DYING MEMORY

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エピソード21:過去が燃やす炎 -ヘルベルト-

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重く、鈍い痛みが右肩から脈を打つたび、視界の端がじわりと暗くなる。
それでも、ヘルベルトの足は止まらなかった。

(……まだ動ける。呼吸も、まだ保てる)

暗い廊下を進むたび、ブーツの底が湿った床を踏みしめる音だけが響く。
背後にはもう、ミーナの声も足音もない。
──自分で断ち切ったのだ。迷いはなかった。

「……あいつには悪いが、俺は俺のやり方で行く」

荒い息を整え、ショットガンのストラップを握り直す。
毒のせいで右腕に力は入らないが、左手で構えるだけならまだどうにかなる。

廊下の角を曲がった瞬間、足音が近づいてきた。
影がひとつ、二つ……いや、三つ。

『侵入者発見。 不純物として処分する』

ライフベージ教団の黒ローブたちだ。 サブマシンガンを持ち、闇の中から迫ってくる。

「……邪魔するな!」

引き金が落ち、散弾が闇を裂く。
最前列の男が吹き飛び、その背後の二人が慌てて後退した。
だが、逃げ道は与えない。

『危険因子! 即刻処分せよ!』

「処分されるのは……貴様らカルト教団どもだっ!!」



ヘルベルトは床を蹴り、間合いを一気に詰める。
ショットガンの銃口をわずかに下げ、至近距離から再び轟音を放った。

肉と布が裂け、壁に血飛沫が咲く。
右肩の激痛を無理やり押し殺し、左腕だけで銃を捌き続ける。

残った一人が悲鳴を上げながらサブマシンガンを乱暴に撃ち続ける。

ヘルベルトは銃身で顎を打ち上げ、膝蹴りで腹を潰す。
崩れ落ちた敵のこめかみに、ためらいなく散弾を撃ち込んだ。

「終わりだ……クソ野郎!」

銃声が廊下にこだまし、硝煙と血の匂いが一気に濃くなる。
わずかに息を荒げながらも、ヘルベルトの足は止まらなかった。
倒れた教団員の死体を跨ぎ、その奥――暗がりの向こうに潜む気配を睨み据える。

(ルーシェ……無事でいろ。たとえもう……ミーナに救われていたとしても)

その時、低く、湿った唸り声が廊下の奥から響いた。
金属を爪で削るような音と、獣の呼気が混ざった、不快な音。
非常灯の赤い明滅の中、床を這う影がじわりと広がってくる。

ヘルベルトは毒の痺れが残る右腕を無理やり持ち上げ、銃口を闇に向けた。
足音が一つ、二つ……そして四つに分かれ、壁際を駆け抜ける。

「……獣か……いや、違う」

赤黒い瞳が闇に灯り、次の瞬間、細長い影が床から跳ね上がった。

細長い手足、剥き出しの筋肉に、背骨のような突起が連なる異形の体躯。
獲物を見つけた瞬間の野犬のように、喉奥で低く鳴いた。

天井を這いながら、化け物は真上から急降下してくる。
ヘルベルトは半身をひねり、地を滑るように避けざま散弾をぶち込んだ。

“ドガァンッ!”

衝撃で奴の体が壁に叩きつけられるが、止まらない。
壁を蹴り、再び跳躍――その爪が目の前を掠め、火花が散った。

(速い……! だが……一撃で仕留める)

痺れる腕を押さえつけるように、銃を構え直す。
化け物の影が赤い光の中でぶれ、次の瞬間には間合いに飛び込んでいた。

ヘルベルトは半歩下がり、銃身を胸に押しつけるようにして引き金を引く。

“ドガァンッ!”

