DYING MEMORY

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エピソード07:団長の矜持 -ヘルベルト-

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TVから淡々と流れるニュース。だが、その内容は常軌を逸していた。

「——現在病院では、消防と警察が駆けつけており、消火と火災の原因を調査しているところです」

画面には、黒煙を上げる病院。崩れた窓、焦げたベッド。しかし人々の姿は一切見当たらない。

ヘルベルトは、ソファに座ったまま動けずにいた。
手にしたカップの中のコーヒーは、いつの間にか冷めきっていた。

「続いてのニュースです。住宅街にて、黒いローブを羽織った集団が現れ、市民に攻撃を加えたとのことです。現在、市民は避難所へ避難しており、一刻も早い安全の確保が求められています」

「……は?」
思わず声が漏れた。

ローブ姿の集団――?
まるで悪夢のような言葉。しかも市街地で?
そして、続いて流れた速報が、とどめを刺した。

「——あっ、速報です! つい先ほど、ルード高等学校が何者かに襲撃されました! こちら映像です……が……これは……なんでしょうか? 人……のように見えますが……い、いえ、なんでしょうかこれは……!?」

画面には、崩れた校舎の一部と、どんどんと惨殺されていく生徒と教師たち。そしてその奥――
人間の形をしているが、明らかに“人ではない”何かが映っていた。

鼓動が早まる。喉がひどく乾く。
情報が、理解を追い越していく。

「……なにが起こってる……?」

呟きは誰に届くこともない。
ただ、本部の無機質な空気に吸い込まれて消えた。

「黒いローブ……あの古い民家でそれを羽織った女が目撃されたって情報とも一致するな。
病院、市街地……なにが目的なんだ?」

考えろ。繋がりを探せ。見逃すな。

「そして高校の“アレ”は……あのときルーシェが襲われた“何か”と同じだ。
とても人間とは思えない……。あの時から、俺は思ってた。
――モンスターなんて、現実に存在するのか……?」

否定したい。だが、目の前の映像が、それを拒む。

静かだったはずの本部の空気が、妙に重く、ひやりと冷たく感じた。

「……あの、ヘルベルトさん」

沈黙を破ったのは、隣に座る少女の震えた声だった。
ヘルベルトはゆっくりと彼女に目を向ける。

「どうした?」

「私……あの黒いローブの人たち、見たことがあるかもしれません」
「それに……あの高校も……」

言葉を選ぶように、ルーシェは絞り出す。

「……高校はそうか。確かに制服のデザインが一致してるな。
あそこの制服って、色も形も自分好みに選べるみたいだな」

「う、うん……。画面に映ってた中に、私と同じ制服の人がいたの……」

その声は、確かな恐怖と戸惑いを孕んでいた。

「黒ローブは? 本当に見た記憶があるのか?」

ヘルベルトの問いに、ルーシェは目を伏せて、膝の上で手を握りしめる。

「……ちゃんとは思い出せないんです。でも……どこかで見たことがある気がして……」

ヘルベルトは数秒黙り、そしてふと、言葉を投げかけた。

「……ルーシェ。もしかすると君は、“行方不明事件”に巻き込まれたんじゃないか?」

「え……?」

彼女の瞳が揺れる。

「確証はない。だが……」
ヘルベルトはテレビに目を戻し、深く息をついた。

「黒ローブの連中は、市民を襲うだけでなく、どこかへ“連れ去って”いるようにも見える。
その目的は分からない。けど――何かを探してるようにも感じた」

「……」

「記憶があやふやなのは、事件のせいかもしれない。あるいは――“何か”をされたのかもな」

ルーシェは黙ってうつむいた。
けれど、その肩が小さく震えていることに、ヘルベルトは気づいていた。

ルーシェが再び黙り込んだのを見て、ヘルベルトは静かに思考を巡らせた。

(……だが、そうだとすると――)

(今まで黒ローブの連中は、あくまで“密かに”動いていたはずだ。
人目を避け、闇に紛れて市民を攫い、誰にも気づかれないように……)

(なのに今になって、堂々と住宅街に現れて市民を襲い、あまつさえ高校を襲撃するとは……)

(何故だ? 何が奴らを、そこまで“急がせている”……?)

手の中でリモコンがキリキリと鳴る。無意識に握る力が入っていた。

(もしかすると、連中の中で“何か”が変わったのかもしれない。
行動方針が変わった。
あるいは――“焦っている”?)

