願わぬ天使の成れの果て。

あわつき

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7番目の天使 ~Lantis~

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それは、いつかの記憶。天使と悪魔の間に生まれた子は天界からも悪魔界からも弾かれ、行き場を失っていた。


『私と一緒に来なさい』


疎まれていた子に優しく手を差し伸べてくれたのは、悪魔の王として知られている者だった――。


悪魔界へと誘われた子は悪魔王に可愛がられ、そこでの生活を与えられた。子を蔑む悪魔もいたが、王に守られ子は安寧の地を得た。そして青年になった時、新しい名と黒い大羽根を貰った。王の側近としてその存在価値を認められた頃、天界の王と女神が現れ、悪魔界は不穏をもたらすとして有無を言わさずに滅ぼした。全ての悪魔は命を絶たれ、王もまたゼウスには勝てず【古の狭間】に封印されてしまった。


たった一人、取り残されてしまった青年は何も出来ず危害を加えない事を条件に天界での暮らしを強いられた。天使の血も引いていると云うことで多少の事は多目にみてもらい、そのまま天使の一員として身を委ねていた。


けれど、ゼウスと女神が不在の今、悪魔王を助けるには都合が良い。封印も女神と同等の能力を持つ彼女になら解けると考えていた。


「その為にお前らには大人しくして貰ったんだ」


バサッと黒い翼を広げながら、ランティスは淡々と語った。初めて知る事実をアルカディア達はまだ呑み込めていなかった。


「悪魔・・・?ランティスが・・・?」
「そうだよ、イリア。ぼくは悪魔としての生を選んだ。あの方の為なら何だって出来る。式典で浮かれてるこの時が一番油断すると思ってたしね」
「じゃあ・・・あの方って・・・」
「悪魔界の王・イヴリース様。彼は今も深い眠りに囚われている。だから、イリア。ぼくと一緒に来て」


差し出されたその手をイリアは取る事が出来ない。夜魅が彼女を後ろに庇い、攻撃体勢になった。


「イリアは渡さない」
「――なら、力付くで奪うだけだよ」


その瞬間、ランティスの姿が消え、夜魅は辺りを見渡した。気配も消えて何処にいるのか解らない。


「はい、残念」


背後から耳元で囁かれ、気付いた時にはその腕に身体を貫かれていた。


「っ・・・かはっ・・・!」


夜魅は吐血し、腕を抜かれた瞬間倒れた。側にいたイリアも何が起きたのか理解出来ず、血に塗れた夜魅を怯えた視線で眺めていた。


その光景はあの時と同じ。床に転がるクラスメイト達の姿がフラッシュバックした。また嫌な声が耳を貫く。目の前が紅く染まっていく中で、何も出来なかった自分を責めるように・・・。


「・・・嫌・・・」


イリアは頭を抱えながらふらつく。ダメだ・・・。消えない記憶に蝕まれていく。


「イリア」


膝を付きそうになるイリアをランティスが腕で抱き止めた。震えている彼女をランティスはそのまま抱き締める。


「・・・また・・・あの時みたいに・・・」
「大丈夫だ、イリア。思い出さないで」
「・・・あたしの所為で・・・」
「イリア」


ぎゅっと強く抱擁され、イリアは意識を取り戻した。


「・・・ランティス・・・?」
「ごめんね、イリア。でも、彼はまだ死なない。急所は外したからね」
「でも・・・こんなやり方・・・」
「天使に優しくする義理はないから」


いつもと口調は変わらないのに、目の前にいるのは別人みたいだ。


「ねぇ、イリア。どうしたらぼくと一緒に来てくれる?」
「えっ・・・」
「イヴリース様を救って欲しいんだ」
「でも・・・悪魔王の封印を解くなんて・・・」
「女神と同等の能力を持った君になら出来るかも知れない」
「・・・・・・」


イリアが迷っていると、急に落雷が降ってきた。ランティスの足元の地面が焦げている。


「いい加減にしなよ、ランティス」


アルカディアは締め付けられる痛みに耐えながら能力を放った。けれど狙いが安定せず、体力も削がれてしまった。


「「ミスタシア」とも有ろう君達が何も出来ないなんて、愚かだね。締め付けが甘かったかな」


ランティスが足を鳴らすと蔓の強さが増し、「ミスタシア」達を苦しめた。


「やめて、ランティス!」
「そうして欲しかったら、ぼくと来てくれるの?」
「・・・それは・・・」
「じゃあ、こうすれば判断してくれる?」


トントンと今度は2回足を鳴らすとアルカディアの悲鳴が上がった。先程よりももっときつくなり、息すらままならない。


「アルカディア!」
「彼には沢山守られてきたでしょう?優しくして貰った分、ちゃんと恩を返してあげなきゃ」
「っ・・・・・・」
「まだ迷うの?アルカディアがどうなっても良いんだね?」
「えっ・・・」
「ぅわぁあ――!」


ボキボキっと骨が砕ける音が響き、アルカディアの悲鳴が轟く。このままではアルカディアは締め殺されてしまう。


「もうやめてランティス!これ以上、皆には何もしないで・・・!」


イリアは泣きながら叫んだ。ランティスは指を鳴らし、「ミスタシア」達を解放した。
蔓は自然に消滅し、後には大きな穴が残った。



「イリア。ぼくと来てくれるね?」
「・・・行く・・・。だからもう皆には・・・!」
「何もしないよ」


優しく微笑まれ、イリアは再度差し出された彼の手を取った。


「・・・っ、イリアちゃん・・・!」


激痛に耐えながらアルカディアは去り行く少女の名を呼んだ。


「・・・アルカディア・・・」
「行っちゃ・・・ダメだよ・・・!悪魔王は・・・!」


バキッと嫌な音が響き、アルカディアは小さく呻いた。伸ばしかけた彼の手をランティスは冷たい瞳で踏み潰した。


「余計な事、言わないでくれる?」
「・・・ランティス・・・」
「ねぇ?アルカディア。どうしてぼくが君の側にいたか解る?」
「・・・えっ・・・?」
「能力の高い君の側に居れば誰も疑わないし、情報も得られると思ったからだよ。決して信頼してたとかじゃないから」
「・・・・・・」
「残念だったね。大好きなイリアを守れなくて」


感情のない言葉を発しながら、ランティスはイリアを連れて姿を消した――。
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