43 / 121
一学期 五章 学期末の長い一日
043 これが俗に言う修羅場というやつだろうか
しおりを挟む
「あれ? 雪くんだ」
「……えっ?」
声の主は、俺の心から信仰を捧げている大天使の神崎さんであった。
神崎さんは制服姿ではあったが、学校指定の制カバンはもっておらず、彼女の愛する楽器フルートが入っているであろう黒のケースだけを手に提げていた。
「あら? 可愛い女の子と一緒だ。もしかして……彼女さん?」
神崎さんは隣にいるちろるを眺めて、申し訳なさそうに肩をすくめて俺に尋ねた。
「ごめんね。邪魔しちゃったかな……」
「ちっ、違うから! サッカー部のマネージャーだよ」
「むぅ……」
ちろるはご機嫌斜めな様子でこちらを見てきた。おい、何も間違ってないだろ。ジト目でこっちを見るんじゃありません。
「そうなんだ。雪くんの同級生の神崎若葉です」
神崎さんは、ちろるに向かって会釈して自己紹介をした。
「あっ、ど……どうも。一年生の、桜木ちろるです」
神崎さんとちろるが直接対面して言葉を交わすのは、これが始めてである。自分の好きな人と、自分を好きな人が対面しているという状態は、何だか少しハラハラする。これが俗に言う、修羅場って奴なのだろうか。
ここは二人と面識のある俺が、会話をリードするべきだろう。
「か、神崎さんは、今からどこか行くのっ?」
めっちゃ声が上ずった。しかし、神崎さんは特に気にしない様子で、俺の質問に答えてくれた。
「うん。今から、フルートのレッスンを受けにいくんだ」
「フルートのレッスン?」
俺は神崎さんのその言葉に少し驚いた。どうやら一度家に帰って、楽器以外の荷物だけおいてきたのだろう。
「うん。もっと上手くなりたいからね! だから、いっぱい練習しなくちゃ。それじゃ、レッスン遅れちゃうから、またね~!」
そういうと、神崎さんは手をひらひらと振って去っていった。
「……ねぇ、先輩」
「どした?」
「やっぱり、あの神崎さんって人のこと……好きなんですか?」
「っはぁ!? おまっ、何いってんの!?」
ちろるの言葉は、決してからかうような声音ではなかった。普段は聞かない、どこか少し憂いを含んだ寂しそうな声だ。
そしてこれは……尋ねるというよりも、どこか確信をもった確認という方が正しかった。
「別に隠さなくたっていいですよ。……先輩の事、ずっと見てる私が、気づかないわけないじゃないですか」
彼女の言葉には、彼女自身にも止められないほどの、切実な思いが込められていた。
「私は、どうしたら……いいですかね」
「……ちろる」
「私……、先輩にとって迷惑になってないですかっ? 私が告白したせいで……、先輩を悩ませたりしていませんかっ!? 一緒にいない方がいいんじゃないですかっ!?」
ちろるは不安そうな顔で、前のめりになりつつ矢継ぎ早に尋ねてきた。
「ちろる……落ち着いて……」
「――――落ち着けませんよっ!!!」
それはちろるが今まで見せた事のない大きな声だった。カップルの痴話げんかだと、駅前を通る人々はちらちらと俺たちを眺めた。
「あんな可愛い子に、下の名前で呼ばれてるしっ、あんな慌てた先輩の姿……私の前では見せてくれないじゃないですかっ! 私だって、そんなの目の前で見せられたらっ……焦っちゃいますよっ!」
ちろるの目には大粒の涙が溜まり、彼女の声は震えていた。
「……そう……だよな。」
確かにちろるの言う通り、俺は神崎さんのことが好きで、それはもうどうしようもない事実だ。ちろるに告白されてから二週間ほど経過するが、俺は彼女の好意に甘えて、未だ返事も保留したままになっている。
どうしたらいいのだろう。自分に一生懸命好意を示してくれるちろるに、俺はもうこんな辛そうな顔をしてほしくない。
だったら、今ここでちろるの告白の返事をするべきだろう……。それが正しい選択のはずだ。
ちろるに最初告白された時、俺には返答ができなかった。本当に心から好きな人がいる。しかし、目の前には本当に心から好きでいてくれる人がいる。
ただただ困惑していたあの状況で告白の返事をすることは、俺は正しい事ではないと考えた。
ならば、今の俺の気持ちは一体どうなのだろう。告白されるまでは、ただ中学が同じで、面倒見がいい元気な後輩としか思っていなかった。しかし、短い期間ながらも、俺のちろるに対する気持ちは変化があったことに間違いない。
そしてそれは……間違いなく、彼女への好意の芽生えだった。
「俺は……ちろると一緒に過ごしている日常が楽しい。」
「……え?」
俺の突然の言葉に、ちろるはきょとんとした顔になった。それでも構わず、俺は今自分が思っている気持ちをそのまま伝えることにした。それが、必死に頑張ってくれる彼女に、誠実に応えるということだと思った。
「この間の球技大会で、自分らしくないと思うほどに頑張れたのも、お前の言葉がきっかけだ。ちろるの言動にドキッとだってするし、幸せそうなちろるの顔を見ていると、こっちも幸せを感じる。」
「雪ちゃん先輩……? 何言って……」
俺は今この場で、ちろるに告白の返事をする。以前まで、それはとても難しいことだと考えていたが、今ならきっと正しい選択を選べるはずだ。
「……えっ?」
声の主は、俺の心から信仰を捧げている大天使の神崎さんであった。
神崎さんは制服姿ではあったが、学校指定の制カバンはもっておらず、彼女の愛する楽器フルートが入っているであろう黒のケースだけを手に提げていた。
「あら? 可愛い女の子と一緒だ。もしかして……彼女さん?」
神崎さんは隣にいるちろるを眺めて、申し訳なさそうに肩をすくめて俺に尋ねた。
