願わぬ天使の成れの果て。

あわつき

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御使い ~Lip Cream~

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「さーて……。どうしようかねー……」


翌日。ワンピースに着替えたイリアは3人の服装をどうすべきか迷っていた。天界では馴染みのある格好だが、この世界では目立って仕方ない。彼らが普段纏っているのは着物に近い感じの洋服。レース生地などを交えて紡いであるのでお洒落な感じだ。イリアの箪笥には洒落た服がなく元より男性っぽい服も持っていなかった。


「何かまずいのですか?」
「うーん……皆カッコイイから注目浴びると思うんだけど、気にしないでね」
「そんなに派手ですか?」
「まぁ……」


レフィは自分の服装を見ながら首を傾げた。


「イリア。まだ行かないの?」
「ごめんね、カサンドラ。ちょっと待って」


カサンドラはナギとじゃれあいながら返事をした。ランティスは大人しく窓の外を眺めながら準備が出来るのを待っている。


「……よし。レイヤーって事にすればいっか」


これ以上悩んでも時間の無駄だと感じ、イリアは箪笥の扉をしめた。


「みんなお待たせ。行こっか」


イリアは声を掛け、戸締まりを確認しながら部屋を出た。
昨日よりは暖かい陽射しで上着を羽織って丁度良い気温だった。行く場所は近所のショッピングモール。沢山の店があり、リップクリームなら必ずあると思った。平日だった為、道ですれ違う人もあまりおらずレフィ達の事を突っ込まれる事もなかった。



歩く事10分。イリア達はショッピングモールに着いた。その大きな建物にカサンドラ達は感心の声を漏らす。神殿よりは美しくないが、広さは倍だ。店内に入ると暖房がイリアを包んだ。混雑もなく、午前中だからか人も疎らだ。久しぶりに来たので、イリアは入口近くにある案内板を眺めた。


「凄い広さですね」
「うん。迷うのが当たり前みたいな所だから。ナギ、カサンドラと手繋いでてね」
「はい」


独断行動はしないだろうとは思ったが何かの弾みではぐれるのは避けたかったので一応声を掛けた。カサンドラも解っているらしく確りとナギの手を握り直した。


「イリア」
「えっ」


不意に差し出された手にイリアは戸惑った。


「ランティス?」
「はぐれないように」
「……ありがと……」


ランティスの気遣いにイリアは照れながらその手を握った。


「どこから回ろうかなぁ」


久しぶりに来たのもあってイリアは回りたいお店がいっぱいあった。


「まずは3階からかな」


イリアは皆に声を掛け一番上から回る事を伝えた。エスカレーターの所までくるとランティス達はまた珍しそうに眺める。


「あー……そっか。これね、勝手に動くんだ。乗れるかな。こう……足を乗せて……」


イリアに教わりながら最初にチャレンジしたのはレフィ。片足を乗せるとそのまま手摺に掴まりながらクリアした。


「おー、流石」
「ナギ、行けるか?」
「大丈夫です」


ナギとカサンドラも同じように手摺に掴まり、そのまま2階へ行けた。


「ランティス、平気?」
「はい」


イリアの不安も他所に皆呑み込みが早くて助かった。3階には本屋や雑貨屋、レストラン街が並び一行は雑貨屋へと入った。


「あ、これ可愛い」


イリアは手作りのブレスレットを手に取りながら呟いた。アクセサリーや小物系が好きだったので、どれも目移りしてしまう。


「結構洒落てんじゃん」
「地上の方々はこういうのがお好きなのですか」
「みんなも似合うと思うよ」


興味津々な彼らにイリアは独自の可愛い判断でアクセサリーを渡してみた。ナギには朱とオレンジの組み合わせで紡がれたミサンガ、カサンドラには青銅の指輪、レフィには銀色の水晶体のピアス、ランティスにはレザーブレスレットを付けて貰った。それぞれ予想以上に似合っていたのでイリアは全部そのまま購入した。


