ガシャドクロの怪談

水雨杞憂

文字の大きさ
40 / 59
崖少女

6

しおりを挟む


 紀糸たちは三十分ほどで『小湧山林公園』にたどり着いた。
 紀糸は自転車が乗れないため、七緒が自転車に乗って先行しているのを駆けて追いかけたので息を切らしている。

「きぃちゃん、大丈夫?」

 七緒が駐輪所に自転車を止めて、首だけを曲げて此方を見て言った。
 紀糸は切らした息を整えている。

「あ、うん。平気。あたし、体力には自信あるからね」

 額に薄っすら浮かんだ汗を手で拭いながら言った。

「じゃ、山登り」
「七緒は耽々と容赦ねぇなぁ……」

 紀糸は今のでどっと疲れたかのように肩を落としぼやく。
 そして、これから自分たちが昇るであろう道を眺めた。道は森林公園と言われているだけあって木々に囲まれた登り道は綺麗にアスファルトで舗装されている。
 所々に電灯もついているため多少日が沈んでも困らなそうな場所で現在は犬の散歩やランニングをしている人も何人か目についた。

「あんな事件があってもそこまで寂れてないな」
「そうだね、たぶんみんな実感わかないんだよ」
「んー、そうだなぁ。あたしも稲荷に話を聞く前にあのニュース見てたけど、気にも止めなかったもんな。実際、テレビの中の事とかは他人事だよ。最終的に目で見たことだけが真実として認識するもんなんだよ」
「そだね」
「そっけなっ! 今、あたし結構深いこと言ったつもりなんだけど」
「大丈夫、私。きぃちゃんのこと、ちゃんと見てるよ」
「そう言うことじゃなくてなぁ。ああ、もういいや。さっさと登って仕事終わらせような」

 紀糸はそう言って、山道へ足を進めだした。その少し後ろを七緒も付いていく。
 山道は少しでも斜面が緩やかになるように曲がりくねった道が続いていた。
 紀糸はすれ違う人に軽い会釈をしながら歩みを進める。
 入り口で見た人は帰路に着いた人ばかりだったらしく実際のところ山を下ってくる人が大半である。
 すれ違う人たちの顔はどちらかと言えば健康的でそんなに霊的なものを感じるような雰囲気ではないし、辺りも差し込む日差しで明るく木々の香りが心地よく気分も良くなる。
 そこまでマイナスのイメージもない。本当にハイキングに来ただけなのではないかと勘違いしてしまうほど、時間はかかったものの簡単に頂上に着いてしまった。

「なんだ、なにもないじゃん」
「行きははよいよい?」

 七緒は首を傾げつつ紀糸に聞いたが、

「なにそれ?」
「じゃあいい」
「?」

 知識が乏しい紀糸には話が通じなかった。
 せっかく頂上に来たので辺りを見回すと傾きかけた日差しが少し下に見える街を赤く染め始めていた。
 そこまで高くはない山とはいえ、周りにそこまで高い建物がないため遠くまで見渡せる。
  
「あそこらへん、うちの神社」
「あ、ほんとだ。じゃあ、あたしんちはあの辺かな」
「うん」

 そう頷き、顔を上げた七緒は一点に視線を寄せる。
 紀糸もそれにつられるようにそちらを見た。

 そこには登ってきた道とは違う道があった。
 登ってきた道同様、舗装され申し訳程度の電灯が設備されている。
 先ほどの道と違うのは、登ってきた道の半分程度しか幅が無い階段となっていることだった。二人並んで降りて行ったら道を塞いでしまうほどの幅である。
  
「きぃちゃん」

 七緒がその道に近づき、つんつんと指さした先には錆びや汚れで見にくくなっているが『ショートカットコース』と書かれている。
 どうやら、この道は斜面は急であるが登りで来た道のように曲がりくねってなく、まっすぐに上り下りできるようである。
 看板に記載された登山目安時間も先ほどの道の半分の時間が記載されていた。

「ちょうどいいや、帰りはこっちから降りてみるか」
「そうだね」

 二人はもうしばらく景色を楽しんだ後に帰路としてその道を選択することにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生) 2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目) 幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。 それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。 学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。 しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。 ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。 言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。 数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。 最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。 再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。 そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。 たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。

処理中です...