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夏休み 五章 終わる夏休みと終わらない宿題
031 夫婦になれたみたいで、嬉しいです。
しおりを挟む「先輩、晩御飯どうします? よければ家で食べていきますか? 簡単なものしか用意できませんけど……。」
「えっ? もうそんな時間?」
ふと窓に目をやると、いつの間にか夕日は沈みかけ、紺碧の夜空と赤橙色の夕日が交わっていた。
ここで俺は、第一話以来である久しぶりのあれが頭をよぎった。
俺の脳内には、少し前にオ〇ギリジョーが出ていたラ〇フカードのCMのように、三つの選択肢が描かれたカードが浮かんだ。
本命、ちろるんの手料理食べてみたいし、ご相伴にあずかる。
対抗馬、いつちろるの親帰ってくるかわからないし、このまま家に帰って食べる。
穴馬、ちろると、どこか近くのファミレスとかに食べに行く。
”どうする? どーすんの? オレ? どーすんのよ!!!”
「なんか懐かしいな……。」
「へ? 何がですか?」
「あ、ごめん。こっちの話。ちょっと待ってくれるか。」
ここは男らしく、本命と行きたいところだが、いつ親が帰ってくるのかわからない。母親ならまだしも、父親の場合は最悪である。まだ付き合ってもないのに一人娘の部屋に上がり込むなんて、父親からの心証が最悪であるし、俺だって超気まずい。
しかし、せっかくご飯を食べていかないかと誘われて、このまま退散するのも何か冷たい気がするし、やはり少し心残りだ。
だとすれば――やはり穴馬の外食をするという手はどうだろうか。
俺の決断はいかに――
「そうだな――ちろるが料理作ってくれるのなら、ご相伴にあずかろうかな。」
まさかの本命、ちろるのお家で晩御飯を頂く。
「わかりましたー。晩御飯できるまで、少し待っていてくださいね。」
ちろるはすっと軽やかに腰を上げて、鼻歌をまじえながら台所の方へと消えていった。どことなく嬉しそうに見えるのは、一緒に晩御飯を食べられるからだろうか。
「……そうだ、家に晩御飯いらないって連絡しとかないとな。」
スマホを取り出し、“晩御飯食べて帰る”と家に連絡をいれ、読み終わった小説をカバンにしまった。このまま大人しく待っていようかと思ったが、手持無沙汰になってしまい、しばらくぼうっと部屋を眺めて過ごした後、俺はちろるんの手伝いでもしようかと台所へ向かった。
台所に入ると、ちろるは桜色のエプロンを身に着け、鍋の火加減を調整しながら、もう片方のコンロにかけたフライパンでチンジャオロースを炒めていた。てきぱきと動き、随分と手慣れた様子であった。
「ちろるん、何か手伝おうか?」
俺が後ろから声をかけると、ちろるはビクっと少し驚いた様子で振り返った。
「あっ……先輩。もうほぼできたので大丈夫ですよ。先輩はゆっくりお部屋でくつろいでもらってたら。」
「いや、それも申し訳ないしな。もう使いおわってる食器とかあれば洗うよ。」
そう言って、俺はシンクの中にあったボウルやまな板などを洗い始めた。
「ありがとうございます。もう少ししたらできるので待ってくださいね。」
鍋の中身を覗きこむと、中には美味しそうな肉じゃががくつくつと煮込まれていた。シンクの隅の三角コーナーには、包丁で剥いたらしいじゃがいもと人参の皮がある。綺麗に薄くむかれた皮からは、彼女の料理スキルの高さが感じられた。
ちろるは、チンジャオロースに香辛料のようなものを加え軽く炒め、さらに同時進行で水菜と白魚の入った和え物を手際よく作り上げた。それらを見る限り、ちろるんの料理の腕前は、平均女子高生の数段上をいっているようである。
「ちろるんって料理よくするの?」
「もちろんですよ。料理は私の48ある得意技の一つです!」
48という数字からは殺人技を連想するのだけど……。それを聞くだけだと、「本当に得意なのかよ。殺人的な味で得意って意味じゃないだろうな」――と訝しんでしまうが、目の前で実際に料理の腕を見せられると、ただただ感心せざるを得ない。ちろるに対する、俺の中のお嫁さんにしたいランキングが上がっていくのを感じた。
ちろるはコンロの火を止めて、皿を洗い終わった俺に目をやり少し頬を赤らめた。
「なんか……、こうやって一緒に台所で並んでたら……」
「おっと、その台詞はちょっと待った――」
これ以上のテンプレ赤面展開はもう今日はお腹がいっぱいだ。
「もう~最後まで言わせてくださいよ。気持ちはきちんと言葉にするのが大事なんですよ?」
ちろるは前髪を小指でさっとかき分けながら、途中で言葉を遮られたことに不満そうな表情を示した。
「……いや、言わなくても、ちろるが言いたいことは……何となく分かったから……///」
「……そ、そうですか……/// それなら……、大丈夫です///」
彼女の台詞の続きは予想がついた。きっと――「夫婦になれたみたいで、嬉しいです。」とか、そんな気恥ずかしい台詞だったのではないか。まぁ俺の勘違いで、全然異なる台詞が続いた可能性もあるけど、ちろるの様子を見る限りでは、その想像で間違いなさそうだった。
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