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しおりを挟むテイトの傷は全く分からない状態に治療されたのに、あのまま意識が戻らずにいた。
「旦那様、憲兵にはお帰りいただきました。
明日、現場の調査が入るそうです。
被害は下男と使用人のジョスクの二人と伝えてあります」
既に愛妾ですらなくなったジョスクには重い罰が待っていると、少なからず執事は憐れんでいた。
「そうか。
あれにも可哀相な事をした。
私の欲が周りを巻き込みすぎた」
ザクロが目覚めないテイトの傍らで、懺悔をするかのように項垂れていた。
かつて、気まぐれに餌をやりボロボロな姿の子猫を一晩中暖めてやったら、懐いて甘える子猫に初めて愛情を覚えた。
ほんの数日可愛がっただけなのに、まるで恩返しとばかりに自分を庇って刺された子猫を鮮明に思い出した。
ザクロが今のテイトと同じ歳の頃には立派なヤクザの幹部だった事で、抗争に巻き込まれ追い詰められて刺されそうになった時に、どこからか子猫はナイフの前に飛び込んできた。
そのお陰で形勢も逆転し、ザクロの組は勝利したが、子猫は助からなかった。
ザクロの腕の中で息が細くなって行く子猫の最期の一鳴きが、ザクロに決心をさせた。
自分の運命を変えると、組から抜けると誓ったのに、未だにやってる事は変わっていなかった。
自分を庇って死んだ子猫が、ヤクザ者になるなと諫めてくれているような気がして、必死で勉強をし力をつけ誰よりも稼げる自分が誇らしかったのに、振り返ってみればその手段はならず者と変わらなかった。
そう思うと生まれ変わって来てくれたテイトに、申し訳なくて胸が痛んだ。
公爵家との縁も、トウカが手紙を寄越さなければテイトを適当に放置して、ジョスクを伴侶として扱っていただろう。
ほんの先ほどまで実際にそんな扱いをしていた。
「呆れるな……、最初にテイトと話した時の笑顔に一目で心を奪われたと言うのに、俺は、認めたくなかったんだ」
執事に向かってという訳ではないが、ザクロは話し始めた。
「親が幸せなら、自分が嬉しいと笑うテイトが可愛くて、情けない自分が恥ずかしくなって逃げたんだ。
そして、目の前にいなければその罪悪感を誤魔化せた……、本当に酷い話だ。
今更、テイトに愛してると言ったところで、嘘だと言われても仕方がないくらい、どうしようもない男だ」
静かに執事は頭を下げ、その部屋を出て行った。
「そう、テイトは風神様に……、良かった。
私の子供なのに、育ててあげる事も、庇ってあげる事も出来なかった」
トウカが風の子たちからテイトの身に起きた事を聞かされていた。
「トウカ様が悪いんじゃない、悪いのはこの屋敷のアイツだ!
巫覡だってちゃんと手順を踏んで、神事として婚姻すればその能力を失うことも無かったのに」
リーダー格の子が本当なら、儀式として風神に嫁してから人の世で人と伴侶となるなら、その力を失うと言う事は無かった、と。
年齢と共に失われて、次代の巫覡が現れるはずだった。
「テイトは幸せになれそうかな?」
「分かんない! あんな奴のために命まで差し出しちゃうバカテイトなんて!」
態と悪態を吐くようなフリをしながら、目が覚めたらきっとしあわせだ、と告げた。
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