散弾が奴の左肩を吹き飛ばし、骨と黒い肉片が壁に散る。
だが悲鳴も上げず、化け物は壁を蹴って天井に戻った。

(痛覚が薄い……いや、痛みで動きが狂わないタイプか)

頭上から一気に降下。
鋭い爪が風を裂き、ヘルベルトの頬をかすめる。
鉄臭い血が一筋、頬を伝った。

「……っ!」

毒で鈍った右腕がわずかに遅れる。
銃の構えが間に合わず、奴の膝蹴りが腹に叩き込まれた。
肺の奥から空気が押し出され、視界が一瞬白く弾ける。

体勢を崩したまま、奴の爪が首筋を狙って突き出された。
咄嗟に銃身を差し込み、防御と同時に力任せに押し返す。
爪が鉄を削る音が耳を焼いた。



「……そうかよ、接近戦が得意ってわけか……!」

距離を取るため、ヘルベルトはわざと後ろに倒れ込む。
モンスターが追撃に跳んだ瞬間、寝転がった姿勢から腹部めがけて引き金を引いた。

爆音と共に血飛沫が天井まで舞い上がる。
しかし、奴は後退するどころか、吹き飛ばされた勢いを利用して壁を走り、真横から襲いかかってきた。

(この速さ……この執念……!)

左手で銃を支えながら、ヘルベルトは腰のホルスターから予備用のハンドガンを抜いた。
二挺同時の引き金が落ち、散弾と弾丸が交互に化け物の体を削る。
血と黒い肉が飛び散り、壁に焼けた肉の匂いがこびりつく。

それでも奴は止まらない。
まるで死を知らない生き物のように、壊れた四肢を引きずりながら迫ってくる。

「……死ねッ!!」

最後の散弾を顔面に撃ち込み、頭蓋を粉砕する。
モンスターの体が、崩れるように床へ落ちた。

ヘルベルトは荒く息をつき、銃身から煙を吹き払う。

「永遠に眠ってろ……化け物が」

足元に転がる化け物の骸は、もう動かない。
壁や床に散った血が赤黒く光り、焼けた肉の匂いが鼻を刺す。

――――――――――――――――――

ルーシェを探すため、奥へ奥へと進むヘルベルト。
闇に沈んだ通路を抜けた先、壁際に古びたモニターが並ぶ小部屋があった。
どれも埃をかぶっていたが、電源はまだ生きている。

彼は一番手前の端末に手を伸ばし、スイッチを押す。
低く唸るような起動音。画面に走るノイズが、やがて色を帯びていく。

映ったのは――狭い廊下を全力で駆けるミーナとルーシェの姿。

ミーナは前方を睨み、ルーシェはその横を必死に並走している。
彼女の顔に怯えはなく、汗と決意が混じった真剣な表情だった。

「ルーシェ……それにミーナ。
そうか……一緒に抜け出してるのか」

言葉には安堵が滲むが、その瞳は笑っていなかった。
胸の奥に生まれたのは、確かに救われたという感情と同時に、置き去りにされたような焦燥だった。

映像の中、ミーナは背後を気にしながら角を曲がり、やがて画面から消える。
再びノイズが走り、音も途切れる。

静寂の中で、ヘルベルトは拳を握った。

「……それがお前のやり方ってやつか、ミーナ」

わずかに口角が上がる。だがそれは笑みではない。
自分とはまったく違うやり方――それでも彼女は彼女なりに、命を賭けて走っている。

「……でもな、俺は自分のやり方で進むって決めたんだ。
あの事件をきっかけに……」

脳裏に蘇る、12年前の連続殺人事件。
犠牲者の家々に漂っていた鉄臭い血の匂い、静まり返った現場で聞こえたのは、自分の鼓動だけだった。
助けられなかった顔が、何度も夢に現れ、何度も自分を責め立てた。

――――――――――――――――――

雨が降っていた。
路地裏に立ち込める湿った空気は、生臭い鉄の匂いと混ざり合って重くのしかかってくる。
若き日のヘルベルトは、まだ制服の胸に警察バッジをつけた巡査部長だった。

「……くそ……またかよ」

ビニールシートの下、横たわるのは二人目の被害者。
首には深く切り裂かれた傷跡、瞳は見開かれたまま雨空を映していた。
現場検証のライトが肌を照らすたび、傷口の赤が濃く浮かび上がる。

「手口が同じだな。12日前の事件と……」
 
背後から先輩刑事の声がした。
同じ区域で、短期間に二件目――連続殺人は確定だ。

ヘルベルトは唇を噛み、被害者の手元に残された血の跡を見つめた。
それは掴もうとした何かを、無理やり奪われたような痕だった。

(間に合わなかった……)

