モブですけど!

ビーバー父さん

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 夜が明けきらない、薄紫と藍色が混在するような時間帯に、地下へ行くのは少しだけ怖かった。
 朝ごはんの支度の前に、行っておきたかったんだよ。
 こっちの世界で幽霊って聞いた事なかったなぁ、考えてたらあなたの知らない世界の怖い写真とか、再現ビデオとか思い出して余計に怖くなってた。
 バカだ、僕。

「朝風呂だ、わーい
 みんなも起こせばよかったかなー!!」

 ほぼ棒読みで、いかにもこれから入るから、幽霊でないでアピールをしてみた。
 ド〇えもんの歌を大きな声で歌いながら入って行くと、誰もいなかった。

 良かった……。

 温泉が流れる水音が響いていて、幻想的ではあるんだよな。
 一番温度の高い辺りに、粗い目の袋に入れた物を置いた。
 そうです、アレですよ。


 昨日はやらなかったけど、お風呂で泳ぐ、をやった。
 本当ならやっちゃいけませんってやつだけど、誰もいないし、五十メートルプールかってくらい広いから!
 昨日行った端っこで上がると、岩の階段をソロソロと滑らない様にゆっくり下りて行った。

 うっすらと青白く光る美少年?な像の前に来て、向こうの世界の神様相手みたいに柏手を打って祈ってみた。
 実は神様のあの寂し気な感じが気になって来てみたんだ。
 きっとこの姿で何代か前のロッシ家当主の前に出たのは、好きだったからだと思ったから。

「神様、若気の至りなんて悲しい事言わないで、全員で幸せになろうね」

 難しい事は分ってるけど、何か声を掛けずにはいられなかった。
 もと来た岩階段を上っていると、ガヤガヤとヒューゴたちの声が聞こえて来た。
 
「ラグって可愛いし、いい子だよな」

「はぁ、今日のご飯なんだろう?」

「ホーク、ドアイス辺境伯の警護だけど、こっちに残る警護と、同行する方と別れるでしょ?」

「あぁ、他国の王族相手に売られた喧嘩とはいえ、かなりの事だ。
 戦争にならなかっただけマシと言えばマシだが、命の危険がある」

「ホークはドアイス様について、俺はこっちのラグたちに同行する。
 昼には王宮へ行くのだし、帰りは夜全員で帰宅と言う事になるだろう?」

「話を聞いただけでも腸が煮えくり返るけどな。
 ラグの美味い飯を捨てたとか、殺そうとしたとか!」

「ゲオルグに助けられて良かったが、ライバルが増えてるのが悔しい」

 パパはこの国での立場と言うか、あの王弟の処分が決まれば決まったで、襲われる可能性があるって事なんだ。
 国王に貸しだって言ってたけど、本当ならそんな貸し一つ作りたくないはずなんだ。

「ねぇ、僕はどうすればいい?」

 岩階段を上りきって、彼らに聞いた。
 足手まといにはなりたくないけど、僕に出来る事はしたい。

「ラグ、聞いちまったのか……」

「パパが狙われるなんておかしいよ!」

「なら、昼の飯はうんと美味い物を作ってやれ、それが強さになる。
 それに笑っていてやれ、な? そんな泣き顔は父上も見たくないと思うぞ?」

 ホークに言われて僕は、うん、と頷いてとびきり美味しい物をパパに食べさせて、食べ物を粗末にする王族なんかに負けて欲しくないって強く思った。





 皆んなはまだ入ってるって言うから、僕は朝ご飯の支度するから先にでるね、と言って熱いところに入れて置いた袋をもって、温泉を後にした。

 温泉卵用の出汁を作らなきゃ、と急いでキッチンへと向かった。
 今朝は、温泉卵と魚の干物、それに玉ねぎのお味噌汁、お腹の調子も自律神経も整えてくれるヨーグルト!
 ヨーグルトは梅シロップで食べてもらう様にして、熱々の白米を土鍋で炊く準備をして、干物にしておいた少し大きめのアジみたいな魚を焼いた。
 あと、試食して貰おうとボアの味噌漬け、鶏肉の味噌漬けを少しずつ焼いておいた。

 干物って美味しいけど、物足りなかったりする事あるしね。

 あと、密かに作ってみた海苔の佃煮!!
 もう一つおまけに、なめ茸も手作りしちゃったよ!!
 白米と絶対合うやつ。

 緑頭から貰った、梅で作った梅干しも試しに出してみた。
 酸っぱいから、食べられないかもだけど。
 梅水晶食べられたんだから、いけそうな気もするんだよね。

 ダイニングテーブルに並べると、意外と寂しいかな? と思ったけど、お昼に生パスタ予定だから、このくらいで我慢して貰おうと思って、僕自身も作るのを我慢した。

 パパが支度をして下りてきたら、セバスチャンもゲオルグも下りてきた。

「ラグ様、朝のお支度をさせてしまって」
「セバス、僕の仕事だから、ね?」

 困った様に笑うから、お昼は手伝ってもらうからね、と言うともちろん、て返事をもらった。

「パパ、王宮に行くんでしょ?」

「そうだ。嫌な気分だが仕方ない」

「僕、お昼に美味しい物作りに行くね、だから一緒に食べよ? だめ?」

 パパは優しく笑って、待ってるって言ってくれた。





「イタダキマス!!」

 全員揃っての挨拶が当たり前になっていて、一層ご飯が美味しく感じたんだ。

「これ、卵だよな?」

「温泉卵って半熟のトロトロを出汁で食べるんだよ。
 ご飯に乗っけて、出汁と醤油ランブルをかけて食べても良いし、そのままでも美味しいよ」

 こういう時、誰も躊躇わないんだよな。
 僕を信頼してくれてるからって言うのが大きいと思う。

「干物はいつも通りだけど、試食でお肉も焼いてるから少しだけど食べてね」

「美味い、温泉卵って白身がドゥルンてしてて、黄身はプルンだし、出汁がまた、美味い!
 干物は何度か食べてるけど、マイマイと合うよな。
 味噌汁も玉ねぎが甘くて、ほっとするのは何でだ?」

 君は食レポがどんどん上手くなってるよ。

 僕は佃煮を白米に乗っけて食べた。
 美味い、もうね、懐かしいやら、これだけでご飯が進むのよ。
 メインのオカズなんか無くても何杯も食べられちゃう日本人の知恵。
 素晴らしい。
 
 僕の真似をして皆んなも始めたから、瓶は空っぽになっちゃって、また作ろうと心に決めた。
 もちろん改良すべきとこも、ちゃんとね!

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