「ごめんね。邪魔しちゃったかな……」
「ちっ、違うから! サッカー部のマネージャーだよ」
「むぅ……」
ちろるはご機嫌斜めな様子でこちらを見てきた。おい、何も間違ってないだろ。ジト目でこっちを見るんじゃありません。
「そうなんだ。雪くんの同級生の神崎若葉です」
神崎さんは、ちろるに向かって会釈して自己紹介をした。
「あっ、ど……どうも。一年生の、桜木ちろるです」
神崎さんとちろるが直接対面して言葉を交わすのは、これが始めてである。自分の好きな人と、自分を好きな人が対面しているという状態は、何だか少しハラハラする。これが俗に言う、修羅場って奴なのだろうか。
ここは二人と面識のある俺が、会話をリードするべきだろう。
「か、神崎さんは、今からどこか行くのっ?」
めっちゃ声が上ずった。しかし、神崎さんは特に気にしない様子で、俺の質問に答えてくれた。
「うん。今から、フルートのレッスンを受けにいくんだ」
「フルートのレッスン?」
俺は神崎さんのその言葉に少し驚いた。どうやら一度家に帰って、楽器以外の荷物だけおいてきたのだろう。
「うん。もっと上手くなりたいからね! だから、いっぱい練習しなくちゃ。それじゃ、レッスン遅れちゃうから、またね~!」
そういうと、神崎さんは手をひらひらと振って去っていった。
「……ねぇ、先輩」
「どした?」
「やっぱり、あの神崎さんって人のこと……好きなんですか?」
「っはぁ!? おまっ、何いってんの!?」
ちろるの言葉は、決してからかうような声音ではなかった。普段は聞かない、どこか少し憂いを含んだ寂しそうな声だ。
そしてこれは……尋ねるというよりも、どこか確信をもった確認という方が正しかった。
「別に隠さなくたっていいですよ。……先輩の事、ずっと見てる私が、気づかないわけないじゃないですか」
彼女の言葉には、彼女自身にも止められないほどの、切実な思いが込められていた。
「私は、どうしたら……いいですかね」
「……ちろる」
「私……、先輩にとって迷惑になってないですかっ? 私が告白したせいで……、先輩を悩ませたりしていませんかっ!? 一緒にいない方がいいんじゃないですかっ!?」
ちろるは不安そうな顔で、前のめりになりつつ矢継ぎ早に尋ねてきた。
「ちろる……落ち着いて……」
「――――落ち着けませんよっ!!!」
それはちろるが今まで見せた事のない大きな声だった。カップルの痴話げんかだと、駅前を通る人々はちらちらと俺たちを眺めた。
「あんな可愛い子に、下の名前で呼ばれてるしっ、あんな慌てた先輩の姿……私の前では見せてくれないじゃないですかっ! 私だって、そんなの目の前で見せられたらっ……焦っちゃいますよっ!」
ちろるの目には大粒の涙が溜まり、彼女の声は震えていた。
「……そう……だよな。」
確かにちろるの言う通り、俺は神崎さんのことが好きで、それはもうどうしようもない事実だ。ちろるに告白されてから二週間ほど経過するが、俺は彼女の好意に甘えて、未だ返事も保留したままになっている。
どうしたらいいのだろう。自分に一生懸命好意を示してくれるちろるに、俺はもうこんな辛そうな顔をしてほしくない。
だったら、今ここでちろるの告白の返事をするべきだろう……。それが正しい選択のはずだ。
ちろるに最初告白された時、俺には返答ができなかった。本当に心から好きな人がいる。しかし、目の前には本当に心から好きでいてくれる人がいる。
ただただ困惑していたあの状況で告白の返事をすることは、俺は正しい事ではないと考えた。
ならば、今の俺の気持ちは一体どうなのだろう。告白されるまでは、ただ中学が同じで、面倒見がいい元気な後輩としか思っていなかった。しかし、短い期間ながらも、俺のちろるに対する気持ちは変化があったことに間違いない。
そしてそれは……間違いなく、彼女への好意の芽生えだった。
「俺は……ちろると一緒に過ごしている日常が楽しい。」
「……え?」
俺の突然の言葉に、ちろるはきょとんとした顔になった。それでも構わず、俺は今自分が思っている気持ちをそのまま伝えることにした。それが、必死に頑張ってくれる彼女に、誠実に応えるということだと思った。
「この間の球技大会で、自分らしくないと思うほどに頑張れたのも、お前の言葉がきっかけだ。ちろるの言動にドキッとだってするし、幸せそうなちろるの顔を見ていると、こっちも幸せを感じる。」
「雪ちゃん先輩……? 何言って……」
俺は今この場で、ちろるに告白の返事をする。以前まで、それはとても難しいことだと考えていたが、今ならきっと正しい選択を選べるはずだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった!
……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。
なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ!
秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。
「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」
クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない!
秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる