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251 結婚とプロポーズ
しおりを挟むいつか贈った≪太陽のネックレス≫を首に飾ったミゼルが微笑んでいる。
「――どういうこと?」
理解が追いついていなかった。
ミゼルが言った言葉はちゃんと聞こえた。
だけど意味がきちんと理解出来ない。
なんだって?
「ナガマサ様は、嫁いでくるなら歓迎してくれると、そう仰いました」
「確かに言ったけど、家を出る訳にはいかないんじゃ……?」
ミゼルは王女だ。
当然、王家の血を引いている。
兄であり王子でもあるパシオンは重度のシスコンで、誰かと結婚するとは思えない。
それはミゼルも認めていた。
だから、家を出る訳にはいかないとそう言っていた。
「ええ、確かに私はそう思っていました。ですが、ナガマサ様にああ言ってもらえたのなら、私は王家に未練はありません。国よりも、人生を捧げる相手を見つけたのです」
「ミゼル様……」
「私はもうただの村人です。ミゼル、とお呼び下さい」
俺と結婚なんて話は、政略結婚でしかないと思っていた。
ミゼルが王家を出ることはないだろうと、そう思っていた。
俺はミゼルを見くびっていたのかもしれない。
昨日の俺の自分勝手な発言で傷ついたのかと思ったら、まさか喜んで準備していたとは。
今日からこの大きくなった≪モジャの家≫に一緒に住むようだ。
護衛の姿もない。
本当に王家を出たのか?
そんな簡単に出られるものなのか?
あのパシオンが、あっさりと許すだろうか。
でも、ここまで想ってもらえるっていうのは、嬉しいな。
複雑な気持ちに浸っていると、ミルキー達が帰って来た。
あー……なんて説明しよう。
「ただいまです。ミゼルさん、上手くいきました?」
「ええ、お蔭様でばっちりですわ」
「ミゼルだー!」
「こんにちは」
「タマちゃん、葵ちゃんも、今日からよろしくお願いいたします」
「立ち話もなんですから、上がってください。ミゼルさんのお陰ですごく広くなりましたね」
「お世話になるのですからこれくらい、当然ですわ」
和やかムードだ。
呆然としてる俺を置いて皆家の中へ入って行った。
ミルキー、もしかして知ってた?
最後尾のその背中を目で追っていると、振り向いた。
笑顔。
まるでイタズラが成功した時のような、悪い笑顔だ。
あれは知ってたな。
俺もみんなの後を追って家の中へ。
今はリビングに何も無いから急いで出さないと。
ミゼルの家に設置されていた大きなテーブルとイスを配置する。
少しスペースは余るが、ウチで使ってたものよりはマシだ。
ウチで使ってたサイズのをもう一つか二つ用意する方が丁度いいだろうか。
「ナガマサさん、改めて紹介してもらってもいいですか?」
全員がイスに座ったところで、ミルキーに促された。
紹介って何をだ?
と思ったらミルキーの視線はミゼルに向いている。
なるほど。
もうこうなったら開き直ってやる。
最低な発言でも喜んでくれる人がいたんだ。
それに応えたい。
現実での常識なんて関係ない。
ここが俺の第二の人生で、ここが俺の世界だ。
ミゼルの隣に立つ。
しっかり言葉にしようと思うと恥ずかしい。
「こちらはミゼル。俺のお嫁さんになる。皆、仲良くしてあげて欲しい」
「不束者ですが精一杯努力致します。どうぞよろしくお願いします」
ミゼルが頭を下げる。
俺も一緒に頭を下げる。
みんなが拍手をしながら、お祝いの言葉を投げかけてくれる。
石華はいつの間に裏口に立ってたんだ。
みんな祝福してくれている。
勿論、ミルキーもだ。
だけどこのままでは済まさない。
本当はもう少し後にするつもりだったけど、このまま巻き込んでやる。
「ちょっとごめん」
「はい、いってらっしゃいませ」
ミゼルに断ると、微笑んでくれた。
ミゼルはいい奥さんになる。断言する。
俺が何をしようとしているのかも、分かってるのかもしれない。
ミゼルに見送られて、ミルキーの背後へやって来た。
ミルキーはイスに座ったまま、身体を捻ってこちらを向いている。
不思議そうな顔だ。
「どうしたんですか?」
「ちょっと向こう向いてて」
「本当にどうしたんですか?」
「いいからいいから」
疑問に答える代わりに、強引に前を向かせる。
皆の視線が集まっている。
あれ、これって俺も恥ずかしいんじゃないか?
いやでも、もうやるって決めたんだ。
死なば諸共。
恥ずかしい思いをしてでもミルキーを巻き込む。
そう決めた。
スキルを発動する。
こっそり取得していた≪クリエイトアクセサリー≫だ。
材料は、ストレージの中から選ぶ。
今日拾った中でも品質の高い≪ブラックダイヤモンド≫と≪銀≫を指定。
隠し味に、≪宝石の心臓≫も一個加えておく。
全てを決定してOKを押す。
光と共に、一つのネックレスが現れた。
とてもシンプルなデザインだ。
中央には宝石があしらわれている。
ミルキーの髪と同じ色の、黒い宝石≪ブラックダイヤモンド≫だ。
隠し味は見た目に影響しなかったようで、どこへいったかは分からない。
「え? な、なんですか?」
出来立てほやほやの≪新月のネックレス≫をミルキーの首に掛ける。
動揺してるが、お構いなしだ。
しっかりと装着できた。
「え、え? これは、突然どうしたんですか?」
少し後ろに下がると、ミルキーがこちらを向いた。
ネックレスを見たり、俺を見たりと忙しい。
その顔には、説明しろと書いてある。
「結婚しよう」
「――っ!?」
この世界では、プロポーズに相手の髪の色と同じ色の宝石をあしらったネックレスを贈るらしい。
以前、それを知らなかった時にミゼルには贈っている。
今ミゼルが付けているのがそれだ。
ミルキーにも、同じように渡したかった。
俺は最低な男だろうと思う。
だけど、ミゼルと結婚する前にミルキーとも結婚しておきたい。
……いやほんと、字面が酷すぎるな。
でもさっきも言ったように、ここはもう現実とは常識が違う。
一夫多妻も普通に有り得るらしい。
本人達も許可していた。
じゃあ何も問題ない。
後は俺の甲斐性だけだ。
「――――――――はい」
「やった!!」
「わっ、ナガマサさん!?」
「おめでとー!」
思わず抱きしめてしまった。
でも嬉しい。
打算的な考えもあるんだろうけど、それでも嬉しい。
ミルキーを抱きしめたままタマと一緒に空中を駆けまわるくらいには、すごく嬉しい。
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