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一学期 三章 球技大会の幕開け
026 剛田VS青葉のワンオンワン
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前半戦、一組のクラスメイトたちは、確実にそれぞれの役割を果たしてくれていた。
陸上部の俊足の鈴木、彼には“その俊足を生かして、相手守備がもどるより早く敵陣に切り込んでほしい。”という役割を与えた。
実際、鈴木へのロングパスが繋がることは少なかったが、セカンドボール(競り合いなどのこぼれ球)からいくつかシュートのチャンスが生まれたり、コーナーキックのチャンスも生まれたりした。
バレー部の高木には、“その長身を生かして、ヘディングでシュートを狙ってほしい。”という役割を与えた。コーナーキックの時はもちろん、ロングパスを高木に出し、そのままシュートを狙う場面もあった。今のところ惜しくもゴールに繋がっていないが、十分に得点の可能性はある。
運動神経がよく、おそらくサッカー経験も多少はある野球部の松坂には、“攻撃の要としてセンターフォワ―ドで、ともかく得点を狙ってほしい”と指示した。
陸上長距離でスタミナのある藤田には、ディフェンスでプレッシャーをかけ続けるよう指示し、他の面々も指示した役割をこなしている。
それでも、やはりディフェンスに定評のある池上たちのリトリート型守備から、先取点をもぎ取ることはできなかった。これまでの他のクラスとの試合を経るにつれて、彼らのリトリート守備も精度が上がってきているのだろう。
一方、剛田のワンマン攻撃も、かろうじて今のところは無失点に抑えている。
それは一重に太田くんの頑張りが大きい。太田くんが剛田と競り合い、セカンドボールを確実に俺が奪いに行く。
しかし、剛田が太田くんを押しのけ、きれいにトラップを決めた時が非常に危ない。
剛田の前に俺が立ちふさがり、一対一の勝負になる。俺が抜かれたら、うちのキーパーではまず止められないだろう。
一組のキーパーは、卓球部の沼田が担当している。
“卓球部の沼田は動体視力がいい。だからボールをよく見て身体で止めてくれ”と役割を与えたが、見えるのと止められるのは話が別だ。
剛田が前線にいる以上、俺は攻撃には参加できない。今のところ、きれいに剛田がパスを受けたのが五回。その内の三回はなんとかワンオンワンで止めることに成功しているが、残り二回は振り切られそうになってシュートまで持っていかれている。
スピードは互角だが、やはりフィジカルで強引にシュートコースをこじ開けられそうになる。ゴールの枠に入らなかったのは、俺の賢明な粘りの守備もあるが、単純な運の良さでもある。
前半終了間際、再び池上からきれいなロングパスが出た。それを剛田は太田君を押しのけ、身体に吸い付くようにキレイなトラップをきめた。
六回目のワンオンワン、すぐに俺は剛田を止めに入った。
右か、左か……。
最もやってはいけないのは、自陣ゴールの方向への突破を許すことである。
今のところ、剛田は右に大きく切り込み、フィジカルでシュートコースをこじ開けるという展開を多く狙ってきた。
剛田の利き足は右である。そのため、右に切り込んでくる確率の方が高い。再び同じ手でくるか、それとも逆をついて左に切り込んでくるか。
剛田は左足で、右側に小さく蹴り出した。まだだ……次で左側に切り返してくる可能性もある。身構えて身体に力が入った瞬間を、剛田は見逃さなかった。
剛田は右足で、ボールを俺の真正面へと蹴りだしてきたのだった。
「っ!?」
不覚だった。
俺はとっさの事に反応できず、まんまと股の下を抜かれてしまった。
剛田はこれまで左右にボールを蹴り出し、フィジカルの力で無理にシュートコースをこじ開けてきていた。そのため、左右両方へ対応できるように、俺は両足を揃えて立つスタンスを取らざるを得なかった。
このスタンスであれば、左右どちらにも素早く対応することができる。しかし、唯一対応が遅れる部分がある。
それは、自分の背を向けている後ろ方向への対応だ。
股抜きには注意をしていたが、これまで何度も左右に振られ続けたことで、股抜きへの警戒が薄くなっていた。
その弱点を見事突かれ、剛田は俺を抜き去り、文句の言いようのない風を切るシュートがゴールへと突き刺さった。
“ピピッ―”
ついに失点を許し、前半は1-0で四組がリードするという展開になった。
「すまない!最後で剛田に抜かれなければ……」
前半終了後、俺はすぐさまクラスメイト達に頭を下げた。てっきり、「偉そうに言ってたくせに、お前が抜かれてどうすんだよ!〇ねっ!」と非難が来るかと思いきや、そんな言葉は一切なかった。
「何いってんだよ。青葉のおかげで、四組とここまで戦えてるんだろ?」
「そうだぜ。俺らだって、せっかく教えてもらった役割を十分に果たせてないしな。」
「まだ後半があるだろ?こっから一気に取り戻すぞ。」
みんなから肩をポンッと叩かれ、俺は顔をあげた。
「まだやれることがあるなら教えてくれよ。」
「青葉が言ってた必勝法も、まだ残ってんだろ?」
そうだ……。必勝法ではないが、そろそろ奥の手である彼女たちが来てもいい頃である。
「おっ!四組勝ってるじゃん!」
「がんばれ~、シュート決めるカッコいいところ見せてよ!」
「応援してるよ~!」
後半が始まろうかという時、黄色い歓声が石段の上から聞こえてきた。しかし、それは俺たち一組の応援ではない。相手の四組の女子たちの応援である。
「なん……だとっ!?」
その黄色い声に、四組の男どもはあからさまにテンションをあげた。
「おぉ!女子だっ、女子が応援に来てくれたぞ!」