「ありがとうございます、イリア様」
「大切にしますね」 
「良かった」


カサンドラとランティスも気に入ったみたいでイリアは満足していた。雑貨屋の次に向かったのは本屋。随分と足を運んでいなかったので新しい作品が沢山出ていた。


「ここにも沢山の本があるんですね」
「うん。神殿の図書室よりかは少ないかもだけど」
「見たことないものが殆どだな」


興味には勝てず、彼らは個々に本屋内を回った。その身形に目を向ける客達などお構い無しにレフィは目に止まった一冊を手に取った。


「……読めないですね」


地上の文字と天界の文字は異なるのでレフィには全く理解出来なかった。


「ーーお!見てみ、ナギ」


カサンドラは図鑑を手に取り、ナギに見せた。そこには天使の姿が描かれていた。


「ぼくらと同じですね」
「これ、ゼウスに似てない?」
「あ、本当だ」
「全知全能の神で威厳があり、絶対的な存在だって 

「カサンドラ、字読めるの?」


いつの間にか近くにいたイリアが声を掛けた。


「以前にエチカに教えて貰った。少しだけど」
「エチカは何でも知ってるんだね」
「うん。読書家だし、知識あるし」
「そうだよね。エチカにも買っていこうかな……」


イリアは彼が読みそうな本を選んだ。どれをあげても喜びそうな気もしたが、割と格安のものをチョイスした。


「ーーあぁ、いた。レフィ……」


店内を一周したランティスはレフィを見つけ、声を掛けようとした。だが、何やら囲まれていたので少し躊躇った。


「一枚だけ!ねっ?一枚だけだからさ」
「あの……」
「それはオリジナルのコスプレ?今日のイベントに出るの?」
「コスプレ?」


カメラを構えたオタクの男性達はレフィを質問攻めにし、加えて写真の許可までも得ようとしていた。レフィは訳が分からずイリアの姿を探そうと視線だけ動かすが見当たらない。


「名前は?活動領域は?好きなアニメとかある?」
「いえ……その……」
「この生地何で作ってるの?服は自分で?」
「あ……いえ、これは貰ったもので……」
「へぇ。結構高級感あるねぇ。服だけでも撮らせて貰えない?」
「あの、先程から構えているのは何ですか?」


レフィは見た事のないカメラを指差し、聞いた。


「これは一眼レフだよ。結構写りいいよ」
「いちがんれふ?」
「ここ押すだけで全てのものが一枚に収まる。だからあんたの事も記念に写したいんだけど、ダメかな?」
「ボクに影響はないですよね?」
「撮るだけなんだからないない。じゃあいいかい」
「レフィ!」


彼らがシャッターを押す直前、イリアが現れた。レフィは彼女が来てくれた事に安堵する。


「イリア」
「ランティスが助けてやってって来たから何事かと思ったよ」
「ありがとうございます」
「そろそろ行くけど、何か気になるのあった?」
「いえ。満喫しました」
「じゃ、行こっか」
「ちょっと待って!」


放ったらかしにされたオタク達が未練がましそうに呼び止めた。


「撮らせてくれるって言ったじゃん」
「そうなの?レフィ」
「はい……。影響がないなら大丈夫かと……」
「なら、一枚だけだよ」


イリアの許可も降り、オタク達は一斉にカメラを構えた。


「……ちょっとあんた邪魔」
「退いて」
「あぁ、はいはい」


レフィ個体で取りたかった彼らは欲のままにイリアを除外した。


「……行きましょう、イリア」


彼らの態度が気に入らなかったのか、レフィはイリアの手を取り、早足で本屋から出た。後方でオタク達が嘆いていたがどうでも良かったらしい。


「どしたの?レフィ」
「失礼です。イリアに退けだなんて」
「……気にしてないし良いんだよ」
「良くないです。邪魔だなんて、悪意を感じます」
「そっか。ありがとう、レフィ」


二人の元にランティス達も集まり、次はアロマのお店へ入った。一際鼻につく匂いにレフィは気分を害したが、すぐに慣れてしまった。


「色んな匂いがありますね」
「キツくない?大丈夫?」
「なんとか……」


イリアは店内を回り、可愛らしいアロマを見つけた。匂いも柔らかく女神に合いそうだと思った。


「あ、リップもある」


ナチュラル系の色を選び、イリアはアロマと一緒に購入した。プレゼント用にしてもらい、お洒落なリボンもつけてくれた。


「ランティス、気に入ったの?」


珍しそうに一つのアロマを眺めている彼に声を掛ける。他の3人はやはり匂いに当てられてしまい、早々に店から出ていた。


「懐かしい匂いだったから」
「買ってあげるよ」
「いいの?」
「うん。ランティスにはいつも面倒見てもらってるからお礼」


世話になっているのは自分の方だと思いながらもランティスはお礼を言った。イリアはランティスが選んだアロマを購入し、彼に捧げた。


「イリア」


店の外から出るとカサンドラが待っていた。


「待たせちゃったね」
「いや……。それよりレフィが具合悪いって」
「えっ……」


近くの椅子に腰かけていたレフィは口元を抑えながら俯いていた。


「レフィ。大丈夫?吐きそう?」
「イリア……。すみません、気分が悪くなってしまって……」
「真っ青だよ。どっかで休もっか」
「いえ……。すぐに回復すると思いますから……」
「でも……」
「イリア。彼処なら休めそうじゃない?」



