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調教6 明かされる真実

5 明かされた黒幕

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「よお、速水。一希もいる事だし、ちと3人で話さないか?」

正面から速水に銃口を突きつけるディーンは、彼を挟んで驚く一希を見た。
トレーナーとスウェットで身体を隠しているが、トレーナー越しからでも一希の膨らんだ乳房が目立っている。
肩も丸みを帯びていて、淫魔の甘い香りが漂っている。声ももともと男性だったとはいえ、若干高めで、白くハリのある柔肌に合わせると少しは触れてみたいと誘惑に駆られてしまう。

「一希、お前も知りたいだろ?なんでコイツがお前の家系図を調べていたのか」

しかし速水は両手を挙げながら、ディーンを見据えて言った。

「一希には、今話した」

「本当かよ?お前、あの胡散臭いカトリック共の話を、そのまま鵜呑みにしてコイツに話したわけじゃないのか?」

一希は、え?と不思議そうな顔をした。

「俺もな、今回の一希救出の任務をハンター協会から指示を受けて何も知らないままほいほい受けるつもりだったよ。だがこんなもん渡されたら、俺も黙っていられねぇ」

ディーンは片手でスウェットのポケットからスマートフォンを取り出すと、今はヴィンセントの手元にあるスティレットナイフの画像を速水へ見せた。しかし、これは何か付着した物が年月を経て剣先と同化している。

「これはスティレットナイフだ。中世期のヨーロッパ。イギリス、フランスあたりで作られた物だ。しかもこれは殺傷能力は高いが扱いが悪くて使用用途が限られている。200年程でいつの間にか製造終了している」

ヴィンセントに拘束されてナイフは没収されたが、ディーンは速水と教会の繋がりを人知れずボビーに調査を依頼していた。

すると、衝撃的な事が分かった。
ソフィア姫はアレクサンダーの番にされた後、精神を病んで自死したのではなく、当時のエクソシストに息子達を庇って殺された事。しかも、彼女を殺した凶器がそのスティレットナイフだという事。

話を聞き、一希は目を見開いた。

「何だと」

速水はディーンを厳しい表情で睨む。
しかし、ディーンは意に返さずさらに続けた。

「俺も聞いてびっくりしたぜ。お前とエクソシストの関係はだいぶ昔からだろ?あの湖の魔物。あれもお前のご先祖さんの仕業だろ?」

ディーンはあの湖の結界が大昔に構築されていたというわりに違和感があった。あの湖に施された結界はごく最近強化されている痕跡があったのだ。あのやり方は代々霊能者の家系でなければできない。不審に思ったディーンは、日中ホテルにいた時ボビーに連絡して速水とエクソシストの関係を調べてもらったという。

すると、速水家とエクソシストは速水の曽祖父の代にあの湖の魔物を封印すべく、エクソシストが日本にやって来た事が分かった。当時からあの水神は邪神に変化しており、魔界への通過地としてエクソシストには都合が良かった。封印する事で邪神化したあの水神を日本国内での魔界への入り口にするつもりだった。そこに、役人は彼等の思惑に同意し、除霊のためと称して土地を買い上げた。その役人というのが。

「オメーだろ?速水。お前の曾祖父さん。先祖代々の土地だから、資料もすぐ調べられた筈だ。住民が暴動を起こしたのも、お前の曾祖父さんとエクソシストの企みに勘づいたからだろ?」

当時の新聞には見出しが無かったが、恐らく反発した住民を生贄としてあの湖に沈めたのだろう。そうすればあの邪神化した水神はさらに妖気を高め魔界へ繋がる拠点となる。
恐らく湖の周辺に散らばっていた遺骨は反対した当時の住民達のモノだろう。
あの邪神化した水神が狙っていたのは、自分を邪神化した子孫の速水だった。

速水は、諦めたように溜め息をついた。

「その通りだ。ディーン。あの水神は俺の曽祖父がエクソシストと結託して作った物だ。元々当時から噂はあったが、曽祖父は金でエクソシストと契約した。俺は、それを引き継ぐ形で今も結界を張り続けている」

だが、と速水は言った。

「俺は彼の遺したあの湖に棲まう水神をこれ以上邪神化するつもりはなかった。エクソシストには関係を解消したいとずっと交渉していたんだ」

だが彼等は首を縦に振らなかった。
エクソシストは、自分達との関係を終えたいならば淫魔王の番となる人間を差し出せと言ってきた。でなければ日本のメディアに昔自分の曽祖父が住民達にどのような非情な行いをして来たか通達する。と脅しをかけて来たのだ。

曽祖父の名誉を守り、番となる一希を守るため、速水は水面化で表立った行動は見せず、一希を数年手元に置いていたという。

「酷い・・・!」

速水の説明に一希は思わず怒りの表情を見せて言った。エクソシスト達は、ヴィンセントの母を殺しただけでなく、速水までも恐喝紛いで自分の傘下に置かせていたのだ。だが同時に、ヴィンセントがなぜ速水を得体が知れない男だと言ったのかも分かる気がした。

確かに、やっている事は得体が知れない。しかし、速水は自分の先祖が犯した過ちを正そうとしていた。

事情を知ったディーンが言った。

「ならなぜ一希をあの魔王から引き離した。正直人間界にいればあの胡散臭い連中は確実にコイツを殺しに来る。あのバカ強い魔力が盾になるなら、魔王の傍に置いておいても良かった筈だ。まぁ、番になるならないは別としてだが」

ディーンの言葉に、自分の置かれている状況が実はかなり危険な状況だったと一希は理解した。もしディーンの言葉が本当なら、今まで自分はヴィンセントにエクソシストから守られていた事になる。

