天使過ぎる可愛いクラスメイトと一途過ぎる可愛い後輩、どっちを選べばいいんだ!?

muku

文字の大きさ
56 / 121
夏休み 二章 花火大会

008 妹をこれからも末永くよろしくお願いします

しおりを挟む
花火大会の会場付近に着く頃には夕日は沈み、夏らしい淡い紺色が夜空に広がっていった。

 さらに夜の帳が下りて闇が深まるにつれ、夜店の幻想的な灯りは強さを増し、濃くなっていく。明かりに魅了されて集まるのは、虫だけでなく人も同じらしい。夜店の周辺は、人々の喧騒で賑わっていた。

 俺は時計の時刻を確認した。花火が始まるのは夜の八時からだ。

「まだ花火までは時間あるから、夜店でも見て軽くご飯食べるか。」

 俺のその言葉に、ちろるはふと思い出したように短い声をあげた。

「あっ、そういえば! 賭けは私の勝ちですね。」
「賭け?――あぁ、晴れ女VS雨男みたいなあれか。」

 今日の午前中、部活をしている時の空は雨が降りそうなくらいの曇天だった。そこで雨男の俺と、晴れ女のちろるで、夜の花火大会の天候がどうなるかを賭けていたのだった。

「さて、何を奢ってもらいましょうかね~」

 ちろるは、久々に散歩に連れ出してもらえた犬のように、俺の浴衣の袖を引っ張り、夜店の列をあちこち行ったり来たりした。

「やっぱり、お祭りといえばたこ焼きですかね~、でもリンゴ飴も捨てがたいし、焼きそばも美味しそうだなぁ~」

「なぁ、ちろるん……もう全部買ってやるから、落ち着いて食べようぜ。」

「えっ! いいんですか!? 雪ちゃん先輩、太っ腹~!」

 お小遣いは限られているものの、これ以上ふらふら歩き回るのはよろしくない。

「お腹もすいたし、慣れない下駄で歩き回って、足が擦れて痛くなっても困るだろ。」

 そう言うと、ちろるは少し驚いたような表情で俺の顔を眺めた。

「雪ちゃん先輩って、意外とそういうところ気が回るというか、できる男って感じですよね。先輩のくせにって……なんかちょっと腹立ちますけど。」

「……なんで腹立つんだよ。俺は口うるさい母と姉妹から、日ごろから女性の扱い方を厳しく言われているからな。意外と気が利くところもあるんだよ。」

 家族で恋愛ドラマなんかを観ていても、「こんな男有り得ないわっ!」と女性目線での恋愛観や、「男はこうあるべきよ!」といった正しい男性像を、家の女性陣三人はよく語っている。そんな彼女たちに、コーヒーを淹れて、お茶菓子を出してあげる父の背中を見て育った。

「そういえば、今日は風花ちゃんは来てないんですか?」
「風花は今日、中学の友達と行くって言ってたから、どこかで会うかもな。」

 夜店でいざ買おうと思ったものの、ちろるんが何を買うか迷っている間に、店の列はかなり長蛇になってしまっていた。

 二人で一緒に並んでいては、ゆっくり買ったものを食べる時間はないし、最悪花火大会に間に合わない可能性もある。そこで俺は焼きそばとたこ焼きを、ちろるんはリンゴ飴を買うために一時的に別々で行動し、買い物が終わり次第、集合場所を決めて落ち合うことにした。

「っじゃあ、またあとでな。」
「はい、迷子にならないように気を付けてくださいね。」

 それはこっちの台詞である。念のため、集合場所はりんご飴の屋台のすぐ傍にある公衆トイレと決めておいた。

 これならちろるがりんご飴を買った後、俺が焼きそばとたこ焼きを買っているのを待つ間、ちろるんがお手洗いに行きたくなっても、トイレを探して迷子になることもない。トイレには女性客が列をなしているので、もしナンパに絡まれても誰かしらが助けてくれるはずだ。