辺りを見渡していたカサンドラが和式形式のレストランを指差して聞いた。


「そういえばお腹も空いてきた……。和食なら匂いもそんな影響ないと思うし、レフィ歩ける?」
「はい……」


ランティスがレフィを支えながらイリア達は和食レストランへと入った。幸い個室だったので一番奥の座敷を案内してもらった。


「此処なら横になれるよ」
「すみません、イリア……」
「いいよ。無理しないで」
「はい……」


レフィは横になり、暫く眠る事にした。イリアはメニューを見ながら昼食を選ぶ。カサンドラ達には味が知れないものだったので、単品でいくつか頼む事にした。 個室だから人目を気にせずまったり出来る。女神からの御使いも済み、イリアは一段落した。


「この後どうしよっかなぁ」
「あとはどんな店があるの?」
「んー……洋服屋とか電気屋とか雑貨屋もあるかなぁ。皆疲れてない?」
「大丈夫。もっと知りたいし」
「そう。じゃあ、1階ずつ回っていこっか」


腹ごしらえも済み、一時間くらいでレフィも回復した。レストランから出て一行は2階へと降りた。エスカレーターの乗り降りもマスターしたみたいでナギは楽しそうに乗っていた。


「あ、ゲーセンあるよ。行ってみる?」
「ゲーセン?」


首を傾げる3人にイリアはざっくりとした説明をしながら入った。よく解らない音楽が鳴り響き、賑やかな雰囲気を漂わせている。


「これとか、カサンドラ得意そうじゃない?」
「なにこれ」
「太鼓の達人。リズムゲームだよ」


ゲームの説明を今度は丁寧に説明しながらイリアはゲームをスタートした。音楽はよく解らなかったが、カサンドラはリズムに乗り、正確に叩いていく。初めてとは思えない腕前でイリアよりも成績が良かった。


「おー、流石。楽しかった?」
「まぁまぁかな。でも、面白いね」
「良かった」
「イリア。ナギがあれをやりたいみたいで」


ゲームが終わったのを見て、レフィが呼びに来た。ナギは目をキラキラさせながらUFOキャッチャーを眺めていた。


「ナギ、やりたい?」
「あ、イリア様!やってみても良いですか?」
「うん。やり方はね」


イリアはまた簡易的な説明を施し、お金を入れた。ナギはイリアに教わった通りにボタンを押し、狙っていたくまのぬいぐるみをキャッチした。


「わぁ、凄い凄い!ナギ、上手!」


隣で見守っていたイリアは拍手しながら喜ぶ。ナギは見事ぬいぐるみをゲットし、嬉しそうに抱き締めた。


「もう一回出来るけど、ナギやる?」
「イリア様は?」
「あたし上手くないからなぁ」
「じゃあ、ぼくがやろうか」


やり方を見ていたランティスが間に入り、名乗り出た。


「うん。やり方大丈夫?」
「要領は解ったから」


優しく微笑み、ランティスはボタンに手を掛けた。ナギと色違いのぬいぐるみを狙い、上手い具合に引っ掛かった。イリアはまた感嘆しながらランティスを拍手で称える。


「すごーい!皆、コントロール上手いんだね!」
「ありがと」


ランティスはごく自然にイリアへ獲得したぬいぐるみを渡した。


「え……、ランティスは?」
「ぼくはいいよ。イリアにあげる」


まるで彼氏みたいな行動にイリアは照れてしまい、俯きながらもお礼を言った。


「イリア!あの箱なに?」


二人の世界にカサンドラが何かを見つけたらしく興奮気味に聞いてきた。


「箱?」
「ほら、あれ。なんか人がどんどん入ってく」
「あぁ、プリクラか」


なんの事かと視線を向けた先にあったものにイリアは納得し、彼らを連れて空いているプリクラ機の中に入った。予想外に狭い空間にカサンドラ達は戸惑っていたがイリアは構わずお金を入れ、適当に設定していく。


