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二学期 六章 文化祭
036 サッカー部バンドライブ
しおりを挟む吹奏楽部のその後の演奏は、若者向けのアニメソングや年配者向けの歌謡曲、またコンクールで披露したというクラシックなどの演奏が続いた。
「いやぁ~素敵な演奏だったね。」
演奏終了後、言葉先輩は満足げな表情で言った。それに続いて、うちの姉貴ガチ勢の氷菓が、「そうですね。吹雪さまのソロが至極でした。」と嬉しそうに言う。
氷菓の言葉に、須崎先輩が深く頷いた。
「確かに、吹雪さんのソロは力強さと儚さを兼ね備えた、マジで心が震える音色だった。」
「おっ、話がわかるじゃないですか。」
姉貴を好きな者同士、氷菓と須崎先輩は何やら意気投合したようだ。
「吹雪ちゃんのソロもよかったけど、神崎さんのソロもよかったよね~。」
言葉先輩のその感想に、今度は神崎さんガチ勢の俺が激しく同意を示した。
神崎さんのソロは、色鮮やかなツヤツヤとした音――子供がスキップしてるように楽し気な弾むようであり、それでいて柔らかく深く響く音。まさに息をのむような美しい音色であった。
「いやぁ、最高でしたね。」
吹奏楽部の見事な演奏の余韻に浸りつつも、俺にはいつまでもこうしてはいられない事情があった。
さて――ここにいる彼らには、早く体育館から退場願わなければならない。
「っじゃあ吹奏楽の演奏も終わったことですし、皆さん……お仕事に戻りましょうか。」
俺はさりげなく切り出し、やや強引に言葉先輩と氷菓を体育館から追い出そうとした。言葉先輩と氷菓の背中を押していると、須崎先輩が余計なことを口にした。
「なぁなぁ、お前らのライブってこの後もうすぐだろ?」
須崎先輩の言葉に、氷菓と言葉先輩はぴたっと足を止めた。
「えっ、弟くん! ライブでるの!?」
言葉先輩がやや食い気味で俺に詰め寄ってきた。
「えっ、いや……その何ていうか……まぁ、一応……はい。」
「ふーん、何で隠してたのよ?」
氷菓もまた足を止め、にやにやと笑みを浮かべている。
「いや、本当にお聞き苦しいからさ……。みんな楽器初心者だし……。」
しどろもどろに話していると、月山、剛田、池上のサッカー部三人衆が現れた。どうやら彼らも吹奏楽の演奏を聞いていたらしい。
月山は俺の姿を視界にとらえ、話しかけてきた。
「おっ、こんなところにいたのか青葉……あっ、須崎先輩! お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
剛田と池上の二人も、須崎先輩に頭を下げて礼をする。須崎先輩はにこやかな笑顔で「おう、お前らのバンド期待してるからな。」と後輩たちの肩をたたいた。
「ありがとうございます! ほら、控室いくぞ青葉!」
俺はやや強引に、控室のために解放されている空き教室へと連行された。
控室の中を覗いてみたが、控室には誰もいない。
「あれ、ちろるは?」
肝心のボーカルである、サッカー部マネージャーの姿が見えない。
「うーん、体育館までは一緒に来てたんだけどな。なんかトイレ行きたいって出て行ってから……まだ帰ってきてないみたいだ。」
月山は首をひねりながら、控室の窓から外を見渡した。
「まぁちろるが来なければ、俺がボーカルをするだけだが……。」
月山の言葉に対し、池上は顔をしかめながら「それだけは阻止しないとな。」と言った。
「しかし、あと十分くらいで俺たちの出番だぞ。」
剛田は少し心配そうに言う。先ほどから落ち着きなく、何度もドラムスティックを強く握りしめたり、回したりを繰り返している。彼も緊張しているようだ。
「ちょっとそこらへん探してくるわ。」
俺はそう言って外に出ていくと、控室から近くの中庭でちろるらしき女子生徒を発見した。木陰にしゃがみこみ、どこか自信無さげな姿は、普段の元気なちろるとは別人に見えた。