そう考えた瞬間、背筋が冷たくなった。
あれほど用意周到だった連中が、突然強行に出たということは、
計画のどこかに“綻び”が生じた可能性がある。

もしくは――何かを“始める直前”なのかもしれない。

「……ルーシェ」

「……はい」

「思い出せることがあったら、どんな断片でもいい。全部、話してくれ」

「……わかりました」

ルーシェの小さな声に、ヘルベルトは静かに頷いた。

そして、そんな緊迫したニュースを打ち壊すかのようなテレビCMが流れる。

「ハッピーセット!」
「のどがカラッカラ」
「ウウワアァアァアアアアアア!シャベッタアアアアアアアアアア!」
「おいっしい!」
「キャアアアアアアアアア!マタシャベッタアアアアアアアアアア!」
「これサイコー!」
「キャァアアァァアアァァキャアアアアアアアアアキャアアァァァァアアア!」
「ジャジャーン!スポンジボブだよ!」
「ダアアァァァァァァァキャアアアアアアアアアキャアアアアァァァァアン!」
「ハッピーセットにスポンジボブ!金曜から!」
「ワアアアアアアアアウウワアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「土日はこれも!」
「ゥアイィッルァヴィイッ!!」

ヘルベルトはしばし画面を見つめたまま無言だったが、
リモコンを手に取ると、無言で音量を「1」にした。

「……これ復活するのかよ」
ヘルベルトが呆れたように呟いた。

「めっちゃ前に流行りましたよねこれ。再開するんだ……」
ルーシェが自然に返してくる。

ヘルベルトは少しだけ視線をずらし、彼女をじっと見つめた。

「……君って、変なとこだけ記憶あるよな」

「え? あ……えへへ……」
ルーシェは、照れたように頭をかいた。

――――――――――――――――――

数分後、作戦室。
緊迫した映像がテレビに映り続ける中、会議用のスクリーンには現在の被害状況がまとめられていた。

「……それで、どうします? 団長」

団員の一人が問いかけると、部屋の中心に立つ男――ヘルベルトはゆっくりと頷いた。

「そうだな……病院にはすでに消防と警察が駆けつけている。ここは彼らに任せよう」

「となると、避難所への支援手配と、高校への出動手配が必要になりますか?」

「正式な依頼は来ていない。だが――」

団長は画面に映る炎と逃げ惑う人々を見つめながら、言葉を続けた。

「この状況を放置すれば、市民はどんどん消えていってしまう。
我々が動かなければ、誰も間に合わん」

「……承知しました」
別の団員がすぐにタブレットを開き、画面を数回タップする。

「現在、調査に向かっている団員にも連絡を取ります」

「頼む」

その一言で、作戦室の空気がピンと張り詰めた。
誰もが、これが“ただの暴動”ではないと気づいていた。

「……ここにいる団員も集めてくれ。我々は、ルード高校へ向かう」

作戦室が静まり返る。

「……ちょうど、そこの生徒もいるしな」

ルーシェは驚いたように目を見開き、思わず椅子から背筋を起こす。

「わ、私……?」

「君があの学校の生徒だったのなら、あの場所に“戻る”ことで、記憶が刺激されるかもしれない。
……そうだろ?」

ヘルベルトの声は穏やかだったが、確かに“問いかけ”だった。

「……うん。行きます」
少しだけ震えた声で、ルーシェは答えた。

ヘルベルトは静かに頷いた。

「全装備で臨め。出発は10分後だ。
――これは、遊びじゃないぞ」

団員たちが即座に動き出す中、ルーシェは制服の裾をきゅっと握りしめて立ち上がった。

ヘルベルトは個人装備の点検を終えると、ルーシェの元へと歩み寄った。

「……そうだ、ルーシェ」
声をかけながら、彼は小さなポーチと、黒いケースを差し出した。
「これを持っておいてくれ」



ルーシェは戸惑いながらそれを受け取り、開く。

「これは……スマホと……拳銃?」

「そのスマホは、連絡用だ。
LINEは君専用の端末として設定してある。
誰かと連絡を取る時は、それを使ってくれ」

「は、はい……。で、でも……これは?」

彼女の視線は、手の中の拳銃に注がれていた。
小さく、黒光りするそれは、明らかに“普通じゃない日常”の象徴だった。

ヘルベルトは一瞬だけ視線を逸らし、わずかに表情を曇らせた。

「……本来なら、君のような人間に握らせるべき代物じゃない。
だが――状況が状況だ。万が一に備えて、護身用として持っておいてくれ」

ルーシェは言葉を失ったまま、拳銃を見つめた。
震える指先が、その冷たい金属に触れる。

「……私、使えるかな……?」

「引き金を引くだけなら、誰にでもできる。
だが、その一発に“覚悟”を乗せられるかは――君次第だ」

そして、小さく――だが確かな決意のこもった頷きを見せた。

その瞬間だった。

ブツッというノイズを挟んで、作戦室の通信機から叫び声が飛び込んできた。

「おい!! 例の黒ローブが……こっちに向かってやがるぞ!!」

一瞬、時間が止まったような静寂が場を包む。

ヘルベルトは即座に顔を上げ、通信機に詰め寄る。

「どこだ! 位置を報告しろ!」

「南ルートだ! 避難所の裏手を抜けて、一直線にこっちへ来てる!!」

「……こっちを狙ってるのか……?」

ヘルベルトは視線を横に流し、ルーシェを見た。
彼女の手の中には、まだ冷たい拳銃の感触が残っていた。

「全団員に通達。急行準備を中断、警戒態勢に入れ!」

「了解!」

作戦室が一斉に動き出す。
空気は一変し、指揮系統が迅速に切り替わっていく。

ルーシェはその場に立ち尽くしたまま、
自分の鼓動が急速に早まっていくのを感じていた。

――――――――――――――――――

想定を遥かに上回る速さだった。
警報が鳴り響くよりも早く、ダイレンジャビス本部の周囲は黒ローブの集団によって包囲されていた。

モニターに映る複数の影。
その全員が一様に、漆黒のローブをまとい、顔を隠している。

「……来やがったな」
ヘルベルトは眉をひそめ、スクリーンを睨みつけた。

「な、なにあれ……銃持ってる……」

ルーシェの声が震える。
拡大された映像の中で、ローブの一人が腰からサブマシンガンを引き抜いたのが確認できた。

「……装備はサブマシンガン。精度は高くないが、弾数で押してくるタイプだな」
「それに……」
ヘルベルトは、別の影が手にしている“丸い何か”を見つけて、目を細めた。

「パイナップル、か……その気になれば、アレを投げる気だ」

「パ、パイナップル……?」

ルーシェが思わず聞き返すと、ヘルベルトはごく当然のように答えた。

「MK2手榴弾のことだ。あの形状から、軍人の間じゃそう呼ばれてる。
……甘くもないし、南国っぽくもないがな」

「…………」

ルーシェは一瞬黙って、そして小さくうなずいた。
手の中の拳銃が、現実の重みを訴えかけてくる。

「団長……どうしますか?」

焦りを含んだ声に、ヘルベルトは一瞬だけ視線を落とした。
そして、すぐに顔を上げて、短く、しかしはっきりと告げた。

「――俺が出る」

室内がざわめく。
誰もが耳を疑ったようにヘルベルトを見た。

「ちょ、団長!? 危険です!」「待ってください!」

だが、彼はすでに扉の前に立っていた。
振り返ることなく、防弾ベストを締め直し、腰のホルスターに手をかける。

「一人で行くとは言ってない。
……だが、まずは“俺自身”が出る必要がある」

扉のロックが、カチリと音を立てて解除される。

「止めても無駄だ。あいつらが何者なのか、何をしたいのか――
この目で、確かめなければならん」

静かに、しかし確かな足取りでヘルベルトは扉を開けた。

キィ……と軋む音が、作戦室に緊張の糸を走らせる。

外には、黒ローブの集団が待ち構えていた。
その中心――まるで“こちらの出方を待っていた”かのように、
一人のローブがヘルベルトをまっすぐ見据える。

風が吹いた。
本部前の広場に、静かに火薬の匂いが漂う。

ヘルベルトは、一歩踏み出した。



「――よう。何の用だ、こんな格好でゾロゾロと」

黒ローブたちの中心に立つ一人が、ヘルベルトをまっすぐに見据えた。
そのフードの奥から、くぐもった声が響く。

『……貴殿が、ダイレンジャビスという組織の、リーダー、か』

声質は冷たく、機械のようにも聞こえる。
だが、明らかに“生身の人間”の声だった。

抑揚がある。感情もわずかに滲んでいる。
つまり――会話は成立する。

ヘルベルトは構えず、正面からその声に応じた。

「そうだ。貴様らが、この数日市民を襲っていた連中か」

黒ローブは数秒、沈黙した。

『襲っていた……か。……理解が浅いようだな。我らの行動には、“正当な理由”がある』

「正当な理由で病院を爆破し、市街地にいる市民をとっ捕まえることがか?」

黒ローブは微動だにしなかった。
だが、フードの奥で何かが、確かに反応した。

『我らは選ばれた存在だ。……人間の進化と、再構築のために動いている。』

風が吹く。
黒ローブのフードがふわりと揺れ、奥の影が一瞬だけ浮かんだ。

その目は、確かに“人”のそれだった。

ヘルベルトは目を細め、拳を握る。

(……こいつら、ただの狂信者じゃない。明確な意思と計画を持って動いている)
ヘルベルトはそう確信しながら、次の一手を投げかけた。

「じゃあ、聞かせてもらおう。
……高校に送り込んだ“化け物”も、人類進化のためってやつなのか?」

一瞬、風が止まったように感じた。
黒ローブの幹部らしき男は、わずかに身じろぎもしなかったが――その声が、違和感を孕んでいた。

『……なんのことだ』

「とぼけるな」
