【本編完結 次の続編始めます】白と金の間〜金色の魔法使い〜

ビーバー父さん

文字の大きさ
28 / 42

心残り

しおりを挟む


「さて、昔の話など終わらせて、未来を担う若者たちを見に行くかの」

 皇太后様は、腰掛けていた椅子からゆっくりと立ち上がり、第一王子の部屋に向かうと言いながら、しっかりした足取りで部屋を後にした。

「シアンと呼ばせてもらっても?」

「くっ、構いません」

 グランが答えるのか。

「どうぞ、シアンと呼んでください」

「ほほ、悋気は嫌われるぞ、ラグランジュよ」

 先を歩く皇太后様がグランに態とそう言った。

「もう、扉からも滲み出ているな」

「え?」
「何が」

「こうしたら見えるかの」

 皇太后様は僕とグランに片方ずつの手を目に当てて、なにかを流した。
 魔力と似てるけど全く違うものだった。

「ほらごらん」

 手が離れたあと瞬きをすると、当てられていた目の方だけが違う物を写していた。

「なに、あれ」

「呪詛になってしまったものだ。
 放っておいた私の責任だな」

「違いますよ、何があんな風に……、あ、もしかして、先代陛下?」

 黒いドロドロした何かが、其処彼処に絡みついていた。

「そうみたいだな。
 生前もあまり顔を見たことが無かったが、酷いものだ」

 顔を見た事無いって、本当に最低な人だったんだな。

 躊躇いも何もなく勢いよく扉を皇太后様が開けると、黒いドロドロの先代がビクついたように動きを止めた。
 それは第一王子の首や腕、体にまで絡みついていて、前世の触手モノかと思うほどだった。
 本当に苦しんでる人の前で、申し訳ない、と一応謝っておいた。

「情けない!
 さっさと側妃の元へ行かんか!! うつけが!!」

 皇太后様の一喝に、先代は生前の姿を作り出した。

「て、んには、いなかっ、た」

「居るはずなかろう、お前達が行くべき場所は地獄、しかも大焦熱地獄辺りだろうな。
 己が側妃とした仕打ちを振り返るが良い」

「わた、しは、そそのか、され、そくひ、にしてしまっ、た」

 声質もハスキーを通り越したような、聞き辛い上に、ハッキリしない滑舌を解読するのに集中した。

「唆されようが、騙されようが、己がした事を正しいと思うのか!?
 ほんにうつけじゃ!!
 死んでからも自分本位にしおって、呆れるわ!」

 皇太后様に気圧されたドロドロの先代は、いつの間にか第一王子を離していた。

「ラグランジュ、テオドアを連れて外へ出ておれ」

「ですが、」
「時間が無いの、仕方ない
 シアンよ加勢せい!」

「はい!」

 勢いで返事をしてしまったけど、何をすれば良いんだろう?

「わたし、が、エリシ、ナを、エリ、シナに、ひどい、ことを、した、から?」

「未だに分かっておらなんだ」

 はぁ、とため息をついた皇太后様は、何かを唱えると、ドロドロはもっとしっかりした姿へと変わった。

「う、い、ああ、あ、エリシ、ナ、」

「もう分かりなさい。
 お前は死んだのだ。
 側妃が先に逝っているのだから、何も恐れる事はない。
 愛する者の元へ逝きなさい」

「ち、ちがう、私は、エリシ、ナを愛している。
 私の過ちはエリシナに謝れ、無かった事だ。
 愛する、者を間違えた」

 姿が変わると喋る声も言葉も、だいぶ聞き取りやすくなった。

「エリシナって、皇太后様」

「今更何を言うか。
 私はとうの昔にお前を見限っておるわ。
 死んでも寝言を言うのだな」

「ずっと謝りたかった。
 エリシナの人生を狂わせて、帝国を守らせる為の婚姻にしてしまった。
 側妃にしたのが間違いだった。
 愛ではなかった。
 地位に権力、金、それを側妃は求め、止める事が出来なかった。
 血の繋がらない息子なのに、厭わずただ深い愛情を注ぐエリシナを、抱きしめたかった。
 それを言葉にも態度に出すにも時間が経ちすぎていた。
 すまなかった、エリシナ。
 私を許してくれ」

「バカな皇帝よな、私は最初からの許しておるさ。
 寂しい気持ちも、嬉しい気持ちも、全てこの国に埋めると誓った。
 見限っても憎しみより、愛しい気持ちの方がほんの少し勝ってしまっていたからの」

「そうか、私も少しは愛されていたのか」

「気づくのが遅過ぎたがな」

「来世は君を選ぶ。 
 必ず君を見つけて迎えに行く」

「あ、いや、来世もお守りをさせられるのは懲り懲りだから、来てくれるな」

「え、だって、許してくれたのではないか」 

「都合の良い解釈だな
 今世は致し方ないが、来世までなど絶対嫌だ、御免被るわ! 早よ逝け」

 この言葉がとどめになったみたいで、先代の姿は霧散して消えた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...