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第二話 一人娘が妹を道連れに井戸に飛び込んで焼け死ぬ
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「あれが夢じゃないなら…僕は死んでるはずだ。」
ベッドから起き上がっても全く痛みがない。夢に違いないのだが、念のため夢の中でホームレスに刺された腹部を確認し、…そして驚愕した。
「…っ!?なんでだよっ!?」
下腹部を見た瞬間、ぎょっとした。全く持って痛みはないのだが、僕の着ていたコートと内側のシャツには、間違いなく刃物で刺されたであろう大きな穴と、黒く塊りこびりついた大量の血がついていた。
「だから夢じゃないって言ってるでしょ。あなたは昨日、ホームレスの男に刺されて死にかけてたんだから。」
白銀の頭と緋色の眼の持ち主は、そう言いながら立ち上がった。 身長は150センチくらいだろうか。白銀の銀髪が肩までたれ、雪のように白い肌、うす暗い部屋に輝く緋色の眼は少したれ眼である。神秘的にも見える美しいゴシック・アンド・ロリータな黒いワンピースに包まれた華奢なその身体は、あまりに細く中学生ぐらいの少女に見える。
「いや、もう何がなんだか全然わかんないんだけど…。君はだれ?」
銀髪の少女は、「よくぞ聞いてくれたわね。」と、いくら張っても控えめに見える大きさの胸を張って答えた。
「私の名前は、コルア・マドルチェ・アレクサンドリア。長いからコルアでいいわ。私こそは、あなたの救世主であり、三百年生きたヴァンパイアであり、あなたのご主人様であり、あなたの運命の人だよ。」
少女はくるりと回転して、白銀の髪をなびかせた。
「……………。」
もとより石造りの寒々しい部屋だが、冷たい風が吹き込んでもっと寒くなった気がした。
「っいや。…なんか言ってくれないと困るんだけどっ!」
「もう何から突っ込んでいいのやら。」
情報量が多すぎる。僕の救世主であり、ヴァンパイアであり、ご主人様であり、…最後なんて言ったっけ。
「えーっと…コルアちゃん。もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。」
「なんで急にうやうやしくなってんのよ。ちょっと可哀そうな目で見るのやめてくれる!?」
この銀髪少女はなかなかの洞察力をお持ちのようだ。僕が彼女を、容姿は素晴らしいのに残念な女の子だと思ったことをすぐに見抜いた。
「っとにかくね。私がヴァンパイアだってわかってもらえないと話進まないから!」
こんなに可愛らしく焦るヴァンパイアを僕は知らない。まぁそもそもヴァンパイアなんて見たことないし、その存在すら信じてもない。
「ところで日本には、『一人娘が妹を道連れに井戸に飛び込んで焼け死ぬ』ということわざがあるんだけど…。」
僕がそう言うと、彼女は少し首をかしげて答えた。
「一人娘が妹を道連れにできるわけないじゃない。それになんで井戸に飛び込んだのに焼け死ぬのよ。」
「まぁ要するに、そんなことはありえないって意味のことわざだ。」
「っもう!疑心暗鬼どころか、全くもって信じてないわね。わかったわよ、証拠見せてあげるわ。」
彼女はタンスの引き出しから手鏡を手に取り、僕に馬乗りになるように乗っかってきた。小柄で華奢だが、女の子らしい柔らかい感触に少しドキッとした。
「年頃の女の子がこんなことするものじゃありません。」
「ちょっと、勝手に動かないでよ。」
コルアをどかそうと試みたが、押し倒されている体勢からでは抵抗できなかった。なので自分の腕と同じくらいの細さの彼女の白い脚を掴んだ。
「何するのよ。」
「足の裏ってヴァンパイアもこしょばいのかな。」
コルアの顔色が少し青ざめるのが分かった。僕は片手で彼女の右足首を掴んで、もう片方の手で、コルアが根をあげるまで足の裏をこしょばした。
「…ごめんなさい。」
素直に謝れるところが僕の長所だ。さすがにやりすぎた。服が乱れて半泣きの彼女を見ると、第三者的に見たらどうみても僕が悪い。悪く見ると犯罪者にも見紛う状況だが、僕に幼女趣味がなかったことが僥倖だろう。
「もういいから。それより鏡見なさいよ。」
コルアは着崩れたワンピースの紐を直しながら、手鏡を白銀の小さな頭の後ろに掲げた。
「…鏡を見るって、僕の顔が映ってるだけじゃないか。……っ!?」
僕はあまり都市伝説とか怪異譚だとか、そういった知識に精通していないのだけれど、ヴァンパイアが鏡に映らぬ存在という知識は持ち合わせていた。そしてこの状況はもう、手垢がつきすぎてうんざりするほどありきたりだが、それ故に100%、彼女がヴァンパイアだと認めざるを得ない決定的な証拠になった。 本来なら彼女の銀髪の小さな頭越しに、僕の顔が見えなくてはならないはずだ。しかしそこには、確かに僕の顔だけが映ってる。
「っいや、…そんなわけが!」 もう一度、何度も、彼女の四方八方に鏡を向けて映そうとしたが、鏡が彼女の姿を捉えることはなかった。
どの角度に鏡を動かそうとも、彼女の姿は映らない。
仁王立ちする彼女の足元に鏡を差しこもうとしたところで、「もういいでしょ!」と顔を蹴られた。蹴られた際に、鏡越しでなければパンツは見えるのだ、という新たな発見があった。
「これでもう、変態さんは私がヴァンパイアってことは千石承知ね。」
「…変態じゃない。単なる科学的好奇心だ。」
「…刺されたまま放っとけばよかったかしら。」
