天使過ぎる可愛いクラスメイトと一途過ぎる可愛い後輩、どっちを選べばいいんだ!?

muku

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一学期 五章 学期末の長い一日

043 これが俗に言う修羅場というやつだろうか

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「あれ? 雪くんだ」
「……えっ?」

 声の主は、俺の心から信仰を捧げている大天使の神崎さんであった。

 神崎さんは制服姿ではあったが、学校指定の制カバンはもっておらず、彼女の愛する楽器フルートが入っているであろう黒のケースだけを手に提げていた。

「あら? 可愛い女の子と一緒だ。もしかして……彼女さん?」

 神崎さんは隣にいるちろるを眺めて、申し訳なさそうに肩をすくめて俺に尋ねた。

「ごめんね。邪魔しちゃったかな……」
「ちっ、違うから! サッカー部のマネージャーだよ」

「むぅ……」

 ちろるはご機嫌斜めな様子でこちらを見てきた。おい、何も間違ってないだろ。ジト目でこっちを見るんじゃありません。

「そうなんだ。雪くんの同級生の神崎若葉です」

 神崎さんは、ちろるに向かって会釈して自己紹介をした。

「あっ、ど……どうも。一年生の、桜木ちろるです」

 神崎さんとちろるが直接対面して言葉を交わすのは、これが始めてである。自分の好きな人と、自分を好きな人が対面しているという状態は、何だか少しハラハラする。これが俗に言う、修羅場って奴なのだろうか。

 ここは二人と面識のある俺が、会話をリードするべきだろう。

「か、神崎さんは、今からどこか行くのっ?」

 めっちゃ声が上ずった。しかし、神崎さんは特に気にしない様子で、俺の質問に答えてくれた。

「うん。今から、フルートのレッスンを受けにいくんだ」
「フルートのレッスン?」

 俺は神崎さんのその言葉に少し驚いた。どうやら一度家に帰って、楽器以外の荷物だけおいてきたのだろう。

「うん。もっと上手くなりたいからね! だから、いっぱい練習しなくちゃ。それじゃ、レッスン遅れちゃうから、またね~!」

 そういうと、神崎さんは手をひらひらと振って去っていった。

「……ねぇ、先輩」
「どした?」

「やっぱり、あの神崎さんって人のこと……好きなんですか?」
「っはぁ!? おまっ、何いってんの!?」

 ちろるの言葉は、決してからかうような声音ではなかった。普段は聞かない、どこか少し憂いを含んだ寂しそうな声だ。

 そしてこれは……尋ねるというよりも、どこか確信をもった確認という方が正しかった。

「別に隠さなくたっていいですよ。……先輩の事、ずっと見てる私が、気づかないわけないじゃないですか」

 彼女の言葉には、彼女自身にも止められないほどの、切実な思いが込められていた。

「私は、どうしたら……いいですかね」
「……ちろる」

「私……、先輩にとって迷惑になってないですかっ? 私が告白したせいで……、先輩を悩ませたりしていませんかっ!? 一緒にいない方がいいんじゃないですかっ!?」

 ちろるは不安そうな顔で、前のめりになりつつ矢継ぎ早に尋ねてきた。

「ちろる……落ち着いて……」

「――――落ち着けませんよっ!!!」

 それはちろるが今まで見せた事のない大きな声だった。カップルの痴話げんかだと、駅前を通る人々はちらちらと俺たちを眺めた。

「あんな可愛い子に、下の名前で呼ばれてるしっ、あんな慌てた先輩の姿……私の前では見せてくれないじゃないですかっ! 私だって、そんなの目の前で見せられたらっ……焦っちゃいますよっ!」

 ちろるの目には大粒の涙が溜まり、彼女の声は震えていた。

「……そう……だよな。」

 確かにちろるの言う通り、俺は神崎さんのことが好きで、それはもうどうしようもない事実だ。ちろるに告白されてから二週間ほど経過するが、俺は彼女の好意に甘えて、未だ返事も保留したままになっている。

 どうしたらいいのだろう。自分に一生懸命好意を示してくれるちろるに、俺はもうこんな辛そうな顔をしてほしくない。

 だったら、今ここでちろるの告白の返事をするべきだろう……。それが正しい選択のはずだ。

 ちろるに最初告白された時、俺には返答ができなかった。本当に心から好きな人がいる。しかし、目の前には本当に心から好きでいてくれる人がいる。

 ただただ困惑していたあの状況で告白の返事をすることは、俺は正しい事ではないと考えた。

 ならば、今の俺の気持ちは一体どうなのだろう。告白されるまでは、ただ中学が同じで、面倒見がいい元気な後輩としか思っていなかった。しかし、短い期間ながらも、俺のちろるに対する気持ちは変化があったことに間違いない。

 そしてそれは……間違いなく、彼女への好意の芽生えだった。

「俺は……ちろると一緒に過ごしている日常が楽しい。」

「……え?」

 俺の突然の言葉に、ちろるはきょとんとした顔になった。それでも構わず、俺は今自分が思っている気持ちをそのまま伝えることにした。それが、必死に頑張ってくれる彼女に、誠実に応えるということだと思った。

「この間の球技大会で、自分らしくないと思うほどに頑張れたのも、お前の言葉がきっかけだ。ちろるの言動にドキッとだってするし、幸せそうなちろるの顔を見ていると、こっちも幸せを感じる。」

「雪ちゃん先輩……? 何言って……」

 俺は今この場で、ちろるに告白の返事をする。以前まで、それはとても難しいことだと考えていたが、今ならきっと正しい選択を選べるはずだ。
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