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009 窯焼きパンケーキとガールズトーク

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「ちなみに沙織ちゃんは、何が得意料理なの?」

翔は双子の大阪弁の方である、沙織に話題を振ってみた。

「私はね、お好み焼きとかたこ焼きが好きやから、粉もんを極めて、極めて、極めまくって、粉もんの奥深さをもっと追求したい。粉もんの美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいんや。」

沙織の言葉は簡潔ながら、熱のこもったすごく明確な目標だった。

「二人ともすごいね…。ちゃんと自分の目標や、好きな物への気持ちを持っていて。」

桃花は少し羨ましそうに言った。

「桃花だってすごいじゃん。」

「そうだよ。私たちより、勉強もできるし、料理も基礎がちゃんとしてるというか…。」

沙織と栞の言葉に、「いや、そんなことないよ…。」と桃花は謙遜した。

「桃花ちゃんは大丈夫だよ。自分でやりたいことを見極めて、田舎から出てきて一人暮らししてるってことだけでも、普通の高校生にできることじゃない。僕が高校生のときなんて、暇つぶしのゲームしたり、コンビニの前でだらだら友達とだべったり、そんなんだったよ。」

翔の言葉にも、「いやいや、私なんか全然…。翔さんの方がすごいじゃないですか。」と桃花は謙遜を続けた。

「そんな謙遜しなくてもいいのに…。あっ、ありがとうございます。」

店員が翔の頼んだスフレケーキを持ってきて、全員のオーダーが揃ったかを確認した。

「みんなの頼んだ物も揃ったし、冷めちゃう前に食べようか。」

翔の言葉に、一同頷き、「いただきます!!!!」と四人の声が響いた。

ふかふかのパンケーキにナイフを入れる。大きめに切ったパンケーキを、ホイップクリームにつけて一口で頬張る。

焼きたてでふわふわの弾力と、蜜のしみた部分の溶けるような感触、蜜の甘さと生地の小麦の香り、そのあとにバターのしょっぱさとホイップクリームの甘さ、すべてが混ざりあったとき、夢見心地でいるような多幸感が溢れてくる。

一通りそれぞれがパンケーキの味の感想を述べたり、互いのを交換したりし終えた後、その丸い形の幸せを頬張りながら、女子高生三人はガールズトークを始めている。

女の子三人に、男一人という構図は、話をするのにおいて、とてもバランスが悪い。

そもそも四人で話すというのがよくない。三人の会話だと、二人が頻繁に話す間、残る一人は適当に相槌を打ちながら、偶に気の利いた一言でも言えばよい。

しかし、四人だと…、二対二で会話をするか、三人がなんとなく盛り上がっている中で、一人は少し寂しい思いをするという構図が出来上がってしまう。

四人で盛り上がるという会話は、実は難しい。二対二で話すのも、せっかく四人でいるのにどこか味気ないし、向こうのペアの会話がやたら盛り上がると、そちらが気になってしまってよろしくない。

そんなことを考えながら、翔は三人の会話を、パンケーキを切りながら聞いていた。

「翔さんはどう思いますか?」

桃花が気を遣ってくれたのか、翔に質問してきた。

「うーん、そうだね。パンケーキってホットケーキと何が違うんだろうね。」

桃花がきょとんとした顔でこちらを見ている。

「あれ、その話じゃなかったっけ?」

「もうその話は、とうの昔に終わっとうで。」

沙織が非難するような声でそう告げる。

「さては、私たちの話を全然きいてなかったですね?」

栞も追い打ちをかけるように問い詰める。

「ごめん、ごめん。ちょっとデイドリームをみてたよ。それにしても、女の子たちの話のスピードは速いね。」

「そうやろか?いたってこれが普通なんやけど。」

「桃花ちゃんは少しゆったりで、私と沙織は普通くらいじゃない?」

双子は顔をみあわせて首を傾げた。

「桃花ちゃんはやっぱり、ちょっとゆったりなんだね。」

「そんなことないと…、自分では思ってるんですけどね。」

遠慮がちに桃花は笑った。

「僕もゆっくり話す方が好きだから、桃花ちゃんと話すときは落ち着くよ。」

「そっ、そうですか…?私も、翔さんと話してると落ち着きます…!」

少し恥ずかしそうにする桃花を見て、沙織と栞はまたにやにやと二人を見ている。

「なぁ栞…、そろそろ邪魔者は帰ろうか。」

「そうだね、沙織!お腹もいっぱいになったしね。」

そう告げると、「ごちになりました!!」とお辞儀をし、意味ありげな笑みを浮かべながら双子は帰っていった。

「なんか、おもしろい友達ができたんだね。」

「はい!二人とも面白くて、料理も上手で素敵な友達です。」

彼女の嬉しそうな微笑みを見て、翔は少しほっとした。桃花は引っ込み思案のところがあると思っていたが、神戸の学校でも上手くやれているようだ。
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