数時間前、通報が入ったときにはすでに遅かった。
パトロールのルートを一つずらしていなければ、間に合ったかもしれない。
そんな“もしも”が頭の中で何度も繰り返される。

雨の中、現場検証が終わり、死体はビニールに包まれて運ばれていった。
ヘルベルトは現場から離れず、ただ検証テントの端で報告を待っていた。

数十分後、指紋鑑識の若い刑事が駆け寄ってくる。

「ヘルベルトさん……出ました。被害者の服と凶器から採取した皮膚片、そして遺留品から――」

短く息を整え、鑑識はファイルを差し出した。

そこには、黒いインクで打ち出された一枚の照合結果。



一致:バウゼン



それはここ数カ月、街中で頻繁に囁かれている名だった。
麻薬取引、武器密輸、失踪事件――そのどれもに直接の証拠は残されていない。
だが、必ずどこかで“バウゼン”という名が影のように付きまとっていた。

「……まさか、あの噂の?」

ヘルベルトは鑑識から手渡された照合結果を見つめ、低く呟いた。

この名を知る刑事は少ない。
知っていても、口にすることを避ける者がほとんどだった。
“名前を呼べば災いが降る”――そんな都市伝説めいた言い回しさえ、署内で囁かれている。

だが今、目の前の紙にその名が刻まれている。
血の匂いと雨の冷たさが、現実感を否応なく突きつけてきた。

(……犯人が、あのバウゼンだと……?)

バウゼン――その名は一人の男を指すものではなかった。
鑑識の報告によれば、確認されているのは兄弟。

兄:リベラート・R・バウゼン
弟:ジェイソン・K・バウゼン

両者とも国籍、経歴は不明。偽造パスポートや複数の偽名を使い分け、世界各地で暗躍しているらしい。
兄リベラートも弟ジェイソンも、どちらも現場の実行担当――目撃証言では、常に血の匂いを纏っていたという。

「……二人組、しかも血縁か」

ヘルベルトは資料を見下ろし、奥歯を噛みしめた。

警察内部の非公式な噂によれば、この兄弟は単なる犯罪者ではない。
闇市場を支配する複数の組織を渡り歩き、必要とあらば自らの仲間すら切り捨てる。
そして何より――手を汚すことを一切厭わない。

(兄弟揃って影のように動く……だから今まで捕まらなかったのか)

雨音が強くなる中、ヘルベルトはその名を胸に刻み込んだ。
この兄弟を捕らえなければ、同じ悲劇が何度でも繰り返される――そう直感していた。


それからの数カ月、ヘルベルトは昼夜を問わず兄弟の足取りを追った。
しかし、二人は常に一歩先を行き、決定的な現場を押さえることはできなかった。
証言は曖昧で、残された痕跡はすべて意図的に消されている。

ある夜、情報屋からこんな言葉を聞かされる。

「バウゼンは“風”みたいなもんだ。捕まえようとすればするほど、指の間を抜けていく」

やがて捜査本部は兄弟の事件との関連を否定し、ファイルは棚の奥に追いやられた。
署の中では、この件を口にする者すらいなくなった。

(こんな終わり方、俺は認めない)

しかし、ヘルベルトの部下も同じ思いを抱いていた。

「いつまでも出鼻くじかれちゃ、サツの名が廃れちまいますね」

若い刑事の目は、諦めではなく闘志で燃えていた。
だが、それは同時に、組織にとっては危うい炎でもあった。
上層部はそんな火種を嫌い、目を逸らすことを選んでいる。

「……ああ、そうだな」

ヘルベルトは短く答え、視線を窓の外の雨に向けた。
街のどこかで、また同じ血が流されようとしている――そんな予感が胸を締めつける。


夜の路地は湿った闇に包まれていた。
ヘルベルトと部下は、無断でバウゼン兄弟の情報を追っていた。
その日、ようやく手がかりを掴む――そう思った矢先だった。

「……見つけました! 先に行きます!」

無線から焦った声。
その直後、部下の影が暗がりの向こうへ駆けていくのが見えた。

「待て! 一人で行くな!」

叫び声は冷たい夜気に溶け、雨音に呑まれていく。
ヘルベルトは喉が裂けそうなほど息を吐きながら走った。
路地を曲がるたび、靴底が濡れた石畳を叩き、黒い水しぶきが跳ね上がる。

