5 / 19
ソフィア・エスカトル
しおりを挟む静まり返る大衆。
刀を鞘に納める少女。
その場の誰もが息を飲み、誰もがその剣技に見惚れていた。
アイン自体、二刀流の存在は知っていたが見るのは初めてだった。
片腕で剣を握ると、その分速度が落ちそうなものだがそんな事はない。
極めて俊敏、極めて華麗。
まるで舞踏のような体捌き。
それは一線を越えるものだった。
どれほどの才能とどれほどの努力があったのか。
目を奪われた大勢にその研鑽は計り知れない。
今が非常事態だった事を思い出したアインはふと我にかえる。
そして、現を抜かす大衆を尻目に少女達の元へと向かった。
「大丈夫だったか!?」
白銀の髪をたなびかせる少女はアインに気づくと、にこりと笑みを浮かべて見せた。
一方、近くで震える緑髪の少女は立てなくなっているようだ。
「私は大丈夫! それより、あなた怪我はない?」
白髪の少女は座り込んでいる少女に声を掛ける。
潤んだ瞳を向ける少女は申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「ベ、ベネットは大丈夫です......助けて貰いましたから。ほら、もう立ち上がったって......痛っ!」
緑髪の少女は立ち上がった瞬間に悲痛な声を上げる。
とっさに両腕で右の足首を押さえた。
「君......ちょっと足首を見せてくれ」
アインが緑髪の少女の前にしゃがみこむ。
ブーツをゆっくりと脱がし、足首を確認する。
すると、真っ赤に腫れ上がった足首が熱を持っている事が確認できた。
大丈夫と言うが、どう考えても処置が必要だろう。
「痛っ ......くないです......。ベネットは大丈夫ですから......」
「こんなに腫れているじゃないか。無理はしない方がいい。今から医務室まで運ぶから、肩に手を──」
「後は私に任せて貰おう」
アインの後ろから放たれた男性の低い声。
振り返ると、グレーの髪をオールバックに纏めた大柄な男性がいた。
「あなたは?」
「私はグレイル・ラージハルト。この学院で教師を勤めている者だ。少し騒ぎがあったようだが────君たちが解決してくれたようだな」
グレイルがケルベロスの亡骸に確認し、答える。
「失礼しました、グレイル先生。僕の名前はアイン・フォーデンです。このケルベロスはそちらの少女が倒してくれました」
「そうか、君のお陰で被害を最小限に押さえる事が出来た。ありがとう。そして、すまなかった」
そう言ってグレイルは白髪の少女に頭を下げた。
慌てて白髪の少女が口を開く。
「頭を上げてください先生! 私が助けたくて勝手にやったことですから。それにその子を救えて良かったです。あ、あと私はソフィア・エスカトルです」
「ソフィア・エスカトル......? エスカトル家の『月光姫』とは君の事か......」
「私の事知ってるんですか?」
「あぁ、エスカトル家の次女。先祖返りの白銀の髪。二刀流の月光姫とは君の事だろう」
「そんな大層な肩書きは恥ずかしいですけれど──多分私の事ですね」
グレイルは顎に手を置き、眉間に皺を作る。
数秒思考した後、思い出したかように口を開いた。
「ふむ。今は怪我人が居たのだったな。式典も間もなく始まる。君達はそちらに行った方がいい。こちらの事は任してくれ。礼はまた後程」
そう言ったグレイルは緑髪の少女を抱き上げ、校舎内へと消えて行った。
「ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど、君のお陰で助かった。名前は......ソフィアさんだったかな?」
「うん。ソフィアって呼び捨てでもいいし、ソフィって愛称で読んでくれてもいいよ。その代わり私もアインって呼ばせて貰うね」
「分かったソフィア。よろしく頼むよ」
ソフィア・エスカトル。
エスカトルの名前は有名だ。
数ある魔法貴族の中でも名門と呼ばれており、その血統魔法も強力だと聞いたことがある。
魔法貴族だった事には驚いたが、本人はその事を鼻に掛ける事なく、フレンドリーに接してくれている。
それなら今の話し方を崩す事なく、普通に接するべきだろう。
「いや~剣を忘れて来た時はどうしようかと思ったけど、間に合って良かった~」
「僕もビックリしたよ。それにその武器は剣と言うよりも刀だろう? かなり高価な物だと聞いたことがある。盗られる事なく戻ってきたようで何よりだ」
「うんうん。きっと私の日頃の行いが良いからだね!」
「用心するに越したことはないけどね......」
なんと言うか、戦っている時とは別人だ。
あの時の少女は本当に彼女なのだろうか?
そんな事を考えてしまう程、今のソフィアは天然で親しみやすく、おっちょこちょいな普通の女の子のようだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる