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悪魔王 ~Evalis~
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どうやって其所に来たのか解らない程一瞬で、次に目を開けた時には暗闇の空間にいた。身体が軽く、地に足は付いていない。見渡す限り、何もない空間が続いているだけ。
「イリア」
すぐ近くで声が聞こえ、手を握られている事に気付いた。
「・・・ランティス」
「大丈夫?気分悪くない?」
「ん・・・」
イリアに対しては変わらぬ態度のランティス。1度その優しさを知ってしまってからは、突き放すなんて事は出来ない。
「ぼくから離れないでね」
「・・・解った」
足音もなく二人は進んでいく。無限に広がる暗闇は方向感覚を鈍らせる。
「この先にある筈なんだ」
【古の狭間】は何処に現れるか不確かでその周りは暗闇に包まれているという。ランティスがどうやって此処に来たのかは不明だが、イリアはただ彼に付いていった。
「――あった!」
「えっ・・・」
ランティスの指す方向に淡い光が満ちていた。近付いていくと、立派な棺が浮遊していた。棺の周りには頑丈なまでに鎖が巻き付けられている。
「これが・・・」
「イヴリース様が封印された棺。イリア、この棺開けられる?」
「・・・やってみる」
イリアはそっと棺に触れた。今までに感じた事のない冷たさで拒絶を払っている。「絶対に開けてはいけない」と念を押されているようだ。
「イリア?」
「大丈夫・・・。この鎖をなんとかしないと」
彼女の手に光る剣が現れ、イリアは構えながら思いっきり降り下ろした。
ガンッと重い振動が剣から伝わり、全身が痺れた。
「痛っ・・・」
「怪我は?」
「ないけど・・・思った以上に頑丈かも・・・」
「厄介だな・・・」
「ランティス、ちょっと離れてて」
「うん」
イリアは集中し、剣の先に光を集めた。光はどんどん膨張していき、巨大な玉となり一気に放たれた。爆発音とともに煙が包み、イリアも咳き込んでしまった。
「大丈夫?」
「う、ん・・・」
煙が晴れた先には鎖の取れた棺があった。二人な棺に近寄り、ランティスが開けようと手をかけた。
ガチャン
棺は勝手に開き、むくっと誰かが起き上がった。白く長い髪が靡き、体を伸ばしながら欠伸をしている。
「イヴリース様!」
ランティスが嬉しそうにその名を呼んだ。
「んー・・・?ランティスか?」
「はい。具合は如何ですか?」
「何ともないよ・・・。強いて言うなら寝過ぎて身体が痛い」
「なら、良かったです」
「お前が封印を?」
「いえ・・・彼女が・・・」
「彼女?」
薄荷色の瞳がイリアを捕らえた。ルシファーと似たような凍るような視線。その姿はとても悪魔とは思えない程、綺麗で澄んでいた。
「名は?」
「・・・イリア・・・」
「見た所人間みたいだけど」
「はい・・・。女神の代理として今は天界を任されています・・・」
「女神の代理ねぇ・・・。って事は、女神は不在な訳だ」
「はい・・・」
「其は好都合。ランティス」
呼ばれた彼は悪魔王の元へ歩み寄った。
「久しぶりだねー。こんなに立派になって。我は嬉しいよ」
「ぼくもずっと会いたかった」
「そうだろう。お前はずっと待ってくれていると思っていたよ」
「イヴリース様」
「――で?君はいつまでいるのかな?」
不意に優しげな笑みで問われ、イリアは不安を感じた。
「えっ・・・」
「イヴリース様。イリアは女神と同等の能力を持っています。此方側に付ければ天使達も手出し出来ない」
「でもねぇ、ランティス。この子は人間なんでしょー?信頼出来ないなぁ」
「ですが・・・」
「我はお前だけ居ればいいんだよ」
「っ・・・」
「だから邪魔者には退散して頂こうか」
「・・・イリア!」
悪魔王が指で弾くような仕草を見せた瞬間、イリアは酷い頭痛に見舞われた。
「・・・痛っ・・・」
「イヴリース様!何を・・・」
「ランティス。我とともに新世界を作ろう。女神もいない今なら出来る筈だ」
「新世界・・・」
「そう。我が新しい神となって天界を乗っ取るんだ」
「そんな・・・でも・・・」
「その為にはランティス。君にも変わって貰わないとね」
「変わる・・・?」
ガシッと頭を掴まれ、その力強さに抵抗出来なかった。
「お前は少しばかり優しすぎる。如何なる時も冷酷でなくては。新世界に感情は要らないからね」
悪魔王はそう囁くとランティスを解放した。頭痛が治まったイリアはランティスに駆け寄る。
「・・・ランティス・・・」
パシッ――
触れようと伸ばした手を弾かれ、イリアは拒絶されたのだと遅れて理解した。
「――穢い手で触らないで」
向けられたのは刺さるような冷たい視線。声にも感情が込もっていない。
「・・・誰・・・?」
目の前にいるのは、イリアの知っている天使ではない。拒絶を纏った冷酷な悪魔。
「ランティス。その子は新世界に要らない。お前が片付けて」
「承知しました」
グッと首を掴まれ、イリアは表情を歪める。呼吸が苦しい。その力強さはイリアを敵として見ている証拠。剣を持つ手に力が入らない。何の抵抗も出来ぬまま、ただ苦しみだけが支配した。
「・・・な、んで・・・」
「イヴリース様の為。あの方の言う事ならぼくは何だって受け入れる」
「・・・そ・・・っか・・・」
一瞬だけイリアの口元が緩んだ気がした。ランティスの瞳が揺らいだ瞬間、イリアは剣を彼の身体に突き刺していた。
「・・・!?」
痛みを感じたのか、ランティスはイリアを放し、刺された箇所に手を当てた。悪魔も天使と同様、心臓を傷付けられなければ死には至らない。だが、彼は無慈悲な瞳でイリアを焔に包んだ。
「あっ・・・っ・・・!」
熱い。息が出来ない。でも、ここで朽ちる訳にはいかない。彼女の眼光に気付いた悪魔王が彼の名を叫ぶ。
「ランティス!」
ドォン――
先程よりも大きな光が悪魔王とランティス目掛けて放たれた。悪魔王は間一髪ランティスを助けながら攻撃を交わした。
「・・・大した子だね」
二人の目の前にイリアの姿はなく、ただの暗闇だけが広がっていた――。
天界では、壊された式典の舞台を直したり、怪我を負った天使達の救護をしたりと慌ただしかった。ナギもその中心にいた。
神殿に運ばれてくる天使達をナージャが治癒していき、「ミスタシア」達も身体の治癒に専念していた。特にアルカディアは骨を折られていたので回復には大分時間が掛かる。ナージャも巻き付けられた痛みが痣となって腕を動かすのも一苦労だった。
夜魅も神殿に運ばれ、一番先に治癒された。けれど身体のダメージが大きく、まだ暫くは起きそうにない。
「・・・貴方で・・・最後ね?」
「はい・・・」
最後の天使まで確りと治癒を施すと、ナージャは意識を失いかけた。倒れそうになるナージャをカサンドラが支えた。
「無理し過ぎ」
「・・・うん。ごめんね・・・」
「ベッド空いたから少し寝た方が良い」
「あたしはいいから・・・。違う子が使って」
「ダメ。ちゃんと休まないと。能力も使い過ぎ」
「・・・・・・はいはい」
観念したのかナージャは素直に従った。其ほどダメージを受けていないカサンドラやイラ達は外に様子を見に行った。あんなに頑張って用意したものがこうも簡単に壊されてしまうのは腹立たしい。楽しみにしていた天使達の想いを踏みにじった事も。
「・・・けど・・・其よりも・・・」
「――あぁ。イリアに申し訳ない」
「っ・・・!」
カサンドラは髪をかきむしりながらしゃがみ込んだ。
「・・・自分の非力さに腹が立つ・・・」
「カサンドラ・・・」
「何も・・・出来なかった・・・」
「・・・・・・そうだな」
イラはただ頷くだけでそれ以上は何も言わなかった。
【癒しの丘】の片付け作業は着々と進んでいた。回復してきた天使達の手助けもあって元通りへと姿を整えていった。
「ナギ!」
不意に呼ばれて顔をあげると姉の姿があった。式典でも家から出なかった天使がこんな時に外に出てくるなんて珍しいとナギは思った。
「どうしたの?」
「凄い音したから見に来た。何があったんだ?」
「・・・色々と・・・」
「私も片付け手伝うよ」
「うん」
ナギの姉・ユゥは修復能力を持っていた。一つずつ手を当て、元よりも立派な形に変えていく。飾りもステージも見違える程、綺麗なモノが出来た。ユゥのお陰で作業は早目に終わり、動いていた天使達はその場で身体を休めた。
「流石、お姉(ねぇ)」
「ありがと」
ユゥは上機嫌で辺りを見渡す。何とか修復は叶ったが、此れからが大変だと息をついた。
「・・・お姉!あれ・・・」
空を見上げたナギが何かを指しながら姉を呼んだ。ユゥも指差された方向を見ると何かが落ちてくるのが解った。
「あれって・・・」
「・・・イリア・・・様・・・」
「えっ」
「女神様代理だよ!助けなきゃ」
「待って、ナギ」
ユゥは近くにいる天使達を見回し、一番親しみのある天使を呼んだ。
「サラ!」
「・・・えっ?なに・・・」
いきなり呼ばれたサラは久々に見た親友に驚きながら何事かとユゥに近寄る。
「キャッチ」
「は?」
「いいから!」
上を指され、サラも空を見上げた。徐々に明確になっていくその姿に気付いたサラはすぐに飛翔し、空中で彼女を抱き留めた。
「ひっどい怪我・・・」
「早く神殿に運びましょう」
「あぁ・・・」
どうやって【古の狭間】から出られたのかは不明だが、落ちてきたイリアは全身に酷い火傷を負っていた。神殿の前にいたカサンドラとイラに事情を話し、彼女はすぐにナージャの手当てを受けた。ナージャもお疲れの様だったがイリアだと知って自分が治すからと前に出てくれた。
「――よし。火傷は痕には残らなそうね。暫く包帯は取れないけど」
「ありがとうございます、ナージャ様!」
ナギがお礼を言い、サラも一礼した。怪我が酷かったのかイリアは目を覚まさず眠りについている。
「あの子が・・・女神の代理?」
一段落した頃、ユゥが彼らに聞いた。長い事引き籠っていた為、外の情報には耳を通していなかった。
「そうだよ」
まだフラフラしているナージャを支えながらカサンドラが答えた。
「普通の人間じゃないか。ナギがお前らも一目置いていると言っていたからどんな奴かと思えば」
「――あぁ。普通の子だよ、イリアは」
「イラまで・・・。まぁ、でも、興味はあるな」
「お前もいずれ解るよ」
イラの優しげな微笑を見てユゥは驚いた。彼にこんな表情をさせられる者がレフィ以外にいたのかと。
「・・・にしても、酷かったな。戦ったのか?」
「イリアが目を覚ましたら話を聞こう」
彼らはイリアの目覚めを待って、その日は身体を休めることにした――。
「女神の代理か・・・。其なりに能力はあるみたいじゃないか」
【神流の森】に降り立った悪魔王とランティスは囁く木々の羽音に声を乗せながら話していた。
「どうしますか?」
「そうだな・・・。あの子がどんな風に天界を守るのか見てみたいねぇ」
悪魔王はクスクス笑いながら言った。
「ランティス。まずはこの森から破壊しようか」
「承知しました」
彼の瞳にはもう何も映らない。ただ、心酔する主の姿だけが色鮮やかに見えていた・・・。
「イリア」
すぐ近くで声が聞こえ、手を握られている事に気付いた。
「・・・ランティス」
「大丈夫?気分悪くない?」
「ん・・・」
イリアに対しては変わらぬ態度のランティス。1度その優しさを知ってしまってからは、突き放すなんて事は出来ない。
「ぼくから離れないでね」
「・・・解った」
足音もなく二人は進んでいく。無限に広がる暗闇は方向感覚を鈍らせる。
「この先にある筈なんだ」
【古の狭間】は何処に現れるか不確かでその周りは暗闇に包まれているという。ランティスがどうやって此処に来たのかは不明だが、イリアはただ彼に付いていった。
「――あった!」
「えっ・・・」
ランティスの指す方向に淡い光が満ちていた。近付いていくと、立派な棺が浮遊していた。棺の周りには頑丈なまでに鎖が巻き付けられている。
「これが・・・」
「イヴリース様が封印された棺。イリア、この棺開けられる?」
「・・・やってみる」
イリアはそっと棺に触れた。今までに感じた事のない冷たさで拒絶を払っている。「絶対に開けてはいけない」と念を押されているようだ。
「イリア?」
「大丈夫・・・。この鎖をなんとかしないと」
彼女の手に光る剣が現れ、イリアは構えながら思いっきり降り下ろした。
ガンッと重い振動が剣から伝わり、全身が痺れた。
「痛っ・・・」
「怪我は?」
「ないけど・・・思った以上に頑丈かも・・・」
「厄介だな・・・」
「ランティス、ちょっと離れてて」
「うん」
イリアは集中し、剣の先に光を集めた。光はどんどん膨張していき、巨大な玉となり一気に放たれた。爆発音とともに煙が包み、イリアも咳き込んでしまった。
「大丈夫?」
「う、ん・・・」
煙が晴れた先には鎖の取れた棺があった。二人な棺に近寄り、ランティスが開けようと手をかけた。
ガチャン
棺は勝手に開き、むくっと誰かが起き上がった。白く長い髪が靡き、体を伸ばしながら欠伸をしている。
「イヴリース様!」
ランティスが嬉しそうにその名を呼んだ。
「んー・・・?ランティスか?」
「はい。具合は如何ですか?」
「何ともないよ・・・。強いて言うなら寝過ぎて身体が痛い」
「なら、良かったです」
「お前が封印を?」
「いえ・・・彼女が・・・」
「彼女?」
薄荷色の瞳がイリアを捕らえた。ルシファーと似たような凍るような視線。その姿はとても悪魔とは思えない程、綺麗で澄んでいた。
「名は?」
「・・・イリア・・・」
「見た所人間みたいだけど」
「はい・・・。女神の代理として今は天界を任されています・・・」
「女神の代理ねぇ・・・。って事は、女神は不在な訳だ」
「はい・・・」
「其は好都合。ランティス」
呼ばれた彼は悪魔王の元へ歩み寄った。
「久しぶりだねー。こんなに立派になって。我は嬉しいよ」
「ぼくもずっと会いたかった」
「そうだろう。お前はずっと待ってくれていると思っていたよ」
「イヴリース様」
「――で?君はいつまでいるのかな?」
不意に優しげな笑みで問われ、イリアは不安を感じた。
「えっ・・・」
「イヴリース様。イリアは女神と同等の能力を持っています。此方側に付ければ天使達も手出し出来ない」
「でもねぇ、ランティス。この子は人間なんでしょー?信頼出来ないなぁ」
「ですが・・・」
「我はお前だけ居ればいいんだよ」
「っ・・・」
「だから邪魔者には退散して頂こうか」
「・・・イリア!」
悪魔王が指で弾くような仕草を見せた瞬間、イリアは酷い頭痛に見舞われた。
「・・・痛っ・・・」
「イヴリース様!何を・・・」
「ランティス。我とともに新世界を作ろう。女神もいない今なら出来る筈だ」
「新世界・・・」
「そう。我が新しい神となって天界を乗っ取るんだ」
「そんな・・・でも・・・」
「その為にはランティス。君にも変わって貰わないとね」
「変わる・・・?」
ガシッと頭を掴まれ、その力強さに抵抗出来なかった。
「お前は少しばかり優しすぎる。如何なる時も冷酷でなくては。新世界に感情は要らないからね」
悪魔王はそう囁くとランティスを解放した。頭痛が治まったイリアはランティスに駆け寄る。
「・・・ランティス・・・」
パシッ――
触れようと伸ばした手を弾かれ、イリアは拒絶されたのだと遅れて理解した。
「――穢い手で触らないで」
向けられたのは刺さるような冷たい視線。声にも感情が込もっていない。
「・・・誰・・・?」
目の前にいるのは、イリアの知っている天使ではない。拒絶を纏った冷酷な悪魔。
「ランティス。その子は新世界に要らない。お前が片付けて」
「承知しました」
グッと首を掴まれ、イリアは表情を歪める。呼吸が苦しい。その力強さはイリアを敵として見ている証拠。剣を持つ手に力が入らない。何の抵抗も出来ぬまま、ただ苦しみだけが支配した。
「・・・な、んで・・・」
「イヴリース様の為。あの方の言う事ならぼくは何だって受け入れる」
「・・・そ・・・っか・・・」
一瞬だけイリアの口元が緩んだ気がした。ランティスの瞳が揺らいだ瞬間、イリアは剣を彼の身体に突き刺していた。
「・・・!?」
痛みを感じたのか、ランティスはイリアを放し、刺された箇所に手を当てた。悪魔も天使と同様、心臓を傷付けられなければ死には至らない。だが、彼は無慈悲な瞳でイリアを焔に包んだ。
「あっ・・・っ・・・!」
熱い。息が出来ない。でも、ここで朽ちる訳にはいかない。彼女の眼光に気付いた悪魔王が彼の名を叫ぶ。
「ランティス!」
ドォン――
先程よりも大きな光が悪魔王とランティス目掛けて放たれた。悪魔王は間一髪ランティスを助けながら攻撃を交わした。
「・・・大した子だね」
二人の目の前にイリアの姿はなく、ただの暗闇だけが広がっていた――。
天界では、壊された式典の舞台を直したり、怪我を負った天使達の救護をしたりと慌ただしかった。ナギもその中心にいた。