――そして、突き当たりで足が止まった。

世界の音が、一瞬で消えた気がした。
そこにあったのは、さっきまで声を張り上げていた部下の“残骸”だった。

顔は判別不能なほど潰され、血と泥がぐしゃりと混ざっている。
目は虚空を見開き、そこには生の光も恐怖も、もう何も残っていなかった。

胴は裂け、骨と臓腑が冷たい外気に晒され、雨水がそれらを淡く洗い流す。
赤と黒が混じった水が、ゆっくりと石畳の隙間へ流れ込んでいく。

“殺された”――そう呼ぶにはあまりに無慈悲だった。
これは、明確な意思を持って“破壊された”としか言いようのない有様だった。

ふいに、生ぬるい血の匂いが鼻を刺す。
その奥、闇の向こうで――一瞬、濡れた靴底が石を踏む音が響いた。

膝が石畳に沈み込み、ヘルベルトは雨に打たれながら震える手で部下の肩を揺さぶった。

「……おい……嘘だろ……!」



返事はない。
雨粒が、血と涙の区別もなく頬を流れ落ちていく。



「バウゼェェェェェンッ!!!」




怒号が路地裏に響き渡り、雨音さえ押し流した。
その奥、暗闇の中で一瞬だけ何かの気配が揺らぎ、すぐに消えた。


翌朝、濡れた制服のまま署に戻ったヘルベルトは、真っ先に上官の部屋へ駆け込んだ。
机の上に血に濡れた証拠写真と報告書を叩きつける。

「……奴らにやられた。目撃情報と痕跡からして――バウゼン兄弟だ」

しかし上官は眉間に皺を寄せ、深くため息をついた。

「ヘルベルト、これ以上騒ぎを大きくするな」

「何を言ってるんですか!? うちの刑事が――」

「わかっている。しかし今、この件を公にすれば警察の信頼に関わる」
上官の声は淡々としていたが、その冷たさが余計に胸を抉った。

「……信頼? そんなもんのために部下の死を無かったことにする気ですか」

「お前、精神的に不安定になっているんじゃないか? 少し休暇を取れ」

拳が震えた。言葉を飲み込むしかなかった。
背を向けると、書類を棚に押し込む音が耳に残る。
あの事件は、たった今、公式には存在しないことになった。


あの日、上官に突っぱねられてからも、ヘルベルトは独りで情報を追い続けた。
しかし、組織の壁は厚く、証拠も証言も闇に消されていった。

――そして二年後。
国際捜査網の結果、ついに兄リベラート・R・バウゼン、そして弟ジェイソン・K・バウゼンは逮捕された。
だが、その知らせが届いたとき、ヘルベルトはもう警察にはいなかった。