「ほら、皆ポーズ取って」
「えっ……」


カシャッと音がし、何が起きたのかと彼らは辺りをキョロキョロした。


「どんどん行くよー。ここ見てね」


イリアに促され、皆も同じようにポーズを取っていった。何枚か取り終え、外に出る。


「ラクガキするからちょっと待っててね」
「はい」


もう何も聞かず、彼らは大人しく外で待っていた。イリアはラクガキコーナーに入り、楽しげにペンを持つ。まさか、皆とプリクラを撮る日が来るとは思わなかった。写真写りも当然のように綺麗で改めて彼らの容姿に惚れ惚れしてしまう。


「ーーあぁ、いたいた!勝手にいなくならないで下さいよ」


イリアを待っていたランティス達の元に息を切らせた男性達が現れた。


「もう時間ないんだから、早く用意して」
「ちょっ……なに……」
「困るよ。イベントは中止に出来ないんだから」
「あの……」
「お客様もお待ちだから急いで」


レフィ達の戸惑いなどお構い無しに男性達は忙しなく連れていく。よく解らないまま彼らは1階のイベントホールへと案内された。


「……出来た!おぉ、美人」


出来上がったプリクラを見てイリアは感動する。皆、美しい。流石は天使だ。
 

「皆、ごめんねお待たせ……」


外に出ると待っていた筈のランティス達の姿が無かった。何処へ行ったのかと辺りを見渡してみてもそれらしき姿はない。


「どこ行ったの……」
「あれ?月詠さん?」


不安になるイリアに声を掛けたのは、同じ学校の女生徒達だった。違うクラスの子達だったので名前までは知らなかった。


「あんた、もう復帰したの?」
「精神安定したんだ?」


その問いに悪意があるのはすぐに解った。同情などしてくれない。あの惨劇を招いたのはイリア自身だ。   



「学校にも来ないでこんな所でぶらぶらしてるなんて、いい気なもんね」
「うちらさ、あんたに謝って欲しいんだけど」
「ちょっと付き合ってくれる?」


拒否権など与えられず、イリアは非常口の外へと連れてこられた。


「あんたさ、どう落とし前つけてくれるの?」
「…………」
「侑李の事、許さないから!」


バシッと頬を叩かれ、視界が揺れる。彼女達はイリアと同じクラスの侑李と仲の良かった子達だった。イリアは目の前で涙目になりながら怒りを露にする彼女達を見据えた。


「侑李が何したっていうの!?ただあんたと同じクラスだっただけで殺されなくちゃいけなかったなんて許せないんだよ!」
「還して……!侑李を還してよ……!」


泣きながら叫ばれ、彼女達は哀しみに嘆く。どんなに責められてもイリアにはどうする事も出来ない。


「あんたが死ねば良かったのに!」


隠し持っていたカッターを取り出し、リーダー格の子がイリアを切り付けた。紅く腫れていた頬に一筋の赤い線が入る。小さな痛みが眉を潜めた。


「今度はその喉に刺してやる!」


目が本気だった。イリアを殺す事くらい覚悟している眼だ。その狙いは外れない。イリアは微動だにせず彼女の動きを見据えた。


ーーピトッ


カッターの刃が喉に当たるほんの数㎝の間でイリアは彼女の手を掴んだ。


「ひっ……」
「殺すって、そんな簡単な事じゃないよ」


ぐっと力を入れると彼女は簡単にカッターを手離し、すぐにイリアから離れた。


「侑李の事は、謝っても償えきれない。貴方達の恨みも晴らせてあげられない。あたしはあの子達の分まで生きなきゃいけない。死ぬ訳にはいかないんだよ」
「……何様よ!自分だけ生き残って聖女にでもなったつもり?」
「ーーそうだね。あたしは一生この罪を償い続ける。どんな形であっても」


その強い視線に彼女達は何も言えず、狼狽える。イリアは落ちていたカッターを拾い上げ、彼女に渡した。


「侑李は幸せだね。貴方達にそんな風に思って貰えて」


最後に微笑みかけながら彼女達にそう告げ、イリアは中へ戻っていった。こんな事をしている場合ではない。早くランティス達を見つけなければ。


『ーーさぁ!それでは只今よりコスプレイベントを開催致します!』


イベントホールでは何やらショーが始まるらしく盛り上がっていた。コスプレイベントだと言うのに沢山の人々がホールに集まっていた。イリアは人が空いている内に今日回ってきた店を順に見ていった。


