気味悪い幸子 

itsukiehoumaki3to4

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第二話 実験前最終段階

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素晴らしいプロジェクトだ。まるで爪楊枝で車を運転するみたいだ。」先ほどの社長、オックスフォード大学吹奏楽部副部長、岩研工業前社長の息子との最終会議で清掃員の方に言われたこの言葉が鮮明に残っている。とりあえず実験を行っていいとのことだったので必要なものをメモ用紙に書き出してみる。鼻毛、丸底フラスコ、駒込ピペット、いろはす、ガスバーナー、ジップロック、マッチ、、、、、このくらいか。
「ダイアン、悪いんだけどさ、渋谷のロフトの雑貨コーナーでこれ買ってきてくれない?」先ほど書いたメモを渡す。
「おっけー。あとゴミ出しておきますね。」ダイアンは気が利く。肝心でないときに。
ダイアンを見送った後、会議の結果と進捗を幸子主任に伝えに行く。
「主任、会議で了承が出ました。今ダイアンに必要なものを買い出しに行かせてます。」
「おっけー。ありがとう。明日くらいには実験始められそうね。頑張りましょ。私の昇進がかかっているのよ。」全社員三十人の会社で昇進したからなんだというのだ。もっと夢を見ろ夢を。これだからわが社は底辺企業のままなのだ。
自分のデスクでクラフトボスのキリマンジャロのブラックコーヒーをちびちび飲みながらユーチューブで「鼻毛 昇華」で調べる。出てきたのは「鼻毛をブラジリアンワックスでぬいてみた!」や「鼻毛でお困りの方は〇〇クリニックへ!」など鼻毛処理の動画が大半だった。なんとも頼りにならないものだ。それにしても暑い。わが社にも夏休みが欲しいものだ。西暦二〇七九年、人類の果てしない自己中心的な自然利用により恵比寿の気温は夏で四〇度を優に超え、冬でも一〇度を下回らなくなった。世間の企業が地球温暖化に対して危機感を抱いている中、わが社は他人任せで鼻毛の昇華というベンチャーとでもいうのだろうか、まったく新しい技術を開発しようとしている。ユーチューブでダメならと思い、チャットGPTに相談してみる。
「鼻毛を昇華させる方法を教えてください。」なにかでてくるといいが。
「すみません。お役に立てません。」まあそうだろうなと思った。どうしようか途方に暮れていると、先ほど買い出しに行かせたダイアンが戻ってきた。
「三門、頼まれていたもの買ってきたよ。」思ったより早い、というわけでもなかった。
「おっけ」ダイアンが置いた紺色のレジ袋の中身を出していく。丸底フラスコ、駒込ピペット、いろはす、ガスバーナー、ジップロック、マッチ、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
やっぱりダイアンは肝心でないときに気が利く。肝心でないときに。買い出しというかなり肝心なときに火をつけるマッチじゃなくて、大塚製薬の飲み物のほうのマッチを買ってきやがった。前も肝心なときに気が利かなかった。オフィスに強盗が来たとき真っ先に殺されたのはダイアンだったし、電車で朕が腹を下し漏らすか否かの生死を彷徨っていた時に腹パンをして決壊させたのはダイアンだった。ダイアン。ダイアン。ダイアン。
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