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260 土 当日と畑仕事

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 ……朝か。
 時間は6時。いつも起きてる時間だ。
 窓からの日差しで部屋の中はすっかり明るくなっている。

「おはよう! 朝だモジャ!」
「おはよう。朝だね」

 既に元気いっぱいなタマに挨拶を返して、ベッドを降りる。
 昨日は部屋に戻ろうと思ったら、ミゼルが一緒に寝ると言い出して大変だった。
 気恥ずかしくて逃げたけどな。
 仕方ない。
 女の子と一緒に寝るなんて今まで経験が無さ過ぎて、考えただけで目の前が真っ暗になってしまう。

 いつもの服を装備して、準備完了。
 現実と違って歯磨きや顔を洗ったりしなくていいのは嬉しい。
 いい思い出が無いからな。
 必要な事だと分かっていても、出来ないという事はやっぱりストレスが溜まってしまう。

 今日はいよいよ正式リリースの日だ。
 この世界、≪カスタムパートナーオンライン≫というゲームが、ゲームとして世に出る。
 一万人の一般プレイヤーが増えるらしい。
 
 俺達は最近までそれを知らなかった。
 多分、運営は俺達のことを尊重するつもりはないんだろう。

 元々目的もよく知らないまま、自分の望みを叶える為に実験に参加したんだ。
 どういう風に扱われても、殺されるんじゃなければ文句はない。
 言いたくても言えないしな。

 それなら不安になったって仕方がない。
 俺に出来るのは、何かがあっても皆で幸せに暮らせるよう、備えておくことだけだ。

 それに、今日は葵を預かる最後の日だ。
 すっかり馴染んでたからほとんど忘れかけてたが、葵は預かっているだけだ。
 親を失って無力な葵は、形見の剣がレアだったこともあって、PKからは良いカモだった。

 親代わりのモグラがPK達への対応で追われていたから、護衛も兼ねて預かってくれと頼まれた。
 モグラの手が空けば、この家を出る。
 そもそも、もうネギを背負ったカモじゃない。
 強力な武器とスキルを携えた冒険者だ。
 
 俺が守ってあげる必要ももうない。
 ちょっと寂しいけど、一生会えなくなるわけでもない。
 一緒に狩りをしたり、ご飯に招待すればいい。

 だから、今夜はパーティーだ。
 葵が立派になったことを祝う。
 転職もしたし、盛大に祝うつもりだ。

 プレゼントも今日完成の予定だし、受け取るのが楽しみだな。

「モジャマサ、畑行かないの?」
「ああ、行くよ。準備はいい?」
「ばっちりモジャ! しゅっぱーっつ!!」

 タマが部屋を飛び出していった。
 続いて階段を下りる。
 目の前にはリビングが広がっていて、奥にはキッチンがある。
 そこには、珍しい格好をしたミゼルがいた。

 ミゼルはいつもドレスのような服を着ていた。
 王女様らしい、可愛いくてふわふわな、アニメやゲームで見たやつだ。
 しかし、目の前のミゼルは、普通だ。

 普通の村娘みたいな、ワンピースを着ている。
 長い金髪は後ろで一つに纏めて、エプロンまでしている。
 これが、奥さん……!?

「おっはよー!」
「おはようございます」
「あら、おはようございます。ミルキー様に聞いた通りこの時間に起きていらっしゃったのですね」
「畑仕事があるからね。ミルキーは?」
「先に葵ちゃんと畑の方に出掛けられましたわ」
「そっか。それじゃあ俺も行ってくるよ」
「はい、私は朝食を用意して待っていますわね。いってらっしゃいませ」

 ミゼルが微笑んでくれる。
 なんだろう。これが幸せか。

 畑では、葵がムッキーと激しい訓練を行っていた。
 すごく上達したな。
 初めて来た頃は、剣をまともに持ち上げることすら出来なかったのに。

 ミルキーは少し離れた場所で、葵を見守っていた。

「おっはよー!」
「おはよう」
「あ、おはようタマちゃん。ナガマサさんもおはようございます」

 今日が最終日ということで、葵も気合いが入っているそうだ。
 日課の畑仕事をしようとすると、ミルキーもお手伝いを申し出てくれた。

 ミゼルが朝食の準備をしてくれているから、時間が余っているそうだ。
 それだけじゃなく、前々から植えたりしたいとも思っていたらしく、準備もしていたんだとか。
 それは良い機会だということで、一緒に作業をした。

 まずは畑に好き勝手に生える結晶体を抜く。
 これが大小様々、色んな所に生えている。
 その名も雑草ならぬ雑晶。
 使い道はほとんどないが、武器を作る練習台にはなる。
 手分けして抜いたものはストレージに放り込んでおく。

 次は宝石系のドロップアイテムを細かく粉砕して畑に撒く。
 これが畑を管理してくれている巨大なイカ、≪ピンポン玉≫の栄養分になる。

 ピンポン玉のお陰で常に土はフカフカ栄養満点。水分も適度に保たれて、雑晶やイカの足、細マッチョなフルーツの成る木が生えた魔境と化している。
 すごくいい畑なんだけど、絵面だけで言えばカオス以外の何物でもない。

 宝石を粉砕する方法は簡単だ。
 日向ぼっこをしていたおろし金にドラゴンモードになってもらう。
 口の中にありったけのアイテムを詰める。
 噛み砕いてもらう。
 完成。

 タマに頼めば一瞬で撒き終わる。
 葵とムッキーはよくあの粉末が舞う中で訓練を続けられるな。
 俺だったら怯みそうだ。
 ……この世界に目潰しはあるんだろうか。

 それが終われば、収穫作業。
 画面を見れば収穫できるものは一目で分かる。
 お、一昨日植えておいたハーブも宝石化してる。しかも収穫出来る。

 これで新しいポーションが作れるな。
 問題なく育てられたし、株をもっと増やすのもいいな。

 大体ここまでが、一連の流れだ。
 いつもは細マッチョ達が手伝ってくれるが、今日はムッキーも忙しそうだし自分でやることにしたんだ。
 あんまり任せるのも味気ないからな。

 タマとおろし金、ミルキーの協力のお陰ですぐに終わった。

「それじゃあナガマサさん、私も色々植えてみていいですか?」
「いいよ。場所も、空いてるとこ好きに使っていいからね」
「ありがとうございます」

 ミルキーはお礼を言ってウインドウをいじり始めた。
 家や畑は二人のお金で買った。
 だから二人の物だ。
 お礼を言ったり俺の許可を得たりする必要も、本来はない。

 律儀だなぁ。

 ミルキーはすごい真面目な子だ。
 間違いない。
 恥じないように、俺も真面目に楽しく生きていきたい。

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