濡れた瞳を復讐の色に変えて ~紅き魔眼の魔剣使いは魔術学院にて全てを蹂躙する~

岡田リメイ

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ソフィア・エスカトル

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 静まり返る大衆。
 刀を鞘に納める少女。
 その場の誰もが息を飲み、誰もがその剣技に見惚れていた。

 アイン自体、二刀流の存在は知っていたが見るのは初めてだった。

 片腕で剣を握ると、その分速度が落ちそうなものだがそんな事はない。

 極めて俊敏、極めて華麗。
 まるで舞踏のような体捌き。
 それは一線を越えるものだった。

 どれほどの才能とどれほどの努力があったのか。
 目を奪われた大勢にその研鑽は計り知れない。

 今が非常事態だった事を思い出したアインはふと我にかえる。
 そして、現を抜かす大衆を尻目に少女達の元へと向かった。

「大丈夫だったか!?」

 白銀の髪をたなびかせる少女はアインに気づくと、にこりと笑みを浮かべて見せた。
 一方、近くで震える緑髪の少女は立てなくなっているようだ。

「私は大丈夫!  それより、あなた怪我はない?」

 白髪の少女は座り込んでいる少女に声を掛ける。
 潤んだ瞳を向ける少女は申し訳なさそうな表情で口を開いた。

「ベ、ベネットは大丈夫です......助けて貰いましたから。ほら、もう立ち上がったって......痛っ!」

 緑髪の少女は立ち上がった瞬間に悲痛な声を上げる。
 とっさに両腕で右の足首を押さえた。

「君......ちょっと足首を見せてくれ」

 アインが緑髪の少女の前にしゃがみこむ。
 ブーツをゆっくりと脱がし、足首を確認する。
 すると、真っ赤に腫れ上がった足首が熱を持っている事が確認できた。
 大丈夫と言うが、どう考えても処置が必要だろう。

「痛っ ......くないです......。ベネットは大丈夫ですから......」

「こんなに腫れているじゃないか。無理はしない方がいい。今から医務室まで運ぶから、肩に手を──」

「後は私に任せて貰おう」

 アインの後ろから放たれた男性の低い声。
 振り返ると、グレーの髪をオールバックに纏めた大柄な男性がいた。

「あなたは?」

「私はグレイル・ラージハルト。この学院で教師を勤めている者だ。少し騒ぎがあったようだが────君たちが解決してくれたようだな」

 グレイルがケルベロスの亡骸に確認し、答える。

「失礼しました、グレイル先生。僕の名前はアイン・フォーデンです。このケルベロスはそちらの少女が倒してくれました」

「そうか、君のお陰で被害を最小限に押さえる事が出来た。ありがとう。そして、すまなかった」

 そう言ってグレイルは白髪の少女に頭を下げた。
 慌てて白髪の少女が口を開く。

「頭を上げてください先生!   私が助けたくて勝手にやったことですから。それにその子を救えて良かったです。あ、あと私はソフィア・エスカトルです」

「ソフィア・エスカトル......?  エスカトル家の『月光姫』とは君の事か......」

「私の事知ってるんですか?」

「あぁ、エスカトル家の次女。先祖返りの白銀の髪プラチナヘアー。二刀流の月光姫とは君の事だろう」

「そんな大層な肩書きは恥ずかしいですけれど──多分私の事ですね」

 グレイルは顎に手を置き、眉間に皺を作る。
 数秒思考した後、思い出したかように口を開いた。

「ふむ。今は怪我人が居たのだったな。式典も間もなく始まる。君達はそちらに行った方がいい。こちらの事は任してくれ。礼はまた後程」

 そう言ったグレイルは緑髪の少女を抱き上げ、校舎内へと消えて行った。

「ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど、君のお陰で助かった。名前は......ソフィアさんだったかな?」

「うん。ソフィアって呼び捨てでもいいし、ソフィって愛称で読んでくれてもいいよ。その代わり私もアインって呼ばせて貰うね」

「分かったソフィア。よろしく頼むよ」

 ソフィア・エスカトル。
 エスカトルの名前は有名だ。
 数ある魔法貴族の中でも名門と呼ばれており、その血統魔法も強力だと聞いたことがある。
 魔法貴族だった事には驚いたが、本人はその事を鼻に掛ける事なく、フレンドリーに接してくれている。
 それなら今の話し方を崩す事なく、普通に接するべきだろう。

「いや~剣を忘れて来た時はどうしようかと思ったけど、間に合って良かった~」

「僕もビックリしたよ。それにその武器は剣と言うよりも刀だろう?  かなり高価な物だと聞いたことがある。盗られる事なく戻ってきたようで何よりだ」

「うんうん。きっと私の日頃の行いが良いからだね!」

「用心するに越したことはないけどね......」

 なんと言うか、戦っている時とは別人だ。
 あの時の少女は本当に彼女なのだろうか?
 そんな事を考えてしまう程、今のソフィアは天然で親しみやすく、おっちょこちょいな普通の女の子のようだった。
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