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稲荷様
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放課後、僕は能久と二人で紀糸の自宅に向かっていた。
珍しく体調を崩して学校を休んでいた紀糸のお見舞いである。
本当は僕一人で見舞いに行く予定だったのだが、今日は部活を休むと言うことで能久も無理やり付いてきた感じだ。
「そう簡単に部活休んでいいのかよ」
「いいの、いいの。今日は顧問いないから大丈夫。あいつんちすごい豪邸だっていうから見てみたかったし」
「ちょっと大きいだけで豪邸ってほどじゃないよ」
確かに紀糸の家はここら辺の家に比べると大きな部類になる。
話によると紀糸の父親の実家は有名な琴職人だったとかで結構お金もあるみたいだ。
現在は父親は琴作りを引退しており、琴の弦張り替えで生計を立てているようである。それでも好評らしく注文もあとは絶たないらしい。
そうこうしているうちに紀糸の家に到着した。
一見、昔ながらな風体の家のようである。しかし、実際は機能性も兼ね備えている最近流行りの和風モダンの家である。
この家は来客用の大きめの玄関と家族用玄関があるのだが、来客用は文字通り弦張り依頼のお客さんが使うものなのでここを訪れるときには家族用玄関を使用するようにしていた。
僕は少し目立たない位置にある家族用玄関に案内しつつその流れでチャイムを押す。家族用と言いつつも僕の家と同等の玄関ではあるが。
ただチャイムを鳴らしたものの紀糸は体調を崩しているため対応してくれる人はいるのだろうか?
来客が無ければ紀糸の父親が対応してくれるのだがそれ以外のときは全て紀糸が対応していた。
「親父さん忙しいのかな?」
「まだ、押したばっかりだろ」
「はは、言ってみただけだ。紀糸のお袋さんは外働きなのか?」
「その話題は紀糸の前であんまりするなよ」
「あ……。すまん、わかった」
能久はでかいなりの割には察しはいいほうである。
紀糸の母親は紀糸が幼少期のときに亡くなっているらしい。本人はもう気にしていないとは言っているが、あまり気持ちのいい話題ではないので出さないに越したことはない。
それにしても、ドアは相変わらず静寂を保っていた。
「母親の顔とかは覚えてんのかな?」
「さぁ。ここに来る前からみたいだしいつ頃かまでは聞いてないんだ」
「そっか、そっか。あいつにそんな事情があったんだな」
「まぁ、僕に話してきたくらいだからきっともう整理は付いてるんだと思うけどね」
「それはどうなんだろうな……」
「?」
能久に発言の意味を聞こうとしたところでガチャっと鍵が開く音がした。そのまま、ドアも開く。
「ああ、優希君」
その内側から姿を現したのは、少し皺が増えてきた細身の中年男性であった。つまり、紀糸の父親である。職人のイメージから連想される厳格な雰囲気はなく紀糸とは正反対の温厚な人だ。
穏やかな物言いも身なり通りで、紀糸は別の人に育てられたのではないかと疑ってしまうほどである。
ゆったりとしたおじさんはにっこり微笑みながら続ける。
「えっと、あと君は……」
「紀糸さんと同じクラスの井崎です。授業のプリントが溜まってきたのでお届けに参りました」
「やぁ、どうも。紀糸の父です。わざわざありがとうね。紀糸も退屈しているようだし上がっていくかい?」
「はい、せっかくなんで」
「おい、ぶりかえしたらどうするんだよ」
「紀糸のことだからきっと暇してるだろうぜ。ついでだよついで」
「本当に大丈夫ですか?」
「優希君、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。そのほうが紀糸も喜ぶと思うし。風邪みたいに移るようなものじゃないから退屈してるみたいだよ」
おじさんはそう言ってにっこりとほほ笑むと、玄関の横に付いている電話を取った。どうやら豪勢に家の中の至る所に内線ようの電話が配置してあるようだ。もちろん、紀糸の部屋にもあるのだろう。
「ああ、紀糸。優希君がきてるよ」
やはり、繋がっているのは紀糸のようだ。
「うん、うん。わかった、上がってもらうよ」
そういい終えるとおじさんは受話器を置きこちらに向き替え続けた。
「大丈夫みたいだよ。紀糸の話し相手になってやってくれるかい?」
「うっす、わかりました!」
能久は何処までもおこがましい。
そして、おじさんは僕に紀糸の部屋が分かることを確認すると、そそくさと工房に戻ってしまった。
工房は仕事場なのであまり入れてもらった覚えはないがあまり専門的な物はなくただ預かりものの琴が整然と並んでいた印象である。
僕らはそんなおじさんの背中を見送ると木の匂いが漂うフローリングの廊下を抜け二階に続く階段を上る。
その階段を上ってすぐの部屋が紀糸の部屋である。
ここを訪れるのは一二年ぶりではあるが場所はしっかりと覚えていた。久々ではあるが、何の装飾もなく飾り気のないドアはとくに変わっていなさそうである。
昔は疑問にすら思わなかったが他の部屋は何に使っているのだろうか?二人暮らしではここまで大きな家に暮らす必要もないと思うのだが。単にお金が余っているだけなのか、やはり職場兼用なので物置として必要なのだろうか。
少し、そこらの事情が気になりはした。
カリ
カリ
そんな木を引っ掻くような音が聞こえた気がする。
僕は何気なく左右を見て二階廊下を見渡したが特に変わった様子はなかった。
きっと、おじさんの仕事の音だろう。
僕はあまり気に留めず、紀糸の部屋のドアを開けた。
珍しく体調を崩して学校を休んでいた紀糸のお見舞いである。
本当は僕一人で見舞いに行く予定だったのだが、今日は部活を休むと言うことで能久も無理やり付いてきた感じだ。
「そう簡単に部活休んでいいのかよ」
「いいの、いいの。今日は顧問いないから大丈夫。あいつんちすごい豪邸だっていうから見てみたかったし」
「ちょっと大きいだけで豪邸ってほどじゃないよ」
確かに紀糸の家はここら辺の家に比べると大きな部類になる。
話によると紀糸の父親の実家は有名な琴職人だったとかで結構お金もあるみたいだ。
現在は父親は琴作りを引退しており、琴の弦張り替えで生計を立てているようである。それでも好評らしく注文もあとは絶たないらしい。
そうこうしているうちに紀糸の家に到着した。
一見、昔ながらな風体の家のようである。しかし、実際は機能性も兼ね備えている最近流行りの和風モダンの家である。
この家は来客用の大きめの玄関と家族用玄関があるのだが、来客用は文字通り弦張り依頼のお客さんが使うものなのでここを訪れるときには家族用玄関を使用するようにしていた。
僕は少し目立たない位置にある家族用玄関に案内しつつその流れでチャイムを押す。家族用と言いつつも僕の家と同等の玄関ではあるが。
ただチャイムを鳴らしたものの紀糸は体調を崩しているため対応してくれる人はいるのだろうか?
来客が無ければ紀糸の父親が対応してくれるのだがそれ以外のときは全て紀糸が対応していた。
「親父さん忙しいのかな?」
「まだ、押したばっかりだろ」
「はは、言ってみただけだ。紀糸のお袋さんは外働きなのか?」
「その話題は紀糸の前であんまりするなよ」
「あ……。すまん、わかった」
能久はでかいなりの割には察しはいいほうである。
紀糸の母親は紀糸が幼少期のときに亡くなっているらしい。本人はもう気にしていないとは言っているが、あまり気持ちのいい話題ではないので出さないに越したことはない。
それにしても、ドアは相変わらず静寂を保っていた。
「母親の顔とかは覚えてんのかな?」
「さぁ。ここに来る前からみたいだしいつ頃かまでは聞いてないんだ」
「そっか、そっか。あいつにそんな事情があったんだな」
「まぁ、僕に話してきたくらいだからきっともう整理は付いてるんだと思うけどね」
「それはどうなんだろうな……」
「?」
能久に発言の意味を聞こうとしたところでガチャっと鍵が開く音がした。そのまま、ドアも開く。
「ああ、優希君」
その内側から姿を現したのは、少し皺が増えてきた細身の中年男性であった。つまり、紀糸の父親である。職人のイメージから連想される厳格な雰囲気はなく紀糸とは正反対の温厚な人だ。
穏やかな物言いも身なり通りで、紀糸は別の人に育てられたのではないかと疑ってしまうほどである。
ゆったりとしたおじさんはにっこり微笑みながら続ける。
「えっと、あと君は……」
「紀糸さんと同じクラスの井崎です。授業のプリントが溜まってきたのでお届けに参りました」
「やぁ、どうも。紀糸の父です。わざわざありがとうね。紀糸も退屈しているようだし上がっていくかい?」
「はい、せっかくなんで」
「おい、ぶりかえしたらどうするんだよ」
「紀糸のことだからきっと暇してるだろうぜ。ついでだよついで」
「本当に大丈夫ですか?」
「優希君、そんなに心配しなくて大丈夫だよ。そのほうが紀糸も喜ぶと思うし。風邪みたいに移るようなものじゃないから退屈してるみたいだよ」
おじさんはそう言ってにっこりとほほ笑むと、玄関の横に付いている電話を取った。どうやら豪勢に家の中の至る所に内線ようの電話が配置してあるようだ。もちろん、紀糸の部屋にもあるのだろう。
「ああ、紀糸。優希君がきてるよ」
やはり、繋がっているのは紀糸のようだ。
「うん、うん。わかった、上がってもらうよ」
そういい終えるとおじさんは受話器を置きこちらに向き替え続けた。
「大丈夫みたいだよ。紀糸の話し相手になってやってくれるかい?」
「うっす、わかりました!」
能久は何処までもおこがましい。
そして、おじさんは僕に紀糸の部屋が分かることを確認すると、そそくさと工房に戻ってしまった。
工房は仕事場なのであまり入れてもらった覚えはないがあまり専門的な物はなくただ預かりものの琴が整然と並んでいた印象である。
僕らはそんなおじさんの背中を見送ると木の匂いが漂うフローリングの廊下を抜け二階に続く階段を上る。
その階段を上ってすぐの部屋が紀糸の部屋である。
ここを訪れるのは一二年ぶりではあるが場所はしっかりと覚えていた。久々ではあるが、何の装飾もなく飾り気のないドアはとくに変わっていなさそうである。
昔は疑問にすら思わなかったが他の部屋は何に使っているのだろうか?二人暮らしではここまで大きな家に暮らす必要もないと思うのだが。単にお金が余っているだけなのか、やはり職場兼用なので物置として必要なのだろうか。
少し、そこらの事情が気になりはした。
カリ
カリ
そんな木を引っ掻くような音が聞こえた気がする。
僕は何気なく左右を見て二階廊下を見渡したが特に変わった様子はなかった。
きっと、おじさんの仕事の音だろう。
僕はあまり気に留めず、紀糸の部屋のドアを開けた。
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