「おい、そこで何してんだ。」
「……あっ、ゆきちゃん先輩。」
まずいものでも見られたかのように、はっとした顔でちろるは顔をあげた。
「もうすぐバンドの出番だぞ。」
「そっ、そうですね……。すぐいきます……。」
「……。」
やや俯きがちで、ちろるは控室の方へと向かっていく。俺は横を通り過ぎようとする彼女の腕を捕まえた。
「なぁ、もしかしてバンド出るの嫌なのか?」
「えっ? 違いますっ! そうじゃなくて……っ!」
ちろるはびくっと肩を震わせながら振り返った。少し大げさに見えるくらいの否定の仕方である。
「違うんです……。本当に、先輩方にバンド出ようって誘ってもらえたのは嬉しくて……。だけど、いざ多くの人の前に立つと思うと……。私はマネージャーとか、裏方の方が似合ってるから……。」
ちろるは肩をすくめて、自嘲するように言った。
「すごいですね、吹奏楽のみんなも、生徒会のみんなも、堂々と舞台の上に立って……ほんとすごい。あの神崎さんって人も、本当にすっごく素敵だった。大勢の前で、堂々とソロを演奏してて……。可愛くて、楽器もすごくて……参っちゃうなぁ。」
どうやらちろるは、吹奏楽部の圧倒的な演奏の後であることも相まって、随分と弱気になってしまっているようだ。
「……まぁ、ちろるんは色々と気にするタイプだから、そんなことかなとは思ったけど。とにかく――大丈夫だ。ちろるは何も不安に思う事はない。」
「うぅ……、先輩は緊張とかしないんですか?」
ちろるの問いに、俺は正直に今の自分の気持ちを答えた。
「正直言うと、お遊び程度のギターを披露するのは恥ずかしい。俺も緊張して、本番でミスりまくるかもしれない。だけどな、そもそも文化祭のバンドなんて、上手な演奏をする場所じゃないだろ。」
「えっ?」
「俺たちは自分本位に楽しんで、聴いてる人がそのついでに盛り上がればいい……くらいに考えないか。とりあえず全力でやったら、もし途中で歌詞がとぼうと、演奏が止まろうと、それでもいつかはいい思い出だったと笑えるさ。」
「そういうもの……なんですかね。」
「あぁ。まぁ芝山さんの受け売りなんだけどな。」
俺はちろるの華奢な肩を、勇気づける想いでぽんと叩いた。
「『俺らが演奏で支えるぜっ!』とか言える実力はないけど、ミスったら俺らの演奏のせいにしたらいいさ。とにかく、楽しくやろうぜ。」
「ふふっ……、そうですね。せっかく先輩たちと舞台に立てる機会なんだから、まずは私が楽しまないともったいないですね。」
ちろるはそう言ってほほ笑んだ。霧が晴れていくように、彼女の表情から不安が消えていくのがわかった。
「おーい! そろそろ出番だぞ!」
月山たちが控室から出てきた。
「おっ、我らがボーカルは見つかったか。」
池上もまたほっと安堵した様子で言う。
「すみません、先輩たちとの素敵な思い出になるように、精一杯歌わせてもらいます。」
「演奏は任せろ。」
剛田はスティックをくるっと回しながら、力強く言った。
「さぁ、行くぞ。」
舞台袖から覗くと、体育館には多くの観客がいるのが見えた。暗闇に光るステージ上には、ドラムセットにマイク、アンプなど楽器と機材類が照明の灯りに照らされている。
「よしっ、円陣するぜ! サッカー部の熱き想いを音色に……」
月山が長々とよくわからないことを言いだしたので、俺がさくっと締めることにした。
「行くぞっ!」
「はい!」
「「おう!!」」
俺の言葉に、ちろる、池上、剛田の三人が気合の籠った声で応える。
「って、お前ら! ちょっと待てよ~っ!」
そして俺たちは光輝くステージへと駆けだしていった。
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