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姦計☆詭計③

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第3の部屋。祈舞と詩宝の夜。


「ねぇ、祈舞。お願い聞いて貰える?」


何度目かの射精をした頃、詩宝は静かに言った。ベッドの上で散々可愛がって貰った祈舞は半分惚けながらも頷いた。


「まだセックスはしたい。終わった後なんだけど」
「ん?」
「俺を食べてもいいよ」
「……なんで?」
「ずっと食べたかっただろ?」
「そうだけど……」
「最期の晩餐に、如何?」
「……っ」


最初は「食べないで」「殺さないで」と泣き喚いた彼がこうも変わるとは。その様に祈舞は驚きを隠せない。


「あの四神は良いの?親密になってたじゃん」
「うん……。さっきお別れしてきた」
「そう……。まさかお前を食べる日がくるとは思わなかったなぁ。セックスも気持ちよくしろよ?」
「おまかせを。存分に可愛がってやる」





冥燈と透韻が二人の部屋を訪れた時、詩宝はもう祈舞の腹の中に収まっていた。


「結局食べたのね。ワタシの狩った獲物は美味だったろう?」
「うん。流石、冥燈。お陰で最期は気持ちよく戻れる」
「それは良かった」
「あ、透韻」


祈舞は可愛らしく透韻に抱きつく。その仕草に透韻も自然と祈舞の頭を撫でた。


「待ってるからね」
「……あぁ」
「それと。透韻が戻る前にさ、あの四神の事気にかけてみて。詩宝はお別れしてきたって言ってたけど、あの様子だと後追いしかねないかも」
「分かった。見ておくよ」
「ありがと」


にこっと愛らしい表情を向けたあと、祈舞は冥燈の元へ歩み寄った。


「さぁ、冥燈!僕を回収して」
「あぁ。彼の中でお眠り」


音もなく、祈舞が冥燈の掌の中へと収まる。
次はいよいよ透韻達の番。


「時間をあげるわ、透韻。あの四神を介抱してあげなさい」
「……冥燈」
「なに?」
「ずっと聞きたかった。なんで……【七つの大罪】を具現化なんかしたんだ?」
「……ワタシの愛した彼が、感情を殺したからだ。だから、お前達を具現化し、本来の感情としての本質を確信したかった」
「うちらは誰の感情から生まれたの?」
「それをお前が知る必要はないわ」
「……なら、四神の具現化は?必要だった?」
「ただの興味よ。あとワタシの能力を試したかった。それに、四神の中でも朱雀だけは証明がないんだ。だから僅かな手掛かりで彼奴を具現化することに成功した。青龍、白虎、玄武は既に認知されているからな」
「……だから、雀だけ残してあとのみんなを創葉に回収させたってのか」
「本当はワタシの手で回収する予定だったんだけど、まぁいいわ。手間も省けたし。文句でもあるのかしら?」
「…………やり方が残酷過ぎる……」
「透韻。誰に向かって発言してるの?」


その瞳に囚われたら言葉さえ失う。
逸らすことも閉じることも出来ない。
冥燈には、何も言えない。


「まぁ、どの道あとでお前も回収するんだから、多目にみてやろう」


透韻はホッとする。
冥燈は飄々としながら先に出ていった。





ゲストルームにて。


「雀……」


仲間を失った朱雀は放心状態だった。一人、ソファに凭れかかったまま俯いている。


「お、天使じゃん。どうしたの?」


朱雀と同室になっていた緋音は缶ビールを手に現れた。


「様子、気になって……」
「あぁ。相当やばい感じじゃない?一緒にいた人間の子にもお別れされたみたいだし。慰めてやろうかな」
「ならそうしてくれ。一人にさせたくない」
「ラッキー。四神も喰ってみたかったんだよなぁ」
「この子の事は任せていいか?」
「おぅ。十分に可愛がって……」


──トン


後ろから抱きつかれた透韻は少しだけふらついた。


「……雀?」
「透韻……。オレ……」
「緋音がついててくれる。お前は冥燈にとっては回収したくない存在なんだ。だから心配しなくていい」
「嫌だ……。もう……みんないない……。独りは寂しい……」
「抱きつく相手違うだろー?」


半ば無理矢理、朱雀を透韻から離れさせる緋音。


「放せ……!」
「やーだ。これからは俺が傍にいてやるからー」
「……嫌……っ……!透韻……!」
「雀」


じたばたもがく朱雀に透韻はそっと近付き、徐にキスをした。


「……っ……ん……」
「──雀。うちも、もうすぐ冥燈に回収される。だから、これからは緋音に依存しろ」
「でも……」
「正直、気にはなるけど冥燈には逆らえないしな」
「だったら、あの魔女を殺そう?叶わないかも知れないけど、でも創葉ならあの魔女にだって手を下せるんじゃないの?透韻の言うことならなんでも利くんだろ……?」


急な提案に透韻は戸惑ってしまった。
冥燈を殺す……?
そんなこと、夢にも思わない。


「ダメだよ。うちらは冥燈に逆らえない。無駄な話だ」 
「えー?そうかなぁ?4人でやればイケそうじゃね?」


乗り気になっている緋音が後押しする。


「うちらがこうして存在してんのは冥燈のお陰だ。だから、大元の主には逆らえない様にできてる……。創葉だって、意志を貫けない」
「──そうかな」


会話に入ってきたのは、創葉。
いつの間にいたのか、気付く間もなく彼女は透韻に寄り添う。


「透韻」
「……創葉……」
「命令して、透韻。冥燈を殺せって。そしたら、動くよ」 
「でも……。創葉はいいのか……?冥燈を裏切っても……」
「透韻と一緒にいれるなら何だっていい。何でも出来る」
「……創葉……」


スッと手を握られ、顔を上げると雀が意を決した様な表情で透韻の答えを待っていた。


「やったれやったれ。魔女くらい、女神サマなら余裕だろ?」
「緋音、囃し立てるな……」
「透韻。命令を」


確かに、創葉ならやれそうな気はしていた。
だが相手は魔女だ。
もし失敗なんてしたら……


「何もしないで後悔するのが一番悔しいよ」


そう言ったのは緋音。
これはもう、後には引けない。


「──解った。冥燈を殺そう」
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