神殿に運ばれてくる天使達をナージャが治癒していき、「ミスタシア」達も身体の治癒に専念していた。特にアルカディアは骨を折られていたので回復には大分時間が掛かる。ナージャも巻き付けられた痛みが痣となって腕を動かすのも一苦労だった。
夜魅も神殿に運ばれ、一番先に治癒された。けれど身体のダメージが大きく、まだ暫くは起きそうにない。
「・・・貴方で・・・最後ね?」
「はい・・・」
最後の天使まで確りと治癒を施すと、ナージャは意識を失いかけた。倒れそうになるナージャをカサンドラが支えた。
「無理し過ぎ」
「・・・うん。ごめんね・・・」
「ベッド空いたから少し寝た方が良い」
「あたしはいいから・・・。違う子が使って」
「ダメ。ちゃんと休まないと。能力も使い過ぎ」
「・・・・・・はいはい」
観念したのかナージャは素直に従った。其ほどダメージを受けていないカサンドラやイラ達は外に様子を見に行った。あんなに頑張って用意したものがこうも簡単に壊されてしまうのは腹立たしい。楽しみにしていた天使達の想いを踏みにじった事も。
「・・・けど・・・其よりも・・・」
「――あぁ。イリアに申し訳ない」
「っ・・・!」
カサンドラは髪をかきむしりながらしゃがみ込んだ。
「・・・自分の非力さに腹が立つ・・・」
「カサンドラ・・・」
「何も・・・出来なかった・・・」
「・・・・・・そうだな」
イラはただ頷くだけでそれ以上は何も言わなかった。
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「ナギ!」
不意に呼ばれて顔をあげると姉の姿があった。式典でも家から出なかった天使がこんな時に外に出てくるなんて珍しいとナギは思った。
「どうしたの?」
「凄い音したから見に来た。何があったんだ?」
「・・・色々と・・・」
「私も片付け手伝うよ」
「うん」
ナギの姉・ユゥは修復能力を持っていた。一つずつ手を当て、元よりも立派な形に変えていく。飾りもステージも見違える程、綺麗なモノが出来た。ユゥのお陰で作業は早目に終わり、動いていた天使達はその場で身体を休めた。
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「ありがと」
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「・・・イリア・・・様・・・」
「えっ」
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「あぁ・・・」
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「――よし。火傷は痕には残らなそうね。暫く包帯は取れないけど」
「ありがとうございます、ナージャ様!」
ナギがお礼を言い、サラも一礼した。怪我が酷かったのかイリアは目を覚まさず眠りについている。
「あの子が・・・女神の代理?」
一段落した頃、ユゥが彼らに聞いた。長い事引き籠っていた為、外の情報には耳を通していなかった。
「そうだよ」
まだフラフラしているナージャを支えながらカサンドラが答えた。
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「――あぁ。普通の子だよ、イリアは」
「イラまで・・・。まぁ、でも、興味はあるな」
「お前もいずれ解るよ」
イラの優しげな微笑を見てユゥは驚いた。彼にこんな表情をさせられる者がレフィ以外にいたのかと。
「・・・にしても、酷かったな。戦ったのか?」
「イリアが目を覚ましたら話を聞こう」
彼らはイリアの目覚めを待って、その日は身体を休めることにした――。
「女神の代理か・・・。其なりに能力はあるみたいじゃないか」
【神流の森】に降り立った悪魔王とランティスは囁く木々の羽音に声を乗せながら話していた。
「どうしますか?」
「そうだな・・・。あの子がどんな風に天界を守るのか見てみたいねぇ」
悪魔王はクスクス笑いながら言った。
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