一希は、ヴィンセントに言われた言葉を思い出した。

『恩を感じている者が、必ずしも善人とは限らない、と』

恐らくヴィンセントは速水の事も調べていて、一希にこう言ったのだろう。
一希は、ヴィンセントがあれだけの形相を見せて速水を殺そうとした理由が何となく分かった。

母が殺された場面を、彼は見ていたのだ。その凶器も、彼は知っていた。
あの怒りは速水が一希を手に掛けるつもりだったと判断したから、あんなに激昂したのだ。

一希はディーンに尋ねた。

「ディーンさん、その調べてくれたボビーって人と電話できますか?」

日本なら今の時間アメリカは昼間だ。
できない事はない。

ディーンはジャケットからスマートフォンを取り出し、ボビーへ連絡した。数回のコール音でボビーと繋がった。

[どうした、ディーン]

電話越しからダミ声が聞こえる。ボビーと繋がったスマートフォンをディーンは一希に向けた。
そのままディーンはスマートフォンに話した。

「ボビー、今から一希に繋ぐ。動画機能にするから、オメーが調べた事を全てコイツに話してくれ」

電話越しにボビーは言った。

[おう、分かった]

スマートフォンは通話中の表示から、帽子を被った壮年の男性が映っている動画に切り替わった。出っ張った頬骨が目立ち、浅黒い肌をしている。男性は一希の姿を確認すると、軽く挨拶した。

「初めましてだな。オメーがカズキ・アリサカかい?俺はボビーっていういわゆる情報屋さ。ディーンとサムの親父の代から二人を知っていてな、今回コイツに依頼されて、色々調べさせてもらった]

「初めまして。有坂一希です」

[なーに、堅苦しい挨拶はこれくらいにして、ディーンから俺が調べた事をオメーに教えてくれと言われてな]

軽くボビーは電話越しに笑う。
どこかその笑いが人懐っこい笑い方をしていて、一希は緊張が解れた感じを覚えた。

「ボビーさん、ヴィンセントの母さんの事って知ってますか?」

[ヴィンセント?ああ、現淫魔王の事か?そりゃ、俺が調査した結果は全てオメーに伝えるつもりだが。随分と直球で来たな]

ボビーは画面越しから移動し、専用のノートを開いた。

[何せ中世期だからな。俺も調べるのに骨が折れた。考古学者のダチがいるからそいつのツテも頼って、やっと重要な手掛かりを見つけたんだ]

ボビーは自らのノートを画面越しに一希に見せる。全て英語で記載されており、日本語しか分からない一希には彼の英文書が分からない。

[まずソフィア姫の従兄弟で婚約者だったユーリィというエクソシストを知っているか?]

ボビーの問いに一希は頷いた。

「うん。ヴィンセントが言っていた。ヴィンセントはソフィア姫の息子で、俺はそのユーリィって人の子孫だって」

[そうだ。言ってしまえばオメーと淫魔王は遠い親戚というヤツだ。そして本題だがな、ユーリィには日記があった]

一希は怪訝そうに聞き返した。

「日記?」

[そうだ。今は大英博物館の地下に保管されている。俺のダチにそこのスタッフがいてな。頼み込んで写真に撮ってもらった]

ボビーが言うには、ユーリィはソフィア姫との婚約が決まって以降、日記をつけていたのだという。当時の生活様式の参考になるとして現在はイギリスの大英博物館に保管されている。ただ保存状態は良いとはいえず紙自体が腐食していて、全ての解読は不可能という。

[部分的な所しか俺も聞いていないがその中にソフィア姫が殺された経緯が書いてあった]

ボビーは、ノートから解読されたユーリィの日記の一部を読み上げた。

【ソフィアとアレクの間に二人の赤子が産まれたと連絡が入った。一人は黒髪で名はヴィンセント、もう一人は銀髪で名はカミールという。どちらとも男児だった】

一希は、ヴィンセントの名が出ていた事に驚きつつ、日記の続きを聞いた。

【その日私は、エクソシスト上層部の不穏な動きから二人に危険が及ぶと判断して急ぎ魔界へ行き、二人を探した。見れば成長した双子の淫魔と戯れる彼女を見つけ、声をかけようとした。しかし、私が声をかけようとした所、仲間のエクソシストが彼女と双子の子ども達を殺害しようと襲って来た。私は三人を助けようとしたが仲間達を止める術はなかった。二人を庇って彼女は倒れた。そして止めをあるエクソシストが刺した。その人物は、バンパイア族の王だった男リーアムだった】

「ーーっ!?」

一希は、息を呑んだ。一希だけでなく、ボビーの話を聞いていたディーンも速水も日記の内容に驚愕した。

[日記は、ここまでしか解読出来なかった。保存状態が良くなくて、この後確かに書かれていた形跡があるんだがペンの筆圧と紙の劣化で、ここまでしか分からなかったそうだ]

それでも一希は有益な情報を得たと思った。ユーリィの日記には、確かにヴィンセントの記載があった。

「ボビーさん、確認だけどヴィンセントの母さんを殺したのって」

画面越しに、ボビーは頷いた。

「ああそうだ。しかも淫魔王のおふくろに止めを刺したのはスティレットナイフだと分かっている。ソフィア姫を殺したのは、リーアムというバンパイアだ」

一希は、この時ヴィンセントの目的を理解した。

ヴィンセントは、母親を殺した相手を知っていた。だから、速水が彼女の死因が自死だと言った事に激昂したのだ。
自分は見ていたのだから。

そして、一希は言った。

「もう一度、ヴィンセントに会う。アイツにも、真実を聞かないといけない」


続く
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