ヘルベルトの語気が鋭くなる。
「貴様らがルード高等学校に得体の知れないバケモンを送り込んで、大勢の生徒や教師を殺した――違うか!」

だが、返ってきた言葉は、静かで迷いのないものだった。

『そのような行動は、我々の規範には存在しない』

言い逃れか、否定か――。

『少なくとも我々は人類進化のために動いている。化け物などバカバカしい』

その声音には、強い軽蔑が込められていた。

『原始的な暴力や、制御不能な存在に頼るほど、我々の理念は堕ちてはいない。我らの行動は“意思”に基づくものだ』

「……お前らが何を正義と思っていようが勝手だ。
だが、俺たちの街で、多くの市民がお前らに捕まり、俺たちの仲間が化け物に殺されたんだよ」

黒ローブはわずかに顔を上げた。

『……その感情が、お前たちを滅ぼす。』

「その言葉、そっくり返してやるよ。
感情のない奴らに、“守る”ことなんてできやしない」

ヘルベルトが一歩、黒ローブに詰め寄ろうとした、その瞬間だった。

視界の端に、ちらりと揺れる影。
ふと見やると――そこには、扉の隙間からこちらを覗き込むルーシェの姿があった。

「……ルーシェ?」

彼女の存在に気づいた直後だった。

『!!!!!!! あれは……!!!』

黒ローブの幹部が、明らかに過剰な反応を示した。
フードの奥から放たれる視線が、ルーシェに突き刺さる。

まるで、長年追い求めた“何か”を見つけたかのような――
あるいは、“あり得ないもの”を目撃してしまったかのような、凍りつくような叫びだった。

ルーシェは一瞬、自分が何を見られているのかもわからず、ぽかんと口を開けた。

「えっ……?」

黒ローブが一歩、無意識に前へ出た。
その背後のローブたちもざわめき始める。

ヘルベルトは即座に気づく。

(……こいつら、“ルーシェ”を知ってる……!?)
ヘルベルトの脳裏に警鐘が鳴り響く。

だが、その考察すら吹き飛ぶような声が、黒ローブの一人から上がった。

『緊急! 緊急!! “不純物”を発見!! 排除開始!!! 排除開始!!!!』

瞬間、黒ローブの一人が迷いなくサブマシンガンを構えた。

「まずい!!!! 伏せろぉおおおおおお!!!!」

ヘルベルトの怒号が作戦室に響いた。
その瞬間、彼の号令に従い、ルーシェを含む全団員が即座に床へ身を投げ出す。

次の刹那。

──ッダダダダダダダダダダッ!!!

乾いた連射音が空気を切り裂いた。
本部の入口付近、コンクリートの壁が蜂の巣のように穴だらけになる。

モニターが破壊され、火花が飛び散り、室内が一瞬にして戦場と化す。

「ルーシェ、大丈夫か!!」
「う、うん……っ!!」
彼女の頬に、破片がかすめた細い傷が浮かんでいた。

「防壁展開!! 反撃用意!! 全員、持ち場につけ!!」
ヘルベルトの指示が次々に飛ぶ。

(“排除”って……本気でルーシェを殺す気だ!
しかも、あいつら――ルーシェのことを“不純物”って呼んだのか……?)

ヘルベルトの思考は回転していた。
つじつまが合わない。矛盾ばかりが積み上がる。

彼女は誰だ?
なぜ彼女だけが記憶を失い、そして“あの民家”にいた?
そして、なぜ黒ローブたちは彼女の存在に過剰反応する?

