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103 シエルとアルシエ
しおりを挟む俺達はシエルの住むホワイト家の屋敷にお邪魔していた。
最後の一時間で拾った五個の≪エメラルド≫を見せて、クエスト達成の報告の為だ。
「ほんとに一日で採ってきたんですか!? しかもこんなに沢山……すごい、すごいですよナガマサさん!」
「それだけ採れたのはまぁ偶々ですし、報酬も一部前払いしてもらってますから」
「これのお礼だからね!」
シエルのテンションはすごく高い。
プレゼント用の宝石がすぐに手に入って嬉しいんだろう。
俺の手を取って、ぶんぶん上下させるくらいには喜んでいる。
前払いでミニクラウンを譲ってもらったからな。
今日中に達成出来て良かった。
タマもミニクラウンのお礼のつもりで張り切っていたようだ。可愛い奴め。
「依頼だと一つだったと思いますが、どうしますか?」
「支障が無ければ全て買い取らせて下さい!」
「いいですよ」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
予想通りだ。
五個あったら五個欲しがるだろうと思った。
ミルキーやタマとはもう話し合って、欲しがるだけ渡すことに決めてある。
「それじゃあ僕はこれを持って腕の良い職人のところへ――そうだ、その前にアルシエちゃんの神のような髪を拝んでから行きます。一緒に行きましょう!」
突然立ち上がったシエルは唐突すぎるお誘いをしてきた。
まずい、報告だけだと思って油断してた。
「え、いや、俺はいいです。一人で行ってきてください」
「まぁまぁそんなこと言わずに、あの美しさの極みのような緑を一緒に愛でましょうよ」
「うわ、振りほどけない!」
断ってみたが聞く気はないらしい。
俺の腕を掴んで引っ張り始めた。
前回と同じく謎の力が働いているのか、振りほどくことが出来ない。
強制移動のようだ。
「い、いってらっしゃい」
「モジャモジャどこ行くのー?」
「ナガマサさんはちょっとお出かけしてくるみたいだから、少しお散歩しよっか」
「はーい」
ミルキーは既に見送る体勢だ。
この一見まともそうに見えて実はしっかりした変態と関わりたくないのは分かる。
タマも助けてはくれないらしい。
なんてこった。
シエルはずんずん歩く。
いくら踏ん張ってもその足取りに影響はない。
Strいっぱいあるんだけどなぁ!?
グリーン家の屋敷まで引っ張って来られてしまった。
時間は19時を回っていて、すっかり暗くなっている。
以前のように敷地の外から覗く分にはまだ目立たないか?
「あれ?」
シエルは普通に正面から門をくぐった。
両脇に立っている二人の兵士も止める様子はない。
もしかしてこいつ、屋敷に乗り込む気か?
「ちょっとシエルさん、これは――」
「ごめんくださーい! アルシエちゃーん!」
どういうつもりなのか聞こうとしたが遅かった。
俺の声は、ゴンゴンと扉を叩くノッカーとシエルの声にかき消されてしまう。
貴族の息子がこんなに気軽に他の貴族の屋敷に来てもいいものなのか?
同級生の家に遊びに来た、小学生くらいのテンションに聞こえるんだけど。
中から慌てたような、ドタバタという音が聞こえてきた。
そして扉が開いた。
中から現れたのは、今日の出発前にも見たアルシエだった。
「アルシエちゃん! 今日も美しい髪ですね」
「シエル様、また来たんですか」
「そのオーロラのように輝く緑の髪の為なら、何度だって来ますよ」
「む……」
「そ、そんなに怖い顔しないでください」
アルシエは感情の起伏が激しくないタイプのようだ。
まだ幼いのに、声も態度も落ち着いている。
ただ感情が出ないというわけでもなく、シエルの言葉に機嫌を悪くしているのが俺でも分かる。
もちろんシエルにも伝わっているようで、若干挙動不審だ。
「……そちらの方は?」
「ああ! こちらは、僕の依頼を受けてくださった冒険者のナガマサさんです。どうしてもアルシエちゃんにご挨拶がしたいそうなので連れてきました」
アルシエの視線がこっちへ向いた。
問いかけに対してシエルが紹介してくれるが、そんなことを言った覚えはないぞ。
「初めまして、ナガマサです」
「アルシエ・グリーンです」
アルシエのことはほとんど知らないし、気の利いた挨拶も出来ない。
そもそも俺にそんなスキルは無いんだけど。
緑色の髪は確かに綺麗だなと思ったが、シエルに散々言われて嫌になってる可能性もあるから触れないでおいた。
お互い名前だけの挨拶を交わす。
「ナガマサ様は、私のこの髪をどう思いますか?」
「えっ、あー、綺麗だと思います。シエルさんがべた褒めするのも分かる気がします」
「そうでしょう!?」
「ちょっと黙っててください」
「はい」
嫌なのかと思ったら突然の質問に驚いてしまった。
混乱してしまったが、なんとか返せた。
咄嗟のことで正直に思ったことを言ってしまったけど、これで良かったのかな。
喰いついてきたシエルはばっさり切り捨てる。
こいつはやっぱりパシオンと同じ系統だ。
つい気安くなってしまって、敬語を忘れてしまいそうになる。
「そうですか」
「……すみません。失礼かもしれませんが、お聞きしても?」
俺の解答を聞いたアルシエはどこか嬉しそうだった。
シエルの時と反応が違う気がする。
早く帰りたかったはずなのに、つい気になってしまった。
「どうぞ」
「シエルさんが髪を褒めた時と反応が違う気がしたんですが、どうしてですか?」
「それは――」
アルシエはちらっとシエルを見てから、俺の方に視線を戻した。
「お母様と同じ緑色の綺麗な髪なので、褒められると嬉しいです。ただ、シエル様に言われるのは嫌なんです」
「っがーん!!」
「なるほど」
シエルがしつこくし過ぎたのが悪かったのか?
詳しい理由は分からないが、自業自得なのは間違いないな。
「うぅ、今日は帰ります……」
「あっ、おい、ちょっとシエルさん!?」
擬音を口で言うくらいショックを受けたシエルはすっかり落ち込んでしまっていた。
そのままトボトボと門の方へと走っていく。
落ち込んでるのに地味に早いな。
止める間もなく去ってしまった。
「お騒がせしてすみません。それでは俺もこれで――」
「少し、付き合ってもらっても良いですか?」
「――え?」
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