借金勇者は、銅の剣と毒消し草を携えた

muku

文字の大きさ
8 / 28
一章 借金勇者の旅立ち

008 頬の十字傷は男のロマン

しおりを挟む

  
しばらくそのまま待っていると、廃教会の床が“ギシッ”と軋む音がした。おそるおそる覗くと、マスクを被った男二人組が、大きな黒いカバンを抱えている。
  
「へっへ、かつては勇者に邪魔をされたが、まさか再びあの貴族の娘を攫うことができるとはな…。」
  
「今回こそは、たんまり身代金を頂くぜ!」
  
見るからに小物そうな誘拐犯二人は、黒いカバンのチャックをさげた。すると、縄で身体を縛られ、猿轡を口にはめられて声を出せないリーシャが姿を現した。
  
「傷つけんなよ。大事な金の成る実だぜ。」
  
男はリーシャをカバンから出して担ぎ上げ、領主の到着を待った。
  
「おっと…、領主様の登場だぜ。」
  
廃教会の入り口の前には、領主がシルバーのジェラルミンケースを携えて立っていた。
  
「娘を…私の愛する娘を返してもらおう…。」
  
「へっ、金が先だ。そのカバンを渡しな。」
  
「ぐぬっ…。ほら、受け取るがいい。」
  
領主はジュラルミンケースを誘拐犯たちへと放り投げた。誘拐犯の一人はそのジェラルミンケースを受け取り、中身の金を確かめてから肩に担いだ。
  
「早く娘を解放してくれ…。」
  
領主の懇願するのを、誘拐犯はあざ笑うかのように言った。
  
「はっ、馬鹿野郎が。どうせ、そこの藪に憲兵やらが待機してんだろ?安全が確保された場所に着いたら、この娘を解放してやるよ。」
  
誘拐犯の言う通り、万が一に備えて憲兵は藪の中で待機していた。しかし、人質であるリーシャが解放されないため、彼らは身動きができずにいた。
  
「っじゃあな。有り難く金だけ受け取っていくぜ。」
  
強盗犯たちが立ち去ろうとしたとき、彼らの後ろにさっそうと黒い影が現れた。
  
「約束はちゃんと守らなきゃいけないって、親に教えてもらわなかったかい?」
  
見かけホームレスの勇者ワタルは、誘拐犯たちの後頭部に銅の剣で会心の一撃を見舞い、誘拐犯からリーシャを奪い去った。誘拐犯二人は意識を失い、その場にへたりと倒れて伸びている。
  
「まぁ、僕の親はそんなこと、全く教えてくれなかったけれどね…。」
  
ワタルは縛られたリーシャを腕に抱えて、彼女を縛る拘束具を外してやった。
  
「大丈夫かい?」
  
「あ…ありがとう。」
  
「君が無事でよかったよ。」
  
リーシャはワタルの気遣う言葉に、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
  
領主が駆け寄り、娘の安全を確かめた。強く抱きしめてから、ワタルに向かって深々と頭を下げた。
  
「ありがとう。なんとお礼を言えばいいだろうか。」
  
誘拐犯たちは憲兵に連行されていった。
  
「いえいえ、そんな大したことじゃないですよ。」
  
「本当にありがとう…。以前にも、勇者さまに娘を助けてもらったことがありましてね…。」
  
「あぁ、そんな話も聞きましたね。」
  
「その時は、頬に十字の傷がある勇者が助けてくださった…。どことなく、君にも似ていた気がするな。」
  
領主はワタルの顔をまじまじと見ながら言った。
  
「あぁ…それ、多分僕の兄です。」
  
ワタルは苦い記憶を思い出すかのように、顔をしかめた。
  
「えぇっ!?」
  
「僕の兄は、僕がまだ小さい頃に、ある日突然、『俺は勇者になる!』って言って出て行って以来音信不通です。ちなみに、頬の十字傷は緋村抜〇斎に憧れた兄が、自分でつけた傷です…。」
  
「……そうか。」
  
「はい…。」
  
ワタルの兄については、これ以上ワタルは何も話さなかったし、領主も尋ねようとはしなかった。
  

タグ:るろうに剣心 飛天御剣流

 ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄       _人人人人人人人人人人人人人人_
( ´∀`)< 牙突!!!!     >お気に入り登録お願いします!!<
(    ) \_____      > 応援&コメントもよろしく!!<
 | | |              ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
(__)_)
  
twitter::https://twitter.com/fy7x9ks7zyaUUQe
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...