(何かを知ってる……いや、何かを隠されてる)

だが。

今、それを考えている暇はない。

「……くそっ、今は――そんなことよりも“こいつら”の相手だッ!!」

ヘルベルトは一気に身体を起こし、立てかけてあったショットガンを抜いた。
すぐ横に倒れていたルーシェを片腕で庇いながら、咄嗟に遮蔽物の裏へ飛び込む。

「カウンター班は東側へ回れ! 狙撃手、窓から応射! 弾幕で敵を分断しろ!」

「了解ッ!!」

本部内は一気に“戦場”へと姿を変えた。
砲火の中を駆け抜ける仲間の姿が、淡く点滅するライトの中に照らされる。

「ルーシェ、動けるか?」

「……うん。でも、わたし……なんで狙われてるの……?」

ヘルベルトは一瞬だけ目を伏せた。

「……それは、戦いが終わってからだ。必ず聞いてやる。
だから……今は、生きろ」

そう言い放つと、彼は本部のシャッターに向かって突進した。
そのショットガンの先は、黒ローブたちのど真ん中を貫いていた。

――――――――――――――――――

「ぐあああ!!!!」

「ぬうううっ!!!!」

耳をつんざく悲鳴と銃声が交錯する。
サブマシンガンの無慈悲な弾幕が、ダイレンジャビスの団員たちを次々と貫いていった。

防弾装備を着ていたはずの仲間が、胸を撃ち抜かれ、血を噴きながら倒れる。
頭部に直撃した団員が、無言のまま崩れ落ちる。

「くっそ……畜生ッ!!」

ヘルベルトは唇を噛みしめながら、ショットガンを構え直した。
コッキングの音が金属の悲鳴のように響く。

──バァン!!

至近距離まで迫っていた黒ローブの胸を撃ち抜き、肉片が飛び散る。

──バァン!!

横から迫ってきた個体の足元を撃ち抜き、姿勢を崩させて、
倒れ込んだところにもう一発。

──バァン!!

「お前ら……ッ、こっちの仲間をッ、何人殺しゃ気が済むんだよォッ!!」



返事はない。
黒ローブたちは“感情”のないまま、無機質にトリガーを引き続ける。

だが、それでもヘルベルトは動きを止めない。
弾を込めては撃ち、滑る床を蹴って移動し、倒れた団員の傍に手を伸ばす。

「おい、聞こえるか!? 大丈夫だ、まだ生きてる! 絶対に、誰一人置いていかねぇ!!」

(くそっ、こいつら……数も、火力もこっちより上だ。
なのにどうしてこんなに……“容赦がねぇ”んだ……!!)

敵はまるで、生きている人間に対して撃っているようには見えなかった。
まるで、“虫”か“データ”でも処理するかのように、ただ排除していく。

(このままじゃ、ルーシェにも被弾する……!)
(ここで、あいつまで死なせたら――俺は、絶対に許されない……!!)

砲火の中、ヘルベルトは肩を撃たれながらも、壁越しに叫んだ。

「ルーシェ!! 聞こえるか!!?」

その声に、物陰からルーシェが顔を出す。
恐怖に濡れた瞳、震える唇。
でも――彼女はまだ、立っている。

「なんとか、ここは俺が食い止める!!!
君は――ルード高等学校へ向かえ!!!!」

「え!? で、でも……!!!」
ルーシェの声が震える。

「今ここにいたら、いずれ撃たれる!!
いいか、奴らはまだ君の“正確な居場所”を知らない!!
……今のうちに逃げるんだ!!!!」

ルーシェの手が震える。拳銃を握ったまま、逃げるべきか、戦うべきか迷っていた。

「君がなぜ“その制服”を着ていたのか……きっと、何か理由があるはずだ……
思い出す手がかりは、ルード高校にある!! だから――行ってくれ!!!」

「……っ……」

「向こうには仲間も向かっている!!! 守り手はまだいる!!!」

「…………!!」

「ルーシェ!!!!!!」

「わ、分かった!!!!!
……あなたも……あなたも絶対、無事でいて!!!!」

「そのつもりだ!!!! 早く行け!!!!!!」

ヘルベルトが叫ぶと同時に、遮蔽物から身を乗り出し、再びショットガンを放つ。
轟音と閃光が戦場を裂き、その隙にルーシェは――走り出した。

小さな背中が、火花の飛び交う通路の奥へと消えていく。

「……頼むぞ、ルーシェ。
……あの高校に、君に関する何かがあるなら――」

血で濡れた床の上で、ヘルベルトは再び立ち上がった。
全ての敵の注意を、自分一人に引きつけながら。
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