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166 タマと出汁巻玉子

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 タマと対戦相手の竜馬が中央へとやって来る。
 俺達は避けないとな。
 と思ったら、伊達は真っ直ぐこっちを見てくる。
 何か言いたいのか?
 
「いいことを教えてやるよ。俺達は、お前らの選出を知った上で作戦を立てている。流石に詳しいステータスや戦法は分からねぇが、お前らみたいなエンジョイ勢なんかそれだけで十分だ」
「そうなんですか」

 伊達正宗は自慢げに語ってくれた。
 透明になれて、プレイヤーと視界を共有出来る相棒を放って情報収集をしていたそうだ。
 それで、俺達が順番を決める時にもいたのか。
 気付かなかったな。

「邪魔だったけどモジャの言う通り倒さなかったよ! 偉い?」
「そうだな、タマはえらいぞー」
「やったー!」
「チッ」

 タマは気付いていたようだが、俺が今日まで手を出すなと言ったから放置してたんだな。
 少し悪い事をしたかもしれない。
 目いっぱい褒めておこう。

 俺達の反応が気に入らなかったのか、伊達は舌打ちを一つして仲間達の元へ戻っていった。
 俺も戻ろう。

「タマ、頼んだぞ」
「まかしとけ!」

 野次馬が囲う広場の真ん中には、タマと竜馬だけが残される。
 装備はなんというか、普通。
 ただの服にしか見えない気もする。

 相棒が何か分からないくらい目立ったものがない。
 出汁巻玉子のように服が相棒なんだろうか。

「来い、テッカイザー!」

 竜馬が叫ぶと、上空から何かが飛来した。

「とうっ!」

 人型のそれの胸部に、竜馬が吸い込まれていった。
 そして、着地。
 高さ30mはありそうなメカメカしい巨人だった。
 あれは、ロボットか?

「あの相棒は三日月でも特に有名だねー。使い所は少し選ぶけど、その分かなり強いらしいよ」
「なるほど」

 アニメとかでもよくあるし、そういうゲームもある。
 そんな相棒がいるとは思わなかったけど。
 向かい合う姿はすごい絵面だ。
 小柄なタマと巨大ロボットって。

「はじめ!!」
「テッカイビ――」

 進行役の合図と共にロボットが動いた。
 胸を張ったまま、真っ二つに切断された腰から上が向こう側に倒れた。
 何かしようとした次の瞬間に、タマにぶった切られたみたいだ。

「な、なに、何が!?」
「えいっ」
「あっ」

 消滅したロボットの中から竜馬が転がり出てきた。
 状況を把握出来ていないようで、酷く混乱している。

 目の前に移動したタマが軽くチョップして、竜馬のHPは消滅。
 タマの頭上に勝者を意味する文字が躍る。
 痛みは無いからあっさり風味だな。

「…………はっ!? しょ、勝者、タマ!」
「わーい!」
「よーし、よくやったぞタマ!」
「流石ー!」
「タマちゃん最強かわいいー!」

 呆然としていた進行役が、慌てて勝者の名前をコールした。
 タマが飛び跳ねて喜んでいる。
 俺もみんなも、大きな声でタマを褒め称える。
 タマは嬉しそうに笑いながら帰ってきた。

 俺達とは対照的に、三日月は静かだ。
 まだ状況を呑み込めていないのかもしれない。
 野次馬も静まり返っている。

 相棒だけなんて無謀だ、みたいなこともチラホラ聞こえてたしな。
 どうだ、うちのタマは最強なんだぞ。

「だ、第二試合目、ハットリ対出汁巻玉子! 前へ!」
「竜馬殿は不甲斐ないでござる。ここは、拙者が取り返してくるでござるよ」
「お、おう、頼むぞハットリ! お前ならあいつ相手でも勝てるはずだ!」
「承知にござる」

 向こうは盛り上がってきたようだ。
 まだへたり込んでいる竜馬が急いで退かされている。

「それじゃ行って来ます」
「出汁巻さん、頑張って下さい」
「出汁巻玉子、負けることは許しませんよ」
「うす。オレも成長してるんすから、大丈夫すよ」

 ミゼルの気合いのこもった応援を受けて、出汁巻も中央へと立つ。
 三日月から出てきたハットリというプレイヤーは、正に忍者といった格好をしている。
 どんな戦闘スタイルなんだろうか。

「彼は確か、スピードと状態異常、急所攻撃に特化したプレイヤーだったと思うよ。出汁巻さんはバランス型で、単純に硬いし強いってタイプだから相性は悪いかもね」
「なるほど」
「でも彼はああ言ってたし、心配はいらないと思うよ」
「そうですね」

 選出を見られていたこともあって、相性が良いのをぶつけて来たようだ。
 俺達はともかく、出汁巻はどんなスタイルか知られててもおかしくないもんな。
 パンツ一丁で戦うのが知られてるとか、俺だったら恥ずかしくて死ぬかもしれない。

 トッププレイヤー同士の戦いとあってか、観客達の意識も戻ってきたようだ。
 勝敗や展開の予想を話し合っている。
 
 出汁巻玉子はいつか見た騎士鎧に剣と盾。
 こうして見ると普通にかっこいい。
 まさにファンタジー系ゲームの主人公って感じだ。

「はじめ!」

「先手必勝でござる! アーマーストリップ!」
「くっ!!」

 始まった瞬間、出汁巻の着ていた鎧が消滅した。
 インナーだけになってしまっている。
 一瞬自分でそうしたのかと思ったが、反応を見るにそうじゃないようだ。
 これはハットリのスキルの効果らしい。

「あらー、まずいかもしれないね」
「どうしてですか? 出汁巻さんは脱ぐほど強くなるんじゃ」
「気になって詳しく聞いたことがあるんだけど、そのユニークスキルは自分で脱がないと効果が発揮されないらしいんだ。脱がされた場合はノーカウント、強化は無いって」

 モグラの言葉は正しいようで、出汁巻はハットリの動きに翻弄されてしまっている。
 
「ふはは、無様、無様でござる! そこっ!」
「オレはこんなもんじゃないっすよ!」
「避けただと!? くっ!」

 出汁巻はハットリの短剣の突きを身体を捻って躱した。
 そして盾を投げつけて隙を作る。
 その一瞬の間で出汁巻はシャツを脱ぎ捨てた。

「ちっ、これ以上はさせぬでござる!」
「オレはなんとしてでも、脱ぐ!」

 ハットリの怒涛のような攻撃を凌ぎながら、出汁巻はズボンを脱ぎ捨てた。
 どんなセンスしてたらあんな動きが出来るのか。
 自分より素早い相手の攻撃を避けながらズボンを脱ぐとか、意味が分からない。
 今の動きも、かなり気持ち悪かったぞ。

「だしー!!」

 しかし、これで出汁巻はパンツ一丁。
 相棒である黄色いトランクス、玉子焼が解き放たれた。

 その正面には目とクチバシのような口、赤い丸のほっぺたが描かれていた。
 なんだあれ。
 将軍クワガタと戦ってた時はあんなの無かったぞ。
 もしかして自我を得た影響か?

「あれはオカメインコらしいよ。好きなんだってさ」
「オカメインコ……」

 あれが?
 出汁巻は全国のオカメインコに謝れ。

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