彼は自ら辞表を提出し、制服を脱いでいた。
法が届かない場所で、法が守れない人々を救うために。
警察官ではなく、一人の戦う男として――

こうして、民間自治団体「ダイレンジャビス」が生まれた。
その信条はただひとつ。
悪を許さない。誰であろうと――必ず裁く。

――――――――――――――――――

――12年前の夜から、ヘルベルトは変わった。
法の外であろうと、守るべきもののために銃を取る。
あの誓いは今も揺らがない。

モニターの中で走るルーシェとミーナを見ながら、ヘルベルトは静かに息を吐いた。

再びショットガンを構え、足を踏み出す。

最奥の部屋は、血と薬品の混ざった異様な臭気で満ちていた。
蛍光灯がチカチカと瞬き、影が壁を不気味に揺らす。

床には教団のトップがうつ伏せに倒れている。
背中には何本もの裂傷――刃物ではなく、鋭い鉤爪で引き裂かれたような跡。
肉が抉れ、血は既に黒く固まりかけていた。

「……死んでる? この傷……あの化け物か」

周囲には机がひっくり返り、資料が紙吹雪のように散らばっている。
拾い上げた一枚には、ライフベージの目的を示す計画図であった。

そこには資金調達・教団の警告・そして……極秘と記された“クローン実験”について記載がされていた。

「……これは……」

ページをめくった瞬間、ヘルベルトの表情が険しくなる。
そこに並んでいたのは、見覚えのある事件名だった。

「大手IT企業倒産事件……市街地爆発事件……!
あれは……こいつらの仕業か!」

紙を握る手に力がこもり、端がぐしゃりと潰れる。
教団はただのカルトではない。国規模の混乱を引き起こす、まるで“戦争”を仕掛ける存在だった。

不可解なのは“クローン実験”の項目だった。
ページをめくると、そこには常軌を逸した計画が綴られていた。

――人類を抹殺し、その死者たちをモデルにした「無垢なるクローン」を創造する。
そして争いのない世界を築くことを最終目的とする――。

活字を追うたび、背筋に冷たいものが走る。
彼らは戦争や犯罪を終わらせるのではない。
人類そのものを“作り替える”つもりだった。

「……そんなもん、世界平和じゃねぇ。ただの支配だ……!」

資料を握る手が震え、紙がミシリと音を立てる。

ページを閉じ、ヘルベルトは奥歯を噛みしめた。

(……あの化け物どもは、こういうクローン実験の失敗作か)

脳裏に、これまで遭遇してきた異形の影が浮かぶ。
人間の輪郭を残しながらも、理性を欠き、殺意だけを燃やす怪物たち。
それらが実験の過程で生まれた産物だとしたら――背筋に冷たい怒りが走った。

「……失敗だろうが成功だろうが、こんなもん生み出していい理由はねぇ」

呼吸が荒くなる。
誰が命じたのか、何のためか、細部はまだわからない。

だが一つだけ確かなことがあった。




こんな計画を考えた時点で、人間として終わっているということだ。



握るショットガンのグリップが、怒りに呼応するように軋んだ。

――――――――――――――――――

ヘルベルトは資料を握り潰し、紙束が無惨な塊になるまで力を込めた。

「……ふざけやがって」

クシャリと音を立てて床に叩きつけ、そのまま背を向ける。
もうこの部屋に用はない。

銃を構え直し、足早に廊下へ飛び出した。
先行しているルーシェとミーナの足跡が、濡れた床に点々と残っている。

「あいつら……無事だといいが」

息を整える暇もなく、ヘルベルトは足跡を辿って進む。
廊下は薄暗く、壁の照明は所々が砕けて火花を散らしている。
奥に進むほど、湿った空気の中に血と腐敗の臭いが混ざり合い、鼻を刺す。

そして――大型の鉄扉が現れる。
重厚な表面には深い爪痕のような傷が刻まれ、何度も内側から叩きつけられた形跡が残っている。

中から響いてくるのは、誰かの叫び声。
男のものと女のもの――恐怖と怒号が混ざり合っている。
その奥に重なるように、大きく吠える化け物の声が空気を震わせた。

「……また、化け物かよ」

低く吐き捨てるような声に、怒りがじわりと滲む。

「この街を血で汚して……人を食い物にして……
あまつさえ“理想”なんてクソみたいな看板掲げて……」

ショットガンを握る手に力がこもり、金属がミシリと軋む。

「貴様らのやってることは平和じゃない……虐殺だ。
そんなもん――俺が全部、ぶっ潰してやる」

呼吸が荒くなる。怒りが熱となり、全身を駆け巡る。
その熱を抱えたまま、ヘルベルトは一歩前へ踏み込み、鉄扉を睨みつけた。




「もう――いい加減にしやがれっ!!!!」




全力で蹴り上げられた扉が、重い金属音とともに弾け飛ぶ。
閃光のように突き抜ける散弾の火花。
その向こうで、複数の影が一斉にこちらへ振り返った。

咆哮、怒号、足音、血の匂い――全てが混じり合い、戦場が形を成す。


ヘルベルトはためらいなく引き金を絞った。
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