『なんと今回は一般の方も参加して下さいましたー!さぁ、ではどうぞー!』 


一際大きな歓声が上がり、イリアも何事かとホールに視線を向ける。その理由は一目で解った。


『素晴らしい衣装ですねー!今回はオリジナルキャラクターという事で、皆さん天使のコスプレをして下さってまーす!』


司会が盛り上げると会場も一気に熱が上がる。コスプレなど興味のなさそうな人達までもがうっとりとした表情でイベントホールの舞台を眺めている。


「あーあ。派手に公開されちゃったなぁ」


3階のフロアから1階のイベントホールを通路側の柵から覗きながらイリアは呟いた。探す手間が省けたがあれでは近付けない。容姿端麗なランティス達に見惚れぬ者はいない。それが天使の魅力でもある。


『ではでは!パフォーマンスに移りましょう!』
「パフォーマンス?」


なんの事か分からず、レフィ達は顔を見合わす。司会者はマイクを下ろしながら小声で「何かして!」と促した。


「能力を見せれば良いのでしょうか……」
「なら、手合わせでもする?」
「ダメだよ、イリアがいないのに」
「固いこと言わずにさ、ランティスもやろうよ。多分人間達には本物だなんて解らないと思うから」


カサンドラとレフィはやる気満々でナギに至っては注目に耐えきれず、舞台の端に避けていた。


「じゃあ、行くよ。レフィ」
「はい」


此処が何処だかも忘れて二人は構わず能力を発揮する。カサンドラは氷の剣を露にし、レフィは構えの体勢を取った。


「これはこれで面白いかも」


イリアは止めもせず、観賞する事にした。カサンドラが笑みを灯しながらレフィに迫る。レフィも水の防御で交わしていくが、それが本物の能力であるとは誰も信じていない。


「今の3Dって凄いねー」
「ねー!迫力あるー!」


今の時代、CGさえあれば大抵の事が可能だ。細かな部分はマジックの要領で行っていると思って貰えた方が都合がいい。


「上手い具合に溶け込んでるなぁ」


観賞しているイリアの近くで、イベントには全く興味のない子ども達が玩具を手にして遊んでいた。親達は楽しげな会話に夢中で子ども達を放置中だ。


「えいっ!」


飛行機の玩具を飛ばそうと投げた瞬間、そのまま手から離れてしまい、男の子は残念がった。飛行機は柵越しの床に落ち、拾うのは無理そうだ。


「ママー……」


男の子は母親に助けを求めるが、会話に夢中の女性はケタケタと笑うばかりでこどもの異変に気付かない。


「取れるんじゃない?」
「えー……」
「あれぼくの玩具なのに」


不穏な空気にイリアは気付き、男の子達に視線を向けた。だが、喧嘩をしているようにも見えたので、関わらないことにした。


「じゃあとってくる」


話が着いたのか、男の子は渋々柵に手を掛けた。ふっと軽くジャンプすると簡単に乗り越える事が出来た。男の子はそのまま柵に股がり降りようとしたがあと少しの高さで足が届かない。


「……あとちょっと……」


徐々に床に足が着きそうになるが、男の子の体は斜めっていた。


「……っと。あ……」
「ちょっと!なにやってるの!」


親達が気付いた時には既に遅く、男の子はバランスを崩し、体が宙に浮いた。


「きゃあぁあー!」


母親の叫び声とともにイリアが動いていた。柵から飛び降り、空中で男の子をキャッチする。だがそのあとはノープランだ。


バサッと黒い羽根が舞散る。二人を助けたのはランティスだった。


「ありがとー、ランティス」
「無茶し過ぎ……」


イリアは安堵の笑みを見せ、そのまま1階へと下ろして貰った。



『素晴らしいパフォーマンスでしたねー!コスプレといっても最近のは手が込んでますねー!感動しちゃいました』
 

司会者の咄嗟のフォローでなんとか誤魔化せた気がした。男の子も怪我はなく、イリアは親から感謝されていた。



「イリア。その顔の傷、どうしたの?」


イベントも無事に終わり、ショッピングモールから出た後、ランティスが聞いた。


「あー……ちょっとね」
「今、治すから……」
「いいの。これは自業自得だから、自然治癒するまでこのままにしておくの」
「……解りました」


彼らは深くは問わず、イリアの意思に従った。


「今日は楽しかったね!明日はゆっくり休もっか」


用はもう済んだので、帰宅後イリア達は家でゆっくりと寛いだ。




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