緋色の瞳に黒味が増し、ひどく恐ろしい顔に見えた。じろりと僕をにらみながら、「話を戻すわよ。」と彼女はベッドからとび降りた。
ベッドから起き上がっても全く痛みがない。夢に違いないのだが、念のため夢の中でホームレスに刺された腹部を確認し、…そして驚愕した。
「…っ!?なんでだよっ!?」
下腹部を見た瞬間、ぎょっとした。全く持って痛みはないのだが、僕の着ていたコートと内側のシャツには、間違いなく刃物で刺されたであろう大きな穴と、黒く塊りこびりついた大量の血がついていた。
「だから夢じゃないって言ってるでしょ。あなたは昨日、ホームレスの男に刺されて死にかけてたんだから。」
白銀の頭と緋色の眼の持ち主は、そう言いながら立ち上がった。 身長は150センチくらいだろうか。白銀の銀髪が肩までたれ、雪のように白い肌、うす暗い部屋に輝く緋色の眼は少したれ眼である。神秘的にも見える美しいゴシック・アンド・ロリータな黒いワンピースに包まれた華奢なその身体は、あまりに細く中学生ぐらいの少女に見える。
「いや、もう何がなんだか全然わかんないんだけど…。君はだれ?」
銀髪の少女は、「よくぞ聞いてくれたわね。」と、いくら張っても控えめに見える大きさの胸を張って答えた。
「私の名前は、コルア・マドルチェ・アレクサンドリア。長いからコルアでいいわ。私こそは、あなたの救世主であり、三百年生きたヴァンパイアであり、あなたのご主人様であり、あなたの運命の人だよ。」
少女はくるりと回転して、白銀の髪をなびかせた。
「……………。」
もとより石造りの寒々しい部屋だが、冷たい風が吹き込んでもっと寒くなった気がした。
「っいや。…なんか言ってくれないと困るんだけどっ!」
「もう何から突っ込んでいいのやら。」
情報量が多すぎる。僕の救世主であり、ヴァンパイアであり、ご主人様であり、…最後なんて言ったっけ。
「えーっと…コルアちゃん。もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。」
「なんで急にうやうやしくなってんのよ。ちょっと可哀そうな目で見るのやめてくれる!?」
この銀髪少女はなかなかの洞察力をお持ちのようだ。僕が彼女を、容姿は素晴らしいのに残念な女の子だと思ったことをすぐに見抜いた。
「っとにかくね。私がヴァンパイアだってわかってもらえないと話進まないから!」
こんなに可愛らしく焦るヴァンパイアを僕は知らない。まぁそもそもヴァンパイアなんて見たことないし、その存在すら信じてもない。
「ところで日本には、『一人娘が妹を道連れに井戸に飛び込んで焼け死ぬ』ということわざがあるんだけど…。」
僕がそう言うと、彼女は少し首をかしげて答えた。
「一人娘が妹を道連れにできるわけないじゃない。それになんで井戸に飛び込んだのに焼け死ぬのよ。」
「まぁ要するに、そんなことはありえないって意味のことわざだ。」
「っもう!疑心暗鬼どころか、全くもって信じてないわね。わかったわよ、証拠見せてあげるわ。」
彼女はタンスの引き出しから手鏡を手に取り、僕に馬乗りになるように乗っかってきた。小柄で華奢だが、女の子らしい柔らかい感触に少しドキッとした。
「年頃の女の子がこんなことするものじゃありません。」
「ちょっと、勝手に動かないでよ。」
コルアをどかそうと試みたが、押し倒されている体勢からでは抵抗できなかった。なので自分の腕と同じくらいの細さの彼女の白い脚を掴んだ。
「何するのよ。」
「足の裏ってヴァンパイアもこしょばいのかな。」
コルアの顔色が少し青ざめるのが分かった。僕は片手で彼女の右足首を掴んで、もう片方の手で、コルアが根をあげるまで足の裏をこしょばした。
「…ごめんなさい。」
素直に謝れるところが僕の長所だ。さすがにやりすぎた。服が乱れて半泣きの彼女を見ると、第三者的に見たらどうみても僕が悪い。悪く見ると犯罪者にも見紛う状況だが、僕に幼女趣味がなかったことが僥倖だろう。
「もういいから。それより鏡見なさいよ。」
コルアは着崩れたワンピースの紐を直しながら、手鏡を白銀の小さな頭の後ろに掲げた。
「…鏡を見るって、僕の顔が映ってるだけじゃないか。……っ!?」
僕はあまり都市伝説とか怪異譚だとか、そういった知識に精通していないのだけれど、ヴァンパイアが鏡に映らぬ存在という知識は持ち合わせていた。そしてこの状況はもう、手垢がつきすぎてうんざりするほどありきたりだが、それ故に100%、彼女がヴァンパイアだと認めざるを得ない決定的な証拠になった。 本来なら彼女の銀髪の小さな頭越しに、僕の顔が見えなくてはならないはずだ。しかしそこには、確かに僕の顔だけが映ってる。
「っいや、…そんなわけが!」 もう一度、何度も、彼女の四方八方に鏡を向けて映そうとしたが、鏡が彼女の姿を捉えることはなかった。
どの角度に鏡を動かそうとも、彼女の姿は映らない。
仁王立ちする彼女の足元に鏡を差しこもうとしたところで、「もういいでしょ!」と顔を蹴られた。蹴られた際に、鏡越しでなければパンツは見えるのだ、という新たな発見があった。
「これでもう、変態さんは私がヴァンパイアってことは千石承知ね。」
「…変態じゃない。単なる科学的好奇心だ。」
「…刺されたまま放っとけばよかったかしら。」
緋色の瞳に黒味が増し、ひどく恐ろしい顔に見えた。じろりと僕をにらみながら、「話を戻すわよ。」と彼女はベッドからとび降りた。
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