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51.不穏な夢を見て怖くなるけど君はちゃんと隣にいる小話(お題「ある晴れた昼下がり」)
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ビルの狭間から透き通るような空が覗いている。心地よい風が頬を撫でる昼下がり、晴海はなぜかひとりだった。
(足んねー、気がする)
何かがぽっかりと欠けている。何が? 幽霊のように覚束ない足取りで街をゆく。親子、カップル、友達同士、コンクリートの歩道はそれなりに賑やかだ。それとなく周囲に視線を走らせてみるけれど、晴海の注意を引くものはない。
と、歩道が突き当たった公園に、何やら人だかりができている。老若男女が見つめる先には大きな紙が敷かれ、その上で少年が動き回っていた。紙の上の少年は背丈ほどもある大きな筆を持っていた。傍らに置かれたバケツは黒々とした墨汁で満たされている。書道のパフォーマンスのようだ。足下の紙に視線を落としているので書き手の顔は分からない。晴海が人混みを分けて最前列に立ったとき、ちょうど最後の一画が書き終わった。
海。
「僕が一番好きな字だよ」
胸を張って微笑んだ書き手のことを、晴海は思い出せなかった。
「……っていう夢を見たんだ」
「それでずっとしがみついてるの?」
晴海はいきなり湊の部屋にやってきたかと思えば、湊にぴったりくっついて離れようとしない。机に向かっていた湊の傍らに座り込み、湊の腰に腕を回して大きな背を丸くしている。宿題を進めてしまうつもりがそれどころではなくなってしまった。
「よしよし」
後頭部を撫でてやる。晴海はぴくりと肩を震わせる。
「オレ、湊のことは死んでも忘れねーもん……」
「知ってるよ」
「だからあんなんオレじゃねー」
「夢だからね」
湊はそろりと晴海の腕を外し、椅子から降りた。床に座り、目線の高さを晴海と合わせる。
「酷いことしたなんて思わないでいいからね。その僕も夢だから」
前髪が混ざる近い距離で、むくれた幼なじみの顔を覗き込む。
「それに、あんまり夢の僕にばかり拘ってると、現実の僕が拗ねちゃうよ」
「あっ。それは駄目なやつだ」
晴海は顔を上げる。やっと目が合った。
「そうでしょう」
床に置かれた晴海の手に自分の手を重ね、指先をきゅっと絡める。少し冷たい湊の指に晴海の体温がじんわりと伝わってきて、湊は二人が二人であることを実感する。
「安心したひとー?」
「うあーい……」
晴海はまだ力ない返事をしつつ、繋いだ手を持ち上げて挙手をした。ほっと体の力が抜けたことが分かる。ある晴れた昼下がり、足りないものは何もなかった。
(了)210801
(足んねー、気がする)
何かがぽっかりと欠けている。何が? 幽霊のように覚束ない足取りで街をゆく。親子、カップル、友達同士、コンクリートの歩道はそれなりに賑やかだ。それとなく周囲に視線を走らせてみるけれど、晴海の注意を引くものはない。
と、歩道が突き当たった公園に、何やら人だかりができている。老若男女が見つめる先には大きな紙が敷かれ、その上で少年が動き回っていた。紙の上の少年は背丈ほどもある大きな筆を持っていた。傍らに置かれたバケツは黒々とした墨汁で満たされている。書道のパフォーマンスのようだ。足下の紙に視線を落としているので書き手の顔は分からない。晴海が人混みを分けて最前列に立ったとき、ちょうど最後の一画が書き終わった。
海。
「僕が一番好きな字だよ」
胸を張って微笑んだ書き手のことを、晴海は思い出せなかった。
「……っていう夢を見たんだ」
「それでずっとしがみついてるの?」
晴海はいきなり湊の部屋にやってきたかと思えば、湊にぴったりくっついて離れようとしない。机に向かっていた湊の傍らに座り込み、湊の腰に腕を回して大きな背を丸くしている。宿題を進めてしまうつもりがそれどころではなくなってしまった。
「よしよし」
後頭部を撫でてやる。晴海はぴくりと肩を震わせる。
「オレ、湊のことは死んでも忘れねーもん……」
「知ってるよ」
「だからあんなんオレじゃねー」
「夢だからね」
湊はそろりと晴海の腕を外し、椅子から降りた。床に座り、目線の高さを晴海と合わせる。
「酷いことしたなんて思わないでいいからね。その僕も夢だから」
前髪が混ざる近い距離で、むくれた幼なじみの顔を覗き込む。
「それに、あんまり夢の僕にばかり拘ってると、現実の僕が拗ねちゃうよ」
「あっ。それは駄目なやつだ」
晴海は顔を上げる。やっと目が合った。
「そうでしょう」
床に置かれた晴海の手に自分の手を重ね、指先をきゅっと絡める。少し冷たい湊の指に晴海の体温がじんわりと伝わってきて、湊は二人が二人であることを実感する。
「安心したひとー?」
「うあーい……」
晴海はまだ力ない返事をしつつ、繋いだ手を持ち上げて挙手をした。ほっと体の力が抜けたことが分かる。ある晴れた昼下がり、足りないものは何もなかった。
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