーは深い一礼をした。

 学長室から出てきたリリーは深いため息をつく。
 
<兄様の方は大丈夫かしら。帰ったら手を打たないとかしらね>

 しかしこの日、リリーは帰る前に特別講習で講師をしなければならなかった。
 この日の特別講習は高等位修了認定が危ぶまれる生徒向けの補習だったのだが、噂の真相に興味津々の生徒達より質問攻めにあったのは言うまでもない。


 その日の夜、ダンベルの執務室でリリーとダンベルは噂について話し合っていた。
 
「リリーの方はどうだった?」

「興味津々の生徒達の餌食にされました」

「ははは、大変だったね」

「兄様の方も大変だったのではないですか?」

「リリーの貰い手が無くなって困ってると言っておいたよ」

「どうしてです?」

 リリーは少し不満そうな表情を見せた。
 今は自分達の仲を発表出来ないのを理性では判っているが感情はそこまで物分りが良くなかった様だ。
 ダンベルはリリーを抱き寄せた。
 
「兄様。ダメです。誰かに見られたら……」

 そういいながらもリリーの目は潤み、表情はうっとりとしていた。

「鍵が掛かってるから大丈夫だよ」

 そう言ってダンベルはリリーの髪を愛おしそうに撫でだした。
 もう一方の手はリリーの腰に回されいる。
 第三者がいたなら、驚いただろう。
 兄妹間のスキンシップにしては度を超え過ぎていた。

「僕は噂の出どころをトレーニだと思っていてね。奴を油断させる必要があるから今は公表するのは我慢してほしい」

「……はい。わかっています」

「下手な動きをして、直接危害を加えに来るなんて事も避けたいし、今は静観しよう」

 騎士団の中では噂を信じる者が多かった。
 ダンベルがリリーを紹介してほしいという同僚たちの頼みを突っぱねまくっていたからだ。
 更にコアトレーニンは何かにつけ、ダンベルが孤立するように仕向けている節があった。
 噂を信じる者はコアトレーニンはユニスリー兄妹に裏切られた悲劇の男として同情し、ダンベルを影で批難した。
 ダンベルの取り巻く環境は軽口叩ける状況ではなかった。
 しかしダンベルはリリーに心配をかけまいとしたのである。

「兄様……今週末アイリが来るでしょう。アイリには本当の事を話したいの」

「ああ、そうしようか。いずれは理解してもらわないとだからね」

「はい………」

「じゃ、難しい話は此処まで。ここからは恋人の時間だ」

「……はい♡」

 2人は見つめ合い、どちらからとも無く唇を重ねる。
 それから、2人は長く深く陶酔していった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 週末、アイリにとっては久しぶりの休日。
 アイリは王都の邸宅に遊び(甘え)にきた。
 アイリは屋敷に入るなりリリーに抱きしめられた。
 その時リリーに重要な話が有ると言われ、そのままダンベルの執務室に連れて行かれた。
 そこには兄ダンベルもいた。
 アイリはダンベルよりソファーに座るよう言われ、不安そうに座る。
 アイリと相対する様にアイリの正面のソファーにリリーとダンベルが座った。

 最初に口を開いたのはリリーだった。
 
「アイリは私の噂を聞いているわよね。アイリは酷いことされたりしていない?」

 リリーの言葉にアイリは噂の真相を教えてくれるのだと思った。

「うん。でもあくまで噂だよね? それにアイリの方はむしろみんな心配してくれてるから大丈夫だよ」

「良かった……心配していたの。あの……あの、それでねアイリ、今から言うことを心して聞いてね」

「う、うん」

 噂を否定してくれると思っていたアイリはリリーの言葉に内心驚きながら相槌を打った。

「コアトレーニン様と正式な婚約には至らなかったけど、私はコアトレーニン様の申し入れを一度は受け入れ、そして白紙に戻した」

「でもそれはコアトレーニン様が裏切ったからだよね」

「すこし違うの。コアトレーニン様と隣国のご令嬢との婚約発表があった後で、コアトレーニン様から私を側妻にしたいとの申込みをされたのよ。でも私は断った」

「そんな酷い!やっぱりコアトレーニン様の裏切りだよ」

「有難うアイリ。でもね私はコアトレーニン様の婚約が発表されたと聞いた時、悲しくなかった。むしろホッとしてしまったのよ。だから私も自分の気持ちを偽って、コアトレーニン様を裏切っていたの。もちろん婚礼する前から側妻を持ちたいなんて考えのコアトレーニン様への怒りもあってコアトレーニン様の申し入れは白紙にさせてもらったのだけどね」

「お姉様……」

「リリーは自身の気持ちよりトレーニの気持ちやユニスリーの事を思って応じてしまったんだろう。自分を責めないでくれ」

 今まで黙っていたダンベルがリリーを気遣った。
 その言葉にリリーはダンベルに微笑んだ。

<あれ?>

 リリーとダンベルの間の雰囲気がいつもと違う事にアイリは気付いたが、言葉にすること無く2人の言葉を待った。

「それで婚約破棄の理由が私と兄様が爛れた関係という噂なのだけど……あながち嘘ではないの」

「え……」
 
 驚きの声をあげるアイリ。姉の言葉が信じられず思考が完全に止まってしまった。

「あ、ごめんなさい。兄様と実際そういう仲ではないのよ。婚約破棄の理由だなんて、正式に婚約すらしていないのに根も葉も無いことよ」

「それじゃ、どういうことなの?」

 アイリはゴクリと息を飲んだ。
 これから言うことがリリーの本題だろうことはアイリにもわかった。

「驚かないでね」

「うん」

 リリーには躊躇いがあった。
 言ってしまえば後戻り出来ない。
 アイリに否定されるかもしれない。
 しかし、最愛のアイリに否定されたとしてもダンベルと添い遂げる意志に変わりはない。
 リリーは覚悟を決めた。

「私、兄様の事を一人の男性としてお慕いしているの」

「僕もリリーを一人の女性として愛している」

 しばしの沈黙。
 アイリは驚いた表情をしたが、やがて2人の真剣な眼差しを交互に見た。
 そして……

「素敵! 誰が何と言っても私はお姉様とお兄様の味方だよ。応援するからね!」

 アイリはニッコリ笑ってそう言ったのだった。
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