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ヴォーグ宰相の憂鬱
しおりを挟む「経理部、部署長をすぐここへ呼べ!!」
宰相様が一声あげると、部屋の扉の外に控えていた護衛騎士がひそかに動いたらしいって言う顔を侍女に扮したフシクがして、僕を見た。
これって宰相様は知らなかったというか、気づいてなかったって事?
「ヴォーグ宰相はこれに関与していない、と言う事ですの?」
トルシエ王妃の確認に、宰相様は頭を下げた。
「私の不徳の致すところでございます。
イリエラ殿が借入を申し出られた時に、金額が足りないのだと思い込みました。
店舗は準備中でしたが、事務所となると確かに必要かと思いましたので。
ですが、手元に全く無いのは明らかに経理から出された対価がどこかへ消えていると言う事です」
「でも、一ヶ月って考えたらまだお給料の支払い日じゃ」
「週ごとの支給ですよ? 常識的に貴族の領地での予算の見直しであれば一ヶ月ごとの収支になりますが、領民や使用人、そして王侯貴族ですら週の支度金で暮らすのです。
それに、一ヶ月どころか既に数カ月過ぎてますが?」
あ、そうだっけ。
謝罪してたはずの宰相様は、僕にツッコミを忘れない。
「ちなみに、イリエラ殿への支給額は王族に準じてますよ」
「は? え?」
ものすっごく爽やかな、いやワンコな笑顔でだって王さまの親戚じゃないですか、だって。
「その金額を横領するとは大胆過ぎて、嗤ってしまうのですがねぇ」
あ、ワンコじゃなかった、狼だ。
ビランコ家みんな親戚じゃん! 僕はまだこれから親戚になる予定だからね!
「ですわよねぇ。
私の支度金と同じじゃないと、メイクも出来ませんわよ」
メイクは出来るよ、メイクは。
衣装代はキツイけど。
「最初の衣装の布やデザインを王宮の服飾部門に出した時、支払いは必要ないって言われたからどうしてかな? とは思ってたんだけど」
「それは服飾部門ですからねぇ。
年間予算に組み込まれております。
特殊な魔法付与が必要な物ですら、王宮の服飾部門であれば予算として割り当てておりますから」
じゃぁ、そこで天引きされたって事も無いのか。
そんな説明を受けていると、経理部署長が入って来た。
「お呼びになられたと聞いてまいりました」
お腹がでっぷりと出て、いかにも偉そうにふんぞり返った態度で両陛下に挨拶をしてから、宰相様や僕たちに向き直った。
「イリエラ殿に支給されるはずの支度金がどこへ流れているのか、説明してもらえますか?」
「ふむ、このイリエラと申す者への支給は、私の権限で却下いたしました」
宰相様の眉がピクッと吊り上がった。
「ほぅ? 経理部署長の権限ですか」
「えぇ、平民に王宮から支給するのは使用人共への給金と決まっております。
支度金などあり得ません」
最後は鼻息をフンっと吐き出した。
確かにザンダース家は没落したし、平民に落ちてるから。
「そうか、其方は宰相の私より権限があると言いたいのだな?
そして、その決定を下された、王妃より身分が上だと言いたいのだな?」
宰相様の怒りの籠った低い声が確認していくと、急に腹の出たオッサンは震え出した。
宰相様への不敬罪だけだったらまだ降格とか、そんな感じだったかもしれないけど、トルシエ王妃への不敬罪は重罪だった。
「ま、ま、まさか、そんな、王妃様が決定を」
「当たり前だろ、王族と同じ扱いで支給金を決めてると決定書に通達されているではないか」
「で、ですが平民で、宰相様がサインをされてましたので、てっきり愛妾への」
「ふざけるな!!!」
「ひぃ!!」
「私が個人的に王宮の予算を使ってると言いたいのか!」
「いえ、決して」
ん? 書類でそんな事が出来るって思ったって事は、やってる人がいるって事?
「あの、聞いても良いですか?」
僕が空気も読まず会話に割って入った。
一応平民だけど、この場では多分王族の親戚ポジだから、微妙に立場的には上だろうと踏んだためだ。
「そんな風に書類を作って愛人とか、ご自分の為にお金を引き出してる貴族がいるって事ですか?
そうじゃないと、貴方がそんな風に気を利かせないですよね?」
敢えて、気を利かせたと言ってみた。
「気を利かせると言うより、決済の承認は経理部の者たちには無いはずだ。
あくまで経理部署長が下から精査されて上がってきた書類を見て、決定してるはずだよな?」
うんうんと首を縦に振る。
「では何故だ? 今までそのような事が起きたと報告は来ていないが?」
自己紹介しちゃったみたいだね。
「僕なら、自分が経験した事じゃないと、思い付きもしませんが」
止めを刺してみた。
「経理部門の決済書類を持ってこい!
こいつが部署長になる前後の時期から今日までの全てをだ!」
内部監査が始まってしまった。
今まで予算は組んだけど、決算はしてなかったって事だった。
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