「おっしゃーやるぞー!」
四組の男子生徒たちは、思いがけない女子からの声援に、浮ついた気持ちのまま後半を迎えた。
陸上部の俊足の鈴木、彼には“その俊足を生かして、相手守備がもどるより早く敵陣に切り込んでほしい。”という役割を与えた。
実際、鈴木へのロングパスが繋がることは少なかったが、セカンドボール(競り合いなどのこぼれ球)からいくつかシュートのチャンスが生まれたり、コーナーキックのチャンスも生まれたりした。
バレー部の高木には、“その長身を生かして、ヘディングでシュートを狙ってほしい。”という役割を与えた。コーナーキックの時はもちろん、ロングパスを高木に出し、そのままシュートを狙う場面もあった。今のところ惜しくもゴールに繋がっていないが、十分に得点の可能性はある。
運動神経がよく、おそらくサッカー経験も多少はある野球部の松坂には、“攻撃の要としてセンターフォワ―ドで、ともかく得点を狙ってほしい”と指示した。
陸上長距離でスタミナのある藤田には、ディフェンスでプレッシャーをかけ続けるよう指示し、他の面々も指示した役割をこなしている。
それでも、やはりディフェンスに定評のある池上たちのリトリート型守備から、先取点をもぎ取ることはできなかった。これまでの他のクラスとの試合を経るにつれて、彼らのリトリート守備も精度が上がってきているのだろう。
一方、剛田のワンマン攻撃も、かろうじて今のところは無失点に抑えている。
それは一重に太田くんの頑張りが大きい。太田くんが剛田と競り合い、セカンドボールを確実に俺が奪いに行く。
しかし、剛田が太田くんを押しのけ、きれいにトラップを決めた時が非常に危ない。
剛田の前に俺が立ちふさがり、一対一の勝負になる。俺が抜かれたら、うちのキーパーではまず止められないだろう。
一組のキーパーは、卓球部の沼田が担当している。
“卓球部の沼田は動体視力がいい。だからボールをよく見て身体で止めてくれ”と役割を与えたが、見えるのと止められるのは話が別だ。
剛田が前線にいる以上、俺は攻撃には参加できない。今のところ、きれいに剛田がパスを受けたのが五回。その内の三回はなんとかワンオンワンで止めることに成功しているが、残り二回は振り切られそうになってシュートまで持っていかれている。
スピードは互角だが、やはりフィジカルで強引にシュートコースをこじ開けられそうになる。ゴールの枠に入らなかったのは、俺の賢明な粘りの守備もあるが、単純な運の良さでもある。
前半終了間際、再び池上からきれいなロングパスが出た。それを剛田は太田君を押しのけ、身体に吸い付くようにキレイなトラップをきめた。
六回目のワンオンワン、すぐに俺は剛田を止めに入った。
右か、左か……。
最もやってはいけないのは、自陣ゴールの方向への突破を許すことである。
今のところ、剛田は右に大きく切り込み、フィジカルでシュートコースをこじ開けるという展開を多く狙ってきた。
剛田の利き足は右である。そのため、右に切り込んでくる確率の方が高い。再び同じ手でくるか、それとも逆をついて左に切り込んでくるか。
剛田は左足で、右側に小さく蹴り出した。まだだ……次で左側に切り返してくる可能性もある。身構えて身体に力が入った瞬間を、剛田は見逃さなかった。
剛田は右足で、ボールを俺の真正面へと蹴りだしてきたのだった。
「っ!?」
不覚だった。
俺はとっさの事に反応できず、まんまと股の下を抜かれてしまった。
剛田はこれまで左右にボールを蹴り出し、フィジカルの力で無理にシュートコースをこじ開けてきていた。そのため、左右両方へ対応できるように、俺は両足を揃えて立つスタンスを取らざるを得なかった。
このスタンスであれば、左右どちらにも素早く対応することができる。しかし、唯一対応が遅れる部分がある。
それは、自分の背を向けている後ろ方向への対応だ。
股抜きには注意をしていたが、これまで何度も左右に振られ続けたことで、股抜きへの警戒が薄くなっていた。
その弱点を見事突かれ、剛田は俺を抜き去り、文句の言いようのない風を切るシュートがゴールへと突き刺さった。
“ピピッ―”
ついに失点を許し、前半は1-0で四組がリードするという展開になった。
「すまない!最後で剛田に抜かれなければ……」
前半終了後、俺はすぐさまクラスメイト達に頭を下げた。てっきり、「偉そうに言ってたくせに、お前が抜かれてどうすんだよ!〇ねっ!」と非難が来るかと思いきや、そんな言葉は一切なかった。
「何いってんだよ。青葉のおかげで、四組とここまで戦えてるんだろ?」
「そうだぜ。俺らだって、せっかく教えてもらった役割を十分に果たせてないしな。」
「まだ後半があるだろ?こっから一気に取り戻すぞ。」
みんなから肩をポンッと叩かれ、俺は顔をあげた。
「まだやれることがあるなら教えてくれよ。」
「青葉が言ってた必勝法も、まだ残ってんだろ?」
そうだ……。必勝法ではないが、そろそろ奥の手である彼女たちが来てもいい頃である。
「おっ!四組勝ってるじゃん!」
「がんばれ~、シュート決めるカッコいいところ見せてよ!」
「応援してるよ~!」
後半が始まろうかという時、黄色い歓声が石段の上から聞こえてきた。しかし、それは俺たち一組の応援ではない。相手の四組の女子たちの応援である。
「なん……だとっ!?」
その黄色い声に、四組の男どもはあからさまにテンションをあげた。
「おぉ!女子だっ、女子が応援に来てくれたぞ!」
「おっしゃーやるぞー!」
四組の男子生徒たちは、思いがけない女子からの声援に、浮ついた気持ちのまま後半を迎えた。
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