「よし、あとはたこ焼きを買って戻るか」

 焼きそばを購入し、たこ焼きの屋台へと向かおうとした時、俺の背後から「お兄ちゃんじゃん!」と呼ぶ声が聞こえた。

 噂をすれば何とやら……振り返ってみると、そこには家の末っ子である天真爛漫な妹……風花の姿があった。

「うわっ、びっくりした。」

「あれ? お兄ちゃん……。一人で花火大会とか……まじ卍だわ。こんな寂しい兄を持った私が悲しすぎて泣けてくるんだけど……。」

 まじ卍の意味はわからないが、おそらく今のは、俺を非難する意味なのだろう。

「そこはせめて、哀れなお兄ちゃんに同情して泣いてくれないか? ってか、一人で来てないから。」

「そうなんだ。ちなみに――誰ときてんの?」
「……ちろるんだけど。」

 そう答えると、風花は「ふっふ~ん。そうか、そうか~」と鬱陶しい笑みをこぼした。

「っで、何で一人でいるの?」

「さっきまで一緒にいたけどな。店の列が長いから、手分けして買い物して、この後合流することになってる。」

「花火大会で女の子一人にするとか、男としてまだまだだね。ねぇ、えりりん?」

 風花はそう言って、後ろにいる黒髪を長く伸ばした少女に同意を求めた。

「えっ……? うーん……。どう……なんだろ。」

 唐突に話を振られ、えりりんと呼ばれた少女は、困惑した表情を見せた。

「絵梨ちゃん、久々だね。」
「ご無沙汰……してます……。」

 この見るからに大人しそうな少女は、黒瀬絵梨くろせえりという名の風花と同じクラスの友達である。風花とは中学二年生の時に起きた”ある出来事”から仲良くなったらしく、たまに家にも遊びにくるので俺とも一応の面識がある。

「いつも風花のお世話をしてもらって、ありがとうね。」
「いえ……、いつも……風ちゃんには、色々……助けてもらってます。」

「学校という厳しい社会の中を、私とえりりんはお互いに助け合って生きてるんだよ。えりりんと私はズッ友だからね。」と風花は屈託なく絵梨ちゃんに笑いかけた。

「ありがとう……、風ちゃん……ずっと友達でいようね。」と絵梨ちゃんもまた微笑んだ。

 そんな二人の様子を見ていると、絵梨ちゃんも以前より明るくなったように感じられた。そして随分と風花も丸くなったものだ。

 二人の過去の出会いに関しては俺もあまり詳しくは聞いていないが、クラス内でいざこざがあった事と、その渦中に絵梨ちゃんが巻き込まれた際、風花の存在が助けになったという事だけは聞いている。

「絵梨ちゃん。最近、風花は学校で馬鹿なことしてない?」

「え……? そう……ですね……。とりあえず……先生に呼び出されるようなことは、減ったと思います……。」

「ちょっと、えりりん! 私大人しくしてるでしょっ!? 全然悪いことしてないってば。」

 実を言うと風花は中二の頃は反抗期の真っ盛りで、学校でもかなり色々と問題を起こしていた(今はもうかなり落ち着いているらしいが)。

 風花の言う通り、悪いことはしていないのだと俺も思う。しかし、風花は基本的に頭がよく、そして納得のいかない事があれば、真っ向から咬みついてはっきり物申すタイプだ。その点で彼女はよくも悪くも校内では目立っているようだ。

 詳しくはまた彼女たちの口から語られる時が来るかもしれないが、ともあれ過去は過去であり、今現在の彼女たちが、平和に日々を暮らしているならそれでいいだろう。

「風花は暴走しがちだから、これからも末永く妹をよろしくお願いします。」
「はい……。こちらこそ……よろしくお願いします。」

「お兄ちゃん、保護者みたいな感じ出すのやめてよね。えりりんも、私そんな暴走してないでしょ?」

「う……うー? うん……」と絵梨ちゃんは歯切れの悪い返事をした。

「何か不安になる返事だな。まぁ今日は花火大会ゆっくり楽しみなよ。絵梨ちゃんもまたお家に遊びにおいでね。」

「あ……ありがとうございます……。それじゃ……また……」
「ちろるんによろしく~。お兄ちゃん、ばいばーい。」

 仲良さ気に肩を並べて歩く二人を見送り、俺はたこ焼きを購入して待ち合わせ場所まで戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。 実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。 偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。 けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。 不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。 真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、 少し切なくて甘い青春ラブコメ。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...