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一章 借金勇者の旅立ち
007 そんなところにいるわけもないのに~わんもあたいむ♪
しおりを挟む大通りに出ると、何やら憲兵が慌ただしく走り回っている。その中には、昨日見た執事の男性の姿もあった。
「あの、どうかなされたんですか?」
話しかけると、執事の男性は「あぁ、昨日の方ですか…。」と困ったような表情を見せて言った。
「昨日に引き続き、再びリーシャお嬢さまが朝から家出をしてしまって…。」
それにしては随分な騒ぎだ。屋敷の者だけでなく、憲兵まで駆り出されて捜索をしている。貴族の娘というものは、そういうものなのだろうか。
「今日の昼、謎の男から電話がかかってきまして…。『領主の娘は拉致させて頂いた。返してほしければ、午後の三時に領主一人で西の廃教会に来い。』と…。」
これを聞いたワタルの頭の中には、悪魔のささやきが聞こえた。領主の娘を救ったとなると、そのお礼としてかなりの大金を頂けるかもしれない。そしたら、魔王を倒すなんて面倒なことをしなくとも、借金を返済できる…。
「あの、僕も勇者のはしくれとして、お嬢様を助けるお手伝いをしてもいいでしょうか!?」
「えっ、勇者?……そんな身なりで?」
執事の質問はごく自然のものだった。銅の剣を覗けば、僕はホームレスも同様な姿である。というか、帰る家も焼け落ちて住所不定、職業も勇者とかいう仕事と言っていいのかわからない無一文。今夜の宿もないホームレスそのものであった。
「………………。いや、お手伝いしていただけるなら、ホームレスの手も借りたい現状です。」
「なんですか、その無言の間…。しかも、今決定的な言葉を口にしましたね。」
「あっ、すみません。勇者さま。ぜひ、お願いします。」
執事と別れてから、向いのホーム、路地裏の窓、こんなところにいるはずもないのにと思いながら、町中を探し回った。
「いないなぁ。ワンモアタイム探してみるか。」
結局午後の二時をまわっても、誘拐犯とリーシャの姿は見つからず、仕方なく西のはずれの廃教会へと向かうことにした。
「勇者が待ち伏せていると知られるのはまずい…。いや、僕のこの恰好なら、廃教会に住み着いたホームレスとして自然に見えるか…。自分で言っていて情けなくなるな…。」
僕は少し肩を落としながら、廃教会の中に前もって身を潜めることにした。廃教会の壊れた教壇の中に、ちょうど大人一人身を潜められる場所があった。そこに隠れて約束の時刻を待つ。
タグ:山崎まさよし